サイトオープン10周年特別企画
エンジニアのキャリアって何だ?技術革新が進み、ビジネス、人材採用のボーダレス化がますます進んでいる。そんな中、エンジニアとして働き続けていくために大切なことって何だろう? これからの時代に“いいキャリア”を築くためのヒントを、エンジニアtype編集部が総力取材で探る!
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エンジニアのキャリアって何だ?技術革新が進み、ビジネス、人材採用のボーダレス化がますます進んでいる。そんな中、エンジニアとして働き続けていくために大切なことって何だろう? これからの時代に“いいキャリア”を築くためのヒントを、エンジニアtype編集部が総力取材で探る!
欧米やアジア諸国で花形職種として注目を集めるプロダクトマネージャー(以下、PM)。ITを活用したプロダクトづくりの重要度があらゆる業界で増していく中で、PMの存在は、ますます欠かせないものとなっている。
また、現在は『Zoom』や『Uber』などがそうであるように、一つのプロダクトがビジネスを変え、社会の在り方を大きく変え得る時代だ。生涯プロダクト開発に携わりたいと考えるエンジニアにとっても、PMというキャリアパスは魅力的に映るだろう。
では、これから日本で必要とされるPMとは一体どんな人なのか。『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)を共同執筆した日本を代表するPM、及川卓也さん、曽根原春樹さん、小城久美子さんの三人に話を聞いた。
及川卓也さん
Tably株式会社代表。グローバルハイテク企業でソフトウエア開発に従事した経験を活かし、スタートアップ企業から大企業に至るさまざまな組織への技術アドバイス、開発組織づくり、プロダクト戦略支援を行う
曽根原春樹さん
シリコンバレーに在住し現地のスタートアップや外資系大企業におけるプロダクトマネージャーとしてBtoB、BtoC双方の領域でプロダクト開発とその世界展開を行う。現在はSmartNews社USオフィスにて日本発プロダクトの米国市場展開の一翼を担う。在住15年以上の知見をまとめたプロダクトマネジメント講座をUdemyにて展開、各種講演、日本の大企業・スタートアップへの顧問活動などプロダクト開発や組織づくり支援も積極的に展開
小城久美子さん
ソフトウエアエンジニア出身のプロダクトマネジャー。ミクシィ、LINEでソフトウエアエンジニア、スクラムマスターとして従事したのち、BtoCプロダクトを中心にいくつかの新規事業にプロダクトマネージャーとして携わる。そこでの学びを活かし、Tably社にてプロダクトマネジメント研修の講師、登壇などを実施
曽根原:そうですね。PMは、エンジニアが自身の価値をさらに高めることができるポジションとして認知されてきていると思います。
これまで日本では、「ものづくり」といえば、どちらかといえばソフトウエアよりハードウエア的な側面が強かった。しかし、この10年でソフトウエア的な考え方でのものづくりの重要性が無視できないレベルにまで到達しました。
つまり、「作って終わり」ではなく、「継続的に良くなっていく」というソフトウエアにおける「ものづくり」という観点が、急速に求められるようになっているのです。それによって、エンジニアが活躍できる場もこの10年で飛躍的に増えましたね。
こうした中で、ソフトウエアプロダクト開発への関わり方も広がりを見せています。エンジニアが技術の深堀りだけでなく、ビジネス面やデザイン面など、周辺領域へとその知見を広げていくことで、ますますその価値を高めることができるようになっています。
エンジニアがPMを目指すというのも、その一つの現れなのではないでしょうか。
及川:曽根原さんのおっしゃる通り、この10年で、エンジニアの活躍の場はかなり広がりましたよね。そして、エンジニアが伸ばせるスキルも、「幅」「深さ」ともに増していると感じます。
及川:ええ。例えば、ソフトウエアエンジニアリングにおいても、10年前はまだ深層学習はここまで注目されていませんでした。
カナダのトロント大学が視覚データベース『ImageNet』で圧倒的な差を見せつけて、深層学習が再評価されたのが2012年。それ以降、急速に深層学習をはじめとする機械学習が社会に活用され、またその能力も高まっています。
ソフトウエアエンジニアリング領域での「幅」は、例えば、データベースやセキュリティー、ネットワークなどの古くからある領域に加え、先ほど挙げた機械学習などのデータ領域、Webのフロントエンドやバックエンド、インフラ、スマホアプリ、IoTやXRなど、ざっと見ただけでもこれだけのものがあります。これらの領域を複数担当できるようになるのが、「幅」を広げる形でのスキルアップです。
また、それぞれの領域の進化も著しいので、その中でより専門性を高め、常に最先端を追い続けるのが「深さ」を極める形でのスキルアップとなります。
これらの純粋なソフトウエアエンジニアリング領域のスキルアップに加え、ビジネススキルやデザインなどのクリエーティブスキルなどもエンジニアに求められるようになりました。PMには、こうした複数のスキルと、あらゆる領域の知見をつなぎ合わせる能力が求められます。
小城:新卒でミクシィにソフトウエアエンジニアとして入社して、そこではスクラムに興味を持ち、リーン開発を学びました。
ミクシィでは家族アルバム『みてね』の立ち上げを通してプロダクト開発のいろはを知り、その後LINEにAndroidエンジニアとして転職。そこで興味の対象が「How」から「Why」や「What」に移ったんです。
小城:要は、「どうやるか」より、プロダクト開発を「なぜ」、「何のために」やるのか、そもそものところをもっとしっかり考えてみたくなったんです。それで、PMに転身することにしました。
小城:自分たちが手掛けたプロダクトを使っているユーザーさんをふと電車の中などで見掛けたときに、言いようの無い喜びを感じますね。
今まで世の中に無かった体験を、プロダクトを通してユーザーさんに提案し、その体験を通して便利さや楽しさなどの新しい“正の感情”を生み出せること。これこそが、PMの醍醐味だと思います。
及川:PMは各企業によって、役割やその役割を全うするスキルがかなり異なります。ただ、共通するのはプロダクトを成功させるための執念や、くじけない心、成し遂げる力です。
及川:はい。英語で“Get Things Done”という言葉があるのですが、日本語にすると、先ほどの「成し遂げる」という意味になります。
PMとはまさに“Get Things Done”な人。「あの人に任せておけば、どうにかしてくれる」という、力強い存在です。
及川:成し遂げる力とか、どうにかする力と聞くと、プロジェクト管理能力やタスク処理能力を思い浮かべる方も多いかもしれません。
でも、実際にPMに求められるのは、タスク化する前の前である、まだ何をするかも曖昧な状態から物事をスタートさせる力なんですよ。
小城さんのお話にもありましたが、「Why」や「What」の部分が大事で、何をするのか、なぜするのか、これらを考え抜き、導き出した答えを元にメンバーを巻き込んでいく。そのような、アントレプレナーにも近い力が求められます。
曽根原:PMの需要は非常に高いですね。最近はリモートワークが浸透したことで、シリコンバレーに限らず、全米各地で多様なPMが業種業界を超えて求められるようになっています。
例えば、大企業におけるDXプロダクトの0→1を作るPM、新興スタートアップのモバイルアプリを開発するPM、テクノロジーに幅広い知見がありプロダクトのプラットフォーム化を手掛けるPM……。各社で求められるPMの経験・能力はさまざまです。
ただ、及川さんもおっしゃっている通り、PMに求められるものとして共通するのは、ユーザーにとって本当に良い体験とは何か、なぜそれを会社として追求する価値があるのか、そういった大前提の部分を徹底的に、しぶとく考え抜く力ですね。
及川:PMの需要をさらに押し上げたと思います。社会が大きく変化するとき、プロダクトづくりも、「なぜやるのか」や「何のためにやるのか」そもそものところを考え直す必要が出てきますから。
曽根原:変化の時代の中で、プロダクトづくりの意義や在り方を再定義するのがPMの仕事。消費者に選ばれるプロダクトとは何か、筋のいい仮説を立てて素早く検証し、「ビジネス」と「テクノロジー」、ユーザーに受け入れられる「デザイン」の3軸で物事を考える。そんな力を持ったPMが、ますます必要とされています。
小城さん:お二人から非常にいい刺激を受けました。
PMの仕事は、「ビジネス」「技術」「UX」の交差領域であると言われています。これまで、この三つの知識を本当に深く持ったPMの方にお会いしたことがなかったのですが、曽根原さんはまさにそれを体現されていらっしゃって。どの章の執筆をしていただいても深い知識に基づいた原稿を書かれるので本当に素晴らしいと感じました。
及川さんは私の現在の上司なので、その仕事ぶりはいつも拝見していますが、本書の制作に関しても、一貫したビジョンを持って取り組んでいらして。そんな姿を尊敬しながら見ていました。
曽根原:私もたくさん刺激をもらいました。お二人とも自分とは異なるバックグラウンドをお持ちなので、考え方は同じでも、日本の読者に向けて言語化する部分でさまざまな意見が出て大変勉強になりました。
バックグラウンドの違う三人がそろったからこそ、あらゆる状況に応用できる堅牢なコンセプトや書籍の内容に昇華できたのかなと思いますね。
及川:ええ。私も、お二人との仕事を通して、自分がいかに我流で仕事を進めてきていたかを認識させられました。
私は自分でも「思い」先行型の人間だと自覚しているのですが、その思いを人に伝え、それを形にしていくのは、都度その場で考えて行っていました。お二人は技術やデザインや事業などで豊富な経験をお持ちですし、さまざまな書籍からも学んでいらっしゃいます。
そのような豊富な知識と経験に裏打ちされた手法を、書籍執筆を通じて知ることができたのは私にとっても大きな収穫です。
及川:実は、そんなことは全くなくて。私たちでも、失敗や苦難はたくさんあるんです。今回もいくつかの難所をPMとして乗り越えて、出版にこぎつけました。
及川:そう思いますね。お二人にはかなり助けられました。私は結構いい加減な方なので、小城さんの緻密な仕事ぶりにかなり救われましたし、曽根原さんの非常に豊富な知識にも大いに支えられています。
小城:及川さんは、最後まで書籍を良くすることにこだわり抜いていらっしゃいましたし、曽根原さんは、言葉の魔術師でもありますよね。コピーライティングやストーリーテリングのスキルが極めて高くて、ものごとを分かりやすく説明するのがとてもお上手で、何度も感嘆させられました。
曽根原:エンジニアであれば、基本的には「ものづくりが楽しい」という思いを持っている人が多いと思います。しかし、せっかく労力をかけて何かを作るのであれば、より多くのユーザーに使われるプロダクトを作りたいですよね?
今や、モバイルアプリ一つで個人の人生をガラッと変えられる時代です。「このプロダクトのおかげで人生が変わりました」と言ってもらえるようなものを作れたら、エンジニア冥利に尽きるというもの。
ただ、そこに行き着くためには、プロダクトマネジメントに関わる多くの考え方や規律を駆使する必要があります。その一歩を踏み出し、全体像を知るために、この書籍が役に立つはずです。
小城:この書籍は、何か新しい理論を紹介するものではなく、プロダクトをつくる上で必要な知識をそれこそ「すべて」詰め込んでいます。
プロダクトマネジメントに関わるあらゆることを網羅的に詰め込んでいるため、この書籍を読んでいただいて、もし知らない知識に出会うことがあれば、そこをぜひ強化していただくことで、より良いプロダクトづくりができるようになるはずです。
また、私はこの本を社内の輪読会で使ってほしいとも思っています。プロダクト開発に関わるチームの皆さんで、章ごとに「できていること」「できていないこと」を検討してもらうのもいい。自社のプロダクトづくりについて、チームで改めて議論をするためのきっかけにしていただけたらうれしいですね。
及川:常に「Why」を考え続ける人でいるということでしょうか。分からないことを放置せずに、「なぜ」を問い続けること。問いを重ねることは、自身の知識を補うための学習につながったり、事業やプロダクトの本質を組織とともに見つめ直す機会になったりしますからね。
小城:そうですね。そして、発想力を磨くことも大事ですね。目の前にあるバグを直す糸口も、より良いコミュニケーションを取る手法も、ユーザーに価値を提案する機能も、すべてはエンジニアの皆さんの発想力が鍵となって生まれるものですから。
小城:発想というのは、日々触れている情報の掛け合わせ。ですから、より多くの情報に触れて、それについて自分なりに考えてみてください。地道ですが、その繰り返しが重要です。そうやって養った発想力を用いて行動を重ねていくことで、人生は豊かになっていくのだと思います。
曽根原:私がエンジニアの皆さんに伝えたいのは、「好奇心の3軸」を意識して、仕事や学びに生かしてほしいということです。
「好奇心の3軸」とは、興味の「広さ」「深さ」「強さ」のこと。自分が強い興味を持てることを深堀りするだけでなく、その周辺や隣接領域、時には一見全く関係ないようなものにも広く目を向けてみてください。
だんだんと、自分が知っていたことと、知らなかったことを掛け算して、一段上の思考ができるようになりますし、発想力も磨かれるはずです。「好奇心の3軸」を活かし、ぜひ世界水準のエンジニア、PMを目指してほしいと思います。
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取材・文/栗原千明(編集部)
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