Techトレンド Vol.464

「クラウド常用」時代のエンジニアに求められる意外なスキル

それは、AWSのドキュメントを読み漁っても、Googleで他社事例を検索しても、なかなか得られないスキルである。

今年も東京・港区のグランドプリンスホテル新高輪で開催された『AWS Summit Tokyo 2016』では、6月1日~3日の3日間でさまざまなクラウド活用事例が披露された。タイトルに入れた「意外なスキル」についての言及があったのは、【AWS導入後の組織、文化、SIerとの付き合い方】をテーマに行われたパネルディスカッションの中でだ。

6月1日のEnterprise Dayに催されたパネルディスカッション「AWS導入後の組織、文化、SIerとの付き合い方」

6月1日のEnterprise Dayに催されたパネルディスカッション「AWS導入後の組織、文化、SIerとの付き合い方」

1日のEnterprise Dayに催されたこのセッションには、朝日新聞社、長谷工コーポレーション、富士ゼロックスと業種・業態の異なる3社のシステム責任者が登壇。エンタープライズITの世界でよく知られているブログメディア『Publickey』の運営者・新野淳一氏をモデレータに迎えて、各社がクラウドシフトで直面した「導入時の壁」や「運用フェーズの課題」について話し合った。

この運用フェーズの課題の一つとして挙がっていたのが、責任者・情シスのみならず現場のエンジニアにも「コスト意識」が強く求められるようになったという点だ。特にクラウドを常用する場合、この意識や実際にコストを見積もっていくスキルが必要不可欠になるという。

エンジニアのみならず、どんな職業の人間も「コスト」との戦いは避けて通れないものだが、なぜ、クラウド常用時代になるとこのスキルが際立って必要になるのか。その理由をパネルディスカッションの内容から紹介しよう。

オンプレミスとの決定的な違いは「事後でお金が発生する」フロー

パネルディスカッションの模様

パネルディスカッションの模様

これは、すでにAWSをはじめとした各種クラウドサービスを利用しているエンジニアからしてみれば至極当然の話かもしれない。

ただ、少し昔を振り返ってほしい。オンプレミスのみでサーバ構築・運用をしていた時代に、その導入コストや維持費などについて意識していたエンジニアはどれだけいただろうか。

「以前は『設備予算』として管理していたので、いったん予算計上してしまえば、その後はザル勘定でした。しかし、AWSへの移行後はバイデザインでお金が加算されるようになったので、“ビジネスデザイン力”みたいな視点が前より求められると思います」

そう話すのは、富士ゼロックス ソリューション開発部でクラウド統括を務めている黒須義一氏だ。同社は、クライアント向けビジネスクラウドの提供基盤としてAWSを導入。黒須氏が所属するのはいわゆる事業部門で、「全社の情シス部門ではないので、AWS導入の際は顧客・事業部・情シス間で“三遊間”の動きを心掛けた」と話す。

AWSを採用する決め手となったは「直接事業部門からもシステム企画・導入ができるようになること」(黒須氏)だが、一方で基幹系システムと密接にかかわるプライベートクラウド側とのシステム連携なども考慮せねばならず、諸々の調整作業に腐心したそうだ。

その調整作業の一つとして必要だったのが、「事後でお金が発生するフロー」への対応と、エンジニア全員の意識改革だった。より具体的に言うなら、「予算取り」のやり方が変わることを、自部門の人間のみならず経理部門などの関連部署にも理解してもらい、動き方を変える根回しが必要だったという。

「我々のようなAWSの使い方だと、お客さま次第で利用料金が変動してしまうので、コストを先読みするのが非常に難しい。それでも、“ビジネスデザイン”の一環としてコスト感覚を磨くのが必要不可欠ということで、自チームのエンジニアたちには『あらかじめ自分で1年間のトータルコストを見積もる習慣を付けろ』と言い続けています」

「コストを先読みする感覚」をどう磨けばいいのか?

自社のクラウド導入時の経験談を話す富士ゼロックスの黒須氏(写真右)

自社のクラウド導入時の経験談を話す富士ゼロックスの黒須氏(写真右)

とはいえ、現場エンジニアレベルの人間は、往々にしてこういった勘定が苦手という現実もある。「やれ」と言ってできるようになるものなのか?

黒須氏いわく、「トライアンドエラーでやり続けながら身に付けるしかない」とのこと。その結果、「最近は現場の人間から『黒須さんの計算が間違ってたよ』と言われるくらいには皆の感度が高まってきた」と自社の状況を明かす。

この日一緒に登壇した朝日新聞社や長谷工コーポレーションも、導入目的や活用のしかたこそ違えど「コスト感覚のあるエンジニア育成」は課題の一つと吐露しており、社内の人間で経験知を積み上げながら解消していくしかないと答えていた。

が、長谷工コーポレーションのIT推進部で担当部長を務める中庭照仁氏は、より現実的なやり方として「リザーブドインスタンス」の有効活用を挙げる。これは、AWSの各種ソリューションを1~3年単位で先に「購入」してしまうやり方だ。

「ただし、リザーブドインスタンスも、あくまで予算組みの精度を上げるための一つの打ち手でしかないと思っています。(USドルでの支払いゆえ)為替変動による料金変動もあるので、それらを踏まえながらコスト感覚を高めていくため、社内に『予算組み専門チーム』を作ったりもしました」(中庭氏)

さらに長谷工コーポレーションの場合、この予算繰りも含めたクラウド利用の上手なやり方について、クラウド導入~活用実績の豊富な外部の協力会社に助言を仰ぎながら進めているとも話していた。

テクニカルな面での導入・運用支援のみならず、こういった金銭的な調整でも外部パートナーと協力し合っているという話は、ユーザー企業がSIerをはじめとする協力会社に期待することがにわかに変わり始めていることの証左とも取れる。

事業会社のエンジニアにも、彼らをサポートするSI・ベンダーサイドのエンジニアにも、この「コスト意識の有無」が今まで以上に問われることは間違いないだろう。

取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)

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