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変化するか、「IT土方」以下になるか~SEに迫る3つの転機を斎藤昌義氏×後藤晃氏に聞く
【2】SEの役割の転機-「ビジネスデザイナー」への進化が問われるように
斎藤 納品ではなくビジネスの成功にコミットするという風になると、当然、お客さまとビジネスの会話ができなければダメ、ということになるでしょうね。IoT領域のクラウドインテグレーションを提供しているウフルさんなどは、それを徹底してエンジニアに求めています(※編集部注:『システムインテグレーション再生の戦略』P128~に、ウフルの事例が記されている)。
後藤 ビジネスの会話ができるというのは、究極的には「何万ユーザーを集めて、それをコンバージョンして、売り上げが何億円……」というところまでコミットしてシステムを作ることを意味します。
ですから、システム面や工学的な面からビジネスの成功にアプローチできる、アーキテクトのような職種の重要性が増していくと考えられます。
より専門的な知識が求められることになりますから、プログラマーもSEもPMも、アーキテクトも同一線上の、順番に上がるような現在のキャリアパスではなく、独立した専門職のようになっていくと思います。
斎藤 本の中で「フルスタック」と表現しているのもまさにこのことで、これからのSEは開発・運用が分かるだけでなく、ビジネスプロセスをデザインすることが求められるのです。「SEとはデザイナーである」とも表現できます。
これからもコードを書く作業自体はなくならないでしょうが、ただ仕様書通りにコードを叩くだけの”知的力仕事”の需要はどんどん減っていく。
後藤 簡単な業務アプリを作る部分については、設計力さえあればコードを書く必要すらない、という時代が来てもおかしくありませんよね。すでに、Salesforceやサイボウズ『kintone』のようなビジネスアプリプラットフォームを使えばカジュアルにアプリづくりができるようになっていますし。
斎藤 本の中で紹介したJBCCホールディングスの例のように(※編集部注:『システムインテグレーション再生の戦略』P105~)、最近になって40代~50代のシニアなエンジニアの活躍が目立つようになったというのは、彼らは経験を基にお客さまとビジネスの会話ができ、それをシステム上のロジックに整理することに長けているからです。
この事例から考えても、「設計力さえあれば……」という世界はもう来ていると言えるかもしれないですね。
宮大工は残り続ける。しかし、なれる確率は1%未満の狭き門
後藤 僕は2つあると思っています。
1つは、新規事業のビジネスモデルを検討したり、そこで必要になりそうなシステムを検討する際にプロトタイプを作るフェーズで、素早くプログラミングするような役割はずっと残るだろうと。
これは、今までSIerがあまりやってこなかった部分でもあります。ビジネスとITの同期化が進むのであれば、ビジネス要件を踏まえながら高速でプロトタイピングができるような凄腕エンジニアの需要はもっと高まるはずです。
斎藤 SEがビジネスデザイナーになっていくという流れを汲んで考えても、とりわけ新規事業の立ち上げをサポートしていくような「創れるビジネスデザイナー」は希少価値を持つでしょうね。
後藤 ええ。
斎藤 でもこの流れって、新しいように見えるけど実は過去のIT業界の歴史と一緒なんですよね。
その昔、PL/IとかCOBOLとか言った手続き言語が全盛で、まだフレームワークも整理されていなかった時代には、エンジニアは今からすると考えられないくらいに膨大なコードを書いていたわけです。そうした役割はその後、ミドルウエアやフレームワークの発明によって淘汰されましたが、それでエンジニアの人たちがやる気をなくしたのかといえば、そんなことはない。
その都度、エンジニア自身の価値観も変わってきたはずです。生産性をどんどん上げようというのは、人間の根源的な欲求ですから。
昔と違うのは、もっとずっとすごいスピードで、ずっと気軽にさまざまな挑戦をしたり、組み合わせたりすることができるようになったということ。後藤さんの言うような役割に楽しみを見出すエンジニアは、決して少なくないはずです。
後藤 そしてもう1つ、ものすごくエッジの立った職人的な領域も残っていくだろうと思います。
SIとビジネス構造が似ているということでよく比較されるゼネコンの世界では、1点ものの住宅需要が減ったことで工務店がどんどん潰れる一方で、ものすごく腕の立つ左官や宮大工のような特殊な職人は生き残り続けています。
同じように、データベースやネットワークの細かなチューニングを、超高度な職人技でやってのけるようなエンジニアは、今後も残ると考えられます。
斎藤 ただし、世の中にいる宮大工の数を数えてみれば想像がつくことですが、そうなれるのは全体の1、2%、下手をすれば1%を切るかもしれません。
斎藤 そうだと思います。ビジネスも分からないし、宮大工にもなれないSEは存在価値がなくなっていく。
後藤 残念ながらこれまでのSI業界では、「アーキテクト」でも「宮大工」でもない、純然とした業務システムを構築・運用する人を大量に求めてきました。こうした”真ん中”にいる人の割合が多過ぎたことが、今になって各SIerが抱える課題として噴出し出したわけです。
どの産業でもよくある話ですが、いずれはこの“真ん中”にいる作業者たちが淘汰されていき、キャリアパターンも2極化が進むのではないかと思います。
【3】キャリア形成の転機‐副業、転職、コミュニティ…自ら動けばチャンスはごまんとある
後藤 今従事している仕事というより、5年後に来る技術やビジネスに対してアプローチすべきでしょう。マクロな視点で見て、「将来こうなるから、今こういう手を打っておく」というチャレンジは必要不可欠だと思います。
とはいえ、個人の努力だけでそれをするのは難しいでしょうから、企業が組織として5年後10年後を見据えたエンジニア育成の仕組みを作る必要はあると思っています。
後藤 組織内に「目先の受託案件を行うチーム」と「新規事業に近い領域に取り組むチーム」を作り、経験年数や能力、適性に応じて一定の人数のエンジニアが異動できる仕組みを作るとか。
斎藤 収益構造になっているレガシーなビジネスと並行して、新しいことにも取り組む「バイモーダルデザイン」というのは一つの答えでしょう。しかし最初の問いに戻って、SE個人のレベルでできることも考えてみたいですね。
後藤 今の仕事をしつつ、副業としてやるという方法はあるかもしれません。
斎藤 個人が副業するというのは私も賛成ですね。後藤さんもそうですが、僕もコンサルをしたり研修講師をしたりと、いくつかの仕事を兼業しています。なぜそれができるかと問われれば、それは仕事と日常の区別なく、自分が成長することに楽しみを感じているからでしょうね。
こういう話をすると、よく「ウチはそういうことが許される会社じゃない」と言う人がいます。確かに、副業兼業を許していない会社は現時点ではマジョリティでしょう。でも、もし自分が本当に成長したいと考えているのなら、転職してでも「未来につながる環境」を勝ち取るべきで。
後藤 転職しないにしても、エンジニアであればOSS開発やコミュニティに参加することで、社外の新しいトレンドに触れていく方法もあります。自分はそう考えて、経営大学院の仲間とともに業界の研究会を立ち上げました。
まぁ、コミュニティに出て行くにしたって、人と会って話すのには独りでPCに向かっているよりはストレスが掛かりますし、ノーリスクということはあり得ませんが(笑)。
斎藤 私は『ITソリューション塾』という私塾の運営もやっているので、受講生のキャリア相談に乗ることも多いんですが、これ系の話になると、何かを得たいのにリスクは負いたくないという、虫のいい話を求める人もいますね(笑)。
「能力とは突き詰めるとモチベーションだ」というのが私の持論でして。拡張的知能観を持っている人は自分でテーマを探し、何かしらのリスクを取り、自ら成長していくものです。そうやって自らアクションを起こす人たちに対しては、成長するチャンス自体は世の中にごまんとあふれています。
しかし、禅の教えに「啐啄同時」というものがあるように、アクションを起こすのはあくまでその人本人であって、周りはそれに応えるだけです。だから、仮にリスクを嫌って古い環境の中で(職業上の)死を待つのみ、という人がいたとしても、それはその人の選択。
どんな未来を選ぶかは、結局はその人次第ということです。
取材・撮影/伊藤健吾(編集部) 文/鈴木陸夫
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