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【ちょまど×大平かづみ】女性の少ない“エンジニアの世界”を変えたい。女性限定技術コミュニティー『Code Polaris』の可能性

働き方

    ※本記事は姉妹媒体『Woman type』の転載です。

    いまだ男性比率の著しく多いと言われるIT・テクノロジーの世界。さまざまな場所で開催される勉強会やカンファレンスを見渡してみても、登壇者や参加者の多くが男性だ。

    そんな中、去年7月、新たなコミュニティーが誕生した。その名は『Code Polaris(コード ポラリス)』。女性エンジニア限定の技術コミュニティーだ。

    立ち上げメンバーは、エンジニア兼漫画家として有名な千代田まどかさん、フリーランスエンジニアの大平かづみさん、IT企業でCTOを務める松井菜穂子さんの3名の女性たち。あえて「女性限定」とした背景には、女性エンジニアを取り巻くさまざまな課題があったという。

    そこで、同コミュニティー立ち上げメンバーの二人、千代田さんと大平さんに、女性エンジニアが置かれている現状と、『Code Polaris』の活動に込める思いを詳しく聞いた。

    コードポラリス

    (写真左から)大平かづみさん、千代田まどかさん

    男女比の偏りが生む、女性エンジニアの孤独感

    ――エンジニアとして働く女性の数は、男性と比べるといまだに少数ですよね。女性エンジニアが置かれている現状や働く環境について、お二人はどのような課題を感じていますか。
    千代田さん

    私は女子高から女子大へ進んだので、ずっと男女比がほぼほぼ「0:10」の世界で暮らしてきました。

    ところが就職してIT業界に入ったら、同期のエンジニアは男性が約20人で、女性は私を含めて2人だけ。男性が圧倒的に多くて、私はいきなりマイノリティーになりました。

    千代田まどかさん
    千代田さん

    もちろん、その男性たちは優しくまじめで素敵な方々ばかりで、とても良い職場環境でした。なので男性がどうの、という話ではなくて、単純にその男女比(同性が圧倒的に少ないということ)から、私は孤独感を抱いていたんです。

    千代田さん

    女性が少ないと、そうですね、例を一つ挙げると、例えば生理でつらいとき、周囲に相談しづらい。

    生理がひどい人は、重い日は貧血やすさまじい眠気などでパフォーマンスが著しく落ちます。会社に生理休暇の制度があっても、上司も先輩も同僚もみんな男性だと、「生理でしんどいので休んでいいですか」とは言い出しにくいですよね。

    私は女子校時代は「やばい、ナプキン忘れちゃった」「私のあげるよ」なんて会話が普通だったのに、職場には相談する相手が全然いない。そう思ったら、すごく寂しくて。

    千代田さん

    男性にもそういうことの理解をしてくださる方々が多いのは承知しています。これは単純に私が勝手に異性に言いにくいと遠慮してしまっているだけの話なのです。

    でも同時に、私と同じ気持ちの女性は多いと思います。「同性なら相談しやすいんだけど……」みたいな。

    そう、「男女比の偏りが大きい」というそもそもの部分が、あらゆる課題の根本的な原因だと思います。少ないから女性への理解が十分には進まず、やりづらいところが出てきてしまうんですよね。

    千代田さん

    これは強調して言いたいのですが、この業界の男性エンジニアの方々は素晴らしい方たちばかりです。

    なので、男性の理解が云々というところが問題なのではなく、この偏った男女比が起因することが多い気がしています。

    繰り返して言いますが、男性たちは優しい方々ばかりです。その中で、ひとえに、単純に「女性が少ない」ということで、いづらさを感じさせてしまうことが少なくないということをお伝えしたいのです。

    大平かづみさん
    大平さん

    私も、今でこそ処世術が身に付きましたが、以前は職場で居心地の悪さを感じていました。

    新人時代はまだしも、30代になってからも、お客さまへのお茶汲みは私の仕事でした。後輩の男性エンジニアは誰もやらない。それは「こういう仕事は女性がやるものだ」というステレオタイプがあるからです。

    大平さん

    ただ、私自身、自宅ではまめに家事をするタイプじゃないのに、なぜ職場では「自分がお茶汲みしなきゃ」と思ってしまったのかと考えると、やはり自分もステレオタイプにとらわれていたんでしょうね。

    男性が圧倒的に多い職場環境だと、女性自身もステレオタイプからなかなか抜け出せず、「やっぱり女性は控えめであるべきなのかな」とか「男性を立てた方がいいのかな」などと考えてしまう。

    当時は自覚していませんでしたが、改めて振り返ると、あの頃は生きづらかったなと思います。

    ――男女比の偏りが、女性たちに与える影響は大きいですよね。
    千代田まどかさん
    千代田さん

    そうですね。あとは、女性エンジニアのロールモデルが少ないという問題も根深いと思います。

    私はIT系イベントに登壇する機会が多いのですが、何十人もいるスピーカーのうち、女性は私だけということもよくあります。

    すると、せっかく興味があってイベントに来てくれた女子学生たちが、「男の人しかいないんだ」「女性がエンジニアになるのは難しいのかな」と思って帰ることになることも少なくないと思うのです。

    千代田さん

    中高生の「なりたい職業ランキング」を見ると、ここ数年、男子は「ITエンジニア・プログラマー」が1位から4位の間に必ず入っています(※)。

    ところが女子は、中学生・高校生ともに圏外。この時点で、女性は将来の選択肢からエンジニアを外してしまっているんですね。これもやはりロールモデルが少ないことが大きな原因の一つだと思います。

    (※)ソニー生命による「中高生が思い描く将来についての意識調査2017、2019」より

    善意のアドバイスが個性を封じてしまうことも

    大平さん

    私は20代の頃、スカートを履いて仕事をしていたら、当時の上司から「周囲から舐められてちゃんと実力を見てもらえないから、女性っぽい服装はやめた方がいい」と指摘されたんです。

    別にスカートが短いわけでも、露出度が高いわけでもなく、むしろ控えめなくらいの服装だったのにそんなことを言われてしまって。

    大平さん

    ただ、上司は私が実力で勝負できるようにと、応援のつもりでアドバイスしてくれたことに違いはないんですよ。当時は私もそう理解して、パンツスタイルに変えて化粧もしなくなりました。

    でも、容姿や服装のことを言われるのは、大抵女性なように思います。

    ――女性らしさを封印するのが正しいことだと、思ってしまったわけですね。
    大平さん

    そのまま20代が終わり、30代後半になって思うのは、女の部分を捨てるなんてもったいないことをしたな、ということです。

    だって、女の子らしい服装をすることとエンジニアとしての実力は、まったく関係ないじゃないですか。おしゃれと技術は相反するものではないのだから、どちらもやればよかったんですよね。

    コードポラリス
    千代田さん

    マクロな視点での課題を付け加えると、第四次産業革命中の今は、IT関連の仕事の重要度が高まっているので、日本の生産性を上げるためには眠れる人材である女性の活躍が欠かせません。

    だから私は、より多くの女性がIT・テクノロジーの世界へ進出するのを応援したいんです。

    千代田さん

    エンジニアの仕事自体は、男女の体力差がハンデにならないし、在宅勤務もしやすい。間違いなく性別云々の関係無い仕事なんです。

    ただ、現状として男女比の大きな偏りがあるゆえに女性が居づらくなっているので、女性エンジニアを受け入れる土壌を整備したいと考えています。

    『Code Polaris』で女性たちに「安心」と「学び」を提供したい

    ――女性エンジニアのためのコミュニティー『Code Polaris』の立ち上げ背景には、やはり今挙がったような課題を解決したいという思いがあるのですか?
    千代田さん

    そうです。「何とかして女性エンジニアを増やしたい!」と考えた時、頭に浮かんだのが大平さんでした。

    彼女とは勉強会で知り合ったのですが、技術力も高いし、ある勉強会の本番で自分がつくったシステムがトラブルを起こしたときも、慌てず冷静に対処されていて。その姿を見て、スキルも度胸もある素晴らしいエンジニアだと感動したんです。

    千代田さん

    それで、誰かと一緒にやるなら大平さんしかいないと思って連絡したら、彼女がちょうど女性エンジニアのコミュニティーを構想中で。

    「北極星」を意味する「Polaris」を名前に持つ、女性エンジニアの方々の道しるべになるようなコミュニティ『Code Polaris』をつくりたい、と言ってて。え、それめっちゃいいじゃん、やろうやろう!って感じで。

    大平さん

    その1年ほど前から、私と(松井)菜穂子さんで「女性エンジニア向けコミュニティーを立ち上げたいね」と話していました。

    菜穂子さんは、よく仕事が一緒になるバリバリのエンジニアで、普段、技術的な話をしているのですが、この時、ちょうど女性エンジニアについての話をしていたのです。

    菜穂子さんも今日のインタビューに来られたら良かったのですが、彼女は最近会社を立ち上げたことなどもあって忙しく、バタバタしていて来られませんでした。もし来られていたら、きっと当時の『Code Polaris』の構想などを話してくれたと思います。

    大平さん

    で、話を戻して。2020 年夏ごろ、ふたりで「作りたいね」とは話しつつも忙しくてなかなか着手できずにいたところへ、ちょうど、千代田さんが声をかけてくれたんです。それで3人で意気投合して、「やるぞ!」と動き出しました。

    コードポラリス
    ――『Code Polaris』をどんな場にしたいと考えていますか?
    千代田さん

    3人で話し合って、このコミュニティーは二つの役割を持つ場にしようと決めました。一つは「居場所」。もう一つは、「技術を実践する場」です。

    大平さん

    女性エンジニアのほとんどが、一度ならず孤独を感じたことがあると思います。

    相談相手がいないから、困ったことがあっても一人で悶々と悩むしかない。目標に向かって進みたくても、性別の違いによるトラブルやステレオタイプが障壁になってしまう。

    大平さん作成スライド『Code Polaris meetup #2 (slideshare.net)』より

    大平さん作成スライド『Code Polaris meetup #2 (slideshare.net)』より

    大平さん

    さらには出産や子育てでキャリアが分断されることによる機会損失も大きい。こんな未来が待っていると思ったら、やる気も自信も失ってしまいます。

    だからまずは女性エンジニアに居場所を提供し、「安心」の土台をつくることが必要なのです。

    大平さん

    とはいえ、ただ女性同士で馴れ合っていても今の環境は何も変わらない。技術力を高めてスキルアップし、性別に関係なく認められるくらいの実力を付けて、エンジニアとして勝負できるようになってほしい。

    そこで「安心」の土台の上に「学び」を積み上げていける場にしようと考えました。

    大平さん作成スライド『Code Polaris meetup #2 (slideshare.net)』より

    大平さん作成スライド『Code Polaris meetup #2 (slideshare.net)』より

    ――現在はどのような活動をしているのですか?
    千代田さん

    主な活動は、「勉強会」「SlackやDiscordでのコミュニケーション」「アプリケーション開発の実践」です。

    昨年7月、『Code Polaris』の立ち上げと同時に開催した第1回目のオンライン勉強会には、約30名の女性エンジニアが参加してくれました。8月初めには第2回目の勉強会を開催し、12月の時点でコミュニティー参加者は180人まで増えています。

    千代田さん

    『Code Polaris』は、技術を学びたい女性であれば年齢や立場を問わず参加できるので、現役エンジニアだけでなく、これからエンジニアを目指す学生や社会人も多いですね。

    第一回目の Code Polaris オンライン勉強会の様子

    第一回目の Code Polaris オンライン勉強会の様子

    千代田さん

    今のところイベントは勉強会だけですが、参加者はSlackで日常的に交流しています。「勉強」「質問・相談」「雑談」「イベント情報」などいくつかのチャンネルがあって、オススメの技術書を紹介しあったり、分からないことを質問したり。

    大平さん

    雑談チャンネルでは、いろんな話をフランクに話もしてますね。「この月経カップよかったよ」といった生理の話もできるし。

    ――女性同士だからこそ、そういう悩みも遠慮なく相談できるんですね。
    千代田さん

    こうしたやりとりを見ると、“居場所”としてちゃんと機能しているんだなって思えてうれしいですね。参加者からも「女性が集まる場が少ないので助かります」という声が多く届いています。

    大平さん

    男女問わず参加できる技術コミュニティーはたくさんありますが、『Code Polaris』が目指すのは、女性が安心して学べるコミュニティー。現時点で、少なくとも「安心」の土台は出来てきたかと思います。

    「学び」については、これから新しくプロジェクトを立ち上げて、皆で実際にアプリを開発しながらお互いに助け合い、教え合いながら学んでいく場を作る予定です。

    千代田さん

    ただ、私たちの究極の目標は、『Code Polaris』が必要のない世の中をつくることです。性別の垣根が完全になくなれば、女性限定のコミュニティーはいらないはずですから。

    すぐにそれを実現するのは難しいので、それまでは『Code Polaris』が女性エンジニアのための居場所であり、実践の場であり続けたいと思っています。

    男社会に“地味に潜む”より、自分らしさを発揮していい

    ――身近に同性が少なくて孤独を抱いている女性エンジニアには、どんな言葉をかけたいですか?
    千代田さん

    一番伝えたいのは「あなたは一人じゃない」ということ。身近にいなくても、世の中には女性エンジニアがたくさんいます。

    悩みがあれば『Code Polaris』に参加して仲間たちに相談してほしいし、私たちも力になりたいです。

    大平さん

    あとは「自信を持って」とも伝えたいですね。

    経験が浅いうちは不安になることが多いかもしれませんが、努力は絶対に無駄にはならないし、もし自分に足りないものがあるならこれから勉強すればいい。

    技術力さえあれば、どんな格好でも、どんな生き方でも、誰にも文句は言われないはずです。

    大平さん

    私も最初は技術ブログを書くなど小さなアウトプットからのスタートでした。そして、イベントでの登壇を通じて発信を続けてるうちに実力につながり、「女だから」という呪縛から抜け出すことができました。

    女性エンジニアの皆さんや、これからエンジニアになりたい女性の皆さんには、ぜひ自分の人生を楽しんでもらいたいです。

    千代田さん

    大平さんが先ほど話したように、一部のエンジニア界隈では「技術者として振る舞う際は (いわゆる) “女らしさ” を控えなければ」という暗黙のドレスコードのようなものが今もなおある気がします。

    もちろん、皆がそうじゃないです。そうじゃない、ダイバーシティを尊重した、優しい方々の方が多いです。

    でも、そう、ごく一部で、やはりそういう風潮がある。技術者として発言するなら化粧は控えめに、とか、勉強会にスカート履いてくるのはどうだとか、あとは例えば技術記事を書いたのになぜか記事につくコメントが容姿への言及が多かったりとか。

    千代田さん

    だから私は、自分がイベントなどで登壇するときは、そのイベントにドレスコードなどが無い限り、自分が好きな格好やメイクをします。それは、私を見た後輩の女性たちに、「好きな服で自分らしく堂々と活躍している女性エンジニアがいる」と知ってほしいから。

    自分の好きなスタイルで、楽しそうに、IT 業界で生き生きと活躍している姿を後輩の子たちに見てもらって「憧れ」を産み出せたらうれしいです。

    千代田さん

    私がそういうロールモデルの一つになることで、女性がエンジニアとしてで自分らしく生きる手助けができたらうれしい。「みんな、自分らしく好きなようにやっていいんだよ」ということを、ぜひ伝えていきたいですね。

    千代田まどかさん

    千代田さん提供。カンファレンス『DevRelCon Tokyo 2019』での登壇写真

    >>『Code Polaris』に参加したい・詳しく知りたい方はこちら


    <プロフィール>
    Code Polaris 代表 大平かづみさん

    フリーランスエンジニア。SIerに組込エンジニアとして新卒入社したのち、その後はウェブ、クラウドの世界へ。数度の転職を経て、2019年に独立。マイクロソフト社が優れた技術者を表彰する「Microsoft MVP for Microsoft Azure」の受賞実績を持つ
    Twitter:@dz_

    千代田まどか(ちょまど)さん
    エンジニア兼漫画家。大手外資系IT企業のインターナショナルチームでCloud Developer Advocateとして勤務。漫画家としての活動は『マンガでわかる外国人との働き方』(共著)や内閣サイバーセキュリティセンター『みんなで叶えるためのサイバーセキュリティパンフレット』の漫画部分など。ツイッターではインフルエンサーとしても活躍し、フォロワーは8万人を超える
    Twitter:@chomado
    ブログ:千代田まどか (ちょまど) のブログ『ちょまど帳』

    取材・文/塚田有香

    4月14日(水)12:00~『Code Polaris』イベント登壇決定!

    職場に同性のロールモデルがおらず、将来に不安を抱える人は多いのでは?そこで女性エンジニアコミュニティー『Code Polaris』の3人が、女性ならではのキャリアの悩みに答えていきます。

    >>『Code Polaris』イベントの詳細・参加登録はこちら

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