転職 Vol.498

宇宙産業は「Webな人」を求めている~元ECサービスCOOが衛星通信ベンチャーを始めた理由

コンピュータが生まれてから現在までの歴史をざっくり振り返ると、普及のカギとなったのは「小型化技術」と「通信技術」の進歩である。

ハードは大型汎用コンピュータからパーソナルコンピュータへと進化し、その製造価格は飛躍的に安価になった。そして誕生したのがスマートフォン。老若男女が常に持ち歩くコンピュータは、そこに搭載される幾多のアプリケーションとともに、ユーザーの生活を便利なものにしている。

他方、通信技術の発展も見逃せない。日本で初めてインターネットがつながったのは1993年。それから約30年の間で、通信速度も扱うデータ量も日進月歩で進化してきた。

実はこの記事のテーマである宇宙産業の世界も、コンピュータ普及の歴史と似たような足跡を辿っている。近年、イーロン・マスクのSpaceXや堀江貴文氏がファウンダーを務めるインターステラテクノロジズなどの取り組みを通じて、民間による宇宙輸送機=ロケット開発の話題が耳目に触れることが増えたが、その裏側にあるキーワードはやはり「小型化」だ。

さらに、ロケット開発に先んじて無人飛行の人工衛星は小型化と低価格化が加速度的に進んでいる。欧米では専業のベンチャー企業がいくつも生まれており、ある調査では2010~2015年の5年で小型人工衛星の打ち上げ数が約6~7倍に膨れ上がっているという(参照資料/PDF)。

こうして人工衛星開発のハードルが下がっていくと、次に求められるのが通信面のイノベーションになるであろうことは、コンピュータの歴史をみても明らかだろう。日本のベンチャー企業インフォステラは、2016年1月、この分野でイノベーションを起こすために立ち上がった。

同社が行っている事業は、人工衛星向けアンテナシェアリングプラットフォーム『StellarStation』の構築だ。さる10月6日には総額6000万円の資金調達を終え、事業推進と採用に本腰を入れていくそうだが、取締役COOの石亀一郎氏いわく今最も欲しい人材は「インフラ構築の経験豊富なWebエンジニア」だという。

石亀氏自身も、以前はアニメ・同人専門のフリマアプリ『A2mato(アニマート)』を運営するセブンバイツでCOOを務めていた(※『A2mato』はアニメイトへ事業譲渡)、いわば「Web系の人」である。

宇宙産業とWebサービス開発という、一見かけ離れた領域を”つなぐもの”とは何なのか、石亀氏に話を聞いた。

“宇宙通信のAWS”を目指す上でWeb開発の知識は欠かせない

インフォステラのチーム

インフォステラの創業チーム。写真左がCOOの石亀一郎氏で、CEOの倉原直美さん(中央)、社外取締役の戸塚敏夫氏(写真右)と続く

“宇宙通信のAWS”を目指す上でWeb開発の知識は欠かせない

「インフォステラが解決したいのは、小型衛星を作り、飛ばし、サービスを展開していく際の通信インフラ領域です。小型衛星が増え、衛星リモートセンシングや衛星インターネットに注目する事業者も増えている中、課題は衛星用アンテナの運用面にあるからです」

現在、宇宙衛星を介して各種データを受信しているのは、各衛星と対(つい)で開発された専用アンテナか、複数事業者の共同利用目的で開発されたアンテナになっている。だが、これらは2つの理由で常時稼働はしていない。

1つは、衛星とアンテナを開発した公的機関やメーカーの都合によって独自規格で運用されていることが多く、データ通信の規格がバラバラであるためどのアンテナでも人工衛星と通信ができるわけではないという点。もう1つは、一つのアンテナが衛星からのデータを受信できるのは、地球上を回る衛星がアンテナの可視範囲を通過するわずかな時間帯のみとなってしまう点だ。

それゆえ、これまで気象観測といった各種データを利用する事業者は、確保したアンテナに応じた少ない通信時間の中でやりくりする以外に方法がなかった。そこでインフォステラはこの非効率を解消すべく、世界各地に点在するさまざまな種類の衛星用アンテナに自社開発の「ユニバーサル無線機」を導入し、アンテナを疑似的に共通化するための取り組みを進めている。

小型衛星からデータを受信する際の2つの問題を解消できれば、後はデータをため込むクラウドサーバと、そこからAPI経由でシステム連携できる仕組みを整えることで、衛星経由の各種データをオンデマンドで取得するようなサービスができるようになるというわけだ。

「対外的に、僕らが目指す未来は『宇宙通信のAWS』を作ることだと説明しているんです」

インフォステラの事業構想

インフォステラのシステム概念図(同社提供)

ここまで説明すれば、宇宙産業とWeb開発のつながりがイメージできるようになる人も少なくないのではないだろうか。クラウドサーバの設計・運営、データベースの構築、各種APIの設計・開発……。どれもWebサービス開発でも行われている開発領域になる。

「インフォステラのCEOで共同創業者の倉原直美は、小型衛星の開発や衛星管制システムのシステムエンジニアを専門にやってきた人物です。そして、社外取締役には無線機メーカーのエーオーアールで代表を務める戸塚敏夫さんに、顧問として日本の小型⼈工衛星研究の第一人者である東京大学の中須賀真⼀教授に入っていただきました。

そのおかげで、『ユニバーサル無線機』の開発・運用までは、現在いるメンバーやそのつながりによって実現できる体制となっています。だから、残るインフラ部分の開発を進めていくためのWebエンジニアが必要なんです」

顧問にフリークアウト明石信之氏を招聘。Webコミュニティとの距離を縮めたい

では、石亀氏が同社のCOOとして衛星通信ベンチャーの立ち上げに携わった理由は何なのか。

もともと同氏は宇宙ビジネスメディア『astropreneur.net』を個人で運営するなど、宇宙産業に人並みならぬ興味を持っていた。

『astropreneur.net』
石亀氏が手掛けていた『astropreneur.net

ただ、興味と知識だけでCOOは務まらない。インフォステラにおける自身の役割の一つは、「OSS開発のようなWebコミュニティの開発スタイルに慣れた方が仕事しやすい環境を整えること」だと話す。

例えば、非常に些細なことかもしれないが、もともとメールベースで仕事をしていたメンバーが多かったところにSlackやGitHubを会社に導入するようなことから着手している。

「小型衛星の開発や、管制システムの構築など、いわゆるフロントエンドの開発はWebサービスとまったく異なります。でも、先ほど説明したデータを受信した後のバックエンド開発はWebとほぼ変わらないんです。なのに、宇宙産業全体としてまだまだソフトウエアエンジニアの人数が少ないのが実情。実はUSの宇宙ベンチャーでも、最近の採用はもっぱらソフトウエアエンジニアが中心になっているんです」

より具体的に言うなら、Webサービス運営の経験を持つ石亀氏のような人材や、実際にバックエンド開発をリードできるエンジニアが今まで以上に求められているのだそう。

「宇宙産業にも、リーン・スタートアップやGitHubベースのチーム開発のような『Web的なサービス開発』の手法がどんどん入って来ています。サービス開発のスピードがこれまで以上に求められているからです。すでに、ある宇宙ベンチャーのCEOは衛星そのものの開発にアジャイル開発の思想を取り入れるということで、“Agile Aerospace”というキャッチフレーズを掲げていたりするほどです」

こうした潮流をうまく取り入れる一手として、インフォステラはアドテクノロジー企業フリークアウトの執行役員CTOを務める明石信之氏を顧問に迎えている。

同氏は前職のヤフーで巨大な広告配信基盤やビッグデータ解析基盤の開発に従事するなど、Web界隈では名の知れた人物だ。インフォステラでは、『StellarStation』のアーキテクチャ設計から衛星通信デモまで、幅広く技術サポートをしているという。

「明石さんのような方に宇宙産業に関わっていただくのは、非常に重要なことだと考えています。こういった取り組みを通じてWebエンジニアの就職先の一つとして宇宙関連企業が当たり前になっていければと思っていますし、今後は巷で行われるWeb系勉強会に弊社のメンバーが気軽に参加しているような状態になれればと考えています」

取材・文/伊藤健吾(編集部)

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