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及川卓也ほか、PM採用中の企業が明かす“市場ニーズの高いPMの条件”とは?【pmconf2020レポ―ト】

ITニュース

    プロダクトマネジメントに携わる人たちが共に学び、切磋琢磨する場として2016年から開催されているイベント『プロダクトマネージャーカンファレンス』。

    先日、10月27日には第5回目となる「プロダクトマネージャーカンファレンス2020 ~見えない未来をリードするプロダクトマネジメント~ #pmconf2020」がオンラインで開催された。

    今回は、数あるセッションの中から「あなたは他社でも通用するか?! 300名、100社のプロダクトマネージャーの採用ニーズからキャリアを考える」のセッション内容をレポート。

    PMのキャリア支援を専門にするキャリアコンサルタントと、PMを積極採用している企業のトップが語る採用ニーズ・プロセスから見えてきた、プロダクトマネージャーのキャリアとはーー。

    石山洸さん、水島 壮太さん、工藤 直亮さん、及川 卓也さん

    登壇者

    株式会社エクサウィザーズ 代表取締役社長 石山洸さん
    ラクスル株式会社 執行役員CPO 水島 壮太さん
    株式会社クライス&カンパニー エグゼクティブヴァイスプレジデント 工藤 直亮さん
    株式会社クライス&カンパニー 顧問 及川 卓也さん

    求めるPM像は「『鬼滅の刃』の柱」のような人

    及川:今回は各社の採用ニーズをもとに「プロダクトマネージャーのキャリア」について考えます。

    私たちがこのカンファレンスを始めた2016年当初は、まだプロダクトマネージャー(以降、PM)という職種さえも認知されておらず、PMの重要性を伝えていきたいという使命感でこのイベントを始めた経緯があります。

    工藤さん、まずはPMの市場ニーズについて教えてください。

    プロダクトマネージャーの求職と求人情報

    工藤:こちらはクライス&カンパニーのデータベースで調査した「求職者」と「求人」の情報の割合です。ご覧の通り、両者には明確なギャップがあり、一人前のPMを採用したい企業に対して、市場には未経験や経験の浅い人が多いのが現状なんです。

    石山:まさにこのデータの通り、企業側はプロダクトマネージャーを採用したいけれども、求める求職者と出会えず、採用できない状況だという印象を受けています。

    水島:弊社(ラクスル)も見ている景色は同じですね。これまではジュニア層のPMを採用してきた背景はありますが、最近はシニア層にフォーカスが移ってきています。

    及川:確かに2人目、3人目としてシニア層のPMを探す企業が増えてきているかもしれませんね。そんな中でこのカンファレンス共通のテーマとして挙がっているのが「結局、PMとはどういう人なのか?」という点。各社の採用ニーズから、PM像を探っていきましょう。

    石山:一言でPMと言っても事業の形態によって、ニーズや印象が異なります。エクサウィザーズでは、医療・介護、金融、ロボットなど幅広い大手企業と連携した画像診断/自然言語処理/統計解析技術等を活用するオープンイノベーションに取り組んでおり、専門領域ゆえにドメイン知識が求められます。

    また、プロダクトにAIを実装する必要があるため、インターネットやソフトウエア領域を中心に、プロダクトのリリースや継続的な改善をリードした実績があることを重要視しています。さらに、「社会課題を解決する」という大きなテーマに立ち向かいながら周囲を巻き込めるリーダーシップに加え、外国籍のエンジニアとスムーズにコミュニケーションができる英語力もあればベストです。

    まとめると、社会課題解決と闘う「リアル『鬼滅の刃』の柱のような人」を求めているわけですが、そんな人はどこにいるんだろう、と(笑)

    及川:条件を聞くだけで、くじけそうになりますね(笑)

    石山:やはり全てを兼ね備えている人材を探すのは難しいので、最終的にはチームで吸収するかたちを取ることになりますが、なるべく幅がありつつも、尖った武器がある人を採用しています。

    水島:ラクスルには、印刷・広告サービス『ラクスル』、物流サービス『ハコベル』、テレビCMのプラットフォーム『ノバセル』の三つの事業が存在します。これは印刷事業がグロースして多角化した結果で、このような背景から弊社では並列にプロダクトチームが追加されており、それらのチームをリードするPMを募集しています。

    弊社では起業家魂のある人材は別のラインで採用していることから、エンジニアやデザイナーをマネジメントしてプロダクトをきっちりと仕上げ、その後、PDCAを回しながらグロースフェーズに持っていくところにコミットできるPMを求めています。なので、エンジニアリングやデザインへの関心・知見と、彼らをマネジメントした経験は必須。さらにビジネスレベルの英語力もマストで入れています。

    及川:両社で明確だったのが「英語力」ですが、工藤さん、こういった傾向は他社にも見られますか?

    工藤:ええ、あると思います。優秀なエンジニアを採用したい企業では、日本人だけでは間に合わず外国籍のエンジニアを採用する、あるいは海外に拠点を作ってでも外国籍の優秀なエンジニアを自社に集めています。そういった背景から、英語でも連携を取れるPMの需要は高まっていると言えます。

    PMに「ドメイン知識」はマストなのか?

    及川:続いて、石山さんのお話で出ていた「ドメイン知識」について。ラクスルさんでも同様に特定の業界に対して効率化・DXを仕掛けていることから、ドメイン知識は必要だろうと推測します。一方で、そこまで求めてしまうと、ただでさえ少ないPMのパイがより一層小さくなりますよね。ドメイン知識とは、どう向き合うべきでしょうか?

    石山:採用の基準としてドメイン知識を重要視しているものの、実際はどうかというと、例えば介護の領域で専門的な知識とPMとしての実務経験を持ち合わせている人は、基本的にいません。そうなると先ほどお伝えした通り、チーム力で補うことになります。

    水島:弊社も同様で、入社時に印刷業を経験している人なんて1人もいません。ゼロベースでドメイン知識を学ぶにあたり、キャッチアップ能力の個人差はありますが、僕はその点はあまり評価に入れていません。何かしらの実践を通してドメイン知識を深めていくことはできるかなと。

    ただ、BtoBだと自分が一ユーザーとして経験できない世界に対してプロダクトを出すのは難しくて、どんどん現場に行く必要があります。印刷なら工場に行く、物流ならトラックの運転手に並走して彼らの仕事を見る、といったように。

    及川:PMは現場感を理解する能力が大事だとも言われますが、工藤さん、ドメイン知識について他社さんの見解はいかがですか?

    工藤:ドメイン知識を必須項目にしている企業は少ない印象ですね。プロダクトがBtoBなのかBtoCなのかといった、カテゴリーごとの経験が求められるように思います。

    及川:PMは「課題を愛する人」と言われることがありますが、知らないことに対して興味を持てるか、課題を見つけられるかという素質も大事なのでしょうね。

    石山洸さん、水島 壮太さん、工藤 直亮さん、及川 卓也さん

    求めるPMをどう見つける?各社の採用プロセス

    及川:続いて、素質のある人材をどう探しているのかも気になるところです。各社の採用プロセスについても教えてください。

    石山:弊社ではHRテックの領域も手掛けているため、PMのアセスメントツールを自社開発して、それらを使って評価をし始めています。これはTably・TECH PLAY・エクサウィザーズの3社で共同開発したツールで、スキル・知識・フェーズ・スタイル・素養の五つの項目を測定できます。このツールを使ったテストが採用プロセスに組み込まれています。

    水島:弊社ではワークサンプルという疑似就業体験のようなことを実施していて、これがPMの素質を判断する重要なポイントになっています。ここで見ているのが、ソフトウェアの中身を診る能力、データを設計・取得して課題設定する能力、アジャイル/ノンアジャイルのPJマネジメント能力、組織マネージ、コンフリクト解消能力の四つ。3時間ほどかけてこれらの能力を見極めます。

    及川:各社、独自の採用プロセスがありますが、面接時に「これを聞けばPMの能力が分かる」という質問があれば教えてください。

    水島:最後に聞いているのは、「これまでで一番の組織コンフリクトが起きた時、どのようにしましたか?」という質問です。PMって糊のような動きをする人だと思うので。

    石山:私は、実績以外のプラスアルファの質問として、やってみたいことがあるかどうかを聞きます。そのとき、目を輝かせながら「AIを使った新しいUX」について語るとか、作りたいものに対して意図を持っていることが重要だなと。

    及川:なるほど。私の場合は、「昔好きだったけど、今は使わなくなってしまったプロダクトがありますか?」と聞くんです。そこへ例えば、「FoursquareやGoogleリーダーが好きだった」と言う人がいたとします。GoogleリーダーはいわゆるRSS、フィードリーダーなんですが、「では、あなたが担当者としてGoogleリーダーのようなものを作れるとしたら、どう進めますか?」と質問します。

    そのときにフィードをどう取ってという、ごく普通の話をする人は失格かなと。誰に対して何を提供するか、どういう課題があるかを考えて、今の時代ならそれをどう解決するかを答えられる必要があると思うんです。

    時代が変われば、解決策が違って然るべき。これは一例ですが、自分が関わったもの、もしくは自分が好きだったものに対してどのように再発明するか、どうイノベートするかを聞くことでPMの力量が分かるかなと。

    及川:最後にPMとしてのキャリア構築を考えている人に対して、一言アドバイスをお願いします。

    石山:先ほどの及川さんの質問に私ならどう答えるかなと想像していたのですが、昔好きだったプロダクトのGoogle Fusion Tableも、今の時代ならスマートシティー向けにもっとさまざまなデータを活用して作れるものがあるな、などと考えるだけでワクワクしますね。作りたいものがある、寿司を握る意味がある寿司屋みたいなところがPMの良いところだと思うので、ぜひそんな方と一緒に働ければと思っています。

    水島:私も最近、過去のプロダクトの改良や今の時代の新規プロダクトの改良も含めて、どんどんスピードが上がっているなと感じています。日本だけに閉じ込まらず、海外のリソースも使って加速させる動きが今後出てくるので、スピードにこだわりつついかに良いものを出すか、このあたりを鍛えていただければ信頼されるPMになれるのではないでしょうか。

    工藤:キャリアの観点だと、もしご自身が市場で求められるPMのスキルとギャップがあるのであれば、どんな経験が必要かを把握するのが大事ですね。弊社では客観的なアドバイスも含めて、PMのキャリア構築を支援しているので情報交換できればと思います。

    登壇者プロフィール

    株式会社エクサウィザーズ 代表取締役社長
    石山洸さん

    東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2006年4月、株式会社リクルートホールディングスに入社。同社のデジタル化を推進した後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズにのせ売却した経験を経て、2014年4月、メディアテクノロジーラボ所長に就任。15年4月、リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年4月、デジタルセンセーション株式会社取締役COOに就任。2017年10月の合併を機に、現職就任。静岡大学客員教授、東京大学政策ビジョン研究センター客員准教授

    ラクスル株式会社 執行役員CPO
    水島壮太さん

    新卒で日本IBMに入社し、Javaアーキテクトとして金融系システム開発などでキャリアを積んだ後、DeNAに転職。DeNAでは、Mobageオープンプラットフォームのサードパーティー向けグローバル技術コンサルティング部門の立ち上げを行い、サードパーティーらに必要なものを自らの意思決定で作りたいという思いから、開発部門へ。Mobageに限らず社内外全てのサービスで共通に利用されるマイクロサービスを開発、展開した実績を持つ。2015年4月より株式会社ペロリに出向し、MERYのアプリの立ち上げおよびメディアからサービスへ飛躍するための開発をリード。17年10月よりラクスル株式会社に入社。現在は執行役員CPOを務め、ラクスル事業のプロダクト開発を指揮している

    株式会社クライス&カンパニー エグゼクティブヴァイスプレジデント
    工藤直亮さん

    採用コンサルティングサービスを提供するベンチャー企業に新卒で入社。大手上場企業を中心に採用のコンサルティング業務に約6年従事。2012年にクライス&カンパニーへ参画。数名のスタートアップ企業から、一部上場企業まで幅広い企業群を担当し、各社の経営者、事業責任者とのパイプも豊富に保有。現在はコンサルタント業務と併せて、事業部のマネジメント業務も担う。プロダクトマネージャー専門チームにも所属し、プロダクトマネージャーに関しても、これまでに多くのキャリア支援実績を持つ

    株式会社クライス&カンパニー 顧問
    及川 卓也さん

    MicrosoftにてWindowsおよびその関連製品の開発を担当した後、Googleに転職し、ウェブ検索やGoogleニュースのプロダクトマネジメントやGoogle Chromeのエンジニアリングマネジメントに従事。その後、Qiitaの運営元であるIncrementsに転職。独立後、プロダクト戦略やエンジニアリング組織作りなどで企業への支援を行うTably株式会社を創業。2017年よりクライス&カンパニー顧問

    文/小林香織

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