シリコンバレーで就活したエンジニアに聞く「渡米就活」成功のカギは?
アプリやWebサービスの市場が日本国内にとどまらず広まっている昨今、海外で働きたいと考えるエンジニアが増えてくるのは自明の理。しかし、実際に海外での就職活動を経験した人というのはさほど多くなく、彼らの話を聞ける機会は限られている。
今回は、エンジニアにとってのメッカ・シリコンバレーと、急成長する新興市場とされる東南アジアのハブ・シンガポールで就活を経験し、現在も海外で活躍する2人のエンジニアに、リアルな体験談を聞いた。
エンジニアなら一度は行ってみたい、シリコンバレーの魅力
近澤氏(以下、敬称略) 日本で大学を卒業し、Web制作会社で働くうちに、「自分でWebサービスを作りたい」、また「海外で働きたい」と思うようになりました。その後DeNAに転職し、希望していた海外事業部に異動。ベトナムのオフショア開発拠点の立ち上げや、ソーシャルゲームの制作に携わり、世界各国のアプリストアのランキングで1位を獲得するなど成果を残すことができました。その後、日本でスタートアップの起業を経てフリーランスに転向。シリコンバレーで就職活動をすることになりました。
近澤 明確に思うようになったのは、大学生のころの短期留学がきっかけでした。
そこで、現地で暮らす人々と話すうちに、「日本はマーケットサイズは大きいかもしれないが、外から見れば日本語で閉ざされている。このまま日本しか知らずに死ぬのはもったいない」と感じ、30歳になる前に仕事で海外に出ると決めました。
平川氏(以下、敬称略) 日本で大学を卒業してサイバーエージェントに入社しました。そのころから、「26歳か27歳の時に海外に長期旅行しよう」と考え、目標300万円の貯金計画を立てました。そして27歳の時にお金が貯まり、アジア中を1年間回ることに。「この旅が終わった後は海外で働こう」と決めており、旅の途中、タイやトルコなど行った先々で仕事に関する話を聞いたり、シンガポールで人材系の会社に登録して面接を受けたりもしました。
平川 親戚がアメリカで働いていて、もう小さいころから「海外に行け、海外に行け」と言われて育ったんです。実際に毎年海外を訪れる機会もありました。それで海外、というか自分の中の「海外=アメリカ」でしたので、「アメリカっていいなあ」と思うように。大学生のころには1人で海外を旅行したり、週末に日本の観光スポットで外国人に声をかけては、勝手に案内するなどして英語の勉強をしていました。
近澤 世界中の人に使ってもらえるサービスの開発に携われることでしょうか。それは日本にいても可能ですし、わたし自身もDeNAで開発に携わったゲームがアメリカで1位になるような経験もしました。しかし、長く使ってもらえるようなサービスはなおさら、シリコンバレー発の企業に比べると日本では難しいと言わざるを得ません。
「英語ネイティブコミュニティー」が存在しない日本の難しさ
近澤 理由は単純で、世界中で使われる言語が英語だからです。日本人向けに日本語で作ったサービスを海外展開するには、ものすごく時間やリソースがかかります。
平川 それはわたしも同感です。
近澤 そのやり方で開発したとしても、目の前に(英語を第一言語にしている)ユーザーがいませんよね。
平川 特にサービスをローンチしたばかりの時期に最初のユーザーを獲得するには、サービスやテクノロジー自体の優位性さはもちろん、オフラインのつながりが意外と大事です。オフラインで獲得したコアなユーザーの方々が、ネットワーク効果をもたらしてくれますから。
今、僕らが開発・運営しているフード系アプリの『Burpple』でも、対面でのユーザーコミュニティー形成に力を入れています。また、アメリカのメディアは影響力が大きく、サービスが記事で取り上げられると英語圏全体でブーストがかかりやすい。
平川 はい、そう思います。
近澤 『Viki』がシンガポールの本社とは別に、サンフランシスコにオフィスを置いている理由もそれです。つまり、ユーザーと定期的に会い、またシリコンバレーのエコシステムを活用するためです。
近澤 エンジニアにとって、「働きたい」と思える会社で働けるチャンスがすさまじく多いということです。
例えば、Indeed.comのような求人検索サイトで「JavaScript フロントエンド」などスキル名+職種名で検索すると、知っている会社だけでもものすごい数の求人案件が出てきます。一方、日本である程度の知名度があって、ベンチャー気質のある会社となると、「新御三家」なんて呼ばれ方もするDeNA、GREE、サイバーエージェントとか……。
平川 あとは楽天、LINEぐらいですかね。
近澤 ですよね。それに比べて、向こうはとにかく母数が多いです。
平川 エンジニアにとっての「天下一武闘会」のようなイメージを抱いています。自分の腕試しをしたいエンジニアが競い合う弱肉強食の世界。世界中から腕の立つエンジニアが集まり、もし通用しなかったらすぐ首を切られるような。
近澤 実際、そうだと思います。カフェでランチを食べるとあたりからWebサービスや技術、エンジニアの採用の話が聞こえてきます。また、学生と投資家が話をしていたり、エンジニアが技術書を読んでいたり。
平川 そうなんですね。シンガポールだとそんな光景はワンノース(※)周辺に限られるかもしれません。
※ワンノース:シンガポールのIT関連企業の集積地域。多くのスタートアップ企業がオフィスを構えるビルディング「Blk71」もこの地域にあり、Burppleも入居している。
初めから世界を狙う、シンガポールのテクノロジーシーン
平川 海外展開を強く意識せざるを得ないことでしょう。シンガポールは人口が500数十万人と、国内だけ見れば非常にマーケットが小さい。ですから遅かれ早かれ、いずれは外に出ていかざるを得ません。それゆえ、最初からサービスをどのように海外でスケールさせていくかということを考えなければいけません。
近澤 それはシリコンバレーとは異なりますか?
平川 これはあくまでもイメージですが、シリコンバレーは結局海外を見ていないのではないでしょうか。
近澤 言われてみればそうかもしれません。世界中の人々がシリコンバレーで今起きていることを知りたがっているから、その必要がないとも言えます。
平川 わたし個人としては、エンジニアとして技術を極めたいというよりは、良いサービスを作りたいと思っています。ですから、まだスタンダードといわれるような位置付けのサービスが存在しないサービスカテゴリーもあり、またインターネットやスマートフォンの普及率がこれからますます高まっていく東南アジアという市場に、魅力と伸びシロを感じています。
近澤 スタートアップシーンの盛り上がりは「これから」といった感じなのでしょうか。
平川 わたしがこちらに来た2年前と比べて、スタートアップ関連のイベントも増えましたし、盛り上がってきています。Blk71に入居する起業家も増えていますし、外国人も増えてきた印象です。また、先日サイト内チャットツール『Zopim』がアメリカのZendeskに買収されたように、シンガポール発のスタートアップの成功事例も出始めています。
平川 こちらでは、Rocket Internet(※)のような欧米で流行ったサービスを東南アジアに移植する、いわゆる「タイムマシン」的なサービスを展開している企業が存在します。成長性も見込めるでしょう。また、創造性というものはそれなりに成熟した場所でないと生まれにくいですから、東南アジアでまったく新しいアイデアのサービスが生まれることはまだまだ難しいのかもしれません。しかし、オリジナリティーを発揮していこうとする気運は高まっています。
※Rocket Internet:ドイツ発のインキュベーター企業。東南アジアでは、ファッション系ECサイト『Zalora』や、家電製品などを扱うECサイト『Lazada』、飲食店のデリバリーサイト『foodpanda』などを運営。
近澤 平川さんから見て、シンガポールのエンジニアのレベルはいかがでしょうか?
平川 スキルを磨くための環境としては、シリコンバレーや日本に劣ると思います。もちろんシンガポールにも優秀なエンジニアはいるのですが、コミュニティーが少なく層が薄い。日本ではエンジニア勉強会のテーマもかなり細分化されて多く存在しますが、こちらでは「Ruby」などざっくりとしたテーマのものがいくつかあるぐらいです。
近澤 たしかにそうかもしれません。いっそのこと、自分たちで勉強会を開催するのもありますね。
平川 いいですね。そうやって自分たちでコミュニティーを作っていけるフェーズにあるというのは面白いです。
近澤 もし行けるなら、シリコンバレーではないでしょうか。
平川 エンジニアとして技術を向上させるために行きたいのならシリコンバレーでしょうね。
近澤 ただ、わたしもシンガポールならではの面白いところがあると思っています。東南アジアの周辺諸国からそれぞれの国の中でもモチベーションや技術のレベルの高いエンジニアが集まっていて、さらにネイティブスピーカーと同等のレベルで英語が話せる人たちに囲まれる環境で働けるというのは日本ではあり得ないことです。実際Vikiでもいろんな国籍の優秀なエンジニアが働いています。
平川 多様性というのはシンガポールならではの魅力の一つでしょう。日本人エンジニアという存在はこちらではむしろマイノリティー。そんな環境に身を置きたい人には刺激的な国かもしれません。
「戦略的」シリコンバレー就活の全貌
近澤 まず英文でレジュメを作成し、知人のネイティブスピーカーに添削をしてもらいました。レジュメが完成した後、GoogleやFacebookなどシリコンバレーの有名大手企業にはコーポレートサイトを通じて応募。しかし、これに対する反応はまったくありませんでした。
そこで、もう少し規模の小さい企業にもレジュメを送りました。今度は数社から返信があり、中には面接を受けたら反応が良く、働くためのビザ発行手続きをサポートしてくれるという企業も現れました。
近澤 はい。しかし、現地に行った方がチャンスも増えると思い、その会社の結果が出る前にシリコンバレーに渡りました。向こうにDeNA時代の同僚がいたので、家事をやる代わりに1カ月間滞在させてもらうことに。彼をはじめ、いろいろな方を通じて、現地で起業した日本人や企業の採用担当者などを紹介していただきました。
近澤 また、紹介していただいた方にお会いしに行ったら、すぐに前職の会社を紹介してくれて、その足で面接に向かうこともありました。このようにネットワークを活用して応募したこともありますし、求人サイトで案件を探したり、滞在期間が限られていたので名前を思い付いた企業には手当り次第に応募したりしました。
近澤 途中で気付いたことがありました。有名な大手企業は、エンジニアからの応募が多く、またわたしはビザを持っていないため難しいということでした。そこで、次の2つの基準にあてはまる企業に照準を絞りました。
近澤 1つめは、「中規模ぐらいで人手が足りていないおらず、ビザの発行手続きをサポートしてくれる」こと。2つめは、「アメリカ以外の国にブランチがあるか、リモートワークを許容している」ことです。2つめについては、H-1Bビザを取得するために6カ月間待機しなければならないということの解決策として、アメリカ国外で働きながら待つためでした。
近澤 はい、そうです。しかし、Vikiは希有な例でした。シリコンバレーに本社があるIT企業で他国にブランチを持つところは少なくないのですが、その多くは開発機能を本社を集中し各ブランチではエンジニアの採用を行っていないところがほとんどです。また、3つめのリモートワークを許容している企業は、日本では珍しいのですがアメリカでは意外にもすごく多い。ある企業の面接は、Skypeどころかすべてテキストチャットで行われることもありました
近澤 いよいよシリコンバレー滞在の最終週というタイミングで、Indeed.comでようやくVikiを見つけました。ちょうど採用するエンジニアに求められるスキルが自分のと合致していまして。すると、自分を担当してくれたリクルーターが、たまたまわたしが制作に携わったソーシャルゲームの大ファンということで、そこからは話が早かったです。
すぐにオフィスへ行き、そのまま面接、そして後日本社のあるシンガポールの採用担当者やエンジニアと日本からSkypeで面接することになりました。
近澤 ビザの発行手続きのサポートに関する問題を現実的に解決することができず、採用にいたらなかった企業が数社ありました。ほかにも、日本に子会社がありリモートで1年以上働いて、その後シリコンバレーに移るという選択肢を提示してくれたところもありました。
しかし、日本で働くという選択肢はなかったためお断りしました。
近澤 はい。ソーシャルゲームとArctic.jsの実績はすごく武器になりました。この実績がなかったら、就職は無理だったと思います。つまり、「シリコンバレーで通用する実績を日本で積まないといけない」ということがカギだと思います。それは決して日本で名の知られた企業に在籍しないといけないとかそういうことではありません。例えば、オープンソースプロジェクトにコミットするのでもよいのです。
平川 以前、増井雄一郎さんが登壇された討論会に参加した時に、本人に「非連続的な環境の変化をどうやって飛び越えてアメリカにいったのですか?」と聞いたら、「オープンソースのコミュニティで活動していたので、そこに対する難しさはなかった」と言っていました。例えば、GitHubでアウトプットを出すのは手かと思います。
近澤 まさにその通りだと思います。最近、Vikiで海外から応募してくるエンジニアの採用に携わる機会があるのですが、応募者のレジュメを見てGitHubでの実績が書かれていると、その人がどのようなモノを作り、どのような指向があるのかが一目で分かります。
平川 エンジニアって対外的な発信に対して苦手意識があって、対外的に情報を発信することができない人がいますよね。その点、増井さんを見ていると自分の見せ方が非常にうまいと感じます。
近澤 対外的な情報発信は滅茶苦茶大事ですよね。ブログを定期的に書く、講演する、執筆するなどは意識的にやっていかないといけません。
それをうまくやっていけば、結果的にアメリカで「アーティストビザ」というビザを取得することができる可能性が高くなります。
このビザを取得するためには、「自分がどれだけすごいのか」、「なぜアメリカに利益をもたらすことができるのか」ということをアピールする必要があります。レジュメの内容もアウトスタンディングでないといけません。
(次回へ続く)
取材・文・撮影/岡 徳之
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