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「究極の理想はイーロンマスク」発明家増井俊之・Wantedly川崎禎紀、CTOが語り合う技術×ビジネスの良いバランス

働き方

“ビジネスを加速させる技術屋”のヒントを探れ!

CTO's BizHack

技術領域でビジネスを支えるCTOが、他社のCTOを指名して「聞きたいこと」を聞いていく本連載。彼らの対談から、「プロダクトとビジネスをハックする」ための視点や思考を学んでみよう

CTO同士の対談を通して、ビジネスの成長を加速させる技術者としての視点や思考を学んでいく本連載。第一回目の今回は、iPhone(iOS)の予測変換を利用した文字入力システムの開発者である増井俊之さんをゲストに迎えた。

増井さんは開発者、UI/UXの第一人者でありながら、FAQサイトを簡単に構築できるシステム『Helpfeel』などを提供するNotaのCTOも務めている。

そして増井さんが「久しぶりに話がしたい」と指名したのは、教授・学生という関係の頃から知っているというビジネスSNS・WantedlyのCTO、川崎禎紀さんだ。

CTOでありながら発明家としてイノベーションを起こし続ける増井さんと、スタートアップからベンチャーへ規模が大きくなり続けるプロダクトを牽引する川崎さんが考える「技術とビジネス」の良いバランスとは?

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Nota, Inc. CTO 増井俊之さん(@masui

1959年生まれ。Nota CTO、慶應義塾大学環境情報学部教授で、ユーザインタフェースの研究者。東京大学大学院を修了後、富士通半導体事業部に入社。以後、シャープ、米カーネギーメロン大学、ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、Appleなどで働く。携帯電話に搭載される日本語予測変換システム『POBox』や、iPhoneの日本語入力システムの開発者として知られる

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ウォンテッドリー株式会社 取締役CTO 川崎禎紀さん(@kawasy

東京大学理学部情報科学科を卒業後、同大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻の修士課程を修了。2006年にゴールドマン・サックス・ジャパン・ホールディングスに入社、テクノロジー部門VPを経て、12年4月にウォンテッドリーの開発・運営にCTOとして参画。13年10月より現職

ソフトウェア開発は「プロダクトアウト」か「マーケットイン」か

――お二人はもともと、川崎さんが学生時代からのお知り合いなんですよね?

川崎:そうなんです。なので今回お話いただけたのがすごくうれしくって。 よろしくお願いします!

増井:久しぶりですね。川崎君のことは学生時代から知っていたので、今どうしているのか、Wantedlyで何やっているのかなと思って、指名させてもらいました(笑)

――ありがとうございます。今回はお二人の対談から「ビジネスと技術」のエッセンスを学びたいなと思っているのですが、増井先生はどちらかというと「技術の人」のイメージが強いですよね。

増井:そうですね。私は今まで「自分が欲しい物を作る」ということだけをやってきたので。実はCTOをしているNotaという会社も、私が発明したシステムを基に事業が始まったから、CTOという肩書きが付いただけで……。

今、世の中のスタートアップでは、「売れる商売を事業にする」というケースが多いじゃないですか。『SmartNews』はニュースが求められているから事業になるし、『メルカリ』はリサイクル品の売買というニーズがあるから事業になる。

川崎:マーケティング用語で昔よく言われていた、 「マーケットイン(市場ニーズがあるものを売る)」と「プロダクトアウト(作り手がいいと思うものを売る)」の話ですね。

増井:私は完全に後者のタイプなんだけれど、川崎君はCTOとして働いていて、どちらを感じることが多いですか?

川崎:僕は、プロダクト開発はその二つをぐるぐる回るものだと思っていて。「マーケットがある」と思っても、魅力的な市場であれば競合も多いのでなかなか勝てないですよね。そこで、これまでとは違う課題解決策を思いつくことが必要になるわけです。

Wantedlyであれば、転職市場は魅力的なマーケットでしたが、当然既存のプレーヤーがいたので、同じ戦略で同じ価値を提供しようとしたら勝てなかったはずです。ただ、Wantedlyではそこに「話を聞いてみる」という新しいステップを発明したんですよ。

採用試験を受ける前に、お互いを知る1ステップを加えることで、マッチングを増やすことに成功したんです。

増井:もともとマーケットはなかったけれど、「これが良いんじゃないか」というプロダクトアウト的な発想ですね。今は他にどんなことをやっているんですか?

川崎:最近では新規事業の立ち上げに注力しています。今は、Wantedlyのユーザーが自身のIDを使っていろんなことができるように、機能展開しているところ。例えばWantedlyを使って入社した人が、企業に定着して活躍していくためのサポートができるようなプロダクトをつくっています。

なぜ増井俊之は「売れる商品」を作れるのか

川崎:増井さんのように「プロダクトアウトな発想で当てる」のは、かなり難しいことですよね。そのあたりで、増井さんに聞きたいことがあるんですよ。

増井:何でしょう?

川崎:増井さんが「自分が欲しいものを作る」といっても、実際に使うユーザー、つまり「普通の人」の感覚を持っていないとプロダクトとして成り立たなくなるじゃないですか。

例えば私はもう30年くらいコンピューターを触っているので、もっと若い世代の「普通の人」の感覚を理解するのに苦労することがあるんです。増井さんはその感覚をどう身に付けて、多くの人に使われる発明に活かしているのでしょうか?

増井:それは逆に、老人としての知見を活かしていますよ(笑)。無理して若者に合わせにいかなくていいということです。

増井先生

増井:Webがある今となかった昔では何もかもが違うわけですよね。若い人はきっと、なかった時代のことなんて想像できないと思うんです。だけど、老人の私たちはその時代のことを知っている。それがむしろ強みになるんですよ。

例えばよくある話で、馬車のユーザーに欲しいものを聞いたら「もっと速い馬車が欲しい」と言うかもしれないけれど、本当に必要なものは自動車だったといった話がありますよね。

川崎:確かに、そういう話はたくさんあるかもしれませんね。電子メールとLINEを知っている人と、LINEしか知らない人では発想も異なりますし、考えられる設計も違ってくる、みたいな。

増井:そうそう。あと最近では、意外と「再発明」というのもいいものだと思っています。

今流行ってるものでも「それって、30年前にすでにあったよね?」というものってたくさんあるでしょう。それが再発明。昔は機が熟してなかったけれど、今技術が進化したからこそ、価値が出てくるようなものがあると思います。

そこで、「それは昔やったけどダメだったんだよ」と切り捨てると老害になってしまうので(笑)、「前はダメだったけれど、もう一回やればうまくいくかも」というマインドが大切なのではと思っています。

川崎:確かに、昔はニューラルネットワークとかって、「ほぼ実用性無いでしょ」と思われていましたよね。でも計算機の進化によって、2010年代に入ってディープラーニングという形で結実して、広く実用的に使われるようになった。そういう発想は、これからも数多くありそうです。

増井:あとはビジネス的に通用するプロダクトを考えるにあたっては、「ユニバーサルであること」は、知らず知らずのうちに考えているかもしれません。誰でも使える、どんな言語でも使える、というUI/UXは重要ですよね。

例えば私が作った予測変換アルゴリズムが入ったテキスト入力システムは、単語の読みなどの一部を入力すると、候補が表示されて選べるという仕様です。これは言語によらず使えるシステムなんですよ。

日本語に特化したアルゴリズムを使うと中国語では使えませんが、私の方法は単純でユニバーサルなので、どんな言語でも使えます。

よりユニバーサルに、シンプルな解決方法を探すというのは大事かもしれませんね。

「ビジネスマインド」の持ち方には段階がある

川崎:私、この連載のテーマでもある「ビジネスマインドを持つエンジニア」になるためには、2種類の大事な考え方があると思うんですよ。さっきの「マーケットインorプロダクトアウト」の話とも似ているのですが。

一つは、会社の中でエンジニアであるなら「自分の仕事が、何につながっているのか」というのは、考えざるを得ないということ。プロダクト価値や事業のロードマップとのつながりを意識するのは、エンジニアなのであれば必要になってくると思います。

増井先生

一方で、そもそも「ソフトウェアを書くことが、とにかく楽しい」という気持ちも大事ですよね。いろいろ楽しんでいるうちに、面白いものが見つかって、それが会社の仕事に使えることもありますから。

そうやって突然誰かが、思いもつかないような解決策で、プロダクトのイシューを解決することもあるので、そういう発想も必要だなと思っています。

増井:最近だと「発明好きのビジネスマン」の最たる事例は、イーロン・マスクですよね。彼は元々エンジニアで、ビジネスマインドを持って成功している。私は彼のことがとても好きなので、究極的には彼のようになれると理想ですよね。

川崎:ただ、「ビジネスマインドを持つ」ということにも段階がありますよね。増井さんやイーロン・マスクのように、自分のアイデアを形にできて、それをビジネスにする能力もある人もいます。けれどその手前に、「自分が担当しているプロダクトとビジネスの結び付きを意識できるか」という段階がある。

増井:最初から、ただ好き放題に作るだけじゃないってことですね。

川崎:そうなんです。自分の書いたコードがどんな価値を見出してるか全く知りませんって人と、ビジネスにこう役立っていると理解している人では、「いい仕事ができるかどうか」っていうのも、変わってくるんじゃないかなと思います。

楽しみながら挑戦できるエンジニアは、強い

増井:ただやっぱり、エンジニアなら発明の楽しさを感じて、手を動かすことも大切ですよね。iPhoneだって、最初にiPodを作ってみて、それに電話をつけたらiPhoneになった……というふうに、作って試している間に良いビジネスに結び付いた事例もありますから。

川崎:現場で試行錯誤してみたら、というのは強いですよね。今僕たちがWantedlyで作っている新規事業って、実は自分たちが最初のユーザーなんです。自分たちの会社でやってきて良かったことや、自社の課題を解決したくて作ったものがスタート地点になっていて、それを試行錯誤してプロダクトにした感じで。

増井:自分たちで作ったものを試すことを通してプロダクトを改善していく。そういう手法をドッグフーディングと呼びますが、自分が使うものだと、一生懸命改善しながら作るから良いですよね。

何かを思いついたら、それを試しに作ってみて公開して、周りの人から評価をもらう。それは発明にとっても、大事な経験だと思います。今はクラウドが発達して、そういう一連の流れもやりやすくなっていますよね。

会社で働いていると、「あれやらなきゃ、これやらなきゃ」という作業でいっぱいになりがちですけれど、そういったトライアンドエラーしながら発明ができるような環境がもっと普及するといいなと思います。

川崎:自分で考えて、作って、売ってみるという一連の流れを経験すると楽しいですからね。結局、「技術力も、ビジネスマインドも持たねば」と固くなるんじゃなくて、楽しみながら挑戦できる人が強いんじゃないかなと思います。

――自分で試行錯誤して、それが何に役立っているのか、世の中に出した時にどんな反応があるのかを考えてみる。そういった仕事の進め方の中で、知見は溜まっていくものなんですね。お二人とも、本日はありがとうございました!

取材・文/りょかち 編集/大室倫子(編集部)

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