聞き手:海外AIトレンドマーケター | AI姉さん
國本知里・チェルシー (@chelsea_ainee)
大手外資ソフトウェアSAPに新卒入社後、買収したクラウド事業の新規営業。外資マーケティングプラットフォームでアジア事業開発を経て、現在急成長AIスタートアップにて事業開発マネジャー。「AI姉さん」としてTwitterでの海外AI事情やトレンド発信、講演、執筆等を行っている
皆さん、こんにちは。AI姉さんことチェルシーです。
私はこれまで、連載「AI姉さん・チェルシーの海外AIビジネス事情」で、海外の先進的なAI開発・活用事例から見た「日本のAIの未来」についてご紹介してきました。しかし海外と日本では政治や文化の違いも大きく、日本では再現できない事例もあったと思います。
そこで今回は、今私が注目する国内のAIスタートアップに取材。日本のエンジニアが今の土壌で活躍するにはどういった視点や工夫が必要なのか。そのヒントを探るため、プログラミング不要で誰でもAI構築ができるプラットフォーム『MatrixFlow』を展開する株式会社MatrixFlow代表の田本芳文さんを訪ねました。
聞き手:海外AIトレンドマーケター | AI姉さん
國本知里・チェルシー (@chelsea_ainee)
大手外資ソフトウェアSAPに新卒入社後、買収したクラウド事業の新規営業。外資マーケティングプラットフォームでアジア事業開発を経て、現在急成長AIスタートアップにて事業開発マネジャー。「AI姉さん」としてTwitterでの海外AI事情やトレンド発信、講演、執筆等を行っている
MatrixFlowはドラッグ&ドロップだけで前処理も含めた機械学習・深層学習ができるツールです。プログラミングをせずにAIが使えるだけでなく、あらゆるサービスとAPIでつなげることができます。
ええ。数年前にGoogleが「AIの民主化」ということを言い出していたのですが、民主化といっても実際のところはプログラミングができるエンジニアしかAIを使うことができないじゃないですか。だから、本当の意味での民主化を実現するために、ビジネスパーソンでもAIを構築できるサービスを作ろうと思ったのがMatrixFlowの始まりなんです。
また、私自身がAI開発するにあたり、同じようなコード何度も繰り返し書くことがあって、それを毎回やるのは面倒だと。であれば、一度組んだコードをブロック化して保存できれば効率的なのでは、と思ったのも背景にあります。
だからMatrixFlowは、ブロックを並べてつなげていくような感覚でAIを構築できるようになっているんです。
やはり「データサイエンスやプログラミングの知識・スキルを持ち合わせてはいないけれど、AIを試してみたい」という方ですね。中でも、大手企業の経営企画部などに導入いただく例が比較的多いです。
最近、大企業はAIの専門部署を持っているところもあるのですが、そうした部署はすでに抱えているタスクで手いっぱい。実験的な取り組みにまで手が回っておらず、他部署で「ここにAIを活用したら効果が上がりそう」といった話が出てきても、社内リソースでは実現できないという傾向があるようで。
「MatrixFlowならAIチームの手を借りずとも、自分たちでできそうだ」と実験的に導入いただく、といったイメージです。
某工務店で、Twitterの投稿から年齢、性別、年収などの属性を推定し、街づくりに生かす「ソーシャルヒートマップ」という取り組みを『MatrixFlow』を使って行いました。期待できる結果が出たので、今も活用が続いています。
そうですね。うまくAIを構築する上では、やはり最低限のAIリテラシーはあるに越したことはないでしょう。今でいうと、G検定合格くらいの知識があると安心です。
ええ。MatrixFlowには自動でアルゴリズムをチューニングするAutoFlowという機能もあるので、AI開発ができるエンジニアの場合は前処理の工数を削減できるメリットがあります。
また、AI構築の経験がないWebエンジニアの方でも、AIの構築自体はMatrixFlowで賄えますし、その後のAPIを発行してサービスに組み込む部分は得意分野だと思うので、効率的にサービス開発をパワーアップできると思いますね。
一つは先ほどお伝えした「AutoFlow」という自動機械学習機能の精度が非常に高い点です。他社製品と比較しても、効率よくアルゴリズムの探索をし、短時間で、サーバーのメモリ消費も抑えつつ学習できるというメリットがあります。
もう一つは、「日本語に強い」という点。現状ノーコードのAI構築サービスは海外のものが一般的ですから、英語には強くてもやはり日本語対応は難しいのです。日本人が使いやすいサービスという点でいえば、『MatrixFlow』は唯一無二だと思います。
さらに、MatrixFlowには説明機能がしっかりと付いているのも特徴です。「AIはブラックボックスだ」と言われがちで、この結果がどうやって導き出されたのかが読み解けないケースも多々あります。
ですがMatrixFlowなら、そのブラックボックスをかなりホワイトに近づけることができる。例えば、MatrixFlowを使って、例えば年齢、住宅ローンを組んでいるか、どんな職業なのかなどのデータを入れて銀行のカードローンの成約率を予測するとしますよね。すると、特定人物の成約率予測だけでなく、AIがどのパラメータを重要視して予測したか、例えば「住宅ローンを組んでいる人の成約率が高そうだ」といったところまで見えてくるのです。
まだ「ホワイトボックス」とまではいかないですが、”グレーボックス”くらいにはなっているイメージ。分析結果の傾向が見えるというのは大きいと思いますね。
ええ。例えば「テレアポで商談に行く前の通話時間が長ければ長いほど、その商談は制約しやすい」といった事が分かれば、テレアポ数よりも通話時間を目標に置くべきだ、という考え方もできるようになります。
「まずAIが重要だと判断したことをモニターする」というのも一つの活用法ですよね。
やはり最初にデータ数を集めなければ使えない、という点は企業によってハードルが高いと思っています。ある程度データが蓄積されているECサイト企業などであればそのデータベースを使うことができますが、データを持っていない企業については、今は外部のデータ収集会社を利用してデータを取得するところから始めています。
また、「活用」という意味での使い方を理解してもらうのにもまだまだ工夫が必要だと感じています。
特に『Matrix Flow』を開発した初期の頃は、ツールを提供していただけで、詳細な活用方法などは支援していなかったんです。すると、あるお客さまに「結果を出すことはできたけれど、あまりいい精度が出ていなそうだ」と相談を受けて。原因を見てみると、本来はAutoFlowを使うべきところに、ロジスティック回帰分析を使ってしまっていた、ということが分かったんです。つまり適切な使い方ができていなかった。
せっかくツールがあっても正しい使い方が分からないと良い結果を出すことができません。ハンズオンの重要性が身に染みたので、今後も強化していきたいです。
もちろん基礎知識も大切ですが、「もう少し気軽に試せる状態」を作ってあげる必要もあるのかと思っています。知らないことでも、いろいろと試すうちに性質を理解することもあるじゃないですか。
例えば、『マインクラフト』とかが分かりやすいですよね。誰から教わるわけではないけれど、何度か試すうちに「ピッケルで掘れる鉱物と掘れない鉱物がある」ということを小さな子どもだって理解していくわけです。
そんなふうに、MatrixFlowでもブロックをつなげてデータを流してみて、「この並べ方ならこういう結果が出るんだ」というのを試行錯誤してもらえるのが一番理想ですね。
こうしたツールが普及しても、データサイエンティストがいなくなるということはないと思います。それよりは、「誰もがデータサイエンティストになることができる」未来が待っているのではないでしょうか。
というのも、例えばとあるサービスで取得したデータに関する知識は、そのデータを所持している企業や部署の人が最も詳しいじゃないですか。しかし、その人たちはデータサイエンスの知識がないために、外部のデータサイエンティストに依頼をしなければならない。そのコミュニケーションやデータのやり取りにかなりの負担が掛かりますし、そのサービスや業界に対する知識がないと、変な結果が出た時に変だと気付きにくいですよね。
でも、MatrixFrowを用いればサービスに携わる人たちが直接AI分析を行うことができるようになる。自社内でデータを効率的に扱い、よりクリティカルな分析を用いてサービスを改善していくことができるようになるわけです。
「AIをやるならMatrixFlow」というように、ツールではなくプラットフォーム化していきたいと思っています。AIを構築するだけではなく、AIについての知識を学ぶことができたり、いずれはMatrixFlowで作ったモデルを売買できすることができたりもする場所にしていきたいなと。
また、今後はハードウエアとの連携にも力を入れていきたいと考えています。今後、AIはロボティクスとさらに密に絡んでいくはずです。今はGoogleが圧倒的なデータ量を所持していて、「データでGoogleに勝つことができない」などと言われていますが、Webの情報で集められているデータは全てのデータのうちのほんの一部だと思っていて。
今後IoT・ロボティクス・センサーなどがもっと普及すれば、データ量は爆発的に増えていきます。そこを占めているプレーヤーはまだいないですし、仕組みもできていない。僕らはそこを狙っていきたいですね。
中国やアメリカなどの大国がAI開発を推し進める一方、フィンランドやシンガポールのような小国は、誰もがAIを「活用」できるように教育や機会提供を強化する取り組みを行っています。
(参考)https://type.jp/et/feature/13627/
しかし現在の日本では、ビジネスサイドの人たちにとって「AIは何だかよく分からないもの」という印象がまだ強く、結果的にAIの導入・活用が遅れています。
「国民全員がAIリテラシーを付け、活用していく」ことが重要になっていく中、MatrixFlowのように誰もが手を出しやすいサービスの登場は大きな可能性を秘めているように思います。
また今後はAI活用の重要性がさらに増すとともに、こうしたノンプログラミングサービスが増えていくことも予想されます。エンジニアも目の前のプログラミングだけでなく、課題やデータと向き合い、「本質的な解決」に導く力が重要視されていくでしょう。
AI開発に直接携わっていないエンジニアであっても、AIリテラシーを身に付けることは大きな武器になりそうですね。
取材・文/國本智里 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)
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