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米中以外のAI人材育成戦略は? “開発”ではなく“活用”大国を目指す2カ国の事例

働き方

    本連載では、海外AIトレンドマーケターとして活動している“AI姉さん”ことチェルシーさんが、AI先進国・中国をはじめとする諸外国のAIビジネスや、技術者情報、エンジニアの仕事に役立つAI活用のヒントをお届けします!

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    海外AIトレンドマーケター | AI姉さん
    國本知里・チェルシー (@chelsea_ainee)

    大手外資ソフトウェアSAPに新卒入社後、買収したクラウド事業の新規営業。外資マーケティングプラットフォームでアジア事業開発を経て、現在急成長AIスタートアップにて事業開発マネジャー。「AI姉さん」としてTwitterでの海外AI事情やトレンド発信、講演、執筆等を行っている

    皆さん、こんにちは。AI姉さんことチェルシーです。

    前回は、AI先進国である中国のAI人材育成がいかに進んでいるのか、ということをお話しました。

    >>AI先進国中国の「AI人材育成」の秘密とは?「キーとなるのは、国策と“個人の貪欲さ”」

    中国ではAI人材の“量”を強みに、質へ転化していきながら着実にAI人材育成を強化しています。また、貪欲なキャリア志向がさらに若手のAI開発者のキャリアを後押ししているのが、中国AIの強さの秘密です。

    世界中でAI人材の育成が国策となっている中で、中国以外の人材育成はどのように進んでいるのでしょうか。本日は、既によく知られている米中以外の国にフォーカスし、AI人材育成の動向をご紹介します。

    フィンランドはAI活用大国を目指し、国民の1%がAIを学ぶ

    今、非常に注目すべきなのがフィンランドのAI人材育成です。

    フィンランドの国としてのAI戦略は、AIの“開発”ではなく“活用”の領域で世界をリードしていくことです。その目標の実現に向けて、経済雇用相のMika Lintila氏が2017年に11の施策提言を行っています。

    その中には、「トップレベルの企業を確保し、トップのAI専門人材を引き付ける」「AIによってもたらされる仕事の本質の変化のために準備する」など、AI人材においても語られています。

    また、その施策を実現するために「1%AI計画(1 percentage AI Scheme)」というプロジェクトも進んでいます。人口がわずか約550万人のフィンランドですが、一般市民約5.5万人がAIを学ぶわけです。

    具体的な学習方法としては、「Elements of AI」というオンラインAI学習コースを無料で展開しています。

    Elements of AI

    参考:https://course.elementsofai.com/

    これは元々フィンランド国民のための施策だったのですが、現在では「2021年までにヨーロッパ市民の1%にAIの教育を」を目標にEUの全言語(英語、フィンランド語、スウェーデン語、エストニア語、ドイツ語、ノルウェー語で既に利用可能)でAIの基礎を学ぶことが出来るように進んでいます。

    プログラムはヘルシンキ大学協力のもと、「AIとは?」「AIによる問題解決」「ニューラルネットワークの基礎」などのベーシックな内容になっています。開発者向けではなく、一般利用者のAIリテラシーを高めようとしているのです。

    フィンランド政府は「2025年には自国が最もAIに関する教育を受けた人の多い国になる」と宣言しています。誰もがデジタル化された社会で生きる方法を知り、変化によってなくなる仕事よりも、多くの仕事を生み出す国になろうとしているのです。

    Elements of AI

    参考:https://www.tekoalyaika.fi/en/

    シンガポールは国際的AIエコシステムの中心となり、AI活用人材を目指す

    東南アジアの小国ながら1番の経済大国であるシンガポールも、国家AIプログラムである「AI Singapore」を推進しています。これはNational Reseach Foundation(NRF)と政府全体のパートナーシップの下で開始されています。

    シンガポールが目指すのは、自国を国際的AIエコシステムの中心とすること。その3つの柱として、「AI Research」「AI Technology」「AI Innovation」を掲げています。

    特に注目すべきは「AI Innovation」で「シンガポールにおけるAIの利用と需要を拡大し、産業成長させるためのAIタレントを育成する」ことを目標に掲げている点です。

    AI Innovation

    具体的に5つのAI人材開発プログラムがあるのですが、「AI Apprenticeship program」「AI for Everyone」「AI for Industry」「AI for Student」「100 Experiments」のように、対象別に分けて提供しているのが特徴です。

    つまり、開発者の支援だけではなく、経営者から学生、子どもにまで、その人たちそれぞれに必要なAIスキルをプログラムにしているのです。

    例えば「AI for Industry」は各業界で働く専門家に焦点を当て、専門家がAI関連スキルを習得し、AIに対応出来るような支援をしています。また、「AI for Everyone」は一般市民が誰でも無料で参加でき、AIがもたらす利点や影響を学ぶことが出来ます。

    日本ではAI学習というと、まだ「まずはエンジニアがお金を払って開発を学ぶ」というのが一般的な考えですよね。シンガポールではそれだけではなく、国民全体に学習を促進し、AIネイティブを育て、「いかにAIを活用していくか」が求められているのです。

    小国の戦略は開発ではなく、一般市民のAIリテラシーを高めること

    世界のAI人材育成全体を見ると、やはり一般的に言われているように、欧米のAI研究者の質がトップ。そして中国は、AI開発者の数を増やして追い上げています。まさに「米中のAI戦争」とも呼ばれるように、注目されているのは米中のAI人材です。

    一方、フィンランドやシンガポールは「AI“開発”大国」ではなく、「AI“活用”大国」を目指しています。技術力では米中に勝てる訳がなく、AIを活用してビジネスを作れるかどうかの方が重要だと判断し、国民のAIリテラシーを高めるように舵を切っているのです。

    どれだけスキルのあるAI開発者がいても、ユーザー側の理解がなければAI導入は進みません。AI導入において、導入される側、つまりユーザー側の反対があることは大きな壁になるからです。

    「AIによって仕事が奪われるんでしょう?」

    こう思う現場ユーザーの思考が、「AIによって新しい仕事を生み出せそうだ」とポジティブに切り替わらなければ、「AI活用」では世界に遅れをとっていくでしょう。

    まさに今の日本を見ても、今後はAI“開発”人材だけではなく、AI“活用”人材こそ必要になってくるのではないでしょうか。開発者であるエンジニア自身もこの視点を理解し、「ユーザー理解促進」を進めるスキルも高めていく必要があるかもしれませんね。

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