予期せぬ停滞?意図した休憩?
男性エンジニア、「キャリアの踊り場」を行く多様なキャリアの選択肢が取れる時代になったとは言え、常に新しい技術を学び続けなければならないエンジニアにとって、「キャリアの一時離脱」は勇気がいるもの。 しかし、どんなキャリアになったとしても、そこにはいろいろな“やりよう”があるはず。 さまざまな「一時離脱、停滞期(=キャリアの踊り場)」を経験したエンジニアの事例から、前向きにキャリアを選択していくヒントを探る。
予期せぬ停滞?意図した休憩?
男性エンジニア、「キャリアの踊り場」を行く多様なキャリアの選択肢が取れる時代になったとは言え、常に新しい技術を学び続けなければならないエンジニアにとって、「キャリアの一時離脱」は勇気がいるもの。 しかし、どんなキャリアになったとしても、そこにはいろいろな“やりよう”があるはず。 さまざまな「一時離脱、停滞期(=キャリアの踊り場)」を経験したエンジニアの事例から、前向きにキャリアを選択していくヒントを探る。
女優の深田恭子さんの活動休止の報道によって、「適応障害」という病が多くの人に知れ渡った。
適応障害は日々のストレスによって引き起こされるもので、どんな人でも発症する可能性を抱えている。特にエンジニアは激務などからメンタル不調に陥りやすいと昔からよく言われており、危機感を感じている人もいるのではないだろうか。
適応障害の治療や予防には、休養が最善とされるケースも多い。だが、技術革新が速いIT業界、一度退いたらもう最前線には戻ってこられないかも……。そんな不安から、メンタル不調で仕事を休むことに抵抗を覚えるエンジニアも少なくないはずだ。
フリーランスのWebエンジニアとして活躍する石田優さんは新卒として入社した会社でSEとして5年ほど働いている中、適応障害を発症。約2カ月半の休職を経てフリーランスへ転身した。現在は週5日客先常駐でエンジニアとして活躍する傍ら、電子書籍執筆やラジオMC、オンライン講師業もこなし、今後は心理カウンセラー業も本格化させるべく精力的に活動している。
一度は心の病で立ち止まった石田さんが、ここまで精力的に活躍の幅を広げることができたのはなぜなのか?
新卒で入社した会社で、Webエンジニアとして要件定義や設計、開発、運用保守などに携わりました。
約5年間働いた後に休職に至ったわけですが、実はその前に2回転職活動をしたことがあったんです。当時はメンタル不調ではなく、収入面や環境を変えたい欲求があって。2回とも内定をもらっていたのですが、会社に引き止められて、結局転職はしませんでした。その頃は自分に自信がなかったので、上司から「どこへ行っても一緒」とか「ほかではまだ通用しないよ」と言われると、自分の意志をつらぬけなかったんです。
そのうち、会社で自己啓発系の研修に行く機会がありました。その研修では最後に一人一人が仕事の目標を発表する場面があったのですが、見事に何も思い浮かばなくて。それ以来、仕事のモチベーションが全く分からなくなってしまいました。
研修以降ずっとモヤモヤとした辛い気持ちが続き、精神的にかなり参ってしまったので病院へ行くと、「適応障害」と診断されました。もちろん担当医師には「仕事を休んだ方がいい」と言われたのですが、一度休むと二度と戻ってこられなくなるのではという恐怖があり、当時は会社とも相談の上、薬を飲みながら働き続けることを選びました。
ところが、無理して働くうちにだんだんと情緒不安定になり、仕事中も些細なことでカッとなってしまうように。ある時ついに手が出そうになってしまい、これ以上働き続けると周りに迷惑を掛けると思って、休職を決意しました。
最初の1~2週間は療養に徹して、何もせずに過ごしましたね。その後はジムへ行って身体を動かしたり、たまに友人と会ったり。1カ月くらいして、「そろそろ社会復帰をしなければ」と思い、転職活動を始めました。
今だから言えることですが、なかったですね。これまでに2回も転職活動をしていましたし、やっぱり合わない環境だったんだなと。過去2回転職をやめて会社に残ったことも正しい選択だったと思い込もうとしていたけれど、本当は失敗だった。休職を経てそれを認められたことで、次へ進もうと思えたんです。
転職活動にあたっては、まずは社会復帰を第一に考えて、前職と同じSEで探しました。結果、2~3社から内定はいただけたのですが、第一志望のところは落ちてしまい決めきれなくて。
そんなときに前職の後輩から連絡をもらい、会うことになったんです。そこで、「フリーランスへの転身を考えているけれど、先輩も興味ありませんか?」と言われ、フリーランスのエンジニアに案件を紹介してくれるサービスの営業担当を紹介してもらうことになりました。
ただ、当時は「紹介してくれた手前断るのも忍びないのでとりあえず会ってみよう」くらいのつもりでした。なぜなら、僕の中でフリーランス=ものすごく仕事ができる人というイメージがあったので。
ところが営業担当に話を聞いてみると、客先常駐というこれまでの働き方と大きく変わらない上に、僕のスキルであれば大体どのくらいで案件を紹介できそうかを教えてもらったところ、前職で働いていた頃よりも高い報酬をもらえそうだということが分かったんです。
それに、話を聞いているうちに、フリーランスであれば会社の文化や思想に縛られずに働くことができるのでは、と気付いたんですよ。それで「まずはやってみよう」と思うことができ、2019年5月からフリーランスとして働き始めました。
いえ、不安は変わらずありました。フリーランスの契約は案件単位なので長くて1年、多くは半年程度。営業担当が紹介をしてくれるとは言っても、次がすぐ見つかる保証はありませんし、案件がない間の生活の保障をしてくれるわけでもありません。
いつ仕事がなくなるか分からない不安は常にあると思っていました。
最初に始めたのはTwitterとnoteです。フリーランスはルールを決めて自分を律することが大切だと思ったので、まずはこれらを毎日更新することを自分に課しました。
そうしたところ、Twitterは約1年でフォロワー1万人に、noteも500日以上連続更新を達成しました。ちょうどそのころnoteのコミュニティーで電子書籍を出版している人を知り、自分も書き溜めたnoteをベースにすれば電子書籍を出せるんじゃないかと思い立って。ある案件が終わるタイミングで2カ月くらい集中的に執筆し、『「あすを楽しむ」ために「いまを生きる」』を出版しました。
まさにそうですね。最初はただ「自分を律するために」と始めたことが、結果的に今のいろいろな仕事につながっています。
現在はオンライン講師の肩書も名乗っていますが、それもnoteがきっかけです。noteの500日以上連続更新達成から編み出した「継続メソッド」を伝えるオンライン講座を、noteのコミュニティーで出会った人の縁で開設しました。
その後、エンジニアとしてのスキルを生かした「初めてのプログラミング講座」、友人と音声メディア『stand.fm』で開設しているラジオチャネルが公式サポーターに認定されたのでその経験を伝える「音声ラジオ番組講座」も開設しています。
最近では適応障害からフリーランスに転身した経験から、人のキャリア相談を受ける機会も増えてきました。相談に乗るには経験だけではなく専門知識も必要だと思い、先日上級心理カウンセラーの資格を取得したところです。これもいずれは仕事にしていきたいですね。
いえ、今も不安は変わらずありますし、多分不安なのが当たり前。当時も「いつ仕事がなくなってもおかしくない」という不安があったからこそ、エンジニアの技術で戦う以外の方向にキャリアを伸ばす戦略も取れたんです。
振り返ると会社員時代も不安はあったんですよね。周りに迷惑をかけてはいけないという責任感からの不安とか、組織から求められることと合っていないのではないかという不安とか。
でも会社員時代の不安とフリーランスの不安を比較したら、僕はフリーランスの不安との方がうまく付き合えている気がします。
そうですね。フリーランスになって、やらざるを得ない状況に置かれたことで、思いついたことを行動に移せるようになったんだと思います。以前であればきっと、「文章を勉強していないから電子書籍を出すなんて無理」「話が下手だから音声配信なんてできない」とやる前から諦めていたと思いますから。それに、実際にやってみると、試行錯誤しながら挑戦するのが楽しくて。
でも、「フリーランスが最高!」と言いたいわけではありません。僕にはたまたまフリーランスが合っていたけれど、フリーランスが万人に向く働き方だとは思いません。
多分僕は、人に敷いてもらったレールを歩くより、自分でレールを作るほうが楽しいと思えるタイプ。それに気が付けず、ずっと会社が敷いたレールの上を歩いていたから辛かったのでしょう。
フリーランスの向き不向きはあると思います。向いているのは、何でも自分の責任でとらえられる人。少し嫌な言い方かもしれないですが、例えばコロナ禍で苦境に立たされてから「どうしようか」と考え始めるのは、フリーランスとしては遅いと思うんです。いつ何があってもいいように日頃から行動できていて、何でもやってみようという意思を持てる人がフリーランス向きだと思います。
大事なのは自分の性格を踏まえて、自分らしい働き方を見つけることではないでしょうか。
僕は最初の会社でギリギリまで我慢してしまいましたが、皆さんには無理せずに自分の性格や志向と向き合ってみてほしいです。そうすれば、きっと毎日が充実して、より幸せな気持ちで過ごせるのではないかと思います。
取材・文/古屋江美子 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)
石田さんが自身の経験を経て大切にしている言葉や考え方をまとめた著書。
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