没頭できるのは特別な人だけ?
仕事の「夢中」の見つけ方幼少期、学生時代……誰しも時間を忘れて何かに没頭した経験があるはず。仕事にも同じくらい夢中になれたら、すごい力を発揮できそうなのに。そんなエンジニアたちのモヤモヤした気持ちを解消するべく、業界内外の「夢中人」から研究者まで、幅広い取材で特集する。
没頭できるのは特別な人だけ?
仕事の「夢中」の見つけ方幼少期、学生時代……誰しも時間を忘れて何かに没頭した経験があるはず。仕事にも同じくらい夢中になれたら、すごい力を発揮できそうなのに。そんなエンジニアたちのモヤモヤした気持ちを解消するべく、業界内外の「夢中人」から研究者まで、幅広い取材で特集する。
エンジニアとして、夢中になれる何かが欲しい。でも、本業では見つけるのが正直難しそう……。それなら、本業以外の場所で夢中になれるものを探してみてもいいのでは?
今回お話を伺う関治之さんの運営するCode for Japanは、まさに本業「以外」で夢中を見つけた人の集まりだ。東日本大震災をきっかけに生まれ、情報技術を活用して地域課題の主体的な解決を目指す同団体には、本業を抱えながら自発的にプロジェクトに関わるエンジニアが多数在籍している。昨年は東京都から新型コロナウイルス感染症対策サイトの開発依頼を受け、わずか数日で視覚的に分かりやすいサイトを立ち上げたことでも話題になった。
夢中を見つけたエンジニアは、社会にどのような価値を発揮できるのか。今から夢中を見つけるには、まず何から始めたらいいのか? Code for Japanファウンダーの関さんに伺った。
「ともに考え、ともにつくる社会」というビジョンのもと、市民・企業・行政の三者がそれぞれの立場を超えて主体的に地域課題の解決に取り組むプラットフォームを運営しています。
「エンジニアやデザイナーといった、ものを作れる人と、地域課題を持つ人が一緒にプロジェクトを立ち上げることによって、自分たちの街を自分たちの手で住みやすく変えていける社会にしたい」という思いから、2013年に活動を始めました。
「社会をあるべき姿に近づけるために、自分のスキルを役立てたい」という人ですね。スキルアップを目指す方も多いです。Code for Japanにはさまざまなプロジェクトがあり、その中には最先端の技術を実践的に扱える機会もあります。例えば、昨年私たちが開発を請け負った東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトには、かなりモダンなアーキテクチャを使用しています。
部活動のような感覚で加入している方もいますよ。日本酒が好きなメンバーが始めた「Code for SAKE」では、日本酒の発酵技術や酒蔵を支えるデータベース制作などの活動が行われています。
コロナ前は約500人だったのがほぼ10倍になり、今は5000人以上が加入しています。
Code for Japanが生まれるきっかけとなった東日本大震災の時もそうでしたが、人は大きな危機が起きると「行政などの大きなものには頼れない」という感覚になるので、われわれのようなシビックテックの領域に関わる人は急増する傾向にあるんです。
今回のコロナ禍でも、「社会の危機に対して自分にできることはないだろうか?」と考えた人たちの受け皿として、Code for Japanが一定の役割を果たしたのだと思います。
そうですね。Code for Japanでは誰もがテーマを出せるハッカソンを毎月開催していて、先日は貧困対策の非営利団体と、それを支援する大手コンサルティングファームから「子どもの貧困に関するデータをビジュアライズ化するプロジェクト」の持ち込みがありました。また、最近は自治体からの依頼で、スマートシティーの基盤開発などのまちづくり関連のプロジェクトも増えています。
このように、社会課題の解決に真正面から向き合うプロジェクトもあれば、「Code for SAKE」など趣味の延長線上のような取り組みもある。非常に多様な活動が生まれてきていますね。
通常、Code for Japanのプロジェクトは自然発生的に始まるケースが多いのですが、本件は昨年2月頃の東京都からの相談がきっかけで始まりました。オーダーは、とにかく新型コロナウイルスに関するデータを分かりやすく見せたいということ。そして、できるだけオープンに取り組みたいということでした。世界中から注目されるサイトになるので、信頼感を重視したかったのだと思います。
すぐに東京都からデータをもらい、Code for Japan内のハイスキルなメンバーに声を掛けて特別チームを結成しました。ハッカソン状態で一気にプロトタイプを作り、公開したのは話をいただいた数日後。GitHubも同時に公開して、外部から送られてくるフィードバックを元に修正を重ねていきました。
プロトタイプ公開までの中心メンバーは、フルスタックエンジニア3人とデザイナー3人、データの専門家を合わせた合計7人です。GitHub公開後はCode for Japan以外の人も含めて、約3週間で約200人もの人が開発にコミットしてくれました。アメリカや台湾など世界中のエンジニアが手伝ってくれたおかげで、山のように積み上がるタスクを処理していけたんです。
ただ、たくさんの人が自発的に手を差し伸べてくれる“ポジティブな塊”の中にいたので、どんなに大変でもネガティブな気持ちになることはありませんでした。
危機が起こると誰しも不安な気持ちになりますが、自分が手を動かす側に回るとその不安はかなり解消されます。今回のプロジェクトに参加してくれた人たちもそうだったのではないかと思いますよ。
ただ不安に苛まれるだけの受動的な存在だった自分が、解決できそうな課題を見つけた瞬間、危機に対して主体的な存在になれる。それは精神衛生上、とても良いことだと感じています。
最初から「これがやりたい!」という固い覚悟を持って参加する人は少ないです。ほとんどの人は、「たまたま参加したイベントでできそうなことがあったので、やってみたらメンバーに感謝された。新しく出てきた課題にも取り組んでみたらまた感謝された」といった繰り返しの中で、やりたいことを見つけていきます。もともとは私もそうでした。
大切なのは、自分自身が楽しめることです。そうでなければ、わざわざ週末の時間を使ってコーディングするような活動は続けられませんからね。
そういう人の中には、もしかしたら「失敗したら損をする」という感覚があるのかもしれませんね。
でも、何かをやってみて損をすることって、実際はそんなにないのではないでしょうか。うまくいかなかったとしても、せいぜい自分の時間が無駄に費やされたぐらい。お金を失うこともありませんし、評判が傷つくケースもほとんどないと思います。少なくとも、シビックテックの活動でそういう話は聞いたことがありません。
その通りで、人間は日々何かに踏み出してはいるんです。それは裏を返せば、たかが一歩踏み出しただけで人生がガラッと変わるわけではないということ。でも、人よりもたくさん踏み出していると何かしらチャンスが生まれ、そのチャンスに飛びつけるかどうかで人生が変わります。
夢中になれるものを見つけるには、エンジニアの方はとにかく活動量を増やすことが大切です。最初に取り組むのが必ずしも大きな課題解決である必要はありません。まずは何かを作り、GitHubやTwiterで発表してみる。アイデアを思いつかなければ、誰かの活動を手伝うのでもOSSへのコミットでもいいんです。
人生のターニングポイントって、後から振り返れば「あの時だったな」と分かりますが、意思決定をした瞬間にはその自覚がないことがほとんどです。大きなことをやっているように見える人でも、その最初の一歩は踏み出そうと思って踏み出したわけではありません。面白そうだなと思ったら、まずやってみる。あまり深く考ずに動いてみるのが大事だと思います。
取材・文/一本麻衣
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