元エンジニアのIT弁護士に学ぶ!
“自衛”のために知っておきたい法律知識SESの「準委任契約」、受託開発の際のNDA、GitHubに公開されるコードの使用……。エンジニアとして開発を担う中で、また自身が安心安全に働く中で備えておくべき「法律」の知識とは? プロの弁護士から学ぼう!
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「GitHubで見たコードを自社の開発に活かしたい」とを考えたことがある方は多いのではないだろうか? しかし、もしかするとそれは「著作権の侵害」に当たる可能性があるかもしれない。
そこで本記事では、『ITエンジニアのやさしい法律Q&A 著作権・開発契約・労働関係・契約書で揉めないための勘どころ』(技術評論社)より、「著作権」にまつわる箇所を一部転載してお届けする。
※本記事は書籍より以下項を抜粋して転載 弁護士法人モノリス法律事務所 代表弁護士 河瀬 季さん(@tokikawase) 元ITエンジニアの経歴を生かし、IT・インターネット・ビジネスに強みを持つモノリス法律事務所を設立、代表弁護士に就任。東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、約120社の顧問弁護士等、イースター株式会社の代表取締役、株式会社KPIソリューションズの監査役、株式会社BearTailの最高法務責任者などを務める。東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。JAPAN MENSA会員
・Q1-5 オープンソースなら流用も改造も自由だよね?
ネット上で不特定多数の人に向けてソースコードが公開されているプログラムなら、オープンソース(OSS)といえるはず。
オープンソースには著作権はないのだから著作権法は無関係、法律の話は特に気にする必要がないよね?
著作権などの問題をあまり気にせずに利用できるオープンソースは、エンジニアの心強い味方となるものです。
しかしオープンソースも著作権法の枠組みを前提として成り立っていることが正確に理解されていない場合が多く、コンプライアンス上の問題が起きる場合もあります。
オープンソース(OSS)は、正確に定義を理解している人が意外と少なく、さまざまな誤解が流布されています。
OSSへの誤解の例
・ネット上で不特定多数の人に向けてソースコードが公開されているプログラムなら、オープンソースといえる
・オープンソースには著作権はないのだから、著作権法は無関係
こうした誤解に基づくソースコード・プログラムの利用は、法律上の問題を引き起こす危険があります。オープンソースとそうでないものの区別を明確にし、オープンソースの利用者にどのような権利が認められているのかを知ることは、無用な法律問題を引き起こさないために重要なことです。
では、オープンソースとは何なのでしょうか。オープンソースの何たるかを知る際には、著作権法の基礎が問われます。そもそも著作権とは、著作物を生み出した本人を権利者として、ある種の独占的な地位を保障するための法分野です。
システム開発やソフトウェア開発の文脈に即して端的に説明すると、複製(著作権法第21 条)や、ネット経由での配信である公衆送信(同法第23 条1 項)、譲渡(同法第27 条)について、権利者でない人が無断でこれらの利用行為を行なった場合には、「著作権侵害」となります。
著作権を侵害された場合には、権利者は、民事的な措置として、差し止めや、不法行為責任に基づく損害賠償請求を求めることができます。
損害賠償(民法第709条)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
このように権利者でない人の「利用」(※)を幅広く制限するものが著作権であることは、裏を返せば権利者が許可するならば、権利者でない人の「利用」も認められるということを意味します。これがいわゆる利用許諾、すなわちライセンスです。
※著作権法に基づく「利用」と「使用」の違い
利用:書籍であれば「印刷」や「修正」を行なうこと、音楽であれば「録音」や「演奏」を行なうことなど、複製権や公衆送信権といった著作権等の支分権に基づく行為を指す
使用:書籍であれば「読む」こと、音楽であれば「聴く」ことなど、著作物などの教授を指す
したがって注意が必要なのは、利用許諾を得ることと、著作権そのものの譲渡や移転を受けて著作権者になることとは、意味が異なるという点です。あくまで利用許諾は、著作権がないことを前提としながらも、「利用」について正当な権利者の「許諾」を得るということを意味しているのです。
GitHubに開示されているコードなどについて、「ネット上で不特定多数の人が閲覧できる場所にあるのだからオープンソースであり、著作権問題は気にしなくてよい」などと誤解されてしまうケースがありますが、オープンソースの本質は、「利用の許諾」という点であり、誰もが閲覧できるという点ではありません。
著作権者であるそのコードを書いたプログラマーは、そのコードをネット上に開示する意思を持っていたとしても、オープンソースとして不特定多数の人に利用を許諾しているとは限らないのです。
つまり、オープンソースは、何もかも自由に使えるというものではなく、一定の条件の下で利用を許されているものであり、著作権者の定めたルールに従って利用する必要があります。
ソフトウェアがオープンソースであるかどうかは、ライセンスが「オープンソースの定義(The Open Source Definition)」に合致しているかどうかで決まります。OSSの定義は次の10項目が定められており、これらに準拠したライセンスを持つソフトウェアがOSSとして認定されます。
OSSの定義
1:再配布を自由に認めること
2:ソースコードを無償で配布すること
3:派生ソフトウェアの配布を許可すること
4:ソースコードのどの部分が、作者オリジナルのコードかわかるようにすること(作者コードの完全性)
5:個人やグループに対する差別をしないこと
6:使用分野に対する差別をしないこと
7:プログラムに付随する権利はすべての再頒布者に平等 に与えられること(ライセンスの分配)
8:特定の製品だけに限定したライセンスにしないこと
9:他のソフトウェアを制限するライセンスにしないこと
10:ライセンスは技術的に中立であること
なお、このような定義上、ライセンス料は誰でも無料となりますが、それ以外のところで費用が発生する可能性までは、オープンソースの定義からは排除できないので注意が必要です。
例えば、ウェブサイトの開設によく用いられるWordPressは規約上オープンソースとされていますが(※)、プラグインのダウンロードは有料のものもあれば無料のものもあります。
※解説:「100% GPL」とは | WordPress.org 日本語
それでは最後に、オープンソースを利用する上で確認すべきポイントをまとめておきましょう。OSSライセンスは、OSS の認定を行う非営利団体「Open Source Initiative(OSI)」が管理しており、OSI によってライセンスが承認されると、そのソフトウェアはオープンソースであると公式に認められ、OSI 認定マークが付与されます。
つまり、このOSI 認定マークの表示があるソフトウェアであれば、オープンソースであると判断することができるというわけです。
なお、OSI 認定マークはそのライセンスがOSS の定義に準拠していることを証明しますが、OpenSSLなどのようにOSI承認ライセンスに挙がっていないオープンソースライセンスもあります。したがって、このOSI認定マークがないからと言って、オープンソースでないというわけではありません。
オープンソースを利用する際には、それがオープンソースであることを確認した上で、ライセンスに準拠した利用をする必要があります。したがって、ライセンスの形態や内容を理解してから使うということが非常に重要です。
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