ZOZO元CTOが校長!「ビジネス視点×ユーザー目線」育む高専の狙いから、現役エンジニアが学べること
2023年に徳島県神山町に設立される私立高等専門学校『神山まるごと高専』。同町にサテライトオフィスを構えるSansanの寺田親弘氏が個人出資し、開校へ向けてカリキュラムの策定や教員選定などを準備中だ。
その初代校長に、ZOZOテクノロジーズの元CTOである大蔵峰樹さんが就任することに決まった。
高専といえば、ソフト・ハードウエア問わず多くのトップエンジニアを輩出する、いわばプロフェッショナル育成機関。大蔵さん自身も高専から大学3年次に編入した経歴の持ち主だ。
CTO経験者がなぜ次のキャリアに「校長」というキャリアを選んだのか。『神山まるごと高専』が育てたい「社会を変えるマインドを持ったエンジニア」とはどんなエンジニアなのか――。
大蔵さんに話を聞いてみると、サービス開発に携わるエンジニアに不可欠な「ビジネス視点とユーザー目線」の育み方のヒントも見えてきた。
高専の校長は「学校のCTO」のようなもの
学生時代から開設直後の『ZOZOTOWN』に携わり、サービスのスケールに貢献してきた大蔵さん。スタートトゥデイ工務店(現ZOZOテクノロジーズ)のCTOに就任し、長い間『ZOZOTOWN』のエンジニアリングチームをリードしてきた。
そんな大蔵さんが選んだ次のキャリアが「高専の校長先生」。その理由は、もともと研究者を志していたことや、自身も高専を卒業しており、教育に興味があったからだという。
「カリキュラムを考えたり、講師として授業をしてくださる方に打診したりする中で感じたのは、高専の校長って、学校におけるCTOみたいなものだということ。学校全体の雰囲気づくりや教育方針、教員の皆さんとの連携強化は、CTOとして行ってきたチームビルディングに似ているなと思います」
『神山まるごと高専』では通常の高専とは異なり、テクノロジー技術を基礎からしっかり取り組むものの、カリキュラムの半分程度に留める予定。その代わり、製品やサービスを魅せるためのデザイン、自己表現としてのアート、起業のためのアントレプレナーシップなど、事業創出ができる学生の育成を目指す。
さくらインターネット代表の田中邦裕さんや、電通出身のクリエーティブディレクター・国見昭仁さんなど、第一線で活躍する著名人の授業も企画中だという。
「既存の高専って、現場の即戦力になるような人材を輩出する学校が多いんですよ。だけど、ユーザーの使いたいデザインではなかったり、インターフェースがダサいままだったりと、無骨なプロダクトしか作れないエンジニアも多いように感じています。
これからの時代は、それだけではちょっと物足りない。いくら良いものをつくっても、使われなければ意味がないし、使い勝手がよくなければユーザーはついてこないですから」
そこでまるごと高専の生徒には、最先端の技術取得だけではなく、ユーザー目線のプロダクト作りを経験してもらうため、国内外での課外活動も考えているそうだ。特にフィールドワークを通じて、人口約5,000人の神山町の地域課題も解決したいと考えている。
「例えば、孫にLINEをしたいけれど使い方が分からない高齢者に、ワンタッチで自動的にメッセージを送れるサービスを作ったり、街のパン屋さんが焼き立ての時間に商品を渡せるようにネット予約できるシステムを開発したり。そうやって、神山町のためになることもできたらいいですよね。
自分の経験や周りのエンジニアを見ていて思うんですけど、高専って、かなり“変な”生徒が多いんです(笑)。だからまるごと高専でも、良い意味で変わっている、尖ったエンジニアを輩出したいですね」
育てたいのは「ビジネス視点×ユーザー目線」を持ったエンジニア
まるごと神山高専が目指すのは、社会を変えるマインドを持つ「起業するデザインエンジニア」の育成だ。それは一体、どんなエンジニアなのだろう。
「エンジニアとして、高いクオリティーでものづくりができることは大前提。それだけでなく、ゼロから事業を生み出したり、生活者にとって使い勝手のいいデザインを考え抜いたりできるエンジニアのことです。
そのために、すでに与えられたテーマに対してより良く表現する『デザイン』にも、自己表現である『アート』にも精通し、ゆくゆくは起業できるほどビジネス感覚を持ったエンジニアを育てたいと思っています」
変化の激しい今の時代、エンジニア自身がビジネスを理解し、作ったプロダクトを社会ですぐ役に立つ状態でリリースできなければならない、と大蔵さんは考える。特にWebサービスの場合は、リリースまでに要する期間が短くなるほど事業の優位性が保てるからだ。
「これはZOZOでCTOをしていた時にもよく考えていることでした。ZOZOでは、前澤さんが思いついた構想をエンジニアとしてどうユーザーに届けられるのかを、考え抜いて素早く実装する必要がありましたから。経営者とも対等に話せて、ユーザー目線を持って開発ができるエンジニアは、今後さらに求められるようになると思います」
ビジネス視点と、徹底したユーザー目線を持つことができれば、エンジニアとしてより良いシステム開発が可能になる。
「例えばZOZOTOWNって、初期の頃からユーザーに『何だか使いやすい』ってよく言われていたんです。それって、サイズ選択機能がプルダウンしやすいみたいな、ほんのちょっとの違いなんですよ。
それを可能にしたのは、ZOZOのエンジニアが“洋服が大好き”な人たちだったからだと思っています。実はZOZOでは初期の頃に採用が思うようにいかず、社内でエンジニアを育てていました。つまり、もともと洋服が好きでZOZOに集まってきた社員が開発を担当していたんですよ。
だからこそ、洋服が好きなユーザーが使いやすいサイトを作ることができたし、自分たちがZOZOを盛り上げていくぞというビジネス視点を持って開発に臨めていたのだと思います」
「if文を一つ足したら一つ引け」システム開発はシンプル思考が重要
学生を育てることに意欲を燃やす大蔵さんだが、すでに社会人として働くエンジニアがビジネス視点、ユーザー目線を強化するには、どうすればいいのだろう。
「システムをとにかくシンプルにすること、に尽きると思います。私もメンバーにはよく『if文を一つ足したら一つ減らせ』と言っていて。これは、条件分岐が増えるほどシステムは複雑になり、不具合やバグも起こりやすくなるということです。操作は難しくなるし、システムが止まってしまいやすくもなる。
ユーザーが一番嫌なのって、システムが動かないことですよね。システムが止まってしまうなら、せっかく良い機能を足したとしても、ユーザーのことを考えているとは言えないと思うんです」
特に改修案件では、やたら新しい機能を足して、複雑なサービスにしてしまうエンジニアが多いという。いくら「良いサービスにしよう」と作り手側が気合いを入れても、それはあくまでも作り手目線なのだ。そのような悪手を防ぐためには、今手掛けている案件が「何を解決しようとしているのかを考えること」だと続ける。
「言われるがまま手を動かしているだけでは意味がありません。今目の前で組み上げているシステムは、会社の事業にとってどんな意味を持つのか。あるいは、さらに視座を高くして、社会の枠組みの中でどんな位置付けになるのかを考える。これがビジネス視点を養うことにもつながります。
例えばSIerにいるなら、自分の作っているシステムがクライアントのビジネスにどんなインパクトをもたらすのか。その目的のために、どのようなUIや仕組みが必要か。そうやって考えていけば、自ずとビジネス視点・ユーザー目線を持ったエンジニアに成長できると思います」
システムやプロダクトは、決して「作って終わり」というものではない。使う人がいるからこそ、システムは初めて意味を成す。エンジニアがキーボードの“その先”まで目を向けて仕事に取り組むことが、自身の成長にもつながるのだ。
取材・文/石川香苗子
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