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伊藤直也氏がプロダクトマネジャーの役割を学んだ良書5選と、適材を見極めるポイント
Kaizen Platform, Inc.など複数の企業で技術顧問を務めている伊藤直也氏。同氏が自身のブログ『naoyaのはてなダイアリー』をほぼ1年ぶりに更新したのが、界隈で話題となっている。
そのエントリテーマは「プロダクトマネジャー」について。Twitterでつぶやいていた内容をまとめられたことをきっかけに、筆を取ったという。
>> プロダクトマネージャーについて – naoyaのはてなダイアリー
ここ最近、伊藤氏の下には、顧問契約を結ぶ企業以外にも相次いで相談が寄せられていた。その大半が、「良いプロダクトを作るために、開発体制を整えたい」という内容だ。
こういった問い合わせに対して伊藤氏は、「良い開発体制を作れば、それだけで良いプロダクトができるわけではない」と話し続けてきたという。
「開発体制を整えるのは製品を正しく作るため。でも、“正しく製品を作る”だけでなく、“正しい製品を作る”ことを考えなければいけません」
そのためにはプロダクトマネジメントの知見が必要不可欠だと確信を持つようなったそうだが、多くのWebサービス企業は、その役割を担う「プロダクトマネジャー」を専任で(かつ専門性を持った人を)置けていないのが現状だ。伊藤氏はここに課題があると考えるようになった。
それが上記のエントリを書いた理由の一つというが、伊藤氏はどのように「プロダクトマネジャーの役割」を学んだのか。今回はその学びのプロセスを聞いた。
なぜ今、プロダクトマネジャーの役割を「明確に知るべき」だったのか
プロダクトマネジャーはmini-CEOとも称され、チーム内でプロダクトに対しての絶対的な責任を持つ存在と定義される。伊藤氏はプロダクトマネジャーの役割についてこう語る。
「例えば、Instagramはユーザーが綺麗な写真を投稿してシェアするだけのシンプルなサービスです。そして、モバイルアプリに特化している。それ以外はやらない。そういった位置付けのサービスであるというコンセプトを決め、アイデアを出すだけではなく、機能やデザインに対してのレビューを繰り返してマネージするのがプロダクトマネジャーの役割です」
AppleやGoogle、Facebookといった海外のTech企業では一般的なポジションだが、前述した通り日本のWebサービス企業の多くがこの役割の人材を置いていない。
そうした状況で生じている課題はこうだ。
「仮にマーケティング担当者が考えた企画の開発をエンジニアに依頼したとしましょう。多くのエンジニアは、果たしてその企画で本当に問題が解決できるかどうかを疑うこともなく、素直にそれを実装してしまう。すると、できあがった製品を見て『これではなかった』となってしまうことが往々にしてあります。本来は、ソリューションを考える前に、そもそも問題設定が正しいのか? を考えるプロセスが必要ですよね。その責務を果たすのがプロダクトマネジャーなんです」
もちろん、専任者不在の場合でも円滑に回っているケースはある。ただそれも、「勘所の良いエンジニアやマーケティング担当者、ディレクターなどが、暗黙的にプロダクトマネジャーの役割を担っているだけ」と伊藤氏は続ける。
「つまり、現状は『何となくやれる人』がプロダクトマネジャーの役割を代わりに行っている。それでやれているのであればいいのですが、組織として体系的かつ安定的に製品開発を回していきたいのであれば、プロダクトマネジャーの役割について改めて考えてみる余地があるでしょう」
プロダクトマネジメントを学ぶ上での推薦書5冊
では、プロダクトマネジャーの役割をしっかりと把握するために、どう学習していけばいいのだろうか。
伊藤氏は先のエントリを書く前にさまざまな書籍を読み、その一部を文中で紹介しているが、ここでは中でも良書だったと薦める5冊と、その理由を簡単に紹介しよう。
■世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 ~トップIT企業のPMとして就職する方法~
本の前半に、プロダクトマネジャーの仕事や役割について詳しい記載があります。後半はプロダクトマネジャーの面接対策のような内容になっていますが、前半部分が分かりやすくまとまっているので、プロダクトマネジャーの仕事を知る入門書として手に取ってみるのはいいかもしれません。
■Inspired: 顧客の心を捉える製品の創り方
この本には、「プロダクトマネジャーは日常的にこう振る舞うべきである」という各論が記載されています。NetscapeやeBayでプロダクトマネジャーを担っていたマーティ・ケーガンの著書なので、中身にも真実味があります。
■誰のためのデザイン? ―認知科学者のデザイン原論
こうしたデザイン思考の本を読むと、プロダクトマネジャーに必要な「構造的に考える術」が理解できると思います。
■ドキュメント トヨタの製品開発: トヨタ主査制度の戦略,開発,制覇の記録
トヨタが「クルマ」という製品を製造・販売するにあたっては、マーケティング視点から工場のラインまでを意識しなければいけません。そうした中で、トヨタ社内には「主査」というポジションがあります。このポジションが、プロダクトマネジャーの役割そのものを指していると感じました。
■ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法
最後にピクサーの本です。映画を作るにあたってダメだった時期もあったけれども、スティーブ・ジョブズが体制を変化させた。クリエイティブを最重要視してモノ作りをする組織とはどんな組織なのか。この点について理解することができます。
素養を持った人を見抜くには、メタ思考の有無を見てみよう
こういったインプットを通じて伊藤氏が考えた「プロダクトマネジャーに求められるもの」は、端的に言うと以下の3つだ。
中でも【1】と【2】は強い関連性がある。プロダクトマネジャーを務めるには、エンジニアやデザイナーと円滑にコミュニケーションを取れることが大前提として必要だからだ。
例えば、「新機能を作ってほしい」と依頼する際に、無理なスケジュールを引いたり、そもそもなぜその機能が必要なのかについてエンジニアから不満の声が挙がったりするようではいけない。ある意味「同じ現場同士」のような関係性でコミュニケーションを取ることで、信頼を得ることができる。
また、開発プロジェクトが円滑に回っているのか、良い製品作りができているのかどうかについて、エンジニアやデザイナーの経験があればある程度は雰囲気だけで察知することができるともいう。
そして【3】について、プロダクトマネジャーが絶対的な責任を負うためには、自社のプロダクトについて自身がロードマップを作り、ビジネス制約、ユーザー体験、納期を含めた開発の調和を考えた落としどころを導き出す必要があるという。
これらの条件をすべて兼ね備えた人は「さながらスーパーマンのよう」と伊藤氏は言い、その役割を務められる候補者を見つけるのも非常に難しいと認めている。
ただし、どの組織にも「存在しないわけではない」とも付け加える。社内を見渡してみると、同じような役割を担っている人材が高い確率でいるとのことだ。
「そうした存在を発掘し、プロダクトマネジャーにコンバートすることも重要だと考えます。事実、Kaizen Platform, Inc.でも2名ほど職務を変更した実績があります」
では、どうすればプロダクトマネジャーの素養を持つ人材を見つけることができるのだろうか。伊藤氏は適した人材像についてこう語る。
「サービスや製品、市場の特徴を理解した上で、問題を構造的に捉え、ツールの導入や仕組みで解決するというメタ思考ができる人が向いていると思います」
開発リーダーの中には問題を直感的に捉え、難問に対してコミットする時間を増やすことで乗り切ろうとするタイプも存在するが、そうした人物よりも、物事をルールの変更や仕組みでスケーラブルに解決する指向性がある方がプロダクトマネジャーに向いてるのではないかというのが伊藤氏の考えだ。
例えば組織作りの過程で、ルールや仕組みを隅々まで浸透させることが上手な人は少なからずいる。そうした人物が、未来のプロダクトマネジャーになる素養を秘めている、と。
スタートアップでは、CEOやCTOがプロダクトマネジャーを担っているケースが多い。だが、サービスがグロースしたタイミングで、採用など別の業務にも時間を割かざるを得なくなるというのはよくある話。その場合に大切なのは、「プロダクトマネジメントを担っていた意思決定者が、新しいプロダクトマネジャーを任命することだ」と伊藤氏は強調する。
そのためにも、本来プロダクトマネジャーが務めるべき役割をきちんと把握した上で、素養を持つ社員を抜擢する目利きと判断が必要になるだろう。
「Web業界のためというと大げさですが、今後はプロダクトマネジメントの役割をもっと勉強し、その重要性を普及させていきたいと考えています」
取材・文/川野優希
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