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コミットメントシフト転職を実践した元メルカリのエンジニアに聞く“お試し入社”のメリットとは?「社風重視の人にこそ試してほしい」

転職

    TwitterなどのSNSで転職を宣言してオファーを募るSNS転職や、副業先への転職など、ここ数年で転職活動の方法が多様化している。

    そんな中、新しい転職方法の一つとして最近エンジニアの間で注目度が高まっているのが「コミットメントシフト」。

    リクルートワークス研究所の古屋星斗さんが提唱している考え方で、企業から企業へいきなり100%のリソースを移す通常の転職とは異なり、1社~複数の会社でリソースを配分し、“お試し期間”を設けて働きながら、最も自分に合う会社へ少しずつシフトしていく転職手法だ。

    コミットメントシフト

    (出典)「転職」が無くなる時。“コミットメント・シフト”の時代。古屋星斗

    では、コミットメントシフト転職は、どのように実現すればいいのだろうか。

    2019年9月にもともと勤めていたメルカリを退職、合計3社でコミットメントシフトの形式で働き、2020年1月にMyDearest株式会社に転職したなかじさんに、実践の方法やエンジニアにとってのメリットを聞いた。

    なかじさん

    My Dearest株式会社
    Unity / xR Engineer
    なかじ/中地 功貴(@nkjzm)さん

    2013年名古屋工業大学に入学。その頃からゲームエンジンなどを用いたPC/スマホ向けゲームやVRコンテンツの開発に興味を持ち、インターンやフリーランスとして開発を始める。17年サイバーエージェントに入社し、『AbemaTV』 VRのリードエンジニアを務める。その後、18年10月にメルカリに転職し、xRに関する研究開発職として働く。19年4月からはアミューズメントメディア総合学院にてVR専攻の非常勤講師も務める。19年9月からコミットメントシフトを開始。20年1月よりMyDearestへ入社し、現在は人気VRゲーム『東京クロノス』の最新タイトル『東京クロノス ALTDEUS:Beyond Chronos』の開発に関わる。著書に『VRエンジニア養成読本』(技術評論社)/ポートフォリオ

    転職軸が絞れなかったから、コミットメントシフトを選択

    ーーなかじさんは大学時代からVRコンテンツの開発や研究をしていたんですよね。

    はい。新卒からずっとVRに関わる仕事をしていて、前職のメルカリでも今は無きxRチームに所属していました。最先端の技術に携わることができ、すごく刺激的な環境で働けていました。

    ーーそんな中、なぜ転職を考え始めたのでしょうか?

    入社して1年くらい経った頃、一番仲の良かった同期が転職したんですよ。当時の僕は「入社したら3年は働くものだ」と思い込んでいたので、その時「入社して1年で転職するっていう選択肢もあるんだ」とシンプルに驚いて。

    それで、自分もまずはいろんな会社の人に話を聞いて視野を広げてみようと思ったんです。その中で、2019年10月ごろから合計3社で「コミットメントシフト」という形で働くことにしました。

    それから、自分に一番合うと感じたMyDearestというVRゲームの開発会社に2020年の1月に正式に転職して、現在もここで働いています。

    ーー当時、「コミットメントシフト」を始めたのはなぜですか?

    xR系の仕事は大好きだったものの、サイバーエージェントでもメルカリでも事業部が縮小・解散していることもあって、このジャンルは事業を継続させるのが難しいことを痛感していました。それで、このままxR系にこだわり続けていていいのかという迷いが出てきて。

    一方で、「xR技術に関れる仕事がしたい」という軸がなくなった途端に、どんな会社で働きたいのかも分からなくなりました。転職したい会社の基準が、不明瞭になってしまったんです。

    そこで思いついたのが、複数の会社でお試しで働いてみるというコミットメントシフトでした。

    転職するなら社風や勤務スタイルのマッチングも僕にとっては重要だったので、これならミスマッチのない会社選びができるのでは、と思ったところも大きかったですね。

    ーーなるほど。具体的にはどのように転職活動を進めたのでしょう?

    まずTwitterで「転職します!」とツイートして、オファーをいただいた20社近くの会社に直接話を聞きに行きました。

    それでカジュアル面談の時に、全ての会社に「正社員になる前に、コミットメントシフトという形で業務委託として働いてみたい」と、相談したんです。

    その中から特にマッチ度が高そうだと感じた、今いる会社と、VTuber事業を展開する会社、ブロックチェーンゲームの開発会社の3社に絞ってコミットメントシフトを行うことにしました。

    ーー「コミットメントシフト転職」という考え方は、まだそれほど世間に浸透していないですよね。打診した際の、各社の反応はいかがでしたか?

    前向きに考えてくれる会社が多かったですね。

    一般的な転職活動でも、給与や入社時期といった条件交渉をしますよね。僕の場合もそれと同じスタンスで、「コミットメントシフトという形の転職をしようと思っているので、お試しで働く期間を設けたい」と話しました。

    「コミットメントシフト」という言葉自体は新しいですが、要は、まずは一定期間、業務委託で働いてから判断したいということ。フリーランスのエンジニアと仕事をする機会の多い開発会社なら、そこまで違和感はないと思います。

    それに、いきなり正社員として入社してからミスマッチが起きてしまうと、企業にとっても給料や社会保険の問題などいろんな負担が大きいはず。会社側にもメリットがあると判断し、受け入れてくれたところがほとんどでした。

    会社の“中”から社風を見比べ、ベストマッチな組織を見つけた

    ーーなかじさんは同時に3社でコミットメントシフトをしていたとのことでしたが、どんなふうに働いていたんでしょうか?

    最初はメルカリと副業先のA社で働いていて、9月からB社でコミットメントシフトを開始しました。9月でメルカリは退職したので、10月からはC社、11月からはMyDearestでのお試し期間をスタート。各社で週に数日ずつ働きながら、転職先候補を絞っていきました。

    同時に複数社で働いていた時は、1週間を曜日で区切り、どの会社で何曜日に働くのかを事前に決めるようにしていましたね。

    例えば月曜日と火曜日はB社、木曜日と金曜日はC社、それ以外の週16時間(2日)分をMyDearestで、というふうに。(下図参照)

    コミットメントシフト
    ーー同時に複数社の仕事を進めていくのは、大変なことも多そうですがいかがでしたか?

    そうですね。いろんな会社の案件を同時に複数抱えてしまうと混乱するので、「その日のタスクはその日のうちに」というのを徹底して、決められた時間で仕事を終わらせるようにタスク管理はかなり意識していました。

    やってみて分かったのは、やはり週2日という限られた時間では、なかなかメインの開発担当にはなれないということ。

    検証作業やヘルプ画面の作成、プロトタイピングといった、こまごまとした作業を任されることが多かったですね。だからこそ、この働き方でも何とかなっていたとも言えますが(笑)

    結果的に「正社員として働いたときに、この会社でどういう仕事に携われるのか」という面では、事前に期待していたよりイメージしづらかったかもしれません。

    ただ、働く環境、メンバーのことを知れたことは良かったと感じることですね。Webサイトや求人情報を見ているだけでは分からない“社風”が実感値で分かったのは非常に有意義でした。

    ーーじゃあ、MyDearestに入社された理由は社風面が大きかったんですね。

    はい。MyDearestはコミットメントシフトをした会社の中でも特に、雑談や何気ないやり取りの中から、社員全員が「世の中に良いゲームを送り出したい」と考えていることが伝わってきたんですよね。

    ここで働けたら自分も良いものが作れそうだな、と実感できてわくわくしましたし、これに関してはやっぱり、「お試し期間」を設けて一緒に働いてみなければ分からなかったと思います。

    今は外出自粛もあり、コミットメントシフトを実践するにしても出社は厳しいかもしれませんが、リモートワークでもコミュニケーションの取り方や会社の雰囲気は一定レベルで分かるはずなので、やってみる価値は十分あるのではないでしょうか。

    なかじさん

    現在はMyDearestも在宅勤務中。

    コミットメントシフトは社風重視・優柔不断な人にピッタリの転職手法

    ーーなかじさんがコミットメントシフトをしていた時にやっておいてよかったと思うことはありますか?

    「やっておいてよかった」と思うことは、大きく分けると三つあります。

    一つ目は、初めにコミットメントシフトをする期間を決めておいたこと。

    各社にあらかじめ業務委託としてお試しで働かせてもらう期限を明確に伝えていたので、転職先として選ばなかった会社とも円満に契約終了できました。また、自分自身もメリハリを付けて転職活動を進めることができたと思っています。

    二つ目は、業務委託中はある種「お試し期間」ではあったけれど、甘えずにきちんと成果を出すことにこだわれたこと。当然ですが、企業側もお試し期間中に僕のスキルを評価するわけですから、気を緩めないよう気を付けていました。

    三つ目は、社員の皆さんとのコミュニケーションを積極的に取るようにしたことです。

    一社あたり稼働日が週2日しかない上に、タスクが分業化されていたので、受け身でいるだけでは社風も一緒に働く仲間のことも知ることができないと思い、できるだけオフィスに行って会話をするように心掛けていました。

    一方で、意識はしていたもののやっぱり器用にこなしきれない面もあり、コミュニケーションに関してはもっとやれたんじゃないかなと思っています(笑)

    ーーコミットメントシフトは、社風や一緒に働く仲間の雰囲気を重視したいエンジニア向きの転職手法だと言えそうですね。

    そう思います。やっぱり会社の中に入ってみないと、分からないことは多いですからね。「社風」の部分は特に。

    どの会社も良い面と悪い面がありますが、「自分に合うか合わないか」を測れるのは大きいです。

    僕のように、「良い雰囲気の会社に転職したいけれど、自分の希望を言語化できない」「面談や選考だけでは自分に合う会社を判断できない」という、優柔不断なエンジニアにとってはすごくいい手法だと思いますね(笑)

    ーー逆に、向かない人というのは?

    業務委託中はどうしてもサポート系の仕事をすることになるので、やりたい仕事やビジョンが明確にある人にとっては、ある意味時間の無駄になってしまうかもしれません。

    あとは、同時に複数の会社で働くことになるので、自分でスケジュール管理ができない人や、会社によって異なるタスクを整理できない人、仕事の切り替えができない人には難しいと感じます。

    ーーなかじさんが、「自分に合う会社」に転職するために大事だと思うことは?

    コミットメントシフトは一つの手法ですし、それ以外の転職方法でももちろん「自分に合う会社」は見つけられると思います。

    ただ、どんな場合も大事なのは、自分の「できないこと」や「苦手なこと」も包み隠さず伝えることではないでしょうか。

    例えば僕の場合は、面談で「朝が苦手なんです」と伝えました(笑)。本当にダメなんですよ。寝坊・遅刻の常習犯で……。

    でもこれを先に伝えたからこそ、苦手な部分で過度に期待はされないし、僕自身も気を張らずに仕事をすることができました。

    できないことを伝えるときは、代わりにできることもセットで伝えれば印象はそこまで悪くならないと思いますよ。僕はあらかじめGitHubに自分の強みとか、やってきたことをまとめておいたおかげで、最小限のアピールで面接をスムーズに進められました。

    説明下手な人や、弱点がある人こそ、自分のPRポイントをテキストでまとめて、有利な交渉の場をつくれるようにしておくのがおすすめです。

    取材・文/石川香苗子 編集/河西ことみ(編集部) 画像提供/My Dearest株式会社

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