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退職ツイートにDM100件以上!元エムスリー西場さんの転職から見る「声が掛かるエンジニア」になるヒント

転職

2021年4月頭、エムスリーに所属していた西場正浩さんの退職ツイートがエンジニア界隈で話題になった。

この投稿には約2000ものいいねが付き、DMには100社以上からの連絡が届いたという。彼は40社以上とのカジュアル面談を経て、最終的には次のキャリアにSansanを選び、R&Dを担う部署、DSOCの副部長として7月1日にジョインした。

西場さんは以前からエンジニア出身のプロダクトマネジャーとしてイベント登壇なども多数しており、「カジュアル面談ブーム」を引き起こした一人でもある。もともと広く認知されていたビジネスパーソンではあったが、彼の転職にここまでの注目が集まったのはなぜなのか。一体どうすれば、彼のように1ツイートで100社以上からも声が掛かる人になれるのか?

西場さんと、彼にオファーをした1人でもあるSansan CTOの藤倉成太さんに主観と客観で語ってもらった。

藤倉さん、西場さん

(写真左)Sansan株式会社 執行役員/CTO/VPoE 藤倉成太さん
株式会社オージス総研でシリコンバレーに赴任し、現地ベンチャー企業との共同開発事業に携わる。帰国後は開発ツールなどの技術開発に従事する傍ら、金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻を修了。2009年にSansan株式会社へ入社。現在はCTO兼VPoEとして技術戦略の指揮とエンジニア組織の強化を担う
(写真右)DSOC 研究開発部 副部長 西場正浩さん
17年、エムスリーに入社。AI・機械学習チームのリーダーを努めながら、プロダクトマネジャーとして複数のプロダクト開発に従事。『AskDoctors』といったコンシューマー向けのサービスを開発するエンジニアチームの事業責任者も務める。2021年7月、Sansanに入社。データ統括組織DSOCの研究開発部 副部長に就任

「意外性」と「応援の気持ち」によって、退職ツイートが拡散

――そもそも今回、なぜ転職を?

西場:エムスリーに機械学習エンジニアとして入社して4年。採用プロモーションやプロダクトマネジャー(以下PdM)、エンジニアリングマネジャー、最後の1年は事業責任者も兼任するなどいろんな経験をしました。その中で、次はもっと中長期的に、組織づくりや経営的なところに挑戦していきたい気持ちが強くなったんです。

また、エムスリーはある程度完成された会社だし、僕の働き方や影響力、社内人脈も成熟しているように感じていました。そういう場所ではなく、全く新しいフィールドで、新しい人たちとでもやっていけるのか。それを試す意味も含めて、チャレンジができる面白い場所を探そうと思いました。

それに大分前から、エムスリーのメンバーの育成という意味でもそろそろ僕は抜けるべきだと考えていたんです。優秀なメンバーがたくさん入ってきてくれて、彼らがリーダーとしてちゃんと育ってきている。彼らのためにもリーダーの席をどいてあげないと、と。

――辞めることを伝えた時、社内の人はどんな反応をしていましたか?

西場:みんな驚いてはいましたが、もともと公の場でも「ずっと居るとは限らない」という話はしていたので、「その時がきたのか」という感じだったんじゃないかな。ありがたいことに「もっと一緒に働きたい」と言ってくれる人もいましたけどね。

藤倉さん、西場さん
――もともと「ずっと居るとは限らない」と宣言されていたにもかかわらず、退職ツイートはすごい反響でしたよね。

西場:Twitterは転職ネタが注目を集めやすいというのはあるとは思いますが、僕の場合は直近エムスリーの採用でカジュアル面談を積極的にやるなどかなり前に出ていたので、社外の人にとって意外性はあったのかもしれないですね。

あと、僕は本当に会社を知らなかったので、ツイートに「面白い会社があったら教えてね」というようなことを書いたんです。それで応援の気持ちで広めてくださった人がいて、結果的に多くの人の目に触れたのかな、と。まあでも、ここまでの反響があるのは想定外でした(笑)。数え切れてはいないですけど、あのツイートをきっかけに100社以上から連絡をいただきましたね。

――100社以上!すごいですね。藤倉さんもそのツイートにリプライされてましたよね。

藤倉:朝何気なくTwitterを開いたらあのツイートがタイムラインに出てきて、「おお、まじか!」と。ただ、もともとの印象からゴリゴリとアプローチされることはあまり望んでいないんじゃないかなとも思ったので、とりあえず「Sansanのことも思い出してね」くらいのソフトなリプライをしましたね。

西場:もちろん覚えてましたよ(笑)。社内のSlackで定期的に藤倉さんの記事をシェアしたりもしていたので。

ただ正直言うと、その時点ですでに数社受けていましたが、Sansanは全く候補に上がっていなかったんですよね。

傍から見ていて「僕が行ってもな」というところもあったし、自分に向いているポジションがあるのか、どんなチャレンジができるのかが分からなくて。だから、あのときリプライをもらっていなければ今こうしてここに居ることはなかったと思います。

藤倉:それは良かった(笑)。こういうの、ちゃんとやっておくべきですね。

藤倉さん、西場さん

イベント登壇、ツイート内容……立ち振る舞いは全てビジネス戦略

――藤倉さんはなぜ西場さんに声を掛けようと思われたんでしょう?

藤倉:優秀なビジネスパーソンだと認識していたからですね。これまでがっつり関わったことはなかったのですが、エムスリーさんとは勉強会などで度々ご一緒する機会があって。そこでの発表内容や発言を通じて、西場さんはただ技術に明るいだけではなく「深めること」を知っていて、かつ事業を前に進めるために自分がどう振る舞うべきかを常に考えている人なんだろうな、というふうに見えていたんです。

僕が一緒に働きたい、Sansanに来てほしいと思う人ってやっぱりそういう人。例えばプロダクト開発のスケジュールを引くときって、「事業として何とかここまでにリリースしてもらわないと困ります」っていうのが条件じゃないですか。

つまりエンジニアがやる作業や意思決定、全ての前提や条件はビジネス側からしかきていないわけで、そこに対する理解や解像度が低い人は正しい判断ができない恐れがある。それはマネジャーレイヤーだけでなく、いちエンジニアとしても同じように大切で、西場さんはビジネスへの理解が優れている印象があったので以前からいいなと思っていました。

――どんなシーンでそう感じたんですか?

藤倉:具体的にこれが、というのは難しいんですが、彼には「意図的に自分を前に出している」雰囲気あったんですよね。中には目立ちたくてつい前に出てしまう人もいるけれど、それとは違って戦略的に。振る舞いや言葉の使い方でそんな印象を受けました。

西場:露出の仕方に関していえば、確かに意図的にやっていましたね。エムスリーの場合は僕が入社した時点ではまだまだ知名度が低かったので、「知名度を上げる」というのが僕のミッションだった。そのための一つの方法として、一時期は僕自身が前に出るという手法を取っていたんです。

関連するところで、実はTwitterとかも結構考えて運営してるんですよ。例えば最近は犬の写真を上げたり、家族ネタをよくつぶやいたりしているんです。

ある時チームメンバーに「西場は家庭を犠牲にしてそう、ライフワークバランスが悪そう」って言われたことがあって。確かに複数のグループを兼任していたから忙しそうなイメージを持たれるのも分かりますけど、実際は家庭も大事にしていたし、「マネジャーになるとプライベートを犠牲にしなければいけない」と変な印象を持たれるのも良くないなと思ってのことです。

そんなふうに、受け取る側の感情に寄り添いながら、今ある課題から逆算しながら、前に出る出ないとか、発信内容を変えていますね。

――すごく戦略家なんですね。そういうところを藤倉さんは見抜かれたと。それで、カジュアル面談ではどんなお話を?

西場:「お久しぶりです」「なんで辞めるの?」「Sansan興味ある?」みたいな話ですね。あとは今回所属することになったDSOCについてもそこで紹介してもらいました。

もちろん存在は知っていたし、ブログを見たことは何度もあるのですが、その時点での状況や今後について改めて伺って。あとは僕からも、入社したらどんなチャレンジができるのか、などを質問させてもらいましたね。

カジュアル面談をする前はR&Dの部署というと自分から一番遠いところなイメージがあったのですが、話を聞くとDSOCはいわゆるR&Dというよりは「高い技術を持った人たちがビジネス課題にチャレンジする場」といった印象を受けたのでかなり興味を持ちました。これまで抱いていたSansanのイメージとは大分違って面白そうだな、と。

藤倉さん、西場さん

藤倉:割と前のことなので話した内容はあまり覚えていないんですが、30分経った瞬間に「じゃ、次があるので」と言ってプツッと切られたのは衝撃でしたね。ネクストアクションが握れていなかったのでかなり焦りました(笑)

――他社も含めて、どのくらい面談されたんですか?

西場:DMいただいた中から40社くらいとカジュアル面談しました。1社30分の面談を2週間で組んで、そこから15社くらいまで絞った感じですね。

――第1フェーズで40社、第2フェーズでも15社って、かなり多いようにも思えます。

西場:エムスリーに転職する前は、15社受けて書類が2社しか通らなかったから不安で(笑)。15社受けたら最終的なオファーをいただけるのは2社くらいかな、と読んでいたんです。

――意外と保守的なんですね。それから、どのようにしてSansanに決めていかれたんでしょう?

西場:経緯はいろいろとあるのですが、藤倉さんとの面談の後に代表の寺田さんをはじめ役員合計4~5人くらいに会わせていただきました。チャレンジができそうだと思えたし、未知数な部分も僕にとっては魅力的に感じたので決めました。

実は過去にSansan出身者の話を聞いていたこともあり、もともとSansanにはやや固い印象を抱いていたんですよ。でも皆さんと話をするうちに、彼らが在籍していたのはランド・アンド・エクスパンド(※)のランドに注力するフェーズであって、今後はエクスパンドをやっていくフェーズだからさまざまな挑戦ができそうだ、というのが分かって。

あとは皆さんから長文でメールをいただいたんです。僕、アツくてエモい人が好きなので、そこもグッときましたね。

(※)まずは小規模のサービス導入から始めて顧客との関係性を築き、徐々にアップセル・クロスセルによって売り上げ拡大を狙う戦略

――時期が良かった部分もあったんですね。

西場:やっぱり企業ってビジネスの状況や組織の大きさ、世の中の流れでどんどん変わっていくじゃないですか。たまたま僕の状況と、Sansanのフェーズがマッチした。それは非常に幸運だったなと思います。

「技術に尖った人」だけに開かれていたSNS転職の価値観が変わりつつある

――改めて、今回西場さんの転職に多くの人が注目して、たくさんの企業から声が掛かったのはなぜなのか、という点について、ご自身ではどうお考えですか。

西場:一つはもともとSNSで有名だったというのが挙げられますが、じゃあなぜ有名だったのかを考えてみると、「学びを発信していた」ことが大きかったのだと思っています。仕事の成果や技術的な学びを言語化して、それを外に対して発信することによって有名になっていった。言語化の大切さは、藤倉さんも過去の記事で常々おっしゃっていましたよね。

もう一つは、自分の持つ「テクノロジー×ビジネス」の素養が高く評価してもらえたのかなと思いますね。僕はバックグラウンドがエンジニアで、PdMをやって、最後の1年間は事業責任者も担っていたのでビジネス力はそれなりにあると認識いただいていたのでは、と。そして、そういうスキルの組み合わせが、マーケットで価値があって希少性も高かったというところが大きかったんじゃないかな。

ただ、あくまでそれは今のマーケットと今の僕の話なので、例えば、数年後にSansanを辞めると言ったとして同じような反響があるかと言えば、年齢的な問題、時代的な問題もあると思う。今後はPdMを経験したエンジニアは増えてくると思うので、次の数年間はもうちょっと考えなければいけません。

今のところは、「『テクノロジー×ビジネス』の人材を育てられる組織をつくれる人」みたいなところにチャレンジして、数年後も声が掛かるような人材になりたいなと思っています。

藤倉:客観的に見ていて思ったのは、TwitterなどのSNSで転職のきっかけをつかむ人、声が掛かる人って過去にもたくさんいたと思うんですが、以前は「オープンソースのコミッタ―やっています」「著書が何冊もあります」みたいな、技術一本のすごく強いテクノロジストのみに開かれていた門という印象があって。

一方で西場さんはご自身でも言われているように、技術だけでゴリゴリ尖るタイプじゃないのにこれだけ注目を集めたというのは、何というか今までと質感が違うように感じるんですよね。

これまで世の中のエンジニアは「本当の強者しかSNS転職なんてできないんじゃないか」と思っていたかもしれない。でも実はそんなことはなくて、ちゃんとエンジニアリングを全うしていれば西場さんのようになれるかもしれないという、もう一つの選択肢が出てきたということなんじゃないかな、と。

藤倉さん、西場さん

西場:そうだと思いますね。僕の周りにも技術だけを追求するのではなく、ビジネスやプロダクトに貢献したいというエンジニアは増えてきていて、そういう人たちに今回の件で少しでもプラスの影響があればいいなと思っています。

まずは「相手を理解すること」から始めよう

――読者の若手エンジニアたちが「声が掛かるエンジニア」になるために、明日からできることはありますか?

西場:技術力を上げるというのが大前提で、あとは自分が作っているサービスを知ることじゃないですかね。特に、日常的に自分のサービスを使っているエンジニアって強いと思うんですよ。エムスリーで『AskDoctors』というサービスをやっていたんですけど、みんな自分のサービスめっちゃ使ってるんですよね。すると、エンジニアなんだけどビジネス理解度とかプロモーション施策とか、僕が「こうやりたい」っていうことの理解度がすごく高くて。

そういう人たちって良いプロダクト、良いビジネスを作りたいと思っているときに強力なんですよ。だからそういう人材になるためにも、自社や自分のサービスにもっと興味を持つのが、特に若い人たちにとってはいいのかなと。

これは意外と簡単なことで、例えばユーザーインタビューに同席してみたり、クライアントのミーティングに同席するだけでも視野が広がります。BtoBでも自社のサービスを導入してくれている会社を調べてみたり、デモ画面をいじってみたり。あとは、Sansanの『Eight』を入れるのがおすすめですよ。自社のニュースが届くので、習慣化しやすいと思います。

藤倉さん、西場さん

藤倉:僕は、ポジティブであった方が良いなと思いますね。

例えば「ビジネスサイドとエンジニアがちょっと噛み合わない」みたいなことってどこの会社でもよくある話ですよね。そういうとき、エンジニア側から見たら文句を言いたくなる部分もあるのかもしれないけど、逆サイドから見てみると彼らの持っている制約や条件、情報の中で精一杯やった結果なわけじゃないですか。その裏側をちゃんと理解した上で指摘事項があれば改善すればいいけど、一方向の視界だけから否定をするのはナンセンスだと思っていて。

世の中を見渡せばそういうことってたくさんあります。近所のコンビニの品揃えがいまいちだったとしても、その裏の経営や運営には全てに理由があるわけですよ。自分自身が納得、満足できるかどうかはさておき、全ての事象はある特定の人たちが一生懸命やった結果なわけで、そこへの理解があってこそ、何かを前に進めるアイデアや発見が出てくると思うんです。でも、文句ばかり言ってるとそういうことを見落としてしまうと思うんですよね。

なので、SNSを個人のアカウントとして楽しむ分には何を言ってもいいと思いますけど、「声が掛かるかどうか」で言えば「ネガティブだな、文句が多いなこの人」っていう人は難しいのかなと。われわれは一緒に夢を追いたい、野望に向き合いたい人を探しているわけで、それはポジティブな人とやっていきたいですからね。

西場:相手の立場に立って考えるって本当に難しいですよね。例えば、営業の人が「納期に間に合わないのでエンジニアを増やしてください」と言ってくるけど、エンジニアからすれば「増やしたところで早くなりません」という会話がなぜ起きてしまうかというと、やはり営業側はエンジニアリングが何かを知らないから。

逆にエンジニアが営業に対して、「あなたの部下を新卒3人アサインするから4倍の成果だしてください」って言ったら無理ってなるじゃないですか。

お互いに逆のこと言われたらできないよってなるのに、相手のことになるといきなり分からなくなる。それは誰かの経験が乏しいとかそういう話ではなく、お互いに解像度が低いからなんですよね。だからこそ、相手のことを知るというのはすごい大事なんだなって思います。

そしてそれが最終的には「テクノロジー×ビジネス」のスキルにつながっていくと思うんですよ。ビジネスが分かるっていうか、「ビジネス貢献できるエンジニアになる」というところに。

――相手への理解が、「テクノロジー×ビジネス」の第一歩だと。

西場:ええ。それで、先ほども軽く話しましたけど、僕はSansanでそういう人材を育てることに注力していきたいんですよね。テクノロジーをビジネスに育てていくためには、エンジニアとビジネスサイドの人たちを物理的に近づけていくことが大切で、会社の制度や仕組み、仕事の仕方をアップデートしながらチャレンジしていきたい。

そのためにもまずは社内に友だちを増やしたいなと。友だちが多いと影響力っていうか、ネットワークができるじゃないですか。会社も結局は一つのコミュニティーなので、そのハブの役割を僕が担えたらな、と思ってるんです。

ここで所信表明しておけば大義名分になりますよね(笑)。 「西場さん、ビジネスサイドの人と雑談ばっかりしてるけど何やってんの?」みたいなこと言われないように、藤倉さんにはぜひ支援してほしいです。

藤倉:言われなくも、しますよ。西場さんが成果を出してくれないと、僕が「おまえ誰紹介しとんねん」って言われちゃいますから(笑)。西場さんに社内で成功していただくというのが、声を掛けた僕にとっての重大な責任ですね。

取材・文/河西ことみ(編集部) 撮影/赤松洋太

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