「技術選びも投資家目線で」雑食系エンジニア・勝又健太流“捨てて磨く”キャリア戦略
努力して習得したものほど、捨てるのが難しいーー。そう感じてしまう心の習性を、「サンクコストバイアス」と呼ぶ。
技術を磨き続けなければならないエンジニアという職業は、まさにこの法則が当てはまってしまうのではないだろうか。「自分のことだ」と感じた人に伝えたいのが、フリーランスエンジニア・勝又健太さんの言葉だ。
勝又さんは高単価案件を数多く受注してきた現役のエンジニアでありながら、登録者数5万人超のYouTubeチャンネル『雑食系エンジニアTV』を運営するYouTuber。さらに、会員数2千人超のオンラインサロンの主宰者でもあり、エンジニアの枠にとらわれないユニークな活動が注目されている。
そんな勝又さんが、先日、こんなツイートをしていた。
僕はエンジニアとしてなにか際立った能力を持っているわけではないですが、「せっかく習得したスキルや技術をあっさり捨てる」ということに関しては右に出る人がいないくらいにあっさりしてますし、ある意味そういう「捨てられないという悪癖が存在しないこと」だけが、僕の唯一の強みかもしれませんw
— 勝又健太|11/6(金) 書籍「Web系エンジニアになろう」出版します! (@poly_soft) September 2, 2020
勝又さんは「捨てられないのは、守ってばかりで攻めないのと同じ」と言い切る。なぜエンジニアは、苦労して習得したスキルや技術を捨てた方がいいのだろうか? 「捨てられない悪癖」は、エンジニアにどんな悪影響をもたらすのか? ツイートの真意に迫った。
技術は捨て続けた方が得。「巨人の肩に乗る」戦略を取るべき理由
自分のキャリアを振り返ってみて、「捨てたときに得をしてきた」と感じたんです。
例えば、僕が最初に捨てたのは、マイクロソフト系の技術です。
最新のプロダクトを開発する現場で5年ほど扱ってきて、そこそこ高いレベルで習得していたので、転職する当初は、「このままマイクロソフト系の技術を生かせる会社に行こう」と思ってました。
一方で、当時の僕はクラブにハマっていて。「深夜はクラブに行き、朝から昼まで寝て、午後から出社する」といった働き方ができる会社に行きたい気持ちが強くなっていたんですよね。
マイクロソフト系の技術は主にSIerで使われますが、当時のSIerは出勤時間に厳しい会社さんがほとんどで。そこで、比較的フレキシブルなワークスタイルが許容されていたWeb系の会社に転職したんです。その会社でLinuxやRubyなどを扱い始めて、徐々にWeb系エンジニアにシフトしていきました。
あれは2010年頃のことでしたが、あのタイミングでマイクロソフト系の技術にこだわっていたら、おそらく今はありませんでした。Web系エンジニアにはなっていなかったでしょうし、YouTubeやサロンをやることもなかったと思います。
なかったですね。強く悩むこともなく、あっさり決めました。その時はとにかくクラブに通う生活がしたかったので、それが実現できたので良かったなと(笑)
一つは言語ですね。元々はC#を専門にしていたのですが、転職してからはC#を捨てて、Ruby、PHP、Scala、Elixir、Rustなど、いろんな言語を経験してきました。
もう一つは、業務知識です。ソーシャルゲームの全盛期はその分野の仕事を数年ほど手掛けていましたが、伸び盛りが過ぎるとパッと離れて。アドテク、機械学習と、節操なく乗り移ってきました。
僕、結構ポイポイ捨てちゃんですよね(笑)
なぜそんなに捨て続けてきたのかというと、「巨人の肩に乗る」戦略を意識していたからです。今で言うと、Web業界の一番の巨人はAmazonさんなので、AWSのスキルを磨くとか。あるいはGoogleさんのGCPの技術を勉強するとか。そういうことです。
自分が身に付けてきたものに縛られずに、その時代の勝ち馬にどんどん乗り移ってきました。
僕自身は、一つ一つの技術レベルは間違いなく中途半端だと思います。
全く問題ありません。
一つ一つの技術レベルが飛び抜けていなかったとしても、豊富な経験を持ち、それを応用して最新技術を短期間で理解し、ビジネスに貢献できる「実戦力の高いエンジニア」だと認知してもらえれば、それだけで高く評価されるようになります。
そうすると、自分の手持ちの技術と引き換えに、新しい技術に挑戦させてもらえるようになりますし、それらのスキルセットが錯覚資産となって、高単価の案件を獲得しやすくなるわけです。ちなみに僕は、言語も好き嫌いで選ぶことはなくて、投資家目線で選んでいます。
その通りです。ただ、こういうことを言うと、「(一つ一つの技術レベルが中途半端な)勝又は、技術の深淵を覗いていない」とか言われるんです。でも僕は、そもそも技術の深淵なんて覗くつもりがないんですよね(笑)
僕は別に、剣の道を究めて必殺技を習得したいわけじゃないんですよ。剣の扱い方がある程度分かって、それなりに戦えるようになったら、あとは状況に合わせて自分で応用すればいいわけです。
一つの技術を深掘りして得することなんてほとんどないというのが僕の持論。それどころか、サンクコスト(回収できない埋没コスト)が積み重なるので、新たなことへ挑戦しにくくなってしまうと思っています。
僕は、オリエンタルラジオの中田敦彦さんのような「前言撤回」の生き方に賛成で、過去の自分の労力や言動にとらわれずに生きていく方が、新しい可能性が開けるんじゃないかと思うんですよね。
「裏切れない」ほど、技術コミュニティーに深入りしてはいけない
その通りで、エンジニアには、「道系エンジニア」と「術系エンジニア」の2パターンが存在します。
「道系エンジニア」とは、武士道のように一つの道を極めるタイプの人。「術系エンジニア」は、時と場合によりなんでもやるタイプの人です。僕は「術系エンジニア」ですが、「道系エンジニア」の人は、ご自身の突き詰めたい道を進んでいけばいいと思います。それは個人の価値観ですからね。
ただ、あくまで僕の考えですが、一つの道だけを極めようとすると、その道自体がダウントレンドになったときに、高単価案件に携わりにくくなるリスクがあると思っていて。一つの株に全財産を突っ込むようなものなので、ちょっと怖いんですよね。
11月6日に出版する書籍『21世紀最強の職業 Web系エンジニアになろう』(実業之日本社)にも書いていますが、最近は「どうしてもエンジニアになりたい」というよりも、「時間と場所に縛られずに働けるようになりたい」という動機でエンジニアを目指す人が増えています。そういう人はほぼ例外なく「術系エンジニア」なので、早めに捨てる習慣を身に付けるべきだと思います。
「コミュニティーの中で自分がどう見られているか」を、あまり気にしないことですね。エンジニアって技術コミュニティーに所属している人が多いじゃないですか。そこでの人間関係が濃くなり過ぎてしまい、「仲間を裏切れない」みたいな感じで、身動きが取れなくなってしまうケースが多いんです。
そうですね。でも、僕の場合は元々「新しい技術をどんどんやるエンジニア」として自分をブランディングしていたので、誰にどう思われるかはあまり気にすることなく、さまざまなコミュニティーを出入りしてこれたんですよ。
例えば大学のサークルだって、いろんなサークルを掛け持ちしている人っていたじゃないですか(笑)。そういう人って「忠誠心がない」みたいな感じに見られがちですけど、考えてみると、多くのサークルに入った方が自分の可能性を知れますし、人間関係も固定されることなく健全に過ごせると思うんです。
それと同じで、いろんなコミュニティーに顔を出す「尻の軽い人」だと最初から思ってもらった方が、キャリアにおけるメリットは大きいんじゃないかと思いますね。
どんな技術も半年やれば十分。「捨てるタイミング」の見極め方
いえ、実はそれはあまりお勧めしていません。エンジニアになって最初の2~3年は、可搬性が高く需要のあるスキルをしっかり身に付けて、軸足を固めることに専念した方がいいと思います。自分もキャリアの初期は守りに徹していて、「攻められる状態になった」と判断してから捨て始めたので。
「攻められる状態」を判断するには転職サイトなどを活用してみるといいですよ。ある程度経験を積むと、送られてくるスカウトの数や、年収提示額が明らかに変わってきます。他にも、フリーランスになっても月単価50~60万は確実に稼げるような状態なのであれば、もう十分攻めに転じていいタイミングだと思いますね。
エンジニアの中にはすでにその状態に達していても、いつまでも守りを固めてばかりで攻められない人が多い印象です。「術系エンジニア」の道を歩むのであれば、この状態に至った後は、「新しい技術に携わり、習得し、捨てる」ことを積み重ねていった方がいいと思います。
僕の感覚では、どんな技術でも半年やれば十分ですね。新規サービスの開発に一通り取り組んだら、そのときにメインで扱った技術はかなり身に付いてると思います。
はい。新規サービスの開発は、すでに出来上がったサービスを扱う保守運用フェーズとは違って、ベストプラクティスが分からない中で進めていくものなので、100%失敗しないなんてことは絶対にありません。プランAで地雷を踏んでしまったなら、Bか、Cか……と試していく。例えて言うなら、地雷を一つ一つ踏んで爆発させながら前に進んでいく感じです。
自分の手で失敗し、解決することで、その技術を駆使することになりますよね。それを繰り返すうちに知識が深く身に付いて、ふと気付くと「めちゃめちゃ伸びたな!」と実感する瞬間があると思います。やっている時は、決して楽ではありませんが(笑)
そうですね。ビジネスでよく言われる「パレートの法則」に当てはめると、その技術でよく使う80%の知識は、習得に費やす時間全体の20%ぐらいの時間で身に付くはず。もっと時間をかけないと身に付かない残りの20%の知識は、僕の経験から言うとほとんど使う場面はありません。
そしてどんどんスキルの幅を広めつつも、自分の専門と言える領域は持っておくのがおすすめです。大きな予算が動く案件は分業体制が前提のため、各分野の専門家を求めていることが多いので。僕がバックエンドやインフラの技術に幅広く手を出しつつも、専門はDevOpsであるとブランディングしているのはそのためです。
次に捨てるかもしれないのは……「エンジニアの本業」
エンジニアの本業ですね。この仕事は生きていく上でのセーフティネットになっているので、簡単に捨てるべきではないのですが、いつまでも守ってばかりもいられません。このバランスの取り方については本当に迷っているところです。
そうですね。今は、本業は週3日しかやっていなくて。エンジニアとしては、週5日働いている人に比べると本業の収入は少ないですし、土日も使って勉強している人に比べると成長は遅いと思います。でも、それらを捨てているから、YouTubeやオンラインサロンの活動ができています。
新しいチャレンジをしてきたからこそ、より広い世界に価値を提供できるようになりましたし、その上では捨てることが欠かせなかったなと思います。
ちなみに僕が「捨て上手」だなと思っているのは、元大阪府知事の橋下徹さんです。もともとは日本代表レベルのラグビー選手だったのに、早めに見切りをつけて弁護士やタレントになり、その仕事も捨てて知事へ、市長へ……というご経歴を見ると、まさに捨て続けていますよね。ああいう生き方はかっこいいなと思います。
橋下さんは「政治家としては燃え尽きた」と仰っていますが、過去のそれぞれのご経歴も、「燃え尽きた」と言えるほど情熱を注いでやりきったからこそ、潔く捨てられたのかもしれませんよね。
自分がエンジニアとしての本業を捨てるかもしれないという話をすると、「お前は捨てるほどエンジニアをやったのか」って言われると思うんですけど(笑)、僕としては次のステージに移れるだけのことはやってきたと思っているので、攻めと守りのバランスを考慮しながら、自分の殻をどんどん破っていきたいなと思います。
取材・文/一本麻衣 撮影/桑原美樹 編集/河西ことみ(編集部)
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