『Box』最初のエンジニアが語る、スタートアップが急拡大する際に重視すべき5つの鉄則
「『Box』のリリース当時、クライアントも投資家も僕たちを否定した。そして、急成長しても今度は大手企業が似たようなサービスをリリースしてくる。つまり、スタートアップには常に苦難の道のりが待っている。その覚悟を持って挑んでほしい」
こう語るのは、エンタープライズ向けクラウドストレージサービスの『Box』にて、Principal Architectを務めていたFlorian Jourda氏だ。Box創業後、初のエンジニアとして2007年3月にジョインした人物である。
その後の8年間で、Boxの社員数は約1300人にまで拡大した。飛躍的な成長を遂げるBoxの中でプロジェクトをリードするだけでなく、組織づくりについてもけん引してきたのが同氏だ。
2015年7月13日に東京・渋谷にある#HiveShibuyaで開催された#SVFT Meetupにメインスピーカーとして参加した同氏の言葉に耳を傾けてみると、スタートアップが生き残り、飛躍的な成長を遂げる中で大切にしてきたことが分かってきた。
2015年5月にBoxを退職し、新しいスタートアップを興す準備を進めているというFlorian氏はこう語る。
【1】ライバルが少ない領域を狙う
今、マルチデバイス対応で常にアクセスできるクラウドストレージサービスは当たり前の時代になった。
でも、Boxがリリースされた2006年の時点では、とても斬新なサービスだったんだ。当時はクラウドという言葉も浸透していなかったからね。
中でも最初に興味を持ってくれたのは、建築士などデータ保存を効率的に行いたいユーザーだった。そうしたアーリーアダプターを中心にサービスは伸びていった。
そうした中で、僕たちはエンタープライズに可能性を感じて、シリコンバレーの高速道路にある看板広告を出した。その広告には、「『Box』がMicrosoftの『SharePoint』を倒す」と書いたんだ。
ソーシャルやコンシュマー向けにアタックした結果、エンタープライズ領域での競争相手が少ないことが分かった。この広告戦略は、その領域に集中しようと決めたキッカケにつながっているんだ。
こうしたマーケティングを繰り返しながら、『Box』はセクシーなブランディングを行ってきたんだ。
【2】ビジョンを最優先した開発を
自分たちが狙っている市場が大きい場合、ライバルが参入してくる。だが、それぞれの競合がリリースするサービスの機能のミクロな部分に目を向けてはいけない。会社、プロダクトとして持っているビジョンを最も大切にすべきだ。
『Box』はユーザーの利便性に着目して真っ直ぐ進んだ。そうすることで、生存競争を生き残ることができたんだ。
そして、もう一つ重要なことがある。サービスのコモデティ化を防ぐということだ。例えば、GEとの契約がまとまり、全世界のGE拠点で『Box』が導入された時。従業員30万人が、1つのクラウドサービスを使うことになった。
こうしたビッグアカウントを獲得する戦略だけでなく、ある特定の業界にも特化することも大切。例えば、Boxではヘルスケア業界が導入しやすいように体制を整えた事例もある。
エンタープライズ業界では、バーティカル展開を意図して戦略を練ることが重要なんだ。
【3】組織拡大の際は、「2トップ体制」で事業を推進すること
Boxでは創業から3年目にダン・レヴィンが加入した。彼はもともとコンサルタントとして、Boxにアドバイスをくれる人物だった。CEOのアーロン・レヴィは、会社のさらなる成長には彼が鍵を握っていると考え、COOとして迎え入れたんだ。
その後、彼は実質的にエンジニアリングからセールスのトップとして価値を発揮した。アーロンが会社や製品のビジョンを示し、ダンがそれを実行する。投資を受けた時も、ダンの存在が大きかったんだ。
これと同じ「2トップ体制」を、後にエンジニアチームでも採用した。CTOは製品開発のストラテジーを担当し、もう1人のVP of Engineeringがチームマネジメントを担う、とね。役割を分けることで、組織拡大をスムーズに行うことができたんだ。
【4】歪んだ文化を生み出さない秘訣
組織が拡大すると、官僚的な考えが蔓延してしまうリスクがある。そこで大切なのが、問題解決視点で新しいプロセスを導入するということ。
ただし、問題が発生していないにも関わらず、“未来の課題”のためにプロセスを変える必要はない。目の前で発生した“火事”だけを解決すればいい。そして、その課題がクリアになったのであれば、プロセス自体を壊してしまうということも大切だ。
製品でMVP(Minimum Viable Product)という考え方があるように、社内のポリシーにもMVPの発想を取り入れる。最も軽い状況でプロセスを考えるべきだ。そうすることで、政治的な考えを解消していけると思う。
そして、他部署の問題であっても丸投げすることはよくない。その瞬間に、問題に対しての当事者意識がなくなってしまうためだ。これが積み重なると、組織全体のポリシーが歪んだものになってしまう。
自分が問題を感じたら、自分が挙手して、解決する。自発的に行う姿勢が組織でのMVPにつながっていくと思う。エンジニアリングチームも同じで、「問題を自分で解決する」という考えはどのポジションの人間であっても重要視していたよ。
【5】採用ではカルチャーフィットを意識すべし
Box創業の経緯は、CEOのアーロン・レヴィが大学を中退したところが始まりだ。そのため、ビジネスもテクノロジーも分からないところからスタートしている。「学ぶ姿勢」が、アーロン自身がスタートアップの世界で生き残る上で最重要だったんだ。
だからこそ、同じように学ぶ姿勢を持っているエンジニアを採用し続けていた。創業者の重視するカルチャーにフィットする人材を採用することが重要なんだ。
カルチャーは会社が自走するためのプロトコルのようなモノ。ゴールを自ら設定して自らが解決する。こうしたエンジニアが増えていくことで、創業者が作ったカルチャーはより強固なものになっていく。
そして、採用には2つの軸を用意した。1つは技術力、次にカルチャーフィット力だ。この2つの軸で高得点が出せなければ、絶対に採用することはあり得ない。そうした仕組みを作ったんだ。こうした視点に加えて、今後会社が進むべき方向を理解し、価値を発揮でいる人材も迎え入れる必要がある。
でも、面接の短い時間で候補者の全てを判断することはとても難しい。そこでBoxでは、入社後の3カ月間で方向性や価値観がマッチしているのか判断するようにしていた。アドバイスをしても変わらない場合はクビを切るんだ。これは日本では難しいことだと思うけどね。
カルチャーにフィットした優秀な人材を集めることで、チームは強くなっていくんだ。
エンジニアには謙虚さが必要
最後に、エンジニアは謙虚さを持つことが重要だ。
開発すればするほど、今まで以上の問題が繰り返しやってくる。エンジニアとしては自信を保つことが難しいということだね。
開発を進めている上で、サービスがグロースして自信を得ることもある。ただし、エンジニアはその点に固執してはならない。そういったエンジニアは新しい問題を生んでいることを受け入れることができないケースがあるためだ。
そういった謙虚さを持つことがエンジニアにとって大事だと思うね。
僕が改めてスタートアップを始める上で、大切にすることは2つ。それは、チームとアイデアだ。シリコンバレーで生まれている、スタートアップのためのスタートアップという発想ではなく、本質的にユーザーが求めているモノを作りたいと考えているよ。
取材・文・撮影/川野優希(編集部)
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