キャリア Vol.499

米政府が掲げる“20%ルール”を参考に~元公務員エンジニアが語る「オープンソース×行政」の未来

「安定した仕事」というイメージが強く、一見イノベーションなどには程遠く見える公務員の仕事。そんな生活を捨て、フリーランスエンジニアとしてのキャリアを歩み始めた人物がいる。今年の3月まで、環境省で国立公園のレンジャー(自然保護官)を務めていた鎌田遼氏である。

鎌田氏は大学で水産資源を学び、環境省に入省。レンジャーとして公園のパトロールや野生生物保護、施設管理などを担当していた。そんな彼がエンジニアを志した理由のひとつが「オープンソース志向」にあるという。

オープンソース志向とは、ソースコードを公開し、誰でも自由に扱って良いとする考え方。一般的にソースコードというと、企業秘密として秘匿されることが多いが、「情報の開示」が求められることの多い行政には、今後オープンソース志向が求められてくるのではないだろうか。元公務員として現場を見てきた鎌田氏が考える、テクノロジー視点での日本行政の未来はどんな体制なのだろう。

『WordCamp Tokyo 2016』のトップバッターを飾った鎌田遼氏

『WordCamp Tokyo 2016』のトップバッターを飾った鎌田遼氏

9月17日、『WordCamp Tokyo 2016』にて講演された、鎌田氏の『公務員を辞めた私がオープンソースを志向した理由』から紹介しよう。

プロフィール画像
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鎌田遼 滋賀県米原市在住。学生時代には水産資源の研究を経た後、2011年から環境省にて国立公園レンジャー(自然保護官)として活躍した。16年より、フリーランスエンジニアとして独立

畑違いの「情報技術」。きっかけは、業務上の必要性だった

鎌田氏はもともと、水産資源の調査・研究や国立公園のレンジャーを担っていた「自然科学の研究員」肌。彼にとって、情報技術は専門外の領域だった。しかし、業務上でオープンソース(主にWordPress)の技術が必要になる機会があったのだという。

「当時、私が働いていた国立公園のビジターセンターのWebページは、いわゆる古くさいホームページでした。公的なWebサイトにありがちな、更新性がなく放置されているページで、セキュリティの脆弱性にも問題があるような状態。部署内外から、『もっときちんと、使いやすいようにリニューアルしたい』という声が出ていたんです。そこでWordPressを使ってサイトをリニューアルするプロジェクトに関わったことが、私がオープンソースに触れたきっかけです」

サイトリニューアルを担当した後も、オープンソースやエンジニアリングに関わる機会は多かった。電子文書管理・事務処理の効率化などのペーパーワーク、植生の調査や産後の分布調査、国立公園を管理するためのオープンソースなど、もはやレンジャーとしての仕事の域を超えた仕事が続いていたという。

当時は「オープンソース」という概念すら分からなかったという鎌田氏。こうして必然的に技術を学ばざるを得ない状況となった時に初めて、オープンソースの重要性を感じたのだ。

行政機関こそ、オープンソース志向を持つべきである

そうしてオープンソースを学んだ鎌田氏は、今の政府機関の体質を以下のように分析した。

「行政って、要は『合意形成』のための機関なんです。多様なプレーヤーの意見集約、を得意としている組織。例えば、私がいた環境省では、『自然の保護と利用の両立』が組織の目的の一つでした。自然保護団体などと、その地域を開発したい人・団体との利害調整を行うのが主な仕事です。ですが、それらの利害調整のプロセスには多大なコストが掛けられていました」

その体制はまるで、エンジニアの世界で、特定のベンダーによる囲い込みで迅速な問題解決を阻んでしまう、といった構造に類似しているのだという。

「一度行政に寄せられた意見や成立した制度は、形になった時点で、何かにつけて固定されてしまいます。そういった固定された意見や制度では、変化のスピードが増している現代で、時流の流れや例外の発生に対応できなくなるのは明白。特定のベンダーが業界内で蔓延っているさまとなんら変わりません」

実際に鎌田氏がフリーエンジニアに転身したのも、「こういった古い体質や、さまざまな高い障壁がある中で、行政内部からオープンソース志向を浸透させていくことに限界を感じた」からなのだと語っていた。

しかしながら、こういった古い体質の中で、行政も変わらなければいけない、という考えが、行政内部にも広がってきているのも事実なのだという。

取材後のインタビューに応じる鎌田氏
取材後のインタビューに応じる鎌田氏

行政が今後、オープンソースを使って情報・プロセス・リソースなどの共有を推し進めることで、プロジェクトの効率性・透明性や、イノベーションの実現に大きく寄与するのだろうと、鎌田氏は語る。

「環境省では、開発規制の許可申請(行政に対して開発の許可を得ること)のフローなど、今の時点では情報共有が万全の状態ではありません。これが適切に共有されれば、ワークフローが一変しますし、そうすると行政・申請者の双方のコストが大幅に下げられます。

また、今ではどこの自治体でも必要としているCMSや、文書管理・会計管理などもオープンソースにできるのではないでしょうか。プロダクトに関するドキュメント情報の集約やメンテナンス、機能追加の面で多くのメリットがあるはずです」

日本もアメリカ政府に追随すべき。思想をシフトすることがビジネスにもつながる

世界に視点を移してみると、アメリカ政府では、政府が独自調達するソフトウエアについて、最低でも20%はオープンソースにすべきとしている。オープンソース化することで、政府としてイノベーションを実現するという方針を明確に掲げているのだ。そんなアメリカに対しては、日本はまだまだ遅れている状態と言えるだろう。

「日本政府も、近年ではオープンデータへの取組みを本格化させています。各省庁や自治体では、再利用可能なオープンデータカタログが整備されていますし、一部の自治体ではGitHubの整備も始まっています。ただ、そういった『オープンデータ』ではなく、ソースまで共有するという意味の『オープンソース』に関する言及はまだまだ少ないのが現状です」

ただし、行政とオープンソースが組み合わさると「無償のボランティアである」という文脈で捉えられがちであることも問題だと鎌田氏は考える。オープンソースは思想である以上、それは常に選択肢に留まるべきだと前置きした上で、今後はひとつのビジネスモデルとして機能するのではないかという。

日本行政がオープンソース志向にシフトし、国民の私たちがソースを簡単に入手できるよう公開される。それらを誰もが自由に使用したり、自ら開発したプログラムへの組み込みなどを行なえる。そうすることで行政のオープンソースからイノベーションが始まる、という日も、そう遠くはないのだろう。

最後に鎌田氏は、オープンソース志向を広げるためには一人一人が当事者意識を持つことが重要であると語った。

「公開されたプロジェクトを通して、多くの人とやり取りをしたり、フィードバックをもらうことって、単純に楽しいじゃないですか。オープンソースの普及には、そういった楽しさを含め、積極的に巻き込まれていくスタンスが必要となります。オープンソースは志向の一つなので、当事者として巻き込まれないと何も始まりません」

取材・文/大室倫子 撮影/佐藤健太(ともに編集部)

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