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「ブランクが怖かった」ヤフーのエンジニアが乗り越えた産休・育休“復帰後の不安”【牧野恵さん】

働き方

    ※本記事は姉妹媒体『Woman type』の転載です。

    現在、3歳の男の子を育てながらヤフー株式会社でエンジニアとして働く牧野恵さん(37)。

    所属先のテクノロジーサイエンス部門で初の産休・育休取得者になった彼女は、「ブランクができることがすごく心配だった」と妊娠中の心境を明かす。

    これまでのように仕事に打ち込めなくなるのではないか、1年も休めば新しい技術についていけなくなるのではないか……さまざまな不安が頭をよぎった。

    しかし、そんな牧野さんを救ったのは、あるシンプルな“心掛け”だという。子育てをしながらエンジニアライフを楽しむ秘訣とは?

    プロフィール画像

    牧野恵さん

    大学で自然言語処理の研究室を経て、2008年、ヤフーに新卒入社。自然言語処理を専門とするエンジニアとして活動。データインフラ・データ活用の企画職も経験し、再び自然言語処理のエンジニアに。17年に産休・育休を取得し、復職。言語処理、情報抽出などの技術開発とサービス導入などを行う

    根っからの「機械好き」。好きを貫きエンジニアの道へ

    ――日本には女性エンジニアがまだ少ないですよね。ロールモデルが少なく悩んだことはありましたか?

    あまり気にしたことはないですね。大学で進んだ工学部の男女比も9:1でしたし、女性が少ない環境には慣れているのかもしれません。

    大学に進学して研究室を選ぶ時、ある教授から「この研究テーマで将来食べていけるかを視野に選びなさい」とアドバイスをもらい、それを意識して研究室を決めました。その道に女性がいるかどうかは特に考慮しませんでした。

    ――エンジニアの仕事に興味を持ったきっかけは?

    小さい頃から機械とか、配線をいじるのが大好きだったんですよ。

    新しい電化製品を買った時なんて、すごくウキウキして、コードをつないで初期設定をして……っていうのを率先してやっていました。

    なので、幼い頃から好きだったことを学んで、ずっと続けてきたら今の仕事につながった、という感じです。

    ――幼少期から好きだったことを、ここまで貫いてこられたのはすごいですね。

    そうかもしれませんね。

    私には姉が二人いるんですけど、二人は文系で、私だけ理系なんです。さっき家電の設置や配線が好きだったとお話ししましたが、そういうタイプも家庭内で私だけだったので、すごく重宝されて褒めてもらえて。

    技術的なことが得意なのは、自分の長所だ」と自然と理解して、自己肯定感が育まれたような気がします。なので、進路でも就職でも大好きな理系に進むのが一番だと信じられました。

    ――大学での研究も現在のお仕事も、自然言語処理を専門にしているそうですね。

    はい。自然言語処理は、平たく言うと、人間が日常書いたり話したりしている曖昧さを含む言葉をコンピューターに正しく処理させるための技術です。

    例えば、ヤフーでは検索ワードの意図分析やニュース記事からの情報抽出(タグ付け)、リアルタイム検索などテキストの評判分析など、さまざまなサービスに応用されていて、私はその技術開発と、Yahoo! JAPANの各サービスへの導入支援などを行っています。

    ユーザーに喜んでもらえるものをつくっていきたい

    ――ヤフーに入社してからは、どのような業務を担当されてきましたか?

    入社時からずっと、自然言語処理の技術開発には携わっています。

    現在所属しているテクノロジーサイエンス部門のミッションは、サービスの課題をサイエンスの力で解決することです。

    テクノロジーサイエンス部門の分かりやすい仕事としては、自然言語処理の技術で検索の精度をさらに上げることで、ヤフーショッピングの購買率を上げるという取り組みがあります。

    皆さんは、検索窓にキーワードを入れて何か探したときに「しっくりくる検索結果」ではなかったがために何かを買うのをやめてしまったり、そのサイトを閉じてしまったりしたことってありませんか?

    そういう機会損失をできる限り生まないようにするのが部門の仕事の一つです。

    また私自身の仕事としては、ニュース記事などに含まれる多種多様な情報を活用するために、人名や組織名、場所などの固有名詞等を自動で取り出すシステムを開発しています。

    これによって膨大なニュースから、ユーザの興味のある場所や人物に厳選してニュースを届けることができるようになります。

    検索した人が意図しているものをコンピューターが正しく理解して最適な表示ができるように日々、改善を続けているところです。

    ――改善の結果は数字で明らかに出てくるものですか?

    そうですね。クリック率、サイトの滞在時間、購入率など、さまざまな指標に目に見える結果で表れるので、そこが面白いです。

    またニュース記事からの自動抽出でも、抽出したものが合っているのか? 取りこぼしは少ないか? など指標を見つつ開発を続けています。

    自然言語処理は、大学時代からずっと興味を持って続けてきた分野なので、これからもその道のプロとして自分のスキルを磨いていきたいです。

    ――仕事でやりがいを感じる時は?

    自分が作ったものを、ユーザーさんに使っていただけたときですね。直接的、間接的、どちらでもいいのですが、人に役立つ技術、システムを作りたいので。

    過去、育休から戻ってきた頃に、私が研究開発の一つとして作っていたシステムが、実際のサービスに導入されたことがありました。それをたくさんのユーザーさんに使っていただけるようになった時は、何とも言えない達成感がありました。

    勉強時間をどう確保する? 出産後のキャリア不安

    ――現在、3歳のお子さんがいらっしゃるとのこと。出産後のキャリアに不安を感じることはありましたか?
    牧野恵さん

    休日に子どもとお出掛け

    ええ、不安は大きかったですね。エンジニアの仕事をこのまま続けていけるだろうか……と悩んだこともありました。

    というのも、妊娠するまでの私はバリバリの仕事人間で(笑)。20代の時は、夜遅くまで働くことも多かったし、土日も仕事のことばかり考えていました。

    ただそれは、仕事が楽しかったからで、夢中だったんですよ。だからこそ、子どもが生まれて否応なしに働き方を見直さざるをえない状況に不安を感じたんだと思います。

    また、産休育休によって職場から1~2年離れた場合、最新の技術トレンドについていけなくなるのでは、という懸念もありました。

    ――自然言語処理の世界は、トレンドの移り変わりが特にはやいのでしょうか?

    そうなんです。一年前の常識は今年の非常識、というくらい、技術がガラッと変わってしまうこともあります。

    なので、日々の情報収集や勉強は欠かせません。さらに、最新の情報を得るには英語で書かれた論文にもアクセスしないといけないので、語学力も磨かなければいけない。

    もしも子どもができたら、勉強時間がとれなくなるのではないか、勉強ができなければ最新技術が分からなくなり周りの人に置いて行かれてしまうのではないか……それならいっそ、エンジニアを辞めた方がいいのではないか……そこまで悩みました。

    今思えばそこまで心配する必要はないのに、という感じですが、当時はそれくらい不安でした。

    ――実際、復職した時はいかがでしたか?

    何をどう頑張ればいいのか、正直なところ、よく分からない状態だったと思います。

    所属のチーム内では、私が産休育休取得の第一号でしたし、身近なところに育児と仕事を両立している人もおらず、何でも手探り状態でしたから。

    さらに、予想していた通り、仕事に割ける時間も勉強にあてる時間も減りましたし、現場で見聞きする技術も「初めてのものばかり」でした。以前のように仕事ができない自分に焦りを感じましたね。

    ――復帰して約3年経った今、それらの不安や焦りは解消されましたか?

    ええ、だいぶ変わりました。

    あれもこれもやろうとせず、目の前の仕事に集中しようと決めて、今の自分にできることを着実にやっていこうと腹を決めました。いつも「やるしかない、なるようになる」って自分に言い聞かせています(笑)

    ――ご自身が懸念していた、勉強時間の確保はどのようにしているのでしょう?

    復職した頃は、通勤時間を使って勉強していましたね。今はリモートワーク中なので、通勤に充てていた時間を学習時間に。

    とはいえ、それだけだと足りないので、最新技術を使える業務環境をつくれるよう、自分から上司に働き掛けることも多いです。

    ――仕事の中に学びの要素を取り入れる、と。

    はい。仕事で「やらないといけない環境」をつくってしまい、業務の中でインプットとアウトプットを繰り返していきます。

    「こんな技術を使ってみたい」「仕事の中でこんなことを学んでみたい」、そういう気持ちは積極的に発信すべきだな、と感じていますね。

    ゆっくりでもいい。やると決めたことは、最後までやり切る

    ――エンジニアの仕事を長く続けていくために、大切にしていることはありますか?

    先ほどの勉強の話にもつながるのですが、自分の気持ちや考えをちゃんと声に出して周囲の人に伝えることですね。

    何だかモヤモヤするなぁという段階でも、上司には「いまちょっと悩んでます」というふうに伝えるようにして、不安や悩みが膨らみ過ぎる前に解決するようにしています。

    あとは、周囲の期待と自分のできること・やりたいことをすり合わせることですね。組織の中で働き続ける上では、このプロセスは欠かせないと思います。

    ――周囲とのすり合わせは、復職後から意識するようになったのでしょうか?

    そうですね、もともと意識はしていましたが、以前に増して行動にうつすようになったと思います。

    復職した直後でキャリアに悩んでいた頃、上司に「今までのようにできない」不安を伝えたら、「ブランクがあってもいいし、今までよりゆっくりでいいから、やると決めたことを最後までやり切りましょう」と言ってもらえて。

    最新の技術を網羅していることやスピード感を持って仕事をすること、そこが「最優先」ではないよなぁ、って気付くことができました。

    周囲の期待にちゃんと耳を傾けて、自分が今できることをすり合わせたら、「あれもこれもやらなきゃ」って闇雲に焦る必要がなくなったんですよ。

    それ以来、「ゆっくりでもいい。でも、やると決めたことは最後までやり切る」。これが私のモットーですね。

    ――組織の中で価値を発揮する方法は、ライフステージによって違ってもいいわけですよね。

    その通りですね。

    復職後はただでさえ自信をなくしやすいので、「できなかった」経験より、「できた」経験を増やしていくのがおすすめです。なので、あれもこれもと自分でハードルを高め過ぎないことが大事。

    こういう経験や学びを、今後は後輩エンジニアに私が伝えていきたいです。エンジニアの仕事はすごく楽しいし、やりがいも大きい。だからこそ、「こうしなきゃ」という思い込みでキャリアを諦めてほしくないので。

    私がのびのびと働いている姿を見せていくことで、後輩の女性エンジニアを勇気づけられたらいいなと思います。

    取材・文/児玉 真悠子 編集/栗原千明(編集部)写真/ご本人提供

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