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「日本はソフトウエアと全く向き合えてない」投資視点でキャリアを描く、LayerX新CTO・松本勇気の決断と覚悟

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エンジニアのキャリアって何だ?

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20代でGunosy、DMMのCTOを歴任してきた松本勇気さんが2021年3月、LayerXの代表取締役CTOに就任することが発表された。

Gunosy時代には、LayerXの前身となるブロックチェーン研究開発チームを立ち上げており、3年ぶりの古巣復帰となる。「すべての経済活動を、デジタル化する」というミッションの下、不動産を中心とする実物資産のアセットマネジメント事業を手掛ける「MDM事業部」、研究開発組織「LayerX Labs」を管轄していくという。

少子高齢化が進む日本では、社会のあらゆる領域でデジタル化を強力に推進し、生産性を向上させることが不可欠なのは、異論を待たないところだろう。

だが、松本さんは過去のインタビューで、3年前にDMMのCTOへと転身した理由の一つには「3000人規模の組織変革の経験が、日本社会全体のデジタル化に貢献するには不可欠と考えた」ことがあったと答えている。

ある種、会社という枠組みを超えて、一貫した未来を見据えてきた松本さんは、キャリア選択の際に何を重視してきたのか。改めて言語化してもらった。

LayerX松本さん

株式会社LayerX
代表取締役CTO 松本勇気さん(@y_matsuwitter

東京大学在学中にプログラミング経験ゼロで学生起業しCTOに。2013年株式会社Gunosyに入社しCTOとして技術組織全体を統括、LayerXの前身となるブロックチェーン研究開発チームを立ち上げる。18年、合同会社DMM.com CTOに就任し技術組織改革を推進。大規模Webサービスの構築をはじめ、機械学習、ブロックチェーン、マネジメント、人事、経営管理、事業改善、行政支援等広く歴任。19年、日本CTO協会理事に就任。2021年3月よりLayerX代表取締役CTOに就任し、MDM事業部とLayerX Labsを管轄

キャリアは「投資」。来たるべき未来に向け、自分の時間をどうベットするか

――GunosyからDMM。そして今回再びLayerXへ。松本さんご自身はこれまで何を重視してキャリアを選択してきましたか?

一つは、自分の思った通りに動ける場所かどうか。僕のキャリアは学生時代に友人と起業したところから始まっています。エンジニアリングを始めたのもそのタイミングで、CTOという立場でやっていたのは、他ならぬ自分自身が頭に思い描いたものをどう形にするかということ。その後も、自分の思うものをどうやったらより良く作れるのか、どうやったらより学べるのかをずっと考えて、キャリアを選んできました。

それはひっくり返すと、ちゃんと責任も被ってきたということです。意思の発揮と責任は大体の場合、表裏一体になっている。プロジェクトが大変なことになったら、その責任は全部自分が背負うことになります。ですから、ストレスは相当かかってくるのですが、そういったところを自ら選び取っていました。

もう一つは、数年先のトレンドを考えた上で、そこに対してどう“賭け金”を置くか。「投資」という考え方をすごく大事にしてきました。

LayerX松本さん
――投資、ですか。

初期であればあるほど投資できるお金はないわけですが、その分時間はあります。ですから、想定される未来に対して、自分の時間をどこにベットするか。

起業して、イチからプログラミングを猛勉強してものを作るというのもそうですし、その先で、2012年にGunosyという会社を選んだのもそう。当時はスマートフォンの発売直後で、3〜5年先を見た時に、スマートフォンのアプリでニュースを見ることが普通になるだろうと思った。当時はまだそういうプロダクトはなかったわけですが、「まだないが、これから出得るもの」にいち早く張っていれば、当然大きなリターンがあります。

リターンというのは、お金だけではありません。機会もそう。むしろ人生における一番大きな資産は機会だと思っているくらい。大きく成長する場所には、大きなチャンスが眠っています。そのチャンスをできる限りゲットできるように、風の吹く場所に自分を置こう、と。その一つが当時はGunosyでした。アプリ全体が伸びるだろうと思っていましたが、その中で「呼ばれた場所」でもありました。

実際、それから2年ちょっとで上場して、5年ほどで2000万DL。それだけのユーザーがいて、しかもニュースアプリは毎朝8時になると通知が飛び、桁違いにアクセスが集中しますから、エンジニアとしては、めちゃくちゃなトラフィックを捌かなければならない。そういう稀有な環境で、自分の頭で必死に考えて改善していくことをやり続けました。そうやってまだ誰も答えを知らない領域に自ら答えをつくっていくことを繰り返すと、大きな成長につながります。これが僕の言うリターンです。

ですから、自分の意思で動けることと、自分の“投資金”がちゃんと意味のあるものになるような場所選びをすること。この二つは常に意識してキャリア選択をしてきました。

LayerX松本さん

市場環境が変われば、キャリアのポートフォリオにも当然見直しが必要

――今の二つの観点で言うと、DMMに移った時はどんなことを考えていましたか?

自分の意思という意味では、それ以降もずっとCTOというポジションを任せてもらっているので、推して知るべしというところ。ですが、DMMへ行った理由は、実は今回LayerXへ来た理由とほとんど変わっていません。

日本におけるこれから先10年、20年の課題は、間違いなく少子高齢化です。それに対して、デジタルなものを使って生産性を上げていかないといけない。そうでなければ、自分の子どもたちにとって相当生きづらい国になってしまう。生産性を上げるためには、ソフトウエアときちんと向き合う必要がありますが、この国がそれを全くできていないというのは、皆さん同意するところでしょう。

ソフトウエアと向き合うとはどういうことか。ただいいツールを作れば勝てるかと言えば、そんなことはない。結局はどう使うか、です。もっと言えば、組織文化の方が大事なんです。Gunosyという会社をつくってみて、すごくそう思いました。あれだけ「数字は神よりも正しい」と言い続けていて、ソフトウエアを何より重視する会社であっても、やはり文化の重要性を痛感しました。

では、どうすれば文化をつくれるようになるのだろうか。そう考えた時に、組織変革のスキルを持つことが重要というのが、僕の答えでした。

大きな会社の文化を変える、そんなチャレンジができる場はなかなかありませんが、そんなタイミングで偶然にもDMMの話をいただきました。下調べをして、考え抜いた結果、この会社であれば、ある程度自分で変革できるのではないかという仮説を持つことができた。であれば、いったん自分のエネルギーを全部ここに注いで、その中で組織を変革するノウハウを積み上げようと。そうすることで、DMMを強い会社にしようと思いました。

これが、3年前に(LayerXの前進である)Gunosyの新規事業開発室を離れ、DMMに入社した際の意思決定です。

LayerX松本さん
――ということは、今回このタイミングで再びLayerXに戻ったのは、3年前に必要と考えた組織変革のスキルをある程度身に付けた手応えがあったから?

3年間でそれなりの成果は出しましたが、ここに関しては、とどまってもっとやるべきことがあったのでは?という気もしているのが、正直なところ。ですがそれ以上に、環境的に今動かなければならないと思ったんです。それは言うまでもなく、新型コロナウイルスのことがあったから。コロナがやってきたことで、事業環境は明らかに変わってしまった。

コロナが来るまでは正直、世の中のデジタル化に対する認識は「なんでリモートワークが必要なの?」という程度だったと思うんです。ところが、今では逆に「なんでリモートワークしないの?」という感じに、クルッとひっくり返ってしまった。それ以外にもデジタル庁が新たに立ち上がるなど、この1年で、企業がデジタル化を戦略に組み込まないことが業績的なダメージに直結する環境に様変わりしています。

市場が大きく変わったのに、自分の投資ポートフォリオを変えない投資家はいないですよね? それと同じで、事業環境が明らかに変わったのであれば、キャリアのポートフォリオだって組み替えないといけない。この国を変えるためには、今動かなくてはダメだと思いました。

その時に一番いい場所を探してみると、偶然にも古巣だったLayerXが「すべての経済活動を、デジタル化する」なんてことを言い出して、企業DX、金融DX、行政DXの三つをやろうとしていた。ならば自分が貢献できることも多いし、やりたいことともまったく一致している。そう感じられたから、LayerXに移動してきたということです。

相当いろいろなところにご迷惑をおかけしましたが、ちょうど1年前くらいからそうしたことを考え始め、できる限り自分が抜けても回る体制を整えた上で、わがままを通させてもらいました。

結局自分は何をしたいのか。向き合うことなしに、いいキャリアなんて選べない

――「この国を変える」。なんともスケールが大きい目標ですが、松本さんはなぜそこまで大きな目標を自分ごと化できるのでしょうか?

もし10年前の僕がいきなりこういうことを言っていたら、それは本気ではないと思います。実際はそうではなく、連続性のある目標設定をしているので。最初に起業した会社で1億数千万円のプロダクトを売り、Gunosyで100億円くらいの売り上げを作り、DMMで3000人の事業体で数千億円の売り上げを作った。だんだんとそのスケールが大きくなってきて、次にチャレンジングなことはなんだろう?と考えたら、国レベルのものを動かしてみることだろうとなっただけの話で。

それに、確かに僕はリスクを取り続けていますが、それは僕がたまたま、大きなものが自分の思った通りに動き始めると面白いと思う人だったから。誰もがリスクを取らなければいけないとは思っていません。目標は人それぞれ。「ずっとゲームをして過ごしたい」だっていいんです。僕にも2番目にはそういう欲求がありますし。

LayerX松本さん

大事なのは、自分が何をしたいかをちゃんと考えることではないでしょうか。そこと正直に向き合わない限り、いいキャリア選択なんてできない。あまり難しいことは考えず、まずは自分はどうしたいのかを考える必要があると思います。そして、それができたら次に考えるべきは、設定した目標に対して今やっていることが合理的なのかどうか。

まず長期の目標を定めたら、それに向かって短期の意思決定をする。そして、そこから見えてきた事実を元に、長期でどうすべきかをもう一度見直す。その繰り返しですよね。逆にダメなのは、二重振り子的というか、長期の目標もふわふわしているし、短期でやることもバラバラという状態。2点のどちらかを固定してアクションしないと、ブレてしまって、何をやっているのかよく分からなくなります。だから、常に長期の目標と短期でやることのどちらかを固定して、もう一方をたくさん探索する意識を持たないといけない。

とりあえずでも「ここを目指していく」と決めたら、それに対して合理的なアクションができているかを日々振り返ってみる。ちょっとずれていると思ったら、毎日少しずつ軌道修正する。逆に、やっていくうちにもし目標に違和感が生じてきたら、これまでやってきたことを踏まえて、もっとこうあるべきという方向を再設定してみる。

目標に対して昨日より今日、確実に近づいているのかをこまめに振り返ることが、長期の目標に向かっていく最短ルートだと思います。

――まずは自分が本当にやりたいことをはっきりさせることが大事。言われてみれば当たり前ですが、一つの会社に勤め続けていると、会社と自分の人格がつながってしまって、自分が本当は何がしたいのかが見えづらくなることがありませんか?

僕はたまたまスタートから「会社の外」でやってきましたが、おっしゃるように、会社に入るのが当たり前というスタートだと、そうなりがちなのは分かります。

でも、意思決定をする時には会社スタートではなく、自分の人生をスタートに考えてみる。幸せな家庭を築きたい、旅行に行きたい、面白いことをやりたい……誰しもそういう自分のwantがあって行動しているはずで。本当に大事なのは、そういう自分自身の意思に対してどれだけ行動できているかでしょう。

ですから、個人としても「自分は本当は何をやりたいんだ?」と問い続けなければならないし、それに対して会社の側も相対化してあげないと、いい解はつくれないと思います。

――相対化?

自分と会社は同一のものじゃなくて、あくまで別物として捉えてあげる。会社はこうしたい。僕はこうしたい。それがマッチするから僕がこの会社にいることがプラスになる。そういう状態をちゃんとつくらないといけない。

例えば「転職したい」といった相談を部下から受けた場合には、いつもこういう話をしています。「転職したい」というメンバーの意思を曲げてまで引き留めたいとは思わない。会社にとって多少ダメージがあっても、その人の人生にとってプラスになるのであれば送ってあげなきゃいけない。でないとモチベーションという意味でもよくないし、低いモチベーションは周りにもダメージになる。みんなにとってプラスになる意思決定ができる会社は、そうやって一人一人の人生を考えられる会社だと思っています。

LayerX松本さん

リスクは取るも取らざるも自由。だが、挑戦する人生が得では?

――自分の人生をどうするかを決める権利は、本来その人自身にあるということですよね。その上で、もしもリターンをたくさん得たいと思うのであれば、相応のリスクを背負う必要があるよ、と。

そうですね。リターンを得たいという人であればあるほど、最初に言ったような「投資」の考え方を意識した方がいいと思います。なぜなら、リスク・リターンが釣り合ってないものなんて世の中にそうそうない。一時的においしく見えるものがあったとしても、すぐにみんなが飛びつくから、即座にそんなポジションはおいしくなくなる。

人生で一番やってはいけないのは、このリスク・リターンを意識せずに意思決定すること。でも、実際にキャリア選択をする際には、リスクを見て見ぬふりをして、こういう話から逃げてしまうことが多いですよね。それも分かる。誰だってリスクを取るのは怖いから。

鼓舞するためのエッセンスとして一つ言えるとするなら、投資するのがお金であれば失敗すればゼロ円だけれど、エネルギーや時間は、投資して失敗してもパーになることはないということです。基本的には、経験が残る。

人間のアウトプットの力やインプットの量は、どれだけ自分の意思でコミットしたかに依存していると思います。自分の責任でプロジェクトを進めなければならないとなれば、嫌が応にも勉強しますよね? だからこそ成長していく。リスクをとって投資をした人は、最悪そのプロジェクトとか会社がポシャったとしても、過程で培ったノウハウで生きていけるというところがあります。採用する側から見ても、こういう失敗経験がある人の方が、課題解決力とか、粘り強い問題との向き合い方を持っていらっしゃるので、重宝するものです。

繰り返しますが、誰もがみな、大きなリターンを求めてリスクを冒さなければならないと言っているわけではありません。あくまで自分の目標に最適なやり方、最適なリスクの取り方を選べばいい。

でも、そんなにリスクを恐れなくていいんだよ、ということもお伝えしたいと思います。ベットしたことは、最悪でも何らかにはなる。奈落の底に落ちるように思うかもしれないけれど、ボトムラインは意外と高いところにある。一方で、得られるトップはそもそも高いのだから、挑戦した方が人生は得だと僕は思います。

取材・文/鈴木陸夫 撮影/竹井俊晴 編集/河西ことみ(編集部)

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