世界のテック企業が奪い合う「インド人エンジニア」のすごさとは?IT大国インド情報を発信するKayoreenaに聞いてみた
エンジニアの超売り手市場が続く中、技術大国として年々存在感を増しているインド。2019年にはインドが生んだユニコーン企業「OYO」に、孫正義さんが出資をしたことも話題になり、ますますインドのテックカンパニーへの関心が高まっている。
そこで今回は、インドのビジネスやエンジニアについてブログやSNSで積極的に発信するKayoreena(カヨリーナ)さんに、「インド人エンジニアは何がすごいのか?」という疑問を投げかけてみた。
Kayoreenaさんは2016年9月〜2018年1月まで、インド現地で働き、2018年10月からは日本のIT企業で外国から来たエンジニアのサポートやオンボーディングを担当している。
リモートワークが急速に進む中で、この先海外在住のエンジニアと仕事をする可能性も増えるはず。ぜひ、この機会にインド人エンジニアと協業するための知識を蓄えておこう。
インド人エンジニアの特徴は「自己肯定感が強くて基本、前のめり」
テックカンパニーに限らずですが、インドの企業はとにかく意思決定が早いです。イメージとしては70%完成したら、まずリリースし、軌道修正しながらとにかく走っていくというマインドセット。
この点は一番、日本企業と異なる点かもしれません。日本の方は、責任を取るのを避ける傾向がありますよね。合意形成をしっかり取って、一歩ずつ進んでいくじゃないですか。責任を分散した意思決定をしていきますよね。
そうですね。日本のように関わる人全員に合意形成を取ってじっくり判断していく、という文化はありません。結果を出すために何が最も近道か?ということを最小チームで話し合い、パッと決めてすぐ実行します。「まず行動」というマインドセットが優先される文化です。
たとえ失敗したとしても、インドの方は責任に対して、そこまで負担を感じていないと思います。日本のように「誰のどんな行動が原因で、責任は誰にあって」みたいに突き詰めることはあまりなく「次回、改善しよう」といった感覚で淡々と進んでいきます。
インドには「ジュガード」というヒンディー語で「革新的な問題解決の方法」とか「独創性と機転から生まれる即席の解決法」という概念があるのですが、簡単に言うと「目の前で起こったトラブルや問題は、目の前の資源でなんとか解決して乗り越えろ!」という考え方なんです。
インドの人なら誰もが知っている考え方で、何かあったときに「ジュガードで乗り切ろう」と会話する場面もあります。こういった価値観も影響していると思います。
「未完成でも進んでいく」という社風とつながるのですが、インド人エンジニアは大してできないことでも「できる」と自信たっぷりに答える傾向があります。
例えば、何か新しい技術に対して「書籍を読み終わった」時点で、彼らの中には「新しい技術に対して完璧に理解した」という人がいます。日本人的な視点でいうと「読んで知ったことと、実際に使えるかどうかは別」と考えますよね。
できると言うから任せてみたら、技術の概要を知っているだけで、全く実装できなかった……なんてことも起こります。
その背景には、約13億人の人口がいるインドならではの「激しい競争社会」があり、自分の能力を強気でアピールしなければ、活躍の機会が与えられないという事情があるようです。特にインドの最難関大学・インド工科大学(通称:IIT)に進学するような優秀層は、さらに競争が加速します。
彼らの特徴を一言で言うと、「自己肯定感が強くて基本、前のめり」です。
インド人エンジニアが持つ、貪欲なマインド
そもそもIT産業が育った背景には、インドのカースト制度があります。生まれながらにして身分が決められている中で、IT産業はその差別を突破できる数少ない選択肢の一つなんです。
とはいえ、とにかく人口が多く若手エンジニアの就職率が50%を切っているインドでは、IT技術を身に付けたとしても就職が難しく、高収入を得られるのは上位数%のみ。そんな環境の中で育っているので「エンジニアで良い企業に勤めてお金を稼ぎたい」「勝ち上がりたい」という貪欲なマインドが育ちやすいのだと思います。
また、インドの第2言語は英語なので、シリコンバレーをはじめとしたIT業界の最先端の情報をいち早く手にすることができるのも、彼らのスキル向上に役立っています。インドは一国の中に多様な公式言語が存在するため、ビシネスをするにあたり、英語を話すことは必須なのです。特に若いインドの方は、ネイティブ並みに流暢な英語を身に付けています。
IIT出身者は、インド人エンジニアの上位1%と言われていて、熾烈な競争を勝ち抜いてきた人たちです。同じくIIT出身のエンジニアに聞いたところ、他のインド人エンジニアと比べ熾烈な受験戦争を勝ち抜いているため地頭が良く、新しいテクノロジーに対して貪欲であり、かつ技術を現実社会で実用するための行動力が優れています。
それに加えてインドでは、優秀な人ほど起業する人が多いです。自国への問題意識を強く持っていて、ビジネスを通じて自国を良くしたいという強い思いを持っており、人々も起業する人達に対して称賛します。
インドは社会的インフラが整ってこなかった歴史が長く、貧富の差や劣悪な環境など生死に関わるような問題を多く抱えており、それらをエンジニアリングの力で変えたいと願う気持ちが、起業の原動力になるようです。
私が注目している企業だと、友人の南インド出身のSatish氏が2013年に創業した『DOCSAPP』という遠隔医療のサービスは、インド内の遠隔医療のアプリで最もシェアを取っています。彼はForbes インドが発表したアンダー30(2018)の1人にも選ばれていて、世界のエンジニアやIT企業からも注目されています。
他に、配車サービスの『Ola』レストラン検索&レビューサイトの『ZOMATO』といったインドのユニコーン企業も、IIT出身のエンジニアによって設立されています。
一つ、IITの特殊な採用制度が挙げられます。IITの場合、学生が企業にエントリーするのではなく、企業が大学にエントリーして、ドラフト方式で採用が進みます。
毎年12月1日に採用エントリーが開始されるのですが、企業がエントリーした後、学校側が「年収」や「働きやすさ」といった独自の採点方式で各企業をランク付けします。ランクが高い企業ほど早い面談日程が割り振られ、早い者勝ちで採用が行われていきます。30分1本勝負の面談で、相性や条件が合えば、その場で採用が決まります。つまり、日程が早ければ早いほど、良い人材を採りやすくなるということですね。
日本だと、ソニーや楽天がIIT学生の採用に取り組んでいます。IITはすでにブランド化しているので採用も一苦労ですが、個人的に日本企業に知ってほしいのは「IIT出身者以外にもインドには優秀なエンジニアがたくさんいる」ということ。
日本で例えてみると「東京大学出身の生徒だけに採用オファーが集まる」といった偏り具合です。他の大学にも、十分優秀な生徒はいますよね。日本では「IIT出身」というブランドが独り歩きしがちですが、実はインドにはたくさん、優秀な大学やエンジニア育成校が存在しているのも事実です。
「解雇」のうわさも。コロナ禍のインドIT企業の状況
インドは3月下旬からロックダウン(全土封鎖)の施策を取っていますが、現地人に聞いた話だと、ペンディング状態の案件が多いようです。
というのも、インドのテックカンパニーはアメリカやヨーロッパの企業との関わりが強く、アメリカやヨーロッパの経済の影響を直接的に受けるためです。良くない状況が続けば、この先取り引きがキャンセルになる可能性もあるかもしれませんね。
インドでは現状、ロックダウンによる経済損失はどの企業も被っているため、政府がガイドラインを発表し、従業員の不当な解雇は禁止しており、社員一斉解雇のような事例は聞きませんが、「解雇を検討している」というウワサはちらほら出てきています。
食料のECは急激に伸びていますね。あとは、ドローンの活用シーンが増えていて、モノを運んだり、感染者が多いホットスポットで消毒剤を撒いたりといった用途で使われ始めています。
また、配車サービスの『Ola』は、社会貢献の一環として現地のコロナウイルス感染者ではない患者を病院へ無料配送するサービスをスタートしました。
大企業だと一部の正社員のみかもしれませんが、スタートアップでは多くの社員がリモートワークに切り替えているようです。エンジニアに限って言えば、リモートワークで働くようになった人がかなり増えた印象があります。
インド人と日本人はお互いにクセ強め?
インド人と日本人って、さまざまな価値観が対局にある国民性を持っていると思うんですよね。謙虚で一つ一つ誠意を持って確実にこなしていく日本人に対して、常に自信満々で失敗を恐れず、躍動感のある仕事をするインド人、といった感じです。
例えば「仕事に対する考え方」も大きく違っています。インドの方がキャリアを選択する際に最も重要視することは「良い給与が確保できるかどうか」です。仕事とは、一般的に「お金を稼ぐための手段」であり、家族と一緒にいる時間やプライベートを充実させることに重きを置く方が大変多いです。
一方で日本の方は、仕事を通じ「自己実現」や「成長」を求め、若い人の中には給与が下がったとしてもやりがいを求めて転職するケースも見受けられますよね。
だから前提として、「お互い違う考え方や価値観を持っているものなんだ」という認識を持って、一から理解するためのコミュニケーションを取る必要があると思います。日々の雑談やワークショップなどを通して、彼らの価値観の軸がどこにあるかを知ると、一緒に仕事がしやすくなるはずです。
特に同じ国籍同士のメンバーが集まり、データドリブンで仕事を進めている組織は、成果だけにフォーカスしすぎる傾向があるように感じます。仕事としては正しいかもしれませんが、多様なメンバーが集まると、結果を出すプロセスにも、働くコンディションにも、さまざまな考え方が存在しますよね。
長期的に信頼関係をつくり、本当に強いチームにしようとするなら、成果の一部分にフォーカスするだけでなく、一人一人のメンバーの才能や能力をしっかりコミュニケーションで知ることが重要であることを知ってほしいです。
基本的には、みんな日本に対してすごく良い印象を持っていますよ。日本は先進国で、安全で、きれいな街で、ご飯も美味しく、人は正直で優しく、日本のことを好きなメンバーはたくさんいます。
少しネガティブな点を挙げるとすれば、日本の方は「良い・悪い」をハッキリ言わないため、仲良くなることが少し難しいと感じているメンバーもいます。インドの方は家族のことを話したり、友達を紹介して交友関係を広げたりしていく人が多いので、日本人独特の「会社とプライベートは分ける」といった感覚や、返事をにごす感覚が理解しづらいみたいです。
日本の方から見ると「インドの方ってクセが強そう」という印象を持つ方は多いかもしれませんが、インドの方から見た日本の文化もクセが強く映っているかもしれませんね。
まず、とても基本的ではありますが、英語を理解できるスキルを養い、英語で情報を取れるようになると良いと思います。インド人エンジニアも含め、海外から来ているエンジニアの情報源は基本的に英語です。みんな英語の文献を見て、海外の注目企業の動きをいち早くキャッチしています。
日本のエンジニアの世界では、どうしても日本語の情報を中心に語られることが多いため、海外の市場について議論する場はあまりないような気がしています。しかしエンジニアに限っていうと、どんどん転職市場はフラットになってくると思うので、海外の情報も知ることで、自分のエンジニアとしての本当の市場価値を知ることができます。
今後テック企業のグローバル化はどんどん加速していくと思います。国内のマーケットだけではなく、グローバルな企業を目指したくなる人も増えるはずです。ある人にとっては、インドから来たエンジニアが日本のエンジニアより高い給与をもらって働く現実が、もしかしたらイメージしにくかったかもしれませんが、既にそういったことは起きています。
もちろん英語だけではなく「この人と働きたい」と思ってもらえるようなエンジニアになっていかなくてはいくことが重要です。単純に技術が優れているというだけではなく、チームとしてプロジェクトを成功に導くためには、相手の気持ちを考えたり、考え方の背景を理解したりと、お互いの強みを生かしながらチームワークを組んでいく必要があります。
まずは一緒にご飯を食べてみる、という小さな一歩でも十分だと思うので「日本人」「インド人」と区切らずに、いろいろなメンバーとコミュニケーションを取ってみることをおすすめしたいと思います。
取材・文/小林 香織 編集/天野夏海 写真/ご本人提供
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