IT・Web系出身エンジニア、相次ぐ「ロボット業界」への参入。人材変化をデータと企業証言で紐解いてみた
先日、ソフトバンクグループ代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏が、「今後ロボットがわが国の成長戦略のかなめになる」と発表。
>>スマートロボット1億台導入で労働力10億人相当に。孫正義が描く日本復活の構想
これを受けて、ロボット業界の仕事に興味が湧いたエンジニアも少なくないはずだ。とはいえ、ロボット開発には機械工学などの専門的な知識が必要となるケースが多いため、「いまさら自分には無理」だと夢を諦めてしまう人も多いかもしれない。
しかし、ここ数年で日本のロボット業界では「エンジニア採用」にある変化が見られる。実は、業界未経験のエンジニアたちが続々と参入しているのだ。各種データと、ロボット企業への取材を通して、その変化を紐解いてみよう。
2025年、ロボットの世界市場は約7兆円のマーケットに。IT人材の需要も拡大
富士経済研究所の調査によると、製造業向けロボットの世界市場規模は、15年は約7110億円、19年には1兆174億円と、約4年間で1.43倍にまで拡大。同調査では、25年までにロボット市場は2兆2727億円になるとの見通しを示しており、19年比で2.2倍の伸び率が期待されている。
業務・サービス系のロボットも、製造業向けロボットと同じく世界の市場規模は年々拡大。
15年に4939億円、19年には1兆9819億円と、4年間で約4倍の規模に急成長。25年には、19年の2.3倍となる4兆6569億円まで市場規模が拡大するという見立てもあり、ロボット業界はますます活気を帯びていくことが予想される。
また、経済産業省も「ロボットによる社会変革推進会議」の中で、高齢化や労働力不足などの深刻な社会課題が山積する日本においては 「ロボットの社会実装を推進していくことが最重要課題」だと言及。
ロボットの導入が進まない中小企業などへの支援を強化し、社会全体でロボットの活用を推進していく必要があると今後の方向性を示した。
日本発のハードウェア・スタートアップ、Vanguard Industries株式会社でプロジェクトマネージャーを務める森住さんは、「ロボティクス企業ではのメカトロニクス、組み込み技術に限らず、ネットワークサービスやスマートフォンとの連係技術、ロボットを利用する人の顧客体験を向上させるデザインがますます重要になっている」と話す。
さらに森住さんは、ロボットを生活の中に浸透させていくために「ユーザーの利用シーンを踏まえたUI/UX設計の重要性はますます高まるはずだ」と語った。
自動運転技術を活用した一人乗りロボットなどを開発する株式会社ZMPの採用担当、新井野翔子さんも同様に、社内で活躍するエンジニアの多様性が広がっていると話す。
「当社では特に、ロボット制御系、ITプラットフォーム系のスキルを持つ方や、アプリ開発などIT・Webをバックグラウンドに持つエンジニアへの期待が高まっています。
ロボットはハードウエアあってこそのものですが、プロダクトを作ってしまえば後はアップデートしていくのみ。一度iPhoneを買ってしまえば後はiOSのアップデートをするのと同じで、ロボット開発においてもソフトウエアの部分を担うエンジニアが必要不可欠です」(ZMP新井野さん)
「他分野とのコラボレーション」に期待高まる
また、ZMPの新井野さんによると、エンジニアの入社動機にもある変化が見られるという。
「数年前は、ロボコンに出ていた、大学でロボット工学を専攻していたなど、『ロボット開発そのもの』に興味を持っているエンジニアの方が多かった印象です。しかし今は、『ロボットを使って世の中をどうしたいか』を選考過程で語る方が増えていると感じます」(ZMP新井野さん)
また開発エンジニアやPM、PdMなどの活躍にも期待が高まっていると、Vanguard Industriesの森住さんは話す。
「ロボット開発は多様な技術領域が関わるので、エンジニアにはさまざまな専門領域と協力して課題を解決することが求められています。そのため、プロジェクトマネジメントや、他分野とコラボレーションできるようなスキルがプロジェクトの推進において重要になってきています」(Vanguard Industries森住さん)
IT・Web系出身者に求められるのは「プロダクト」志向
では、IT・Web系出身者など他業種で働いていたエンジニアがロボティクス企業に転職する場合、どのようなスキルやマインドが求められるのだろうか。
Vanguard Industries森住さんは、「『柔軟性』と『粘り強さ』が重要」だという。
「ロボット開発でベストを尽くすためには、与えられた作業やあらかじめ計画された作業だけでなく、広い視野を持って変化する状況に対応していかねばなりません。そのためには開発者側の『柔軟性』と『粘り強さ』が欠かせないと思います。
特に、ロボティクス企業の中でも、スタートアップは十分にリソースがあるわけではありません。できない理由、分からない状況はいくらでも存在するので、それでもさまざまなチームと協力して結果を出そうという姿勢が個人としての経験、成長において大切なことだと思います」(Vanguard Industries森住さん)
一方、ZMP新井野さんは、「プロダクトを育てる」というキーワードを挙げた。
「ロボット産業はまだ未成熟ですし、まだまだ新しい事業、新しいプロダクトを生み出す段階です。ですから、まずはプロダクトを使ってくれるユーザーに『サービスを届ける意識』が大事だと思います。
当社で活躍しているエンジニアには、そうしたサービスを届ける過程への興味も含めて『プロダクトを育てる』ことを重要視している人が多いですね」(ZMP新井野さん)
今後ロボティクス業界では、「プロダクトを育てるための志向」を持つエンジニアが求められるようになる。今回の調査では、そんな時代の到来が感じられた。
取材・文/大室倫子
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