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ERPフロントウエアの『TeamSpirit』が導入400社を突破~SIerから自社製品提供への転身を支えた“顧客一体型開発”とは?
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受託開発からの脱却を目指し、自社プロダクトを企画するSIerやシステム会社は少なくない。だが、ホームページの事業内容に自社プロダクトが並んでいるだけの状態に陥ってしまうケースも散見される。自社製品によるサービス提供型ビジネスへの転換は、それだけ難しいものだからだ。
そうした現状の中、2012年3月に“ERPフロントウエア”のクラウドサービス『TeamSpirit』をリリースし、受託開発からの脱皮を成し遂げた企業がある。東京・京橋にオフィスを構えるチームスピリットだ。
同社は1996年、旧社名であるデジタルコーストとして創業。当初はコンサルティング寄りの受託開発が中心だったが、2011年に米salesforce.com, Inc.との資本業務提携をきっかけにクラウドを活用したサービス提供企業へとビジネスをシフトした。そのタイミングでサービス名に合わせて社名も変更、100%サービス提供にコミットしたのだ。
2014年にはSalesforce.com Partner Award FY2014で「Best OEM Application Partner」を受賞。2015年5月にはシリーズCで総額4億円の調達を行うなど、メディアを賑わせた。
2015年6月時点で導入社数は400社。セールスフォース・ドットコムやSanSan、ラクスル、ウォンテッドリーなど、大小さまざまな企業が『TeamSpirit』を利用し、「勤怠管理」や「経費精算」などの入力や申請で発生する社員の工数削減を実現しているという。
なぜ、『TeamSpirit』は業務スタイルの異なる企業群が多数導入するサービスとなり得たのか。チームスピリットでマネジャーを務める橋本啓彦氏は、「目玉となる新機能開発は、特定の顧客と共に開発を進めています」と語った。
受託開発からの脱却を果たしたチームスピリットの開発戦略に迫る。
レガシーシステムを有効活用する「ERPフロントウエア」
『TeamSpirit』は、米Salesforce.comのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)である『Force.com』上に構築されたクラウドサービスだ。
その特徴は、勤怠管理や就業管理、経費精査、工数管理、電子稟議などの独立した基幹システム同士をクラウドでつなぐという仕組みにある。登録されたデータはクラウド上に一元管理され、効率的なバックオフィス業務を実現するというものだ。
「『TeamSpirit』はERPの手前に存在し、ユーザーが保有している基幹システムをモダナイゼーションするイメージ」だと橋本氏は語る。
時代の変化や技術の進化に伴い、長期稼働しているシステムも変化する必要がある。だが、高額な基幹システムはそうそうリプレースできるものではない。そこで、生まれたのがITモダナイゼーションという発想だ。必要なデータはホストに残したまま、アクセスするインターフェイスを変えてしまうという。
このITモダナイゼーションを単一の機能ではなく、各システムを網羅的につないでいることが『TeamSpirit』の強みだと言えるだろう。
「ルーチンワークは企業や組織にとって必須業務の一環です。が、日々の業務に追われるスタッフにとってはいかにスピーディーにこなせるかが課題になります。その点を踏まえた上で、新機能開発や機能追加を行っています」(橋本氏)
この機能追加と改善スピードも、『TeamSpirit』好評の要因だ。現在、必要なマイナーアップデートを頻繁に実施しており、ほかにも年2回、メジャーアップデートが行われている。
「約1~2カ月が具体的に追加する機能を決める検討期間になります。ですので実質開発期間は平均3~4カ月程度。システム連携について技術的な障壁で苦労したことはないのですが、法改正に伴った機能追加については、今後も取り組み続けなければいけません。
例えば、マイナンバー制度や労働安全法案によるストレスチェックの義務化などですね。こうした時代の流れに合わせて新機能の開発が必要になりますが、成長の機会だとも言えます」(橋本氏)
新機能開発に特定の顧客を選定
ERPの手前に存在するフロントウエアとして、大手からスタートアップまで幅広い企業に支持されている『TeamSpirit』。では、開発はどのように進めているのだろうか。
チームスピリットのエンジニアは、基本的に1つの機能追加を1人のエンジニアがオーナーとして担当しているという。最小限の人数で企画を行い、チームで検証し、実装段階に入ってから複数のエンジニアが参加し、アジャイルで開発を行う。
そうすることで、エンジニアチームが完全に機能する仕組みを作っている。
そして、新機能開発で特徴なのが、特定の顧客を「ファーストユーザー」として積極的なレビューを受ける点にある。
「『TeamSpirit』は顧客企業がノンカスタマイズで使えるのを前提にしているので、サービスの方向性自体は自分たちで考えて決めている」と橋本氏が語るように、特定顧客の意見を鵜呑みにしているわけではない。あくまでも1つの意見として捉えた上で、多くのユーザーが使いやすい機能は何かを考えるさせるヒントを得ていると言えるだろう。
では、機能開発のカギを握ることになる「特定の顧客」はどう見つけているのだろうか。製品企画・品質管理を担当しているエンジニアの倉谷彰氏はこう語る。
「チームスピリットの方向性とマッチする考えを持っていると感じるクライアントを、ユーザーの中から探し出しています。その際、既存の顧客か見込み客かは関係ありません。機能が現場でどう使われていくのか。実際に活用するユーザーの視点を取り入れることが重要だからです」(倉谷氏)
一例を紹介しよう。2015年6月のメジャーアップデートで「勤怠管理」の月次サマリーを一括でPDF 出力する機能をβ版としてリリースしたのだが、この際も実装の過程で、当初の予定から変更を加えたという。
「私自身『TeamSpirit』の導入コンサルを兼ねている関係から、勤務表の管理についての要望を多く耳にしていました。2015年2月から開発がスタートし、構想から実装に向けての機能の詳細化や具体化、それから開発、テストまでを1人でアジャイルで進めながら作っていました。ただ、『便利に勤怠表のデータ保管がしたい』というユーザーの声に応える際、どう実装するのか?について当初の予定とは違う結果になりました。
最初は夜間バッチで回して、朝出社したらデータができ上がっている状態を目指していたのですが、実装上の問題やユーザー側の使い勝手を考慮し、最終的には画面から出力する形に落ち着きました」(橋本氏)
「クラウドストレージサービスの『box』にデータを貯めるだけでもいいのでは?という話も出たのですが、そもそも『box』を契約していないユーザーもいる。だからダウンロード型にした方がいいという話もありましたね」(倉谷氏)
また、社外だけではなく社内でも、週に1度を目安にエンジニアチームで機能レビューを行っているという。機能開発について、多様性を持って作るという考えがチームスピリットには根付いている。
スモールリリースを徹底する
そんなチームスピリットに在籍しているエンジニアの大半はSIer出身者だ。事実、橋本氏や倉谷氏、そして2014年9月入社の中平祐介氏の3人はSIer出身者だという。
これは、エンタープライズ向けのシステム開発経験が『TeamSpirit』を開発する上で強みとなるためだが、大規模開発の多くがウォーターフォールで行われていた時代を生きてきた彼らは、どのようにアジャイル開発に慣れたのだろうか。
中平氏は転職後に手掛けた、レシートや領収書をスマホで撮影し、経費精算用のデータへと変換する機能追加についてこう振り返る。
「APIなど、それまで経験していた仕様ありきではなく、実装された時の使い勝手や機能性を考えながらの開発には、戸惑うことがありました。ゴールが見えない状態で開発を進めるためです。ですが、1度体験してみると、勘所が分かるというか、進め方が自然と身についていきました」(中平氏)
「アジャイル開発に関しては仕組みを理解するというよりも、肌感で進め方をつかむしかない。そういった点でも、とにかくやってみよう、というアドバイスはしましたね」(橋本氏)
自社プロダクトとしての挑戦を忘れない
このように、元SEの開発メンバーがプロダクトを日々磨いている『TeamSpirit』。ただ、顧客と共に、普及する確度の高い機能を考えながら開発するだけではなく、遊び心を持った挑戦も忘れないという。
例えば2014年11月のメジャーアップデートでは、配車サービスとも連携した「Uber 領収書登録サービス」を実装した。この機能については、代表取締役CEOの荻島浩司氏が発案したそうだ。
新たなバックオフィスのオートメーションを実現するプラットフォームとして、広く普及しつつあるERPフロントウエア『TeamSpirit』。
ユーザーからの声と開発チームの取り組みによって、さらに進化を続けていくだろう。SIからの脱却を果たしたチームスピリットの今後が楽しみだ。
取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正
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