あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team
エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りしていく。
あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team
エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りしていく。
幸か不幸か、仕事の価値というのは置かれた状況次第で変わってしまう。それでも、最終的には「書いたコードの良し悪し」や課題解決における「ロジックの優劣」、つまりアウトプットの出来で評価されるのがエンジニアの仕事だ。
だからこそ、エンジニアは年齢や性別、国籍や出自などを問わずどこでも平等に通用する職種であり、企業が優秀な人を雇いたいなら世界中で採用候補を探すこともできる。実際、米サンフランシスコ~シリコンバレーのベンチャーでは、現地におけるエンジニア採用コストの高騰化もあり、リモートワークを前提に他国で採用活動を行っているところもあるそうだ。
しかし、エンジニアを求める日本企業の中で、このメリットを本当に意味で理解し、サービス開発に有効活用している会社はどれだけあるだろうか。
問題は、英語をはじめとした外国語への対応や、外国人の就労ビザ取得といったところだけにあるのではない。異なる考え、文化や身体的な違い、多様なライフステージにいる人たちをチームとして機能させるためのダイバーシティな職場環境づくりも肝となる。
その点で、日本のみならずグローバルに拠点を持つクラウドソーシング型翻訳サービス企業のGengoは、2009年の設立からまだ10年未満のベンチャーながら、ダイバーシティな開発チームの構築に成功している数少ない事例といえる。
現在、同社の東京オフィスに在籍しているエンジニアは約10名(2016年6月時点)。インターンや海外拠点にいるQAチームのメンバーも含めると、15名程度が翻訳プラットフォームの開発・運用や各種のAPI開発に従事している。
そのメンバー構成は多様の一言。エンジニアチームでは半数が外国籍で、全社員の中でも約6割が外国籍だという。取材に応じてくれた3人も、それぞれがバックグラウンドの異なるエンジニアだった。
CTOを務めるアンドレア・ベルベデーレ氏は、イタリア出身→英ウエストミンスター大学でソフトウエアエンジニアの学士号を取得→イギリス企業での就労と開発会社の起業を経て来日。2012年にGengoへ入社した。
同じく英のサンダーランド大学でコンピュータサイエンスの学士号を取得後、イギリスで働いていたエイドリアン・ザブラ氏は、アフリカのマラウイ共和国出身だ。
そして、Rubyコミュニティでは「Yugui」の名で知られる元Google Japanの園田裕貴氏は、トランスジェンダーであることをカミングアウトしているLGBTである。
Yugui氏の経歴~主にRubyコミッタとしての活動など~から察するに、今はRubyでの開発に取り組んでいるのかと思いきや、Gengoのシステムは【Python】+【Go】+【TypeScript】で作られており、同氏はその中でシニアソフトウエアアーキテクトとして業務に当たっているという。
「Gengoへの転職を決めた理由の一つは、小さなチームでシステム全体を見渡しながら、マイクロサービス化を進めるような改善業務をやってみたかったから。ですから、開発言語にはあまりこだわりがありませんでした」(Yugui氏)
それに、Gengoの開発チームは「基本的に技術ポリシーはオープン」(ベルベデーレ氏)であり、チームメンバーが新しいテクノロジーを採用したいという場合はAPIベースでどんどん試していいことになっている。
このような姿勢も、ダイバーシティな環境づくりには欠かせないと考えているからだ。
「実はGengoのレガシーコードはPHPなのですが、大規模改修する際に皆で議論した結果Pythonに移行したのです。技術選択の自由さはエンジニアの働きやすさにつながるし、『Communicate freely』というポリシーは僕ら全員が最も重視していることなんです」(ベルベデーレ氏)
Yugui氏やザブラ氏も、このポリシーに惹かれているという。「ここに入社を決めたのは、開発チームの全員がオープンマインドでフレンドリーだったから」とザブラ氏が言えば、Yugui氏も「シンプルだけど尊いポリシー」と続ける。
「メンバーそれぞれが持っている常識が違うので、文句があれば直接話しますし、分からないことがあれば理解できるまで聞くという基本が徹底されています。自分の考えを常に言語化する作業は意外と大変ですし、議論を交わしている瞬間はつらいこともあります(笑)。それでも、人に説明しているうちに問題が自己解決することも多いですし、何よりトップダウンで物事が決まらないという点で、非常に納得感があります」(Yugui氏)
日本でダイバーシティというと女性活用やグローバル化に目が行きがちだが、本来のメリットはこういった機会の平等性にあるといえよう。
ザブラ氏の「誰もが誰かになれる環境で働くと“Wise faster”(より早く賢くなれる)なんだ」という言葉が、それを象徴している。
では、ダイバーシティな環境を作ることが、プロダクト開発においてはどんな利点を生むのだろうか。
日本人ばかりのチームで働いていると実感しづらいことかもしれないが、答えはシンプル。「世界中で使われそうな機能をすばやく作ることができる」(ベルベデーレ氏)ことに尽きる。その一例を紹介しよう。
Gengoが最近搭載した「通貨表記の自動検出機能」の開発時、各地の言語ではどのように表記するのが自然なのか?を細かく調べる必要があったが、「オフィス内をヒアリングして回ればほとんどの疑問を解消できた」(ベルベデーレ氏)という。欧米のみならず、アフリカやアジアの出身者も抱えるチームだったからこそできた芸当だ。
同社のプラットフォーム上で翻訳者として従事する人は全世界で2万人規模になっているという。ユーザー・翻訳者の双方にとって使いやすいサービスは、こうした環境から生まれている。
最後に、3人に「他社がGengoのようなダイバーシティな環境づくりに取り組む際にやった方がいいこと」を聞くと、以下の2点が挙がって来た。
社内公用語を決めること以上に大切なのが、この「職務記述書」の作成とのこと。各ポジションに求める職務と具体的なタスクを言語化しておくことで、「外国籍のエンジニアを雇いやすくなるだけでなく、ミッションドリブンなチームを作りやすくなる」とベルベデーレ氏は言う。
同じくYugui氏は、「ジョブ型採用(職種ごとの職務・職責を明確にした状態で採用すること)」と、「メンバーシップ型採用(職務やミッションを明確に定めず“就社”してもらうこと)」を比較しながら、ジョブ型で採用を行うことの利点をこう語る。
「多様な背景を持つメンバーの間では、『この人は○○時間働いているから偉い』とか『社会人なら仕事では○○するのが常識』というような文化依存の価値観は共有できません。ダイバーシティな職場では、明文化された職責と対応する成果に基づいて『この人は○○をやっているから偉い』と評価する方が容易でしょう」(Yugui氏)
日本人エンジニアが英語を学ぶのをサポートすることの他、外国籍のエンジニアが日本語を学ぶ際の費用も会社が負担するのが案外大事という。
Gengoでも、過去に両方のケースをサポートした実績があるそうだ。ザブラ氏によると、「日本に来る外国人は日本語を学びたいという意欲がとても高いし、仕事のみならず日常生活でも日本になじむためのサポートになる」と話す。
「誰もが快適に働ける環境づくり」の中には、社員がその国に住むことそのものをサポートするのも含まれるということだろう。
フラットな組織づくりに取り組みたい企業や海外展開を視野に入れる企業は、これらを参考にチーム構築してみてはどうだろうか。
取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/竹井俊晴
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