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20年以上続く元祖フェムテック・ルナルナ強さの秘訣「“今の姿”にこだわっていたら、最善の選択はできない」

働き方

変化への対応力を養うヒントがここに

「10年プロダクト」の生生流転

移り変わりの激しいIT・Web業界において、プロダクトやサービス、そしてエンジニア個人が「生き続ける」のに必要なものは何か。否応なく起こるさまざまな変化への対応力はどう養ったらいいのか。「10年以上続くプロダクト/サービス」が歩んできた歴史から答えを探る

最近よく耳にする、Female(女性)とTechnologyを掛け合わせた「フェムテック」。この言葉が日本に広がる遥か前、2000年に生理日管理ツールとして生まれたのが『ルナルナ』だ。

ダウンロード数は累計1600万件を突破(※2020年11月時点)。競合のフェムテック系アプリに押されることなく、20年以上にわたって女性に支持されてきた背景には、時代に合わせてサービス内容を変え続けてきた歴史があった。

当初は妊娠前の女性をターゲットとした生理日管理が主な機能のサービスだったが、生理の来ない妊娠中の人やピル服用中の人のための機能を追加し、広く女性をサポートするサービスへの進化してきている。

既存の機能にとらわれることなく、時代の変化に柔軟に対応してこれたのはなぜだろうか。ルナルナの強さの秘訣、そして時代の変化に対応できるエンジニアの共通点を、ルナルナ事業部副事業部長の那須理紗さんに聞いた。

エムティーアイ ヘルスケア事業本部  ルナルナ事業統括部 ルナルナ事業部 副事業部長 那須理紗さん

エムティーアイ ヘルスケア事業本部
ルナルナ事業統括部 ルナルナ事業部 副事業部長
那須理紗さん

晩産化、妊活、ピル服用……20年の間に起きた女性のライフスタイルの変化

――2000年にサービス提供を開始してから現在に至るまで、『ルナルナ』の機能はどのように変化してきたのでしょうか?

ローンチした当初は生理日管理が主な機能でしたが、現在は「ステージ」や「モード」の選択によって、お客さまのライフステージに応じた機能を利用できるようになっています。

例えば、「妊娠希望ステージ」を選択すると、ルナルナのビッグデータを用いた独自のアルゴリズムを活用し、お客さまの生理日データをもとに割り出した妊娠しやすい日が通知されますし、「妊娠中ステージ」を選択すると、妊娠週数に合わせた体調管理に関する情報が配信されます。

また、ピルの服用中は「ピルモード」に切り替えて飲み忘れの防止に役立てていただくなど、より幅広い状況で利用してもらえるようになりました。

エムティーアイ ヘルスケア事業本部  ルナルナ事業統括部 ルナルナ事業部 副事業部長 那須理紗さん
――そのような機能を追加した背景には、何があったのでしょうか?

女性のライフスタイルの変化です。「妊娠・出産だけが女性の幸せではない」と考える人が増えるなど価値観の多様化も進みました。中でも晩婚化や晩産化が進み「妊活」という言葉が生まれたのは、この20年間の最も大きな変化と感じています。また、妊活に取り組む人が増える一方で、最近は月経困難症などの軽減のために、日常的にピルを服用する人も増加傾向にあります。

こうした環境の変化を受けて、私たちはルナルナを単なる「生理日管理ツール」から「さまざまなライフステージの女性をサポートするツール」へと成長させるべく、新たな機能やモードの拡充に取り組んできました。

ガラケー時代には早すぎた。生理日の「パートナー共有機能」

――ルナルナは20年以上にわたって常に女性に受け入れられてきたイメージがありますが、過去にはうまくいかなかった取り組みもあるのでしょうか?

もちろんあります。現在のルナルナには「パートナー共有機能」といって、パートナー同士のコミュニケーションを円滑にするために生理日を共有できる機能があります。

この機能は今でこそ多くの方に使っていただけていますが、ガラケー時代に初めて提供したときには、全く受け入れられませんでした。「自分の生理日を他の人にシェアするなんて信じられない」と、ネガティブな声が多かったんです。

――時代を先取りし過ぎてしまった、と。

そうですね。ガラケー時代は「妊活」という言葉も一般的ではありませんでしたから。生理は個人のセンシティブな話題でした。

エムティーアイ ヘルスケア事業本部  ルナルナ事業統括部 ルナルナ事業部 副事業部長 那須理紗さん
――最近は「変化への対応」という観点からどんな取り組みを行いましたか?

『ルナルナ メディコ』という医療機関向けのサービスを2017年より開始しました。ルナルナに記録された生理日や基礎体温などの体調データを、産婦人科医が診察時に閲覧できるようにするものです。

今までの産婦人科の診察では、前回の生理日を聞かれたり、基礎体温の記録の提出を紙で指導されるケースが多くありました。しかし、医師がそういったデータをパソコンやタブレット上で確認できるようになれば、よりスムーズな診療のサポートになるはずです。

――近年叫ばれている医療DXの文脈にも合いそうなサービスですね。

はい。すでに全国1,000件以上の産婦人科で導入されており、オンライン診療の場でも活用され始めていますし、紙の使用の削減という観点からはコロナ対策にもなります。

女性のヘルスケアを考える上では、医療機関との連携は非常に大切です。これからは個人向けだけではなく医療機関向けのサービスにも注力して、女性と産婦人科をつなぐ役割も果たしていければと考えています。

「サービスの話ではなく、社会の話から入る」
視野を広げるディスカッションのコツ

――これまで、ルナルナが世の中の変化に対応し続けられたのはなぜだと思いますか?

「Try & Try」という会社の方針が大きいと思います。メンバー全員が「とにかくトライし続けよう」という価値観で日々仕事をしています。先ほどの「パートナー共有機能」の話もそうですが、女性のライフスタイルの変化やニーズに寄り添って、新たな機能の拡充をしていますが、世の中に受け入れられるかどうかは実際に提供してみなければ分かりません。そのため、意思決定の場でも「まずやってみよう」という声が出ることは多いですね。

それから、「目の前のサービスをどうするか」だけではなく、「このサービスは将来どうなっているべきか」を日頃から考え続ける姿勢を大切にしています。

――将来を重要視しているのはなぜでしょう?

サービスの将来の「あるべき姿」を考えずに仕事をしていると、「今の姿」にこだわりすぎてしまい、最善の選択ができなくなるからです。

例えば、ステージごとにモードを変えるという機能も、私たちがサービスの「あるべき姿」を考えた結果、追加した機能の一つでした。ルナルナはもともと生理のある女性をターゲットにしていたので、妊娠中だったり閉経していたり、生理がこない女性はターゲットから外れると考えるのが普通だと思います。

しかし、ルナルナには、「すべての女性に寄り添い社会の変化を後押しすることで、女性の幸せの実現に貢献する」というミッションがあります。そういったアプリの「あるべき姿」を考えた結果、生理にとらわれるのではなく、すべての女性に寄り添えるサービスにするべきだと考えました。

もし、ミッションに立ち返ることなく、「生理日管理アプリ」という枠組みにとらわれていたら、これほど充実したサービスは生まれていなかったはずです。

エムティーアイ ヘルスケア事業本部  ルナルナ事業統括部 ルナルナ事業部 副事業部長 那須理紗さん
――常にミッションに立ち返って広い視野から選択する、といった考え方を組織全体に浸透させるために心掛けていることはありますか?

定期的にディスカッションをして、サービス開発の方向性の目線合わせを行っています。ディスカッションではいつも、「サービスの話ではなく社会の話から始める」ことを意識しています。

売り上げなどのサービスに関する数値から議論を始めてしまうと、「サービスをどう改善していくか」「サービスの課題を見つけよう」というように、視野が狭くなりやすいからです。

そうではなく、「女性の就業率の上昇に伴って社会はこうなるんじゃないか」「医療業界はDXが進むとこう変わるかもしれない」というように、世の中の大きな動きに関する情報をインプットした上で議論を進めると、サービス開発の方向性は自ずと一致してくるのではないかと思います。

変化に対応できるエンジニアは、サービスの未来の姿を理解している

――変化への対応が大切な組織において、エンジニアにはどのような素質が必要だと思いますか?

企画に込められた思いに共感して、前向きに議論に参画していただける人がいいですね。「事業部に言われたからやる」ではなく、「一緒に事業をつくっていくんだ」という姿勢で、同じ未来を描いてほしいです。

弊社のエンジニアは「もっとこういう機能にしたらいいんじゃないか」といった提案を積極的にしてくれるのですが、それができるのは、サービスの方向性について深い部分で認識を共有できているからだと思います。

エムティーアイ ヘルスケア事業本部  ルナルナ事業統括部 ルナルナ事業部 副事業部長 那須理紗さん
――「依頼されたものを作る」という受け身のスタンスでは、変化に対応できるエンジニアにはなれないですね。

それに加えて「拡張性を意識した開発ができるか」も大切だと思います。今必要な機能をとりあえず開発するのではなく、「将来このサービスをこうしていきたいから、この機能はこう作るべきだ」と考えた上で開発してもらえると、後で機能の追加や変更が生じた際にも比較的スムーズに対応できるのではないでしょうか。

世の中の変化に対応していくには、そうした配慮のできるエンジニアの存在が欠かせません。目の前のやるべきことがたくさん増えているときだからこそ、サービスの未来まで一緒に考え、事業を共につくっていくエンジニアが必要なのだと思います。

取材・文/一本麻衣

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