■梶田氏の「プロダクトマネジメント道具箱」■
・Googleアナリティクス
・Google Docs
・Excel
・JIRA
・GitHub
・A4ノート
『THEO』の今と未来を変えるため、過去に学ぶ~お金のデザイン梶田岳志氏の流儀【及川卓也のプロダクトマネジャー探訪】
【よく使うツール】データ解析はスタンダードなツールで。課題の整理はアナログ派
及川 ここで少し話題を変えたいと思います。プロダクトマネジャーの仕事をする中で常用しているツール類を伺いたいのですが、例えば既存ユーザーの分析では何を使っていますか?
梶田 Googleアナリティクスなどのごくごく基本的なツールでやっています。あとは、自分でSQLのコマンドラインを叩いてデータを取得したり。
及川 非常にシンプルなやり方ですね。SQLを叩くツールも使っていないんですか?
梶田 特別なものは使っていないです。
及川 データを取り出した後、分析結果を元に開発チームとディスカッションをする際などは、何かしらのビジュアライズが必要になると思うんですが。
梶田 そこはExcelベースでやっています。僕、昔からExcelが得意なんですよ。Excelで『スーパーマリオ』を作ったこともあります(笑)。
ただ、今後ユーザーが増えてサービス内容が拡充していくと、分析の手間も掛かるようになるので、集計から解析までを自動化するツールや一括で管理するダッシュボード機能は独自に作りたいと思っています。その際のツール選定などは、開発チームにお任せしたい。
及川 現時点で、開発チームとの役割分担ってどうやっているんですか?
梶田 「何年後にこの問題を、こういうプロダクトで解きたい!」といったグランドデザインは私が描いて、そのためにどんなログを取っておくべきで、バックエンドがどうあるべきか?みたいな部分は開発チームに任せるようにしています。
及川 なぜこの質問をしたかというと、エンジニアって、プロダクトマネジャーが開発についてよく分かっていないと付いてこないじゃないですか? 梶田さんはエンジニア出身ではないので、どうやって開発チームを引っ張っているのかな?と思いまして。
梶田 PRD(Product Requirement Document / 製品要求仕様書)は常にドキュメント化してシェアするようにしていますね。ただ、今はチームの人数がそれほど多くないので、お互いに得意なところを担当する、困ったらお互いに助け合う、というやり方でうまく進んでいます。
『THEO』の場合、イシューはJIRAで、コードはGitHubで管理していて、私も適宜開発をサポートできるので。実際、今の開発チームにはフロントエンドが得意なエンジニアがいないので、私がフロントのコードをいじったりもしています。
及川 課題分析や次の打ち手を検討する時は、何かツールを使っていますか?僕は方眼ノートを使って“1人ブレスト”をしたり、ポストイットをホワイドボードに貼り付けたりしながら、アナログなやり方で考えることが多いんですよ。
梶田 あ、私もそこはアナログ派です。何かに煮詰まったら、時間を決めて静かな環境でノートに書きますね。30分くらいひたすら手を止めずに、思い付いたことを書き連ねることもあります。
及川 時間を決めてやるのは理由があるんですか?
梶田 こんなことを書いても意味がない、という思い込みを制限するためですね。現時点で「これには意味がある」と思っていることを、改めて文字に起こしても仕方がないじゃないですか。課題解決に向けて意味がないと思っていたことの中から、意味があるかもしれないつながりを見つけるのが重要なのだと思います。
そのために、書くことがないけど書かないといけない、だから意味とかを考えずに書かないといけない状況を強制的に作って、とにかく何かをアウトプットしようと。
及川 制約が創造を生むわけですか。
梶田 加えて、私は大学時代の専門が哲学だったので、具体的な物事から概念を抽象化して、その概念をもう一度具体的な物事に適用してみて、そこからさらに概念を抽出して……というような考えの進め方に慣れ親しんできました。この時に学んだことが、潜在的なニーズを分析する時などに案外活きているんですよ。
及川 プロダクトマネジメントの仕事に哲学の勉強が役立っているとは興味深い。
梶田 例えば、ユーザー調査の結果をAとBとCというクラスタリングをしたとして、そのうちCのクラスタが抱える課題が自分とは属性が違いすぎて理解できない……というケースがあったとするじゃないですか。そういう時、自分なりに腹落ちさせるために粘着質に繰り返し思考するという習慣は、今でも役立っているかもしれないですね。
【スキルを伸ばす方法】どんな分野にもある「伝統」を学ぶことが突破口に
及川 最後に、幅広いプロダクトマネジメントの業務の中で、あえて梶田さんの強みを一つ挙げていただくとしたら、何になるでしょう?
梶田 うーん……“未来のユーザー”を分析し、言語化して、チームに伝えていく部分でしょうか。
及川 その強みはいつ、どうやって自覚したんですか?
梶田 前職で有料会員事業を切り盛りしていく中で、「会員獲得にはこれが足りない!」と感じた部分をその都度提案しながら試行錯誤していた時ですね。その中のいくつかの施策が成功したことで、ある程度の自信が持てるようになったというか。
及川 何か書籍などを参考にされたことは?
梶田 『世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本』は読みましたね。後は、意外と伝統を学ぶことが大事じゃないかと思っています。
及川 何の「伝統」を学ぶのですか?
梶田 担当プロダクトの事業領域で、過去に何が起こっていたのか? という歴史です。
例えばクックパッドの事業領域で言うと、一口に「料理」と言っても外食産業もあれば家庭料理の世界もある。それぞれの産業の中で、過去に生まれたサービスはどういう課題を解消したかったのか? を勉強していくと、直近で困っていた課題を解決する糸口が見えてきたりするものです。
及川 今抱えている課題は、先達がすでに解決していた!みたいなことって案外多いですよね。実は僕も、『Qiita』のプロダクトマネージャをするようになってから、改めて学習心理学やナレッジマネジメントについて学び直そうと、(その道の大家である)野中郁次郎さんの書籍を読んだりしました。
エンジニア目線で言っても、とあるプロダクトが時代に応じて「どう実装されてきたのか?」まで理解できるようになると、今抱えている課題を解消するきっかけが見えてくることもあります。
梶田 『THEO』が提供する資産運用についても、もっと歴史を学ばねばと思っているところです。日本人はいつ貯蓄という習慣を始めたのか? とか、銀行のビジネスはいつ始まってどう進化・発展していったのか? という点を学び直す中に、新しいヒントがあると思っています。
及川 じゃあ仕事を離れても、そういった勉強をする習慣がおありだと?
梶田 そうですね。歴史の本とか小説を、1日最低30分は読むようにしています。
及川 それもやっぱり30分と時間を区切っているんですね(笑)。では今後、お金のデザインのプロダクトマネジャーとして何を目指して、どんな将来展望を描いてますか?
梶田 個人的には、まだまだプロダクトマネジメントの「型」のようなものが身に付いていないと感じているので、そこはぜひ及川さんに勉強させてほしいと思っていますが(笑)。
及川 欧米の企業でキチンとプロダクトマネジャーを育成・採用しているところだと、社内ではOKR(Objective and Key Result / 目標と主な結果)を設定してPRDを作り、開発チームを引っ張っていきつつ、社外へのアカウンタビリティ(説明責任)を果たせるように動くというのが基本的なジョブディスクリプションとなっています。
でも、同じプロダクトマネジャーでも僕と梶田さんのタイプが少し違っていたように、会社によっても役割は異なりますし、業務を回す上でのアプローチも本当に人それぞれですよ。
ベンチャーのプロダクトマネジメントと大企業のそれとも違うでしょうしね。「毎年10%の改善で大成功」というプロダクトなのか、それとも“挑戦者”として破壊的なイノベーションを目指すのか。
梶田 そうですね。『THEO』は完全に後者です。幸い当社には、及川さんと同じGoogle出身の優秀なエンジニアが多いので、プロダクトマネジャーさえしっかりしていれば新しいイノベーションを起こしていけると確信しています。
及川 今日は貴重なお話をありがとうございました。これからの活躍を期待しています!
>> お金のデザインにおけるプロダクトマネジャーのジョブディスクリプション(採用ページ)はこちら
>> 及川氏が作成した、Incrementsにおけるプロダクトマネジャーのジョブディスクリプション(GitHubページ)はこちら
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取材・文/浦野孝嗣 撮影/伊藤健吾(編集部)
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