キャリアアドバイザー
えさきまりなさん(@MarinaEsaki)
1986年生まれ。3度の転職を経て、HR関連会社で勤務しながら個人でもキャリアアドバイザーをしている。得意領域は、女性と若手キャリア。日経xwomanアンバサダーとしても活動中
ここ数年、IT業界では「エンジニア超売り手市場」が続いていたが、新型コロナウイルスの脅威は、その状況を一変させた。
特にこの数カ月の間で、内定を取り消しされたエンジニアが急増しているという。
今、エンジニア採用の現場で何が起きているのか。キャリアアドバイザーのえさきまりなさんに話を聞いた。
キャリアアドバイザー
えさきまりなさん(@MarinaEsaki)
1986年生まれ。3度の転職を経て、HR関連会社で勤務しながら個人でもキャリアアドバイザーをしている。得意領域は、女性と若手キャリア。日経xwomanアンバサダーとしても活動中
IT産業の拡大により、近年、特に若手エンジニアは「超売り手市場」と呼ばれる活況が続いていた。
未経験やロースキルのエンジニアであっても複数の企業から内定が出ることが珍しくなく、バブル期のような手厚いもてなしで若手エンジニアを“囲う”企業も見られた。
えさきさんによると、このコロナショックで特に強い影響を受けたのは、こうした「駆け出しエンジニア」だという。
今、私のところにも、「内定を取り消された」、あるいは「入社日が延々と先延ばしにされているので、もう一度転職活動をしたい」というご相談がたくさん来ています。
そうした方々のほとんどが、まだエンジニアとしての経験が浅いポテンシャル層の方。中にはすでに在籍していた会社を辞めてしまった人もいて、非常に深刻な問題になっています。
その理由は企業側の受け入れ体制にあると、えさきさんは考えている。
緊急事態宣言下では、多くのIT企業がリモートワークを行っていました。ただ、このリモート下でどうやって研修を実施するかについては、どの企業もまだ試行錯誤しているところ。
すでに入社したものの、まだ十分なバックアップができていないため待機となっている新入社員も多く、その結果、内定状態にある求職者に対して入社日の後ろ倒しをお願いしているといった状況です。
特にSESでは1カ月程度自社で研修を行ったのちに、各クライアントへエンジニアを常駐派遣させるのが一般的なスタイル。
この1カ月の研修でつまずきが起きていることから、今回のような入社日の延期や内定取消が発生した。
こうした状況を受けて、今後は企業側もしばらく採用に対するジャッジがシビアになると考えられます。
以前までなら比較的容易に内定が決まっていた未経験者やロースキルのエンジニアの方も、やや内定を得にくい状態になっています。
では、内定取消を受けた場合や、入社日を延々と先延ばしにされてしまうようなことがあった場合、求職者はどうすればいいのだろうか。
えさきさんは「意固地になり過ぎないことが大事」とアドバイスを送る。
前提として、現段階でそういった事態が起きている企業は、仮に入社してもその後十分な教育やケアを受けられない可能性が高い。
であれば、その会社への入社に固執し過ぎず、もっと別の選択肢を考えた方が長期的に見ればプラスかなと思います。
ただし、新型コロナウイルスの影響が今後どのように広がっていくのか、まだ見通しが立たないことも多く、今後1~2年はポテンシャル採用に対して控えめになる企業も多いだろうと、えさきさんは予測している。
エンジニアとしての経験が浅く、転職活動をしてもなかなか採用されない状況が続いているようであれば、この機会に自分のキャリアプランを練り直してみるのも戦略の一つだと思います。
難しい決断かもしれませんが、過去の経験を生かして働ける別の職種があるのであれば、今はそちらを選ぶというのもあり。後々、改めてエンジニアとしての転職に再トライすることもできます。
今の時期に最も避けたいのは、職歴にブランクが空いてしまうこと。そうすると、状況が好転したときに、どうしてもそのブランクが採用時のネックになってしまいますから。
えさきさんは、他職種で身に付けたスキルが、後のエンジニアとしてのキャリアに好影響を与えることも多いと話す。
例えば、開発現場で営業経験のあるエンジニアが重宝されているという話はよく聞きます。
なぜなら、企業が今エンジニアに求めているのは、顧客の要望を汲み取って適切な要件定義を行い、チームで協調しながらプロジェクトを推進する力だからです。
技術力を磨きつつ、他のエンジニアにはない強みを持てれば、駆け出しエンジニアでも「スキルの掛け合わせ」で市場価値が上がるはずです。
その上で、自主学習の重要性もより増してくるとえさきさんは主張する。
今までは、「ちょっとプログラミングを勉強しました」程度の人でも、20代で意欲があれば驚くほど内定が出ていましたが、そういう雰囲気はなくなってきています。
これからは、「会社に入って育ててもらおう」という受け身の人は、ますます採用されにくくなっていくと思います。
そこで、駆け出しエンジニアの方に意識してほしいのが、自学自習の姿勢です。
入社研修で学ぶようなことは自分で独学できる、実務経験の少なさを補うためのスキル習得を自力でできる、そういう人であれば経験が浅くても採用候補に入れる可能性が高まります。
また、現在IT業界の中では、QA・品質管理エンジニアのポジションで、ポテンシャル層の採用が引き続き盛んだという。
今、経験の少ない方がいきなり開発の上流工程に関わるのは難しいと思いますが、品質保証のポジションであれば、人材が不足している企業も多く、採用されるチャンスはあります。
品質保証エンジニアは、仕様通りにつくられているか、デバックがないかなど、ハードウェア/ソフトウェアの不具合をチェックするポジション。
品質保証をやっていれば、自然と開発の流れも理解できるようになるし、基本的な知識やスキルも身に付くので、駆け出しエンジニアの方にオススメです。
そこから上流工程の開発やプロジェクトマネジメントができるポジションへとステップアップすることも十分可能です。今は修行の時と割り切って、IT業界で親和性のある経験を積むというのも有効な手ですね。
今後は面接での評価も今まで以上にシビアになることが予想される。実務経験やスキルの面で経験者に劣ってしまう「駆け出しエンジニア」が選考を勝ち抜いていくには、以下の二つのポイントをしっかりアピールことが大切だ。
まずは、技術力と別のスキルとの掛け合わせ。営業で培った提案力であったり、自分の考えや主張をロジカルに伝えられるコミュニケーション能力であったり。
エンジニアとして生かせる別スキルをしっかりプレゼンすることで、自分の希少価値を上げることが大切です。
二つ目は、学習意欲だ。
エンジニアって、やっぱり好きという気持ちが強い人ほど伸びる傾向がある。寝食を忘れて何かに熱中できる“オタク気質”のある人が強い世界だと思います。
自分がいかに熱中体質なのかを話すと、あらゆる企業で歓迎されやすいですね。これまでの経験を振り返って、何かそういった熱中エピソードを掘り起こせたら、ぜひ面接でもアピールしてください。
コロナショックによって、たった数カ月で採用市場は激変した。
だが、いつの時代も大きな花を咲かせるのは、厳しい冬の季節に地道に努力を積み重ねられた人間だ。
この難局は、それぞれの将来を占う試金石と言えるのかもしれない。
取材・文/横川良明
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