キャリア Vol.1189

「SESの経験、どう活かす?」ブラックSESで過ごした2人に、そこで得たものを聞いてみた

検証!“SESはダメ”ってホント?

ネット上には、数々の「SES脱出」ノウハウが出回っている。しかし、SESは本当に“脱出”しなければいけない場所なのか? 本特集では、SESで働く技術者・経営者や人材業界の識者への取材をもとに、SESにまつわるネガティブな噂の真相を検証。SESエンジニアが仕事を楽しみ、“いいキャリア”を築くための方法を紹介する。

IT業界の中でもネガティブなイメージを持たれやすいSES。「単純作業ばかりでキャリアアップができない」「パワハラや長時間労働が当たり前」。そんな企業も実際に少なくないようだ。

では、そうしたSESに入ってしまったエンジニアは、どうすれば次のステップに進めるのだろうか?

そこで今回は、2人の「ブラックSES経験者」に直撃。彼らはブラックSESをどう抜けて、その後、そこでの経験はどう活かされているのか。リアルな実体験を聞いた。

【CASE1】2徹3徹、休日出勤……体力限界SESからIT系スタートアップに行き着いたVTRyoさんの場合

プロフィール画像
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VTRyoさん(@3s_hvSES遍歴:大学で心理学を学んだ後、ITの知識がないまま都内SES企業へ入社。インフラエンジニアとして、月半分の残業だけで月労働時間350時間を超える激務を経験。
現在:はじめての転職でホワイトな受託企業に転職。その後2018年に2度目の転職で、クラウド営業支援ツール『Senses(センシーズ)』を展開するITスタートアップ株式会社マツリカに入社
詳細プロフィール:https://vtryo.me/


ーーVTRyoさんは、現在どんな仕事をされているんですか?

SaaS系自社サービスを持つスタートアップで、SREとしてAWS、Kubernetesを中心とした基盤構築や、Ruby on Railsによる開発業務に携わっています。また副業で技術系の執筆活動や、作家活動もしています。

ーー本業だけでなく、副業にも力を入れていらっしゃるんですね。でも、以前はかなり大変なSESにいらっしゃったとのことですが……。

大学卒業後、未経験で業界知識もなく、何も分からないままとりあえず内定が出たSES企業に入社しました。ある現場に配属され、半月ほどは定時で帰宅できていたのですが、途中から雲行きが怪しくなり、月の残り半分だけで合計労働時間が350時間を超えたんです。それからは2徹、3徹や休日出勤は当たり前に。

同じ時期に参画したはずの他社のメンバーはどんどんいなくなっていきました。中には、スクリプトを書いている最中に倒れ、そのまま入院して連絡が取れなくなった人もいました。

このままでは自分も倒れてしまうと思い、命を守るために密かにExcelのマクロを勉強し、膨大な作業の自動化を図ったことがあったんです。でも上長には「末端社員が作ったものを認めるわけにはいかない。しかるべき手続きを踏まないと……」と言われ、採用されることはありませんでした。

結果的に自分自身も体調を壊し、合計2回病院送りになってしまいました。

ーーそれは壮絶でしたね……。一度こういったSESに入社してしまうと、キャリアアップが難しいといった話もよく聞きます。

ええ。実際私も最初に転職活動を始めた時、転職エージェントに登録して10社ほど面接を受けましたが、ことごとく落ちてしまいました。

その時担当してくれていたキャリアアドバイザーからは、「退職理由が『つらい』だけでネガティブすぎる」「Web系の自社開発に行きたいというけれど、スキルが足りていない」とフィードバックを受けました。

私が長時間労働で必死に戦って得たスキルは本当に何の役にも立たなかったんです。ただ健康を害しただけで、成長していない。絶望感でいっぱいになりましたね。

絶望するエンジニア

それからしばらくは転職活動を休止し、土日を活用して技術の勉強を始めました。また、もともとやりたいことが特になかったのですが、この機会に自分が興味を持てることや、「やりたくないこと、嫌なこと」を改めて考える時間も取りました。

その後転職活動を再開したら、選考はスムーズに進み、自社開発と受託案件を手掛けるIT企業に転職することができたんです。そしてそのまた1年後、現在の職場に移りました。

ーー忙しい中でもスキルアップやキャリアの棚卸しの時間を取ったことが、キャリアアップにつながったんですね。

はい。一度目の転職の時は「忙しすぎて勉強の時間なんて取れない」と思っていましたが、無理をしてでも取り組んで良かったと思っています。

2社目も今の会社も非常に働きやすい環境で、本当に毎日が充実しています。もともと好きだった執筆活動に充てる時間も取れるようになりました。

『セイチョウジャーニー』『誰も知らないエンドポイント』などの書籍を自費出版し、技術書典に出展したり、Techpitというプログラミング学習プラットフォームやWantedlyの企業ページでの執筆をしたり。仕事と好きなことを両立できているので、今は毎日が楽しいですね。

ーー今改めて振り返って、SESでどんなことを学びましたか?

一つは「やりたいこと」を見つけられるようになったことです。もともとエンジニアになりたくてなったわけではなかったので、一度目の転職活動の時は転職理由をうまく見つけられませんでした。でもSESでつらいことや嫌なことを沢山経験したので、そこから逆算して考えることができるようになったんです。

例えばマクロによる自動化を図ったことを思い返すと、自分は単純作業に膨大な労力を費やすのは嫌だと思った。だったら、自動化できずに困っている企業に行って貢献したい、というように。これはその後のキャリアを考える上でも大いに役立ちました。

もう一つは健康の大切さですね。あの時は「ここで抜けたら二度と同じポジションには戻れない」という恐怖で休めず、「自分はまだ大丈夫」と言い聞かせて頑張り続けてしまいました。でも今健康的に働いていて思うのは、健康であればあるほどさまざまな活動ができ、新しい世界に行けるのだということ。

当時は明日を生き抜くことで頭がいっぱいでしたが、今は数年後の未来を考えて行動できるようになりました。

ーーSESで体力的にも精神的にも疲弊していた時には気付けなかったことですよね。

そうですね。あと今振り返って思うのは、「SESが全部悪いわけではない」ということです。

退職当時はSESを悪魔のように感じていましたが、退職してからこれまでに、尊敬できるSESの経営者や、楽しく働いているエンジニアをたくさん見てきました。それに、所属していたSESについても、私は健康を害して辞めてしまいましたが、実は私の同期は誰も辞めてはいないそうです。単に私の性格や体質にいただいた案件内容と合わなかったというだけで、他の人、他の案件はそうではなかったのかもしれない。

だから、単に「ブラックだから」「SESだから」と一括りに考えるのではなく、その会社の何が合わないのか、何が嫌なのかを冷静に見極め、自分の生き方に合う場所を見つけることが大切なんだと思うようになりましたね。

私が経験してきたキャリアは、最初から狙って描いたものではありませんでした。たまたまITエンジニアになり、たまたま身体に合わない仕事をしたことで、結果的にやりたいことが見つかったんです。

現在はそのような「偶然」をベースにキャリアを構築する書籍を執筆中です。随時Twitterで情報発信をしていきますので、興味が湧いた方はぜひフォローしていただけたら嬉しいです。

【CASE2】パワハラ、労基違反がはびこるブラックSES歴12年→ホワイトSESを立ち上げた、えも社長さんの場合

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えも@SES社長【正社員募集中】さん(@ses48740815SES遍歴:大学を卒業後、大手メーカーのシステム系子会社にCOBOLエンジニアとして入社。その後、従業員20人ほどのSESでJavaのテスターとして勤務。それからも、正社員やフリーランスとして4社以上のSESに勤務するも、過酷な長時間労働やパワハラ、恫喝などが相次ぐ。
現在:「エンジニアが報われる会社」株式会社リンクを起業。現在は30人強の会社へ拡大。会社HP求人用HP


ーーえも社長さんは、ご自身でSES企業を経営されているんですよね。

はい。これまで自分自身がブラックSESでさんざんな経験をしてきたので、その経験を糧に、エンジニアの健康とキャリアアップを第一に考えた会社をつくろうと、今の会社を立ち上げました。

長時間労働やパワハラが発覚した現場は積極的に改善。エンジニア一人一人に営業が「コンシェルジュ」として付き、キャリアに見合った案件にアサインできるよう調整しています。社員の3年後を見据えて、要件定義など上流のスキルが身に付く案件を選んで営業しています。

ーーTwitterを拝見すると、えも社長さんはこれまでブラックSESでかなりのご苦労をされてきたようですね…。

はい。これまで自社開発企業やフリーランスも経験しましたが、一番長い時間を過ごしたのはSESの現場ですね。トータルすると12年はいわゆる「ブラックSES」にいたと思います。

パワハラ三昧、うつ病の診断書を出すと握りつぶされ脅される、正社員だと思って入社したのにアルバイトだった……。巷で噂に聞くような話は大体経験してきましたね。

中でもヤバかったのは、週3日、12時間にわたる夜勤を命じておきながら、夜勤明けの日を休もうとすると「欠勤控除で減給するぞ」と言われたことです。夜勤明けって、普通は調整が入るものなんですけどね……。

パワハラ上司

他にも、残業を8時間以上したら、残業代じゃなく「代休」が出る、なんて会社もありました。休む暇がないから代休なんて使えるはずがないんですが、使えなかったらその代休を数千円で買い取ってくれるんです。8時間の残業代が、数千円に変わるトラップですよ。

ーー本当にそんなことがあるんですね……。SES企業の経営者という今のお立場から見て、なぜこのような「ブラックSES」が存在してしまうのだと思いますか?

長時間労働についてはSESのビジネスモデルが、エンジニアを働かせれば働かせるほど利益が上がる仕組みだからだと思います。パワハラについては改善に向けて動いても、パワハラを是正すべき会社や役員にメリットがないからではないでしょうか。

悲しいことですが、パワハラをする側とされる側では、する側のほうが売り上げをあげているケースが多いです。売り上げをあげているパワハラ社員を指導して退職されるより、パワハラされている方に我慢させてなんとか頑張ってもらう方が経営的には良いですよね。

あと、パワハラをする人間って普通じゃないので少し面倒くさいんですよね。上司的には問題を改善しても給与や出世に関係がないので、なあなあにしてしまっているのではと思います。

ーーこうしたSESに勤め、精神や体力ばかり消耗してキャリアアップができないエンジニア一定数いると思います。どうすればそういった事態を防げるでしょうか。

やはり「会社選び」が大事になるのだと思います。

自分のことを振り返って思いますが、ブラックSESや、ブラックまではいかなくても、キャリアアップしにくいSESに入ってしまうエンジニアに共通しているのが、「会社を選んでいない」ということです。

転職サイトに登録するとスカウトメールが来ますよね。すると、なんだか自分を認めてもらえたような気がしてうれしくなって、その一社しか見ずに転職を決めてしまう。そんなことをしてしまう人が多いような気がします。

スカウトメールを送ってくる会社が悪いというわけではなく、そこで浮かれずにきちんと自分の目で会社を選ぶことが大切なんですよね。

ーーなるほど。会社を見極める上で、ポイントなどはありますか?

あくまでこれまでの経験上ですが、ホームページを見た時に、会社のビジョンや強みが具体的に書いてあれば多少は信用できるのではと思います。抽象的で何を言っているか分からない企業は怪しい可能性がありますね。

あとは、面接の際にきちんと話を聞くことが大切です。例えばその企業がどのような案件をどのくらい持っているかを、実績ベースで聞くことは必須です。

取引先の数が極端に少ない会社は、勤務条件の良くない案件にもエンジニアをアサインせざるを得ないんです。案件を選べないため、長時間労働やパワハラが発覚しても現場を終了することができません。

「どんな仕事がありますか?」「僕はこういうスキルを身に付けたいのですがそれに合う案件はありますか?」と、しっかり聞いた方がいいと思います。

面接

またエンジニア思いの会社なら、転職者の話をよく話を聞いてくれます。これまでのブラックエピソードを話して「それは大変だったね」「それは絶対に良くないよね」と、まともな反応をしてくれる会社は信用できるのではないでしょうか。

ーーその会社がどんな方針を掲げているのか、どんな案件を持っているのかを、知りに行く工夫が必要なんですね。

はい。あとは、案外一番大変なのって「退職すること」なんですよね。ブラックな会社ほどエンジニアがすぐ辞めてしまうので、引き留めもすごいんですよ。

給料や待遇の不満を理由にしても「改善するから」と言われ、退職届を受理されず、永遠に話し合いの面談を組まれ続けます。当然待遇は変わりません。

これまでの経験上、一番有効な退職理由は「家庭の事情」です。「親が病気なので実家に戻ります」と言われたら、さすがに会社側もそれ以上は何も言えませんからね。

最もやってはいけないのは、転職先の社名を伝えることです。特に転職先が同業者だった場合、所属企業から転職先に連絡が入り、内定取り消しになるなんて話はザラにあります。

ーー「家庭の事情」と嘘をつくのは心苦しいですが、時には嘘も方便ですね。今改めてブラックSESの経験を振り返ってみてどう感じますか?

冒頭にもお話した通り、私の場合はブラックSESで過ごした経験が、今の会社づくりの糧になっています。だからこれまでの経験が全く無駄だったとは思わないですね。

会社を立ち上げた後、多くの取引先を開拓したことによって、劣悪な労働環境を強要するクライアントを断れるようになりました。今では多くの会社と取引がありますし、新しい案件があった時に連絡をいただける会社も500社以上に増えました。エンジニアに希望の案件をアサインできるよう、クライアントとの関係性づくりにも力を入れています。こうした環境を整えたことで、当社は退職者が一人も出ていません。

長い間大変な思いをしましたが、その経験があるからこそエンジニアの気持ちがよく分かります。エンジニアにとって働きやすい環境をつくることもできました。これからもエンジニアが幸せに働けるよう業務を拡大しながら、「ホワイトなSES」の経営者同士でつながって、働きやすいSESを増やしていきたいと思っています。

取材・文/石川香苗子 編集/河西ことみ(編集部)

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