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人工知能で「人材マッチング」はどう変わる?フォーラムエンジニアリングの『Insight Matching』構想を聞く
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さまざまな産業で「次のイノベーション」を生み出すテクノロジーとして注目されている人工知能が、人材サービス業にも新たな局面をもたらそうとしている。
各種モノづくり企業への技術者派遣事業を展開しているフォーラムエンジニアリングは現在、日本アイ・ビー・エムおよびソフトバンクと協業し、新たな人材流動プラットフォームの開発に取り組んでいる。これは、SoftBankの感情認識ロボット『Pepper』をサービスのインターフェースとし、そこから得た各種情報を認知型コンピュータの『IBM Watson』で分析することで、求人企業と求職者のミスマッチを減らすというもの。
ビッグデータとコグニティブ・コンピューティングを駆使した日本初の人材流動プラットフォームを構築すべく、2016年4月のローンチを目指してディテールを詰めている最中だという。
フォーラムエンジニアリングは現在、年間1万4000件超の案件を手掛け、約4800人のエンジニアが就業している。開発プロジェクトのリーダーを務める同社取締役CIOの竹内政博氏は、こうした実績を背景に、「今後は製造業を中心としたエンジニア不足の解消、ミスマッチの減少、そして産業トレンドに即応した人材派遣体制の整備に取り組むことが急務」と話す。
こうした課題解決の手段として同社が開発に取り組む『Insight Matching』と名付けられた新プラットフォームは、どんな性質のものになるのか。その構想を聞いた。
『IBM Watson』活用の目的は、マッチングに「正しい洞察」を加えるため
まずは『Insight Matching』というネーミングについて、竹内氏は「企業が本当の意味で求めている人材要件とエンジニア双方の本音にフォーカスして、属人的なマッチングサービスでは実現できなかったサービスを目指すという意図がこめられている」と話す。
「これまでのマッチングサービスは、営業担当者やカウンセラーといった人間が『観察』し、『考察』をしながら『推察』を加えて行ってきました。しかし、人間が行っている以上、本当に正しい判断でマッチングができているかは実際に就業した後でなければ分かりませんし、営業担当者からカウンセラーへの情報伝達時に生じる『又聞きのロス』でミスマッチが生じてしまうケースもありました」
フォーラムエンジニアリングに相談に来るエンジニア側も、次の職場に求めるものが報酬なのか環境なのか、それともスキルアップを前提とした経験を得ることなのかがはっきりしていないことは往々にしてある。この「重みづけ」の難しい領域に、人工知能を駆使した「Insight=洞察」を付加することで、求人主とエンジニア間のベターフィットを目指すというのが狙いだ。
より“ベター”な人材流動プラットフォームを目指すというのは、膨大な量のデータを常に蓄積・分析していくことで、産業トレンドや技術のハイプサイクルなども鑑みながらその時々で最適なマッチングを提供し続けることができるという人工知能の特性を活かした取り組みとも言える。
「これまで人間がマッチングを行う際に判断材料の一つとして用いてきた暗黙知を、テクノロジーを使ってそのまま形式知に置き換えて無機質なマッチングを提供していくつもりはありません。人間にはできなかった部分を、プログラムとデータをアップデートし続けることでカバーする『進化するマッチングソリューション』を目指します」
おりしも米IBMは今年10月初め、『IBM Watson』を活用したコンサルティング事業を従来の「コグニティブ・ソリューション」から「コグニティブ・ビジネス」として、世界規模で展開していくことを表明した(参照記事)。
これまで人間が手掛けていた領域を単に人工知能に置きかえていくのではなく、コグニティブ・ソリューションでイノベーションを起こしていくという姿勢は、『Insight Matching』の開発プロジェクトにも反映されている。
現時点の構想では、『Insight Matching』がエンジニア向けに提供するのは【能力評価サービス】、【マッチングサービス】、【市場予測サービス】の3つになる予定とのこと。これにより、ユーザーが自らの持つスキルの市場価値を客観的に把握したり、今後の仕事人生を検討しながら柔軟にキャリアメイクしていくことを実現したいという。
『Pepper』の採用で求人企業・求職者のUXはどう変わる?
この『Insight Matching』構想でもう一つ特徴的なのが、前述したようにSoftBankの『Pepper』をサービスのインターフェースとし、求人企業およびエンジニア双方からヒアリングをすることだ。
この構想は今後、双方にどんなUXをもたらすのだろうか。
「ロボット研究の一環として明らかになっている事実の一つとして、人は対人間よりもロボットに接している時の方が正直に話し、自分の考えを本音で伝えやすくなることが分かっています。ですからエンジニアの希望や要望を聞く時も、感情認識機能を備えた『Pepper』なら今まで以上に本音を引き出すことが可能になるかもしれません」
一方で求人企業側の要望をヒアリングし、どんな人材がベストマッチするのかを分析する際も、「求める人材像にもっとも近いエンジニアをロールモデルとしてご紹介いただき、その方と『Pepper』が会話を重ねていくことで、スキルだけでなく志向やキャラクターを総合的に判断して『この職場に合うエンジニア』の傾向を導き出すことが可能になる」と竹内氏は言う。
求人企業がエンジニアに求める条件は多数あり、他方のエンジニア側も職場に求めるものは一つではない。こうした状況下で、より多くの「変数」を細かく分析しながらフィットするマッチングを実現させるために、『Pepper』と『IBM Watson』の活用が新境地を拓くというわけだ。
これまでなら就労後でなければなかなか分からなかった人材と職場の“空気”や“雰囲気”とのマッチング度が、検討段階で予測できるようになりそうである。
エンジニアを支え、業界全体を活性化させるのが長期ビジョン
フォーラムエンジニアリングは、「エンジニアの『働く』を応援する」という経営理念を掲げている。それゆえ今回紹介した新たな人材流動プラットフォーム構築プロジェクトのさらに先にある将来像として、「テクノロジーですべてのエンジニアのエンジニアライフをサポートしたい」と竹内氏は語る。
「短期では2016年春の運用開始と、その後3~5年かけて新しい人材流動プラットフォームとして定着させることを目指していますが、中長期展望としてはすべてのエンジニアを支え日本の製造業全体に貢献していけるようなプラットフォームを目指します」
1990年代初めのバブル経済崩壊や2008年9月のリーマン・ショックなど、日本の製造業はたび重なる経済の低迷や停滞に直面してきた。経営環境を取り巻く変化のスピードは、これまで以上に速い。
「どんな変化にも即時対応していかなければ、製造業もエンジニアも生き残れません。ですから『Insight Matching』は単に新しい人材マッチングシステムとしてだけでなく、経済や業界動向に個々人の将来像を含めてエンジニアにキャリアアドバイスをもたらすコンサルタント的なプラットフォームに育てていきたいと思っています」
人工知能がこうした役割を担える存在にまで性能を高めていくことができれば、経営上の課題や転職時の判断ミスを解消する必要不可欠なテクノロジーとして、確かな地位を築いていくに違いない。
取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正
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