「SIでの開発経験は事業会社で通用しない」は勘違い~元SE4名の実体験に学ぶ、働き方をフィットさせる方法
SIerから事業会社への転身は、珍しくないキャリアになった。事実、SIerを経てスタートアップの起業家やCTOとしての道を歩んでいるエンジニアも多い。そこで気になるのは、これまでの経験は事業会社で通用するのか? という点だろう。
その一つの解を提示するイベントが、渋谷にあるビズリーチのオフィスで開催された。
2015年4月23日に開催された『SIer出身サービス開発エンジニアが本音でトークナイト』では、クックパッド、ビズリーチ、ホワイトプラス、ネットプロテクションズからSIerにてキャリアをスタートした4名の登壇者たちが、事業会社への転身後に感じた魅力や苦労点を語った。
当日の参加者はSIer勤務者が中心。イベントの趣旨もあり、これからのキャリアに事業会社を加えることに興味がある参加者たちが集まった。
■クックパッド料理教室 CTO 京和崇行氏
■ビズリーチ プロダクトマーケティング部 zuknow事業 エンジニア 河内浩貴氏
■ホワイトプラス マーケティング部 新規顧客獲得グループ マネージャー 鈴木義治氏
■ネットプロテクションズ 企画室 新規事業ユニット 相澤雄大氏
ここでは、各登壇者が事業会社へ転身後に感じた、SIer出身のメリットやギャップについて伝える。
プロダクトのレビュー経験が強みに
「SIerでの経験は、事業会社でも通用すると思って転職をしましたか?」パネルディスカッション中の問いに対し、登壇者全員が首を横に振った。が、ネット完結型宅配クリーニングの『リネット』や宅配型トランクルーム『HIROIE』を手掛けるホワイトプラスの鈴木氏のみが、「半分は通用する」と思っていたと語った。
鈴木氏はSIer経験12年というベテランだ。しかし、豊富な経験を持った同氏ですら、ベンチャーへの転職に対して「ベンチャーで働くエンジニアのスキルレベルは、雲の上にあると思っていた」と振り返る。
半分しか通用しないと感じていたのも、この点が多く響いているという。
「私の場合、12年SIerに勤務していたこともあり、仕事の中心は実装ではなくマネジメントが中心でした。コーディングや設計などに長けている人材が集まっているベンチャーで、自分の力は通用するのか? この点に不安はありましたね」(鈴木氏)
だが、「実際に働いてみるとただの勘違いだった」と、付け加える。
「当然ですが、エンジニアのスキルが低かったという勘違いではありません。私の場合、SIer時代マネジメントに携わっている際にプロダクトのレビューを頻繁に行っていました。仮に自分が開発に携わっていない状況でも、設計のポイントやリスク管理などのスキルは高まっていたんですね。このポイントは転職後の現場でも役立ちました。
また、“半分は通用する”と感じたのは、代表やCTOと面談をした時に、転びながらでも、親身に応援してくれる文化を感じたためです。技術面の不安よりも、ここならばやり切れると感じたことが、自信につながりましたね」(鈴木氏)
早いスピードの開発に慣れるには、小出しにすることが重要
RFP(提案依頼書)を策定し、ウォーターフォール型で開発を進めるケースが多いSIerと異なり、アジャイルを取り入れることの多い事業会社では、プロダクトオーナーから完成系のイメージを引き出すことも重要なスキルになる。
ビズリーチで学習アプリ『zuknow(ズノウ)』の開発を担う河内氏は、アジャイル開発への適応に苦戦したと振り返る。
「ビズリーチに入社して最初の仕事はアプリのプロトタイプを作ることでした。当時は、アプリの経験者が自分しかいないという状況。CTO(ビズリーチCTO・竹内真氏)と口頭でコミュニケーションを取っていました。SIer時代とは異なる、仕様がないまま、開発を進めることに、どうすればいいのかと四苦八苦しましたね」(河内氏)
そうした課題に対し、早いタイミングで「今の動き方は良くない」と竹内氏から指摘があったという。
「長いスパンでモノを作るというよりも、小出しに作って見せる。イメージを確認しながら仕事を進めることの重要さを学びました。少しずつ作って改善する。この考え方を持つことで、ベンチャーでの働き方に慣れていきましたね」(河内氏)
また、クックパッド料理教室の京和氏は、自社内で開発スケジュールが決定するがゆえの苦労もあったと振り返る。
「事業会社ではタスクをこなすスピードよりも、増えるスピードの方が圧倒的に早い。競合との競争もあるため、プロダクトオーナーが、次々とリリースしたいという考えのもと動いているためですね。当然ですが、サービスが成長すると、どの開発を優先するのか?という議論が起こります。スケジュール管理を行った上で、開発を行うことの大切さを改めて感じました」(京和氏)
優先事項を決める上で、京和氏はSIerでの経験が活きたという。開発チームのリソースを把握した上で、納期を計算する思考が実体験を通じて、根付いていたためだ。
スピーディーな開発を実現するためには、“急がば回れ”を実践する必要もあるそうだ。
上流から下流まで経験できるメリット
要件定義から開発、保守、運用までをSIer時代に経験したネットプロテクションズの相澤氏は、転職に至った経緯を「サービスを作りたかった」と振り返った。
転職後には「業務とシステムの架け橋」を担うことができたと振り返る。SIer時代に積んだ上流から下流までのシステム開発経験が、重宝されたという。
では、SIerと異なり社内での調整を行う、事業会社の仕組みについてはどう感じたのだろうか。
「ネットプロテクションズでは、システム開発チームのことを、ビジネスアーキテクトグループと称しています。事業ありきで、システムがあるという発想ですね。そうした考えの場所だとSIerでの経験も活かしやすいと感じます」(相澤氏)
SIerは顧客の要望に対して、システム要件を決め、スケジュールを立てる。この点は社内外で違いはないという。前職で培ったコミュニケーションスキルは、事業会社に転身した後も大きく活かすことができたとのことだ。
日々の業務に埋もれるだけでなく、外の世界に触れるススメ
「サービスだけで見ると価値がないかもしれないが、自分でモノを作ってみることが重要」と語る河内氏は、業務外で企画から設計、リリース、運用までの経験を積み、アプリ開発の勘所を掴んだことが転職にも大きな影響があったと語った。
外の世界と触れることで、今の自身を取り巻く環境とは異なる知見を得ることができる。この点を体現した河内氏なりのメッセージだ。
だが、SIerから事業会社への転身について、ここまで語ったのは、あくまで一例に過ぎない。
「Webサービスだからと言っても派手なことばかりではありません。事業会社からSIerに転職した知人もいます」と京和氏が語ったように、自分に最も相応しい場所を探すことが大切なのかもしれない。
取材・文・撮影/川野優希(編集部)
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