「こっちだって打ち上げ直前」前澤友作肝いりのスタートアップARIGATOBANKは何を作ろうとしているのか
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ZOZOの創業者である前澤友作さんは、同社の経営を離れた後も、宇宙旅行への参加や“お金贈りおじさん”としての活動など世間の注目を集めている。その前澤さんが2020年11月に新会社「ARIGATOBANK」設立を報告するツイートをして話題になった。
【ご報告】株式会社ARIGATOBANKを本日設立しました。
『お金とはありがとうを代弁するもの』
お金は人の可能性を伸ばすために本来発明された道具。お金で苦しむ人をゼロにし、感謝でお金が循環する社会を作ります!#ARIGATOBANK
創業メンバー(左から)@k0ta @YosukeShiraishi @takuz0_
俺 pic.twitter.com/GQiF0ymlY4— 前澤友作┃お金贈りおじさん (@yousuck2020) November 11, 2020
だが、「お金はありがとうを代弁する」「お金に困る人をゼロにする」といった壮大なビジョンは掲げられたものの、具体的なビジネスプランは未知数だった。あれから約半年、同社のHPを見ると、CEOである白石陽介さん(ヤフーでY!mobileやPayPayの立ち上げに関わり、ディーカレットCTOを経てARIGATOBANKを設立)を始め、錚々たるメンバーが集まっていることが分かる。
そこで、今回エンジニアtype編集部は、ARIGATOBANKが具体的にどのようなプロダクトを世に問おうとしているのか、エンジニアが実際にどのような働き方をしているのかを探るべく、インタビューを行った 。
見えてきたのは、本気で社会を変えようと試行錯誤する「カオス」を楽しみながらも、その実現のために着実なモノづくりに取り組むスタートアップの姿だった。
2021年夏に向けて開発は佳境
インタビューに応じてくれたのは、CTOの河津拓哉さんとエンジニアの中平健太さん。二人とも、CEOである白石さんに誘われて参画を決意したという。
「オーナーの前澤が、新規事業を立ち上げるためにFinTechのプロを募集して、そこに応募したのが白石でした。その白石が技術責任者を探していて、私に声が掛かった。前職でも金融プロダクトに関わっていたのですが、ARIGATOBANKはお金に関する課題を解決することで社会そのものをより良くしようとしている。そこに大きな魅力を感じました」(河津さん)
「私は以前ヤフーに所属していて、白石の下で『PayPay』の立ち上げに関わっていました。ゼロからスマホアプリを作るやりがいはあったのですが、やはり大きな会社ですから、作ったものをグロースさせていくフェーズには満足するまで関われなかった。ARIGATOBANKに入ったのは、ある意味『裸一貫』で企業の文化やプロダクトを作り上げて浸透させるチャレンジをしてみたいという思いがあったからです」(中平さん)
このようにして、いわゆるリファラル採用で集まったメンバーは現在約30人。その3分の1がエンジニアだ。まだ事業の形が見えない時点での参加に、不安はなかったのだろうか?
「不安がゼロだったかというともちろんそうではありません。ただ、お金に困らない社会を作るという世界観には非常に共感できた。成功するか失敗するかは分からないですけれど、本気で取り組んだプロダクトを世に出した経験は価値のあることだと思っているので、不安よりもそっちのワクワクが勝ったということですね」(中平さん)
彼らが口をそろえるのは、ARIGATOBANKが提唱する「お金に困る人をゼロにする」というビジョンへの共感だ。だが、気になるのは、具体的にどのようなプロダクトを出そうとしているのかということ。そう問うと、河津さんは「この場でどこまで公開していいのか、大枠は前澤のツイートで既に明らかになっていますが……」と苦笑しながら教えてくれた。
「最初のプロダクトは『暑くなる頃』にはローンチする予定でいます。寄付文化を下支えしていくようなシステムを複数開発していますが、そのうちの一つ。まずはユーザー同士をつなぐようなプロダクトを提供しようと考えています。これまでの『○○ペイ』のような決済サービスは、既存の経済圏やエコシステムの利便性を高めるものでしたが、ARIGATOBANKが作ろうとしているのは、それとは別の文脈でお金の問題を解決しようというものです」(河津さん)
つまり、間もなく最初のプロダクトの発表があるということだ。寄付文化を根付かせるためのシステムとのことだが、そこに商機はあるのだろうか。
「もちろん、将来的に企業として成長する道を作ることはしっかりと考えています。ただ、今は目先の利益の追求にこだわるフェーズではありません。これは、僕や中平がジョインを決めた最大の理由だと思いますが、資金面も含めて、目指すビジョンに真摯に向き合える環境があるのです」(河津さん)
方針転換で「スーパーリーン」も全員納得の上
開発は佳境とのことだが、ここに至るまでには紆余曲折もあった。昨年の11月に会社を設立し、ビジネススキームの検討から始まって、開発に着手したのが今年の1月。当初から夏頃にはローンチを予定していたが、3月になって開発方針が大きく変わったのだ。
「当初は、僕らが目指す金融プラットフォームを先に発表して、ユーザー同士をつなぐシステムはそれに追加する形で用意しようとしていました。だから、開発もプラットフォームを優先して進めていた。でも作っているうちに、最初に投じる一石としては、ユーザーに近い機能を提供して問い掛ける方がよいのではないか、と考えが変わっていったんです」(河津さん)
開発の優先順位が大きく変わり、そこからは「スーパーリーン開発」だったと河津さんはいう。それは、トップダウンによって現場が振り回されたということなのだろうか?
「トップダウンではなく、オーナーやCEO、そして現場も含めて開発を進めていく中で自然と問題提起がされて合意ができていきました。だから、『え、なんで?』というのはなくて、みんな納得感を持っていたはずです。むしろ、『方針転換しても、頑張れば予定通り夏くらいにはいけます』と言ってしまったのは自分です(笑)」(中平さん)
そう請け合ったものの、その時点では厳密に見積もりができるような段階にはなかったという。大きな会社のように人員が割けるわけでもない中で、なぜそのようにスピーディーな開発が可能だと宣言できたのか。
「それまではマネジメント業務に時間を割かれることも多くて、実際に手を動かす時間を十分には取れていませんでした。だから、自分が開発に専念できるようになれば何とかなるかなと。その条件を会社が認めてくれるという合理的な判断もうちの良いところです。あ、あと……直前にプライベートでやっていたプロジェクトの件も影響しましたよね?」
そう言って、中平さんは河津さんに視線を送った。
「実は、僕らはARIGATOBANKにジョインするよりも前に、一緒に関わっていたプロジェクトがあって。前職時代に仕事とは別にやっていた新型コロナウイルスの接触確認アプリのプロジェクトで、僕が企画責任者、中平がアプリ開発のリーダーとして、かなり気合いを入れて製作しました。ただ、残念ながら諸事情あってリリース直前で頓挫してしまったんです」(河津さん)
「あの悔しさと経験があるからこそ、密にコミュニケーションをとりながらやれば、自分たちなら短期間でもやれるのではないか、いや、やってやろう、と思えたのかなと」(中平さん)
エンジニアにとって魂を込めたプロダクトがリリースできなかったことは大きなフラストレーションだろう。「今度こそ」という熱狂が二人にはあったのだ。
技術選択の基準は「確実性」と「チャレンジのしやすさ」
そんな「スーパーリーン」な開発を支えたのは、ARIGATOBANKの技術環境でもある。河津さんが言う技術選択の観点は2つだ。一つはプラットフォームとなるための信頼性や速さをどのように実現できるかということ。二つ目は、エンジニアにとってチャレンジしやすい環境であるかどうかだ。
逆に、コストや目新しさで技術を選択することはない、と中平さん。ユーザーに確実に価値を提供できるものは何なのか。モバイルアプリにFlutterやReactNativeといったフレームワークではなく、ネイティブ開発を選択した理由もそこにある。一方、新しいものであっても、良さそうであればどんどん試してみる風土もあるという。
「新しい技術って、実際に使ってみないと肌感として合うかどうか分かりませんよね。だから迷ったら使ってみる。開発手法ではスクラムを採用しているので、スクラムチームのチケット消化などスプリントの進捗に影響がない範囲で自由にやってもらっています」(河津さん)
ARIGATOBANKの開発は、プロダクトごとに企画部やエンジニアリング部から担当をアサインするジョブ型の組織で行われている。その際には、各プロダクトがどのような目的で作られているかといったオンボーディングを綿密に行うそうだ。
「よくあるように、企画部が考えたプロダクトの案を技術部に投げて『これ作っておいて』といったような仕事のやり方を僕らはしていません。開発の過程で『こうした方が良い』というアイデアがあれば、誰でもそれを発案できる。みんなで作っていくという姿勢です」(河津さん)
「もちろん、それぞれの部署の人はスペシャリストですから、お互いにリスペクトしようというのは最初に確認しています。だから、企画側が上とかエンジニアファーストとかではなく、本当にフラットな感じです」(中平さん)
オーナーである前澤さんの意向が強いのかと思いきや、「単にオーナーの考えを具現化する道具としてのメンバーはいない」と河津さんはいう。価値観に共感したメンバーが、より良いものを作るためにアイデアを出し合う組織が形成されていることがうかがえる。
社内のコミュニケーションを活発にしようと、さまざまな施策を取り入れている。例えば、オンラインでもオフラインでも同じレベルでコミュニケーションが取れるよう、オフラインで話したこともSlackに残すなど、基本的なルールはエンジニア数5人に満たないころから構築されていたという。
「オンラインでは第一声が話し掛けづらかったりするので、バーチャルオフィスを利用したり、全員がミュートを外した喫茶店みたいな部屋を作ったり、いろいろ工夫しています。僕たちは『合宿』と呼んでいるのですが、メンバーで1つの会議室に集まって、開発とディスカッションを徹底的にする日が週1回あるなど、コミュニケーションはかなり重要視していますね」(中平さん)
毎週、全社の定例会議を設けたり、ConfluenceというWikiを利用してドキュメントを共有したりするなど、しっかりと文化を共有しており、意外と落ち着いている「大人なスタートアップ」とでも言うべき社風のようだ。
「実際、エンジニアの平均年齢は30代半ばといったところです。採用にあたって特定の年齢層を求めたわけではないのですが、成功体験や挫折経験を含めてさまざまな”死線”をくぐり抜けてきた猛者たちが結果的に集まりました」(河津さん)
プラットフォームの開発が本格化していくにしたがって、エンジニアを増やしていく必要も出てきた。とはいえ、いたずらに人数を増やせばいいという考えではない。
「CTOとしては、この会社が組織としてチャレンジできる回数を増やすのが責務だと思っています。そのためには、これまでのように仲間のつながりだけでなく、いろいろな方に参加していただいて、エンジニアチーム全体の底上げを図っていきたい。単純に頭数を増やしたいということではなく、同じ視点で課題に向かってくれるエンジニアとの出会いを求めています」(河津さん)
プロダクトを見れば、僕らのことが分かるはず
前澤さんがオーナーということで、世間の注目度も高いARIGATOBANK。
河津さんは「ビジョンの聞こえは良いけど実際どうなのか、という声があることは分かっている。だから、夏に出るプロダクトを見てほしい。それが僕らの名刺になるはずだから」と自信をのぞかせる一方で、「言っててドキドキしてきた」とはにかむ。
もちろん、第一弾のプロダクトだけで終わりではなく、「お金に困る人をゼロにする」というビジョンのもと第二、第三の矢も準備中だ。
「ARIGATOBANKは、本気で世の中を良くしようと思っています。決まった技術や、やるべき仕事がすでに準備されているわけではありません。良くも悪くもカオスなのですが、だからこそ自分の意志で仕事を進めることが好きな人には楽しいし、実力を発揮しやすい環境だと思います」(河津さん)
最後に、プロダクトローンチを直前に控えた社内の雰囲気を一言でいうと? という質問を投げ掛けてみた。
「これまでになかった種類のロケットを発射台に据えている感じ?」(河津さん)
「正直、ちゃんと飛ぶのかどうか分からない。飛ばなかったら、そのまま潜水艦に作り直して深海を目指すという選択肢も大いにある(笑)」(中平さん)
オーナーと共に、空へと飛び立つことはできるのか。ARIGATOBANKの挑戦は始まったばかりだ。
取材・文/高田秀樹 撮影/野村雄治 企画・編集/根本愛美(編集部) 撮影協力/WeWork Nogizaka
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