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大きな方向転換が 「したくてもできない」。老舗サービス『ロリポップ!』を救った“エンジニアの雑談”

#働き方

変化への対応力を養うヒントがここに

「10年プロダクト」の生生流転

移り変わりの激しいIT・Web業界において、プロダクトやサービス、そしてエンジニア個人が「生き続ける」のに必要なものは何か。否応なく起こるさまざまな変化への対応力はどう養ったらいいのか。「10年以上続くプロダクト/サービス」が歩んできた歴史から答えを探る

GMOペパボが運営する『ロリポップ!レンタルサーバー』(以下、ロリポップ)は今年11月でサービス提供開始から20周年を迎える。累計の利用実績は200万サイトを超え、今なお多くのユーザーに愛されている長寿サービスだ。

クラウドやWordPressの登場、競合サービスの増加など、この20年間にレンタルサーバーを取り巻く環境は著しく変化した。しかし激しい外部環境の変化を乗り越えて長くサービスを続けるには、老舗であっても変わり続けないといけない。

ではなぜロリポップは、時代に対応し続けることができたのか。同サービスの運営に10年以上関わっているプリンシパルエンジニアの小田知央さんに聞いた。

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GMOペパボ株式会社 ホスティング事業部 シニアエンジニアリングリード 小田知央さん

法学部を卒業し法律事務所に勤務。インターネット好きが高じてWebデザイナーに転身。その後Webアプリケーションエンジニアとしてのキャリアを積む。2009年にGMOペパボ株式会社に入社。14年に福岡のGO言語コミュニティー『Fukuoka.go』を立ち上げた

レンタルサーバー事業は「革新的な変化が生み出しづらい」

――小田さんがロリポップの運営に関わる10年間で、レンタルサーバー事業を取り巻く外部環境にはどんな変化がありましたか?

まずはユーザーの制作環境の変化が大きいですね。例えば私が入社した2009年頃、Web制作といえば静的サイトが中心で、自身のPC上でファイルを作りFTP経由でサーバーにアップロードしながらサイトを制作する方法が一般的だったと思います。それが2015年頃から、WordPressなどのCMSを使ってブラウザ経由で制作されることが爆発的に増えました。

それに加えて、記憶媒体がハードディスクからSSDに変わったことや暗号化されたTLS接続が主流になってきていることも、ここ10年の話です。

移り変わりの早いWeb業界ですから、ノーコードでデザイン性の高いWebサイトが制作できるサービスが出現するなど、競合他社の動きも活発化しました。中でもAmazonやGoogleを始めとしたクラウドサービスが出てきたのは大きな変化です。

ロリポップ
――これらの変化を受けて、ロリポップのユーザーにも動きが見られましたか?

そうですね。ロリポップは昔から個人サイトだけでなく、企業のビジネスサイトにも多く利用されています。しかし企業の事業規模が拡大すると、それに比例してサイトも大規模になることからレンタルサーバーでは事足りなくなり、別のクラウドサービスに移行してしまうという事例がいくつか出てきました。

こういった外部環境によるユーザー離れは以前から予測できていたのですが、私たちのサービスには簡単には変化できない理由があるのです。

――その理由とは?

レンタルサーバーに求められる機能は、あくまでも「安心、安全に長く使い続けられる」こと。既存ユーザーの使い勝手を考えたら、サービスの大きな方向転換はむしろユーザーの皆さんの負担になってしまいます。

開発チームとしては「大きな方向転換をしたくてもできない」「どう対処すべきか判断が難しい」という状況がしばらく続いていました。

もちろんより運用しやすく、安定したサービスを届けるためのインフラの整備やブランドのリブランディング、WordPress用のセキュリティー診断の提供など、ユーザーの使い勝手を大きく変えずに使いやすくなるような改善は続けてきました。しかしなかなか、革新的な変化は生み出しづらい構造ではありましたね。

雑談から見えた新サービスの可能性

――外部環境の変化によるユーザー離れに対して、ロリポップではどのような手を打ったのでしょうか?

一つ当社としてチャレンジングな取り組みだったのが、2018年にリリースしたロリポップの新プラン『ロリポップ!マネージドクラウド』です。一言でいうと、レンタルサーバーとクラウドの“良いとこ取り”のような新しい概念のサービス。クラウドのような拡張性と自由度がありながらもサーバー運用の専門知識が不要で、簡単にリソースの増減ができるのが特徴です。

例えば、自社のプロダクトやサービスがテレビで放送されてサイトのアクセスが急上昇した時、サイトに対するリクエストに応じて従量課金制でリソースの提供が自動的に変更されるので、サーバーがダウンしません。だから、「サイトが落ちてしまって商機を逃した」なんてことがないわけです。

これは、レンタルサーバーからクラウドへの切り替えを検討しているサイト運用者をメインターゲットにしたサービスですね。

ロリポップ

「技術的にも、Rubyを使った革新的なサービスとして『Ruby biz Grand prix 2019』でグランプリを受賞するなど評価いただいています」(小田さん)

――新しい取り組みが難しいと考えていた中で、なぜそのようなサービスを生み出すことができたのでしょうか?

実は、マネージドクラウドはエンジニアの雑談がきっかけで生まれたサービスなんです。

――雑談、ですか?

当社では2017年より九州大学と技術の共同研究を実施していて、その研究員と当社のエンジニアが、クローズしてしまったサービスの類似サービスについて話していたことがきっかけで。

そのサービスは、サーバーのセットアップや運営の手間が必要なく、開発者が開発に専念できる環境を提供したいと考えリリースしたのですが、なかなかユーザー数が伸びずにクローズすることになって。彼らはそれが「なぜ失敗したのか」と雑談ベースで話していました。

「良いサービスだったけれど、ユーザーが自ら追加リソースを購入・解除する手間が発生したのが原因だったのでは」と話すうちに、「それなら従量課金制で、追加リソースを自動調整できる類似サービスを開発したらいいのでは?」とアイデアが浮かんできたそうです。

――そのアイデアが今のマネージドクラウドに繋がっているわけですね。

はい。しかし一言で「従量課金制のサービスにすればいい」と言っても、そこには技術的な壁がいくつもあったので一筋縄ではいかなそうだなと。

そこで「難しい技術ではあるけれど、このアイデアはいけるぞ」となったところで、社内でも特に技術力の高いエンジニアを集めたチームを結成しました。

私も一員として参加しましたが、本当に実現できるのか分からない状態で立ち上がったプロジェクトであり、リリース直前まで懸念が拭えませんでした。しかし、各エンジニアが専門スキルを活かして全力で問題解決に挑んだからこそ、リリースにこぎつけられたのだろうと思います。

気軽なアウトプットが変化への対応力を養う

――雑談から開発のアイデアが生まれることはよくあるのでしょうか?

そうですね。「雑談」って、アイデアや自分の意見を周りに話す、まさに気軽なアウトプットですから。

エンジニアって、新しい技術を追求するインプットが大事とよく言われますし、私たちももちろんそれは大事だと思っています。マネージクラウドも、いくつもの技術的な課題を世界的に珍しい技術で解決したからこそ、国内で前例のないサービスを実現できた。それはエンジニア一人一人が日々インプットしていたことの表れだと思います。

でも、ペパボではそれと同じくらいアウトプットすることも重視しているんですよ。これはエンジニアに限った話ではなく、企業理念の「もっとおもしろくできる」と共に会社のコア・バリューとなっていて。

だから雑談に限らず、チーム内で情報発信する、SNSやブログに投稿する、イベントに登壇するなど、学んだ内容をアウトプットすることで、その内容がしっかり身に付いているかの再確認になりますし、有益な情報も集まりやすくなると思っています。

――アウトプットを習慣化するにはどうしたら良いでしょうか?

楽しみながら続ける、というのがポイントだと思います。

私の場合は純粋に技術が好きで、新しい技術が出てくると新しいおもちゃが出てきたような感覚で、どんな仕組みなんだろうと調べずにはいられないんです(笑)。まずはそうやってキャッチアップしたものを、同僚とシェアし合ったり、週に1回各分野のエンジニアが集まって、各々が気になったトピックに対してディスカッションする時間を設けたりして意識的に“楽しくアウトプットできる場”を増やしています。そうすれば、何か行き詰まった時でも仲間と一緒に解決できますからね。

ディスカッションに関しては、最新技術だけでなく、内部構造の課題や競合他社の新サービスなど、それぞれが興味がある分野のネタを持ち寄るので、バラエティーに富んでいてネタが尽きることはありません。

――そうやって「人に話す」アウトプットが、また「学び続ける」にもつながっているんですね。

そうですね。「学び続ける」というと敷居が高いように感じてしまうかもしれませんが、まずは気軽に同僚や友人との雑談から始めてもいい。そこからサービス改善の種やエンジニアのスキルアップのヒントが生まれてくると思います。それが変化への対応力にも繋がってくるのではないでしょうか。

取材・文/小林香織 編集/大室倫子

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