キャリア Vol.1174

『Unityインターハイ2019』準優勝の高校生・えふぇ子さん「数式の感動を伝えたい気持ちは技術力を超える」

高い技術力が求められるエンジニアの世界。

だからこそ、若手エンジニアの中には、自分よりも経験豊富で優秀な先輩エンジニアに負い目を感じ、自分の意見や“らしさ”を出し切れない人もいるのではないだろうか。

そんなエンジニアに紹介したいのが、現在高校3年生のえふぇ子さん(17歳)だ。

彼女は昨年、小中高生によるゲーム開発の全国大会『Unityインターハイ2019』に初出場。プログラミング歴5~8年といった猛者たちも集う中、えふぇ子さんはUnity歴たった9カ月にして、準優勝に選ばれた。

受賞作品は数学をテーマにした弾幕ゲーム『Mathmare(マスメア)』。「数式が生み出す美しい図形」を表現した何とも不思議な世界観が、多くの審査員の目を奪ったという。

彼女はなぜ、レベルの高い参加者たちに臆することなく、自分らしさを表現することができたのだろう?

えふぇ子さん
えふぇ子さん(@EphedrineUniuni
2003年生まれの高校3年生 。高校1年生の時にUnityを用いたゲーム開発を開始し、制作期間およそ2カ月で弾幕ゲーム『Mathmare』を制作。「数学の夢魔」が見せる悪夢の中で、大量の弾幕を避けるという世界観をつくり、数学が描き出す図形の美しさを伝えた。『新宿Unityもくもく会』というコミュニティーにも参加。『マツコ会議』(日本テレビ)に注目のインディーゲーム制作者として出演した

「自分の世界観を表現したい」欲求が加速し、ゲーム開発の世界へ

編集部

えふぇ子さんはUnityを始める前からプログラミングをやっていたんですか?

えふぇ子

いえ、開発はしていませんでした。でも、もともとパソコンはずっと好きだったんですよ。親の話では2歳くらいからキーボードを叩いて遊んでいたそうです(笑)

編集部

では、プログラミングに興味を持ったきっかけは?

えふぇ子

一番のきっかけは、『東方Project』ですね。

YouTubeの『ゆっくり実況』から入って、東方関連の実況動画を見たり、『東方紅魔郷』などのシューティングゲームをプレイしたりするようになりました。

東方Project
東方Project
上海アリス幻樂団』という同人サークルによって作られる著作物。弾幕シューティングゲームを中心に、書籍や音楽などを制作している。画像は東方Project第6弾『東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.
えふぇ子

それで、中2の時に自分でもこんな弾幕ゲームを作りたいなと思い『東方弾幕風』という専用言語を少しだけいじっていたことはありました。当時はすぐに辞めちゃったんですけど。

編集部

実際にUnityを触り始めたのは、いつ頃からだったんですか?

えふぇ子

高1の2月くらいからですね。改めて本格的に弾幕ゲームを作りたいなと思って、それに適したゲームエンジンということで、Unityを始めました。

編集部

過去に少し言語をいじっていたとはいえ、「自分でゲームを作ってみよう!」って、高校生だと結構ハードルが高いような印象もあるんですが……。

えふぇ子

そうですね。まず、前提として、私オタクなところがあって(笑)

元々創作活動が好きだったんですよね。

えふぇ子

どちらかというと二次創作よりは一次創作が好きで、自分の世界観を表現したい欲求がありました。

過去に小説っぽいものを書いていた時期もあったんです。

えふぇ子
編集部

なるほど。元々はテキストコンテンツを中心に創作されていたんですね。

えふぇ子

はい。でも小説やイラストってスキル一本で突破していく印象もあって、「小さい頃から絵ばっかり描いてきた!」みたいな猛者がいる中で戦っていくのはつらいなあと感じて。

えふぇ子

それに比べると、ゲームはストーリーやイラスト、サウンドとか、いろいろな要素が掛け合わさっているから、私にもできるかもって思ったんですよ。

結果、そっちの方がいばらの道でしたが(笑)

編集部

(笑)。それで、Unityを始めた頃はどんな風に勉強をしていたんでしょう?

えふぇ子

UnityのWebサイトにあるチュートリアルで勉強しました。

えふぇ子

どちらかというと、本を読んで基礎を学んだり、スキルアップしたりしなきゃというよりは、「作りたいものを作れるようになりたい」という気持ちの方が強かったんです。

えふぇ子

だから、「実装したい機能を作るにはどうしたらいいかな」って工夫しているうちに、少しずつできることが増えていった感じですね。

編集部

チュートリアルを一通り終え、開発に取り掛かり始めてから約2カ月後(2019年6月)にはUnityインターハイへの出場を決めたんですよね。

えふぇ子

はい。高1の時に、同じ学校の先輩がUnityインターハイに出場して賞を受賞したんですよ。

その先輩と面識があるわけではなかったのですが、身近な人が出場していたことで興味を持って。私の今の実力でどこまでいけるんだろう? と、軽いノリで出場を決めました。

「数式が描く曲線の美しさをいかに魅せるか」に持てるすべてをつぎ込んだ

編集部

Unityインターハイへの出場を決めてから、『Mathmare』を作り始めたんですね。思いついたきっかけは?

えふぇ子

数Ⅱのテスト勉強をしていたときに、「媒介変数表示」という単語の意味を調べたんです。そのとき、媒介変数表示の数式を使った曲線を目にして感動してしまって。

見た瞬間に、「あ、これを弾幕にしたい!」って思いました。

媒介変数表示
媒介変数表示
関数x(横軸)とy(縦軸)がどのように変化していくのかを追っていく表示方法
画像引用元:媒介変数表示された有名な曲線7つ
えふぇ子

少しの式だけでこんなに美しい曲線ができるなんてすごいじゃないですか。

でも友達に伝えても微妙な反応だったんで、「やっぱりこれはゲームでやるしかないな」って(笑)

編集部

つまり『Mathmare』は、自分の好きな曲線の美しさを人に伝えるための手段として作ったわけですね。

えふぇ子

はい。だから、作る上でも「数式が描く図形の美しさ」にフォーカスすることを重視していました。

えふぇ子

例えば、最初の頃は弾幕に色を付けていたんです。でも、「色で美しさを魅せるっていうのは、数式的な美しさではないよな」と思うようになって。それで、あえてモノクロのゲームにすることにしたんですよね。

『Mathmare』プレイイメージ
『Mathmare』プレイイメージ
編集部

魅せ方へのこだわりがすごいですね!

えふぇ子

はい(笑)。他にも、最初にアステロイド曲線で弾幕を作ったら、たまたま弾幕が「魅せる」と「避ける」感じに分かれたのがすごく綺麗で。

えふぇ子

これを参考に、一つのステージの中で弾幕を「魅せる」フェーズと、「避ける」フェーズに分けて、プレイしながらも曲線の美しさを感じてもらえる時間を取れるようにしました。

編集部

弾幕が飛んでいく様子が本当に美しくて、思わず見入ってしまいます。

『Mathmare』プレイイメージ
画像左:「魅せる」フェーズ。媒介変数表示で描かれた曲線が浮かぶ
画像右:「避ける」フェーズ。曲線に配置された弾幕が飛んでくる方向を見極め、弾に当たらないように避ける
えふぇ子

あとは弾幕ゲームが苦手な方にも曲線の美しさを楽しんでもらうために、プレイせずにただ弾幕の飛び交う様子を眺めて楽しむこともできる「鑑賞モード」も実装しました。

編集部

Unityを始めて数カ月なのに、ここまでこだわり尽くせるなんて素晴らしいですね。

開発する上で苦労したことはありますか?

えふぇ子

沢山の弾が一度に発射されるときに、画面がカクつかないように処理したところですかね。今もアップデートするたびにリファクタリングして、細かく修正しています。

えふぇ子

開発自体は「これを作りたい」という気持ち一つで作っていけたんですけど、エラーの処理は大変でしたね。

ビルドしたときに、一気に「120のエラーがあります」ってログが出た時はどうしようかと思いました(笑)

えふぇ子
編集部

焦りますね(笑)

えふぇ子

はい(笑)。でも、大抵のエラーは検索すれば解決方法が出てくるし、先人の知恵があります。大変なことはあっても、挫折することはありませんでしたね。

編集部

最初はUnityインターハイへの出場を軽い気持ちで決めたと仰っていましたが、「このゲームで勝負できそうだ」っていう手応えや自信みたいなものはいつ頃から感じ始めましたか?

えふぇ子

正直、参加者たちのエントリー作品を見たときは「怪物しかいないぞ」って思ったんですよ。みんなゲームの画面も華やかですし、オープンワールドを作っている人までいて、「技術力が高いな~」と。

えふぇ子

でも、私の『Mathmare』も、いわゆる“Unity“臭さみたいなものはうまく消せていたように思いましたし、最終予選前にはインディーゲームのオンリーイベント『デジゲー博2019』に出展し、多くの来場者にプレイして反応をもらえたことで、自信につながった気はしますね。

『Unityインターハイ2019審査員に聞いた『Mathmare』受賞ポイント

数学の美しさをプレイヤーに伝えるという明確な目的を持ち、そのために必要十分な要素を実装し、そのクオリティーを高めたというのが、何よりの受賞ポイントです。

面白いと思うものをどんどん足していくという方法もありますが、全て削ぎ落として面白いところだけを残すというのもまたデザインです。余分な物がないものづくりの成果、取捨選択の判断の巧みさの結果だと思います。

夢は『UNDERTALE』のトビーとテミー。「作りたいもの」を作れるゲームクリエーターへ

編集部

今年も『Unityインターハイ2020』に出場されているんですよね。

えふぇ子

はい。今回は弾幕ではなく、ゲーテの詩『魔王』をテーマにしたスマホ向け2Dアクションゲーム『Der Erlkönig(魔王)』という作品を作りました。

ゲーテの詩をはじめ、さまざまな資料を読み込んで自分の解釈に落とし、世界観をつくり込んでいます。

えふぇ子

開発に関しては、ゲームのボリュームも増えていますし、『Mathmare』より格段にレベルアップしていると思います。

編集部

結果が楽しみですね。

これから先、えふぇ子さんは、ゲームクリエーターを目指そうと考えているんですか?

えふぇ子

そうですね、将来はゲーム会社に入って、まずは開発のスキルを積みたいと思っています。それと並行して副業で自作ゲームを作っていきたいですね。

最終的には、インディーゲーム制作で独立したいです。

編集部

会社に所属し続けるよりも、独立したい気持ちが強いんですね。

えふぇ子

やっぱり、「自分の理想100%を詰め込んだゲーム」を作ってみたいんです。

大人数でゲームを作るのも楽しいと思うんですけど、人数が多いとさすがに私の理想だけを追い求めることはできないと思うので。

えふぇ子

理想は『UNDERTALE』のクリエーター、トビー(・フォックス)とテミー(・チャン)のコンビですね。

世界観のつくり込みやゲームシステムの開発など、自分が得意なところは自分がやって、サウンドなどは他の信頼できるクリエーターに任せる、みたいなやり方ができたら最高です。

『UNDERTALE』
『UNDERTALE』
2015年に発売されたインディーゲーム。「誰も死ななくていいやさしいRPG」がキャッチコピーで、敵と戦わずに進めることもできる独特なシステムが話題を呼んだ。トビー・フォックスがメインクリエーターを務め、テミー・チャンがメイン・アーティスティック・アシスタントとして参加
えふぇ子

基本は少人数で作りたいので、もっとサウンドやグラフィックについても勉強したいと思っています。

編集部

将来が本当に楽しみですね。もう少し近い未来で、目標はありますか?

えふぇ子

今度は世界観をもっとつくりこんで、神話をモチーフにした弾幕ゲームを作ってみたいなと思っています。

『Mathmare』には実装できなかったんですが、「クロソイド曲線」という、美しい数式があるんですよ。次のゲームではこの曲線の美しさをみんなに見せたいですね(笑)

取材・文/石川香苗子 編集/河西ことみ(編集部) 


information

■Unityインターハイ2020について

Unityインターハイは高校生・高専生(3年生以下)の学生を対象としたUnityおよびプログラミング技術習得の奨励、才能の発掘を目的として行われるゲーム開発の全国大会です。

応募作品はゲーム分野のエキスパート達によって審査され、予選審査を通過した作品は12月13日(日)に開催される本選に進出します。

プレゼン発表会本選では開発メンバーによるプレゼン発表が行われ、最終審査を経て優勝作品が決定します。

>>公式ホームページ

■開催スケジュール

・1次審査結果発表:2020年10月中旬
・2次審査結果発表:2020年11月下旬
・プレゼン発表会本選:2020年12月13日(日)
※エントリー期間は終了しています

■本選の様子はUnity公式YouTubeアカウントからライブ配信!

本選の様子はUnity公式YouTubeアカウントからLIVEで配信されます。

>>Unityインターハイ2020 プレゼン本選ライブ配信

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