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【LayerX CEO福島良典】2度の起業から見えた「スタートアップが勝つための鉄則」

働き方

転職、副業、フリーで独立……キャリアの選択肢は広がっているけれど、起業という選択肢にハードルの高さはまだ残る。では、DX全盛時代に起業のカタチはどう変わる? エンジニアが会社を興すことで得られるものは? エンジニア社長への取材を通して“起業研究”してみよう。

2012年にニュース配信アプリのスタートアップGunosy、18年にブロックチェーン技術による経済活動のデジタル化を目指すLayerXを立ち上げた福島良典さん。

起業家やエンジェル投資家として有名な福島さんは、「2度目の起業」にどんな思いを込めていたのだろうか。エンジニアとしての彼は、「会社を興す」ことをどんなことだと捉えているのか。

彼にとっての「起業」の意味や、2度の起業を経て分かった「勝てるスタートアップの鉄則」を聞いた。

株式会社LayerX 代表取締役 CEO 福島 良典さん

株式会社LayerX
代表取締役CEO 福島 良典さん(@fukkyy

東京大学大学院工学系研究科卒。大学時代の専攻はコンピューターサイエンス、機械学習。 2012年大学院在学中に株式会社Gunosyを創業、代表取締役に就任し、創業よりおよそ2年半で東証マザーズに上場。後に東証一部に市場変更。 18年にLayerXの代表取締役CEOに就任。12年度IPA未踏スーパークリエータ認定。16年Forbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出。17年言語処理学会で論文賞受賞(共著)。19年6月、日本ブロックチェーン協会(JBA)理事に就任

起業の醍醐味は「人生を懸けた熱量とスピードで起こす奇跡」

――福島さんはGunosy、LayerXと2回起業をされていますよね。ただ、会社を興すには大変な苦労があるように思えますが、なぜ2度目の起業をしようと思われたのでしょう。

大前提、やりたくてやっているところが大きいですね。

もちろん苦労もありますし、仰る通り「経営者は大変だろう」と言われることもありますが、企業に勤めるビジネスパーソンの方だってフリーランスの方だってそれぞれに苦労があるじゃないですか。

だから僕は、会社を立ち上げることや起業家の仕事が特別大変だとは思っていないし、ただ純粋に事業を立ち上げる瞬間が楽しくてワクワクするんです。

――具体的にどんな点が?

多くの人から「価値がない」と言われるようなアイデアの種をプロダクトに変えて、世の中の人に使われるって、ものすごい奇跡だと思うんですよ。

だって、論理的に考えたらあり得ないじゃないですか。

世の中にこれだけたくさんの企業があって、その中で働いている人たちもものすごく真剣に仕事をしているわけですよ。

そうした今ある企業に比べれば、ゼロから生まれる会社なんて人もお金もないのに、既存の企業と競争をして、なぜかリソースの少ないスタートアップの方が良いプロダクトを生み出すことがある。その理由はきっと、ここには人が人生を懸けた時にだけ出る「謎の熱量」と「スピード感」があるから。

僕はそうした奇跡が起こる瞬間を見るのがすごく好きだし、自分がその奇跡を起こす側でいたいんですよね。

株式会社LayerX 代表取締役 CEO 福島 良典さん
――なるほど。でも例えば「Gunosyの新規事業としてやる」という選択肢もあったのでは?

それでいうと、会社って一つの製品のような感じなんですよ。「何でもやれる会社」というのは存在しない。

ざっくり言えばtoBかtoCか、メディアをやるのか広告をやるのか、それともSaaSのような事業をやるのか。それによってプロダクトレベルの違いだけじゃなくて、集めるべき人、人事制度、組織のつくり方も全てが変わるんです。

つまりGunosyとLayerXではやっている事業の性質が全く違うので別会社としてやって、かつスピードや意思決定の自由度を上げるためにMBOをしたわけです。

確かに、Gunosyの延長線上でLayerXをやるという選択肢もありましたが、「非連続的な成長」をするためには、違う組織を新しくつくって戦った方がいいと思ったんですよね。

起業の鉄則は「顧客に向き合え」「踏むタイミングを誤るな」

――1度目の起業経験がある分、LayerXの立ち上げはスムーズでしたか?

そんなことはなかったです。先ほどの話と重なりますが、ユーザーが違えば持っている課題やアプローチの方法が全く違うので、過去の経験がそのまま生かせないことが多くて。Gunosyの時とはマーケティングの仕方も、広告の売り方も営業方法も全然違う。プロダクト開発の考え方も、アップデートすることが必要でした。

うまくいっている経営者って、つい“全能感”を持ってしまいがちなんですよね。「俺はこんな事業もできるし、投資もできるし買収もできる、何だってできるんだ」というふうに。

でも、ユーザーやビジネスのセグメントを本当にちょっと変えるだけでも全然分からないことだらけになる。そういう分からない部分に関しては考え方を切り分けて、初心者くらいの気持ちでやるように意識しました。分からない領域を新しく発見しにいく、みたいな感覚が一番楽しい部分でもありましたしね。

株式会社LayerX 代表取締役 CEO 福島 良典さん
――1度目の起業の経験が特に役立ったのは、どんなシーンでしたか?

立ち上げ期の鉄則みたいなところが分かっていたのは強かったと思います。例えばスタートアップは、ユーザーや社会の課題を見つけて、それにマッチするプロダクトを「“最速”で“作り込む”べきだ」とか。

どれだけ資金を集めてどれだけ人を採用したとしても、プロダクトがなければただ間違ったものが世の中に広がっていくだけなので、事業としてうまくいきにくいんですよね。Gunosyの時にも、「作り込む」シーンでは本当に細かいユーザーヒアリングをしていましたし、やっていることは違っても、そういったプロセス論は意識していました。

あとは、アクセルを踏むタイミング。会社を立ち上げるということは、あらゆる会社と競争をするということです。だから、ユーザーの求めることや、稼ぎ方、プロダクトの広め方、成長性が全部明らかになったタイミングでアクセルを踏むのでは遅いんです。その時点でもう、競争に負けているんですよね。

スタートアップがアクセルを踏むべきなのは、もっと不完全な段階です。他のサービスで改善できないユーザーの課題があって、考えたロジックが確かかすら分からない段階でプロトタイプを作り、それをユーザーに使ってもらう。それで「このタスクが楽になった」「こういう課題が解決できた」となった、その瞬間に踏むべきです。このタイミングがすごく大事。

――なるほど。つまり資金調達も、プロダクトやビジネスモデルが完成された段階でするわけではないということですよね。

そうですね。実際多くのスタートアップは、利益をベースにお金を集めているわけじゃありません。むしろ赤字で売り上げも規模も小さくて、「これから成長するか失敗するか分からない不確かなものと、今分かっていることを組み合わせると、これぐらいの確度で成長していく可能性がある」というくらいの不確実性の中で調達しています。

今はIT業界もかなり成熟してきているので、シード段階でもポテンシャルが高そうであれば数千万円出す、というベンチャーキャピタル(以下、VC)が増えていると思います。最初はそれでいいんですよ。でも、2回目以降は競争をしなければいけません。

――競争?

投資家は先のまだ見えないシードにモチベーションレベルで張っている。つまり、次の資金調達のラウンドは、同じように張られた人たちの間で競うことになるわけです。そこで何かしらのスタートアップ的進歩を見せなければならない。

例えば「こういう課題を見つけていて、すでにユーザーの課題をこう解決できていて、ここを掘っていきたいと考えている」という会社と、「3カ月やっているけどまだ分かってないんです」という会社だと、リソースの集まり方が全く変わるのは分かりますよね。そしてその差は次のラウンド、また次のラウンドでどんどん広がっていきます。

起業の動機自体は「グローバルで使われるtoCサービスを作りたい」とか、究極「お金を儲けたい」といったカジュアルなものでもいいと思いますが、実際に立ち上げてから3カ月~半年くらいの期間でやることを絞れていっていない会社はかなり危ないと思いますね。

株式会社LayerX 代表取締役 CEO 福島 良典さん
――大きく言えば、シード段階ではサービスや業界に限らず、シード全てが競合になるということですね。ちなみに、LayerXは今IT企業の中でもかなり注目が集まっていると思いますが、何が急成長の重要なファクターになっていると思いますか?

実際のところ、今LayerXが急成長をしているかといえば、まだこれからというフェーズです。その前提で話をすると、LayerXの場合はかなり特殊なお金の集め方、人の集め方をしているんですよね。

言ってしまえば僕らには過去のトラックレコードがあり、そこを信用していただいて大きなリソース(資金、 人)を集められています。一方で、過去はどこまでいっても過去なので、僕らは集まったリソースでどれだけ良いプロダクト・未来をつくれるかのみを考えています。なのでだいぶ特殊な状況の会社かなとは思います。

――では、仮に今回が1度目の起業だったら、どういう勝ち筋を見つけますか?

もし僕が1度も起業したことのないゼロの状態だったら、顧客もセグメントも極限まで絞りきって、ゲリラ戦を挑むと思いますね。

大企業や、僕のような起業経験者には「成功体験」があります。成功した経験があると、「こうやりたい」「うまくやりたい」みたいな考え方が無意識に出てしまう。これって、超泥臭いスタートアップからすると隙にもなり得るんですよ。そしてスタートアップは、その隙を突いて大企業に勝っていく。

例えば極論ですが、前者は「この規模感の会社をつくりたいからこういう事業をやろう」という考え方をするんです。でもスタートアップの世界では、その考え方自体が間違っている。どんなマーケットを選ぼうが、会社がどんなサイズになるかは分からない。Facebookが世界最大のSNSになるなんて誰も分からなかったはずでしょう? その分からない前提で、リスクを取ってアクセルを踏み込む若者がいるからこそ、常に経験のある人たちが破れてきたわけです。

だから僕自身も、Gunosyの成功体験を捨てる、ある種のアンラーニングのようなことを自分の中でやっています。その上であえて成長の秘訣を考えると、シンプルに「顧客と向き合うこと」、そして「自分のやっていることに、雑音を抜いて向き合うこと」でしょうか。

よく、ベンチャーを語る際「KPIがどうだ」「LTV/CPAが何倍だと良い」なんて発信がなされてるじゃないですか。でも、シード・立ち上げのフェーズではああいうのは全部意味がない。あれって要は投資家を説得するためのツールなんですよね。

もちろん資金調達をしたり、幹部候補の社員を採用したりするための説得材料としては重要なんですが、ユーザーにはそんな話関係ないんです。「このサービスはLTVが高いんです」って言っても、「へぇ、だから何?」って話じゃないですか。

だからこそユーザーだけにとことん向き合っている会社の方が、僕は断然怖いです。そして、LayerXはそういう会社にしたいですね。

株式会社LayerX 代表取締役 CEO 福島 良典さん
――起業、経営というと、ついそういった数字に意識が向いてしまいがちですが、それはリスクにもなり得るんですね。

もちろんLTVやCPAがどれくらいの数値になればいいのか、とかも投資判断として知ることは必要なんですが、究極それも危ういと思っていて。起業家としてする投資判断と、投資家的な投資判断って全然違うんです。後者はちょっと遅いんですよ。むしろ遅めの方が、確実に高い利益を出せる。

でも起業家は、誰よりも早く決めなければいけない人たちです。

よく、プロダクトを出したばっかりなのに、いきなりこんなに人増やすの? こんなマーケティングに突っ込むの? みたいなスタートアップがあるじゃないですか。ああいうのも、それが成功するかどうかじゃなくて、その先を描いた時の一番早いタイミングで決めていないと遅過ぎるんですよ。

これらを踏まえて、もしLayerXがこれから急成長していくとするならば、その理由は「ユーザーと死ぬほど向き合っていること」と、経験豊富な経営陣を集めているから当然いろいろな成功体験なり経験値を持っているけれど、あえてそれらのセオリーを「雑に無視して意思決定している」ってこと。

今出ている数字なんて、マジで1ミリも意味がない。アクセル踏んだら数値も変わるし、顧客層も変わる。前提が全然変わってしまう。そもそもそんなのが明らかになっているなら、他の会社がやってるでしょ、みたいな。むしろこれからその新しい数字をつくりにいくんだ、くらいの感覚です。

それよりも大事なのは、今いる一部の熱狂的なユーザー、自分たちのサービスに何かしらの形で時間なりお金なりを払ってくれる人たちを正しく理解し、どれだけ同じようなロジックで集められるか。そして、スケールするプロダクトを持っているか。そして爆速で変わっていく前提に対してプロダクトや組織を追いつかせるべく改善できるか。それがないと何をやっても駄目なので、ここに集中するべきなんだと思うんですよ。

多面的な評価を浴びることで、プロダクトが磨かれる

――2度目の起業は、ご自身のキャリアにはどんな良いことをもたらしたと思いますか?

ある意味自分が経営を「分かっていたつもり」になっていたことが再認識できましたね。それがすごくいい経験になっています。あとは、5年前に自分が勝ちパターンだと思っていたものが、今ではすごく陳腐なものになっているケースがよくあるなと。

最近で言えばClubhouseの登場なんかもいい例で、採用の仕方もお金の集め方もマーケティングも、全てが時の流れで変わっている。常に新しい勝ちパターンを探して学習していかないといけないな、と再確認できました。

――福島さんは「会社をつくること」はどういうことだと思いますか?

最初に言った通り、やっぱり「奇跡を起こすこと」だと思います。「奇跡」というのは、その会社がなければ生まれていなかったもの、世の中が加速しなかったもの。そういうものをイメージしています。

例えば、法律ポータルサイトを運営している弁護士ドットコムさんの『CLOUDSIGN(クラウドサイン)』とか。弁コムさんがいなければ、未だに契約書は紙のままだったかもしれないし。本当に習慣を変えてしまった。習慣を変えるプロダクトって本当に少ないので、めちゃくちゃすごいですよ。

僕、弁コムさんが今一番すごいSaaS企業だと思ってるんですよね。『CLOUDSIGN』がリリースされたのは2015年だったんですが、その当時、弁コムさんって既に上場してたんです。でも当時新サービスをローンチしたっていうので、スタートアップがたくさん出るピッチイベントに出まくっていたんですよ。多分、「上場しているとか関係ない、俺たちは挑戦者だ」っていう姿勢で。これぞスタートアップだなって思いますね。

株式会社LayerX 代表取締役 CEO 福島 良典さん

アグレッシブな姿勢がめちゃくちゃかっこいい。既に一つの事業で成功しているのに、ゼロリセットして、貪欲にいろんな人から評価を受けようとしているんですから。やっぱり多面的な評価を受けることだけが、自分たちのやり方をアンラーニングできる唯一の方法だと思うんです。僕らも今後はガンガンそういう場に出ていこうと思っています。

――最後に、福島さんから見てエンジニアが起業するとどんなメリットがあると思いますか?

ユーザーの前に立つ経験を積めることですね。仕事の性質上、顧客の前面に立つエンジニアは多くはありません。でも起業すると、必然的に自分が一番顧客のフィードバックを受けることになります。

ユーザーのフィードバックって、基本的にどんなことでも正しいんですよ。極論、「担当営業がムカつくから使いたくありません」とか「このボタンの色が気に食わないから使いません」とか、そういう意見すらもそのユーザーからしたら事実で、全部意味のあるフィードバックなので。そういう賛否両論を浴びて、けちょんけちょんにされることでプロダクトは磨かれていきます。

考えてみてください。あのメルカリですらMAU1,800万ですよ。まだ日本の8割強の人には使われていないんです。ということは、これからプロダクトを作るエンジニアは、どう考えたって99%の人に「No」と言われる。だけどこれがすごく良い経験になるし、逆に1%の喜んでくれるユーザーを見つけられたら、顧客もセグメントも絞り込めるので、勝機はあるはずです。

最初に言ったように、起業家だから偉いとか、特別つらいということは一切ありません。会社員として働いていたって、同じくらいのしんどさはあると思います。それに、仮に失敗しても命を取られるようなことはないですからね。軽い気持ちで踏み出してみるのもアリだと思いますよ。

取材・文/石川香苗子 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ

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