『SUUMO』の“チャット相談”機能を生んだリクルート新卒4年目プロデューサーのすごさ
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全国の不動産情報を扱うポータルサイト『SUUMO』を運営するリクルート住まいカンパニーは、一昨年実施したスマートフォンアプリの大規模なリニューアルに続き、今年7月にはアプリ内でユーザーが不動産会社とチャット風のインスタントメッセージを使って直接やり取りができる機能をリリース。モバイル最適化の動きを強めている。
今回のインスタントメッセージ機能開発プロジェクトは、単なるメッセージ機能では終わらない壮大な構想の「入り口」なのだという。これら一連の動きを先導してきたのは、スマートデバイス戦略開発グループのプロデューサー伊藤友也氏。新卒入社4年目の27歳だ。
『SUUMO』全体の開発チームは、オフショアも含めると3桁に及ぶ大所帯。スタートアップのような小規模チームであれば若手が機能開発をリードするのも珍しくないことかもしれないが、この規模のチームで企画からリリース・運用までを若手の手に託す例は稀ではないだろうか。
伊藤氏にそれが可能だったのはなぜか。本人へのインタビューから、成長の源泉を探った。
伊藤氏とアプリ開発チームが実践する大規模リーン開発
伊藤氏は2012年にホールディングスの「新卒Web採用」で入社し、住まいカンパニーへと配属された。新卒Web採用は通常のフローとは異なるWeb職種に限定した採用で、同社のIT戦略の根幹を成す人材となることを宿命付けられている。
そうした中でも象徴的な歩みを踏んできたのが、伊藤氏の入社からの3年間だ。
入社2年目にITディレクターと呼ばれるスマホアプリやWebの開発を企画する職種に就くと、『SUUMO』アプリのOS基盤を作り替える大規模なリニューアルプロジェクトに、早くも中心メンバーの一人として関わることになった。
3年目の昨年途中からは現在まで続くインスタントメッセージ機能の開発に取り組んでおり、今では大規模な開発チームに対して事業目線での開発をディレクションする立場を任されるまでになっている。
直近で取り組んだインスタントメッセージの開発は、リクルートテクノロジーズのエンジニア約20人と、AppSociallyとの共同開発の形で進められた。
その際、開発のコアメンバー間で用いられたのは、「リーン開発」の手法だ。
「今作ろうとしているのは、僕らとしても今までやったことのない新しいものです。そう考えると、企画者と開発者が分かれたウォーターフォールではうまくいかないだろうし、スピード感を持ってトライアンドエラーを繰り返す必要があると思ったんです。
そのため、エンジニアも顧客の反応を知るために足しげく顧客の元へ通い、そこで得たフィードバックを開発に反映するリーン開発でなければなりませんでした。AppSociallyの高橋さん(CEOの高橋雄介氏)に今回共同開発をお願いしたのも、こうしたリーン開発の考え方に理解と知見のある方だったからです」
実際の開発に入る前には半年で数十件の店舗を回ってインタビューを行った。その後もプロトタイプを作っては反応を見て、フィードバックを開発に反映することを繰り返してきたという。
こうした開発手法であるから、プロデューサーである伊藤氏には企画のみならず、開発チームと密にやり取りすることが求められる。キャリアの浅さに反して、求められる能力は非常に高いものであるといっていいだろう。
意思を込めて数をこなした3年間が今を作った
伊藤氏が現在のように大規模な開発チームを指揮することができるのには、入社から3年間の経験が大きいという。
「入社2年目には、5人で年間400件の開発案件を担当し、コーディング以外の業務にはほぼ全て関わりました。今振り返ると、とにかく数をこなしたのが大きかったと思います。
なぜそれだけ多くの経験を積むことができたのかといえば、スマートデバイス領域は急成長しているため、会社からスピード感を求められたからです。と同時に、小さなチームで、担当者に大きな裁量が与えられるので、自分の意思と責任を持って働けたというのもポイントでした」
現場に権限を委譲するというのは、リクルートグループ全体に共通する文化でもあるという。こうした環境面も手伝って、伊藤氏は同世代と比較すると猛烈なスピードで、実践的な経験を積んでいった。
その過程においては、さまざまな失敗も経験したという伊藤氏。新人のころは、システムを理解しておらず、テスト環境と勘違いして本番環境に手を加えたことで顧客に迷惑をかけた。
またあるときは、完成したものに納得がいかずに「なぜこの要素がないのか」とエンジニアに尋ねたところ、「仕様書にそうは書いていないから」と一蹴され、コミュニケーションの重要性を身をもって体験した。
「本を読んで覚えたり他人から聞いたりした知識は、実践しないとあまり定着しないと思っています。だから仕事の中で実践してPDCAを回すことで、必要な知識を吸収できるし、もっとこういうことが知りたい、こうしたいという思いがあるから、応用できたり、知識以上の行動が起こせたりするんだと思います」
『SUUMO』アプリのリニューアルプロジェクトの際にはまだ開発知識がほとんどなかったため、エンジニアチームの前で企画の説明をしたものの、詳細を問いつめられて何も答えられず、失笑されたこともあった。
「このままでは役に立てないと思い、それからは『質問し、学ぶ』という当たり前のことを自然とやるようになりました。誰かに全部任せてしまえば、何となく形にはできると思います。でも、最終的にユーザーが使いやすいサービスを提供するためには、自分自身が細部まで分かっている必要があると思っています」
今ではひと通りのことは開発者とコミュニケーションが取れるレベルにまで、開発のことを理解していると自負する伊藤氏は、「企画者がエンジニアの席まで来て細かく意見するのはすごくありがたいとよく言われるんです」と話す。
目指すのは住まい探しに関わるプロセスをオンラインで最適化すること
こうしたチームを率いて伊藤氏が現在取り組んでいるのは、ユーザーと不動産会社のコミュニケーションを、より最適化し、かつ効率化することを実現しようというものだ。
インスタントメッセージ機能をきっかけに、『SUUMO』として新たなユーザーと不動産会社に接点が持てるようになったという。しかし、インスタントメッセージはこのプロジェクトの「入り口」であって、伊藤氏が実現しようとしている構想は「その先」にある。
「不動産業界でこれまでオフラインで行われてきた全てのことをオンラインに置き換え、最適化かつ効率化するというのが、構想の全容です。ここまでの取り組みで、『SUUMO』というポータルから不動産店舗へ来店いただくところまでをフォローできていました。今後はその先の、実際に家を購入し、住むところまで全てをフォローしたいと考えているんです。
家を購入して実際に住むまでのフローはこれまで、フェーズによって別のサービスに分かれていました。それら全てが『SUUMO』という一つのサービスの中でシームレスにつながっていた方が、ユーザーにとって使い勝手がいいのは自明です。インスタントメッセージはユーザーと接点を持てるという意味で、全ての構想の基盤と成り得るんです」
自分で意思決定するキャリアは、自ら選び取ったものだった
入社4年にしてどっぷりとIT業界に浸かっている印象のある伊藤氏だが、「テクノロジードリブンではなく、住まい業界が便利になるイノベーションを起こすことが目的」と言い切る。
「僕が突き動かされているのは、『世の中が便利になるイノベーションを起こす』という目的です。入社する前から、市場価値のある人間になりたい、一つの会社でしか働けないような人間にはなりたくないと思っていたんですね。
そのためには、若いうちから自分で意思決定する立場にいる必要がある。それができるのは、まだ事例がなく、現在も伸びている領域でしょう。ITに興味を持ったのはそうした考えからです」
こうした入社当初の動機を聞くと、伊藤氏は現在に至るまで、思い描いていた通りのキャリアを歩んでいるように見える。では、この先には一体何を見据えているのか?
「将来のことはあまり考えないようにしているんです。特にIT領域に関わっているとすごいスピードで変化があるので、今考えた未来はあまり意味がない。ただ、世の中に新しい価値を生み出せるような仕事をしていたいと思っています。まずは今やっていることをやり切りたい。日本の不動産業界にはWebによってまだまだ解決できる白地があるので!」
こうやって胸に秘めた野望もまた、伊藤氏の成長を根底で支えているのだろう。
取材/伊藤健吾 文/鈴木陸夫(ともに編集部) 撮影/桑原美樹
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