(補足)『ダンガンロンパ』シリーズ
スパイク・チュンソフトから発売されているゲームシリーズ。1作目『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』の発売後、刺激的で予測不能なストーリーや、『ドラえもん』声優で知られる大山のぶ代さんが声を担当した残酷な看板キャラクター『モノクマ』※が話題に。その後アニメ化や舞台化もされ、シリーズ全世界累計販売数500万本を突破する人気シリーズとなった。
※シリーズ最新作『ニューダンガンロンパV3みんなのコロシアイ新学期』ではTARAKOさんが声優を務めている
WEBサービスやゲームなど、コンシューマー向けサービスの開発において、ユーザー視点や顧客満足を重要視することは珍しくない。しかし、そんな従来の価値観を覆すような意見をTwitterに投稿し、話題になった人がいる。
ダンガンロンパ V3で思い出深いのはやっぱ発売直後に荒れまくったAmazonレビューだよね。社内がざわついてたもの。でも俺もスタッフの皆んなもこれでないとダンガンロンパ ではないと自信を持って出したので叩かれてもへっちゃら!
ではなかったけど、まぁ叩かれるの恐れて媚びて作っちゃダサいよね。— Kazutaka kodaka/小高和剛 (@kazkodaka) January 12, 2022
当該ツイートを投稿したのは、『ダンガンロンパ』シリーズの企画・シナリオを手掛けたゲームクリエイターであり、ゲーム開発会社トゥーキョーゲームス代表の小高和剛さん。
『ダンガンロンパ』はゲームソフトのナンバリングタイトル3本、スピンオフ1本をリリースし、アニメ化や舞台化などさまざまなメディアミックスが展開されている人気シリーズだ。
(補足)『ダンガンロンパ』シリーズ
スパイク・チュンソフトから発売されているゲームシリーズ。1作目『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』の発売後、刺激的で予測不能なストーリーや、『ドラえもん』声優で知られる大山のぶ代さんが声を担当した残酷な看板キャラクター『モノクマ』※が話題に。その後アニメ化や舞台化もされ、シリーズ全世界累計販売数500万本を突破する人気シリーズとなった。
※シリーズ最新作『ニューダンガンロンパV3みんなのコロシアイ新学期』ではTARAKOさんが声優を務めている
ところが2017年1月にリリースした『ニューダンガンロンパV3』(以下、V3)は、メタ的な演出やシリーズ終了を匂わせたオチなどに対し、批判の声が相次いだ。そして、『V3』のリリース5周年を迎えた2022年1月に例のツイートが投稿されたのだ。
最後に添えられた「叩かれるの恐れて媚びて作っちゃダサいよね」という言葉に込められたクリエーターとしての思いとは。『V3』発売当初の世間の反響や自身の心境とあわせて聞いた。
――「『V3』発売後にAmazonレビューが荒れた」とツイートされていました。たしかに当時を振り返ると、まさに賛否両論だったなと。
(参考)『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』Amazonレビューページ
発売当初は批判の声が大きくて。批判を書く人の方が熱心に書くから、批判を見て「このゲームが好きだ」と感じていた人さえも怖気づいてしまった状況があると感じていました。みんな「嫌い」って言ってるのに、自分だけ「好き」とは言えない、というような雰囲気でしたね。
ただ、時間が経つにつれてこのゲームのことを好きだと言ってくれる人たちが声を上げてくれるようになったし、スタートこそ気に食わなかったけど結果的に好きだと言ってくれる人も増えて。今では、賛否の「否」よりも「賛」が上回ったかなと思っています。
――最初にそれほどの批判が集まったのはなぜだと思いますか?
単純に、プレイヤーの好みに合わなかったのだろうなと。エンタメというのはコンテンツが大きくなればなるほど、作品の良し悪しと自分の好みを混同して語りがちになりますからね。
特にそれまでの『ダンガンロンパ』シリーズはプレイヤーが傍観者だったけど、『V3』は傍観者ではなくなりユーザーを物語に巻き込むという切り口を付け加えたんですよ。それゆえなところはあるかもしれません。
とはいえ『ダンガンロンパ』は、シリーズを通して「驚かせてナンボ」なやり方を貫いてきました。プレイヤーが毎回同じ感情を持ってしまうのはダメなんです。
だから『V3』ではこれまでの『ダンガンロンパ』とは違った形でユーザーに刺激を与えよう、と。プレイヤーにもゲームの中のキャラクターとともに苦しんでもらって、その先にほんの少しの希望を抱いてもらえるものにしようと思っていました。
――ということは、ある程度の賛否の「否」は想定内だった?
そういう意見も来るだろうとは思っていましたね。開発スタッフにはとがった人間が多いので「『ダンガンロンパ』はプレーヤ―を驚かすようなことしないと!」という意見が多かったんですけど、やっぱりプロデュースや広報などのビジネスサイドの方たちは若干の不安を感じていたと思います。
いつもお世話になっている社内の広報担当から「プロットを最初に読んだ時は『何でこんなことをするのだろう』とモヤモヤする気持ちになったけど、一晩経ったらこの新しいことに挑戦するスタンスこそが『ダンガンロンパ』だと思った」と言われて。
多くのユーザーがそう思うかもしれないと思いつつ、奇跡が起きてみんなが「好き」って言わないかなぁと考えていました。そんな奇跡は起きなかったですけどね(笑)
――実際、批判的なレビューに対して、当時の小高さんが感じていたこととは?
称賛でも悪口でも、盛り上がっていることに越したことはないなと。ちっとも話題にものぼらないことの方がダメージが大きいので。
それに、文句は言っているけど、みんな最後までプレイしてくれているなと思っていました。
ゲームって始めるのは簡単だけど、最後までプレイするのが一番難しいメディアだと感じています。そんな中、レビューを書いている人のほとんどが最後までプレイしている。なので、罵詈雑言はあったもののそこまで凹むことはなくて。むしろ「最後までプレイしてもらう」というノルマを達成できてよかった。
あと、もともと全人類に「好き」と言われるようなタイトルだと思って作ってはいないので、そんなもんだよな……という感じでもありましたね。
――とはいえ、『ダンガンロンパ』はゲームのみならずメディアミックス展開でアニメ化や舞台化もされ、巨大コンテンツへと成長しました。それは想定外だったのでしょうか?
どれも「大きくしていこう」と思って作ってはいなかったですね。それは当時僕が所属していたスパイク・チュンソフトも同じでした。大手のゲーム会社とは違い、メディアミックスの経験はほとんどなかったですし。外部から「アニメやりませんか?」「舞台やりませんか?」とお話をいただいたから、じゃあやりましょうとなっただけなんですよ。
――『V3』のレビューで「大きくなり過ぎてしまったから終わらせたかったのではないか?」という意見を見かけることもあったのですが、実際はどうだったのでしょう?
終わらせようとは思っていなかったですよ。プロットを書いた段階で「これは一区切りなんだろうな」「この後はなかなか作りづらいぞ」とは感じていましたけど。
ゲームに限らずどんなコンテンツでも三部作で区切ることはよくあるので、いったん『V3』で区切りをつけてもいいんじゃない? と思いました。
――例のツイートでも「叩かれるの恐れて媚びて作っちゃダサいよね」と書かれていましたが、お話を聞いて『V3』は「作るべきものを追求した結果、そうなってしまった作品」なのだと感じました。
そもそもヒットする作品は「想定外のお客さんが入ってくること」が大きな要因だと思っています。『ダンガンロンパ』もですけど、最初のターゲット以外のお客さんが入ってきたことでヒットにつながった。
でも、それをコントロールできる人はいないと思うんですよ。「想定外のお客さん」を呼び込むための条件や手法なんて誰にも分からない。それができたらどの作品も成功するので。だから、「国民的ヒット作品を作りたい」と、はなから思ってものづくりをすること自体ダサいなと思っていて。
「想定外のお客さんを意識しすぎている=媚びている」ことにつながるし、見えない人に向かって作っていると作品のビジョンや軸もブレていきますからね。
――『ダンガンロンパ』も「ヒットさせたい」と思いながら作ったわけではない、と。
先ほど、このシリーズは「驚かせてナンボ」のスタンスだとお話しした通り、「自分がユーザーだったらどう喜ぶか・驚くか」という目線のみで作っていますね。
ゲームって企画の立ち上げからリリースまで数年かかってしまうので、その中でいかに軸をブラさないかが非常に大切で。周囲の意見や環境に左右されるよりは、その時に自分がユーザーだったら「最高」と思うものを考えた方がいい。
『ダンガンロンパ』をやっていて感じたのは、ストーリーが同じでも、ゲームとアニメではユーザーの喜ぶポイントや怒るポイントがまるで違うということです。
コンテンツの形式によってユーザー層が違う。だから、見えないお客さんに合わせて作っていたらキリがないんですよ。最終的に想定外のお客さんが入ってくるかは、口コミや流行などいろいろな要因が重なった結果でしかないと思っています。
あと自分自身、根がサブカル中二病みたいな人間だから、売れているものにカウンターを食らわせたいとは常に思っていて(笑)
媚びるというのは下から「これお好きですかね……?」と問い掛けているような感じですけど、そうじゃなく、プロのゲームクリエーターとして「こういうのが面白いんだぞ!」と導いてあげる感覚で作っています。
――「媚びずに作る」を貫くと、作り手の独りよがりになってしまうこともあると思います。そうならないために、小高さんが意識していることはありますか?
前提として僕の作る作品はどれもストーリードリブンなので、ある程度独りよがりになった方が作りやすいんですよね。
アクションゲームやシューティングゲームなどは、体験的な積み重ねで面白さのバランスを取るからいろいろな人の意見が必要な場合もあります。一方で、ストーリードリブンのゲームは、ストーリーを際立たせる演出や操作を乗せていく作り方になるから、ストーリーのゴールを決めてそこに向かってスタッフみんなでアイデアを乗せていく方が作りやすい。
僕自身も、シナリオを何度も読み返したり、テストプレイを重ねたりしています。
クリエーターとしての自分の強みを一つあげるなら、自分が作っているものを「客観的に見られるところ」だと思っているんですよ。日頃からさまざまなゲームをプレイして「面白さ」への感度も常に高めているつもりです。
それを生かして「ここは退屈」「ここはワクワクしない」「ここはキャラを立たせたい」とチューニングする。できる限りまっさらな目で、100回近く見直しています。
――スタッフの皆さんにレビューしてもらうこともあるのでしょうか?
開発後半になるとテストプレイはしてもらいますね。一通りプレイして「あのキャラがすごく良かった!」となる人や、プレイしながら泣いてしまう人もいるんですよ。
自分の中で「これはいけるな」と思いながら作っていますけど、スタッフのそういう瞬間を見ると「やっぱりこれいけるな」って確信できる。そこで「少なくとも世に出して問題ないものだな」と判断します。
――スタッフの反応が最後の後押しになるんですね。
ええ。自分が面白いと思うものを突き詰めて作り切る。頭をなるべくフラットにして繰り返し見返す。それから、信頼できる仲間たちの反応を見る。
『V3』は、これらの過程を経て作ったからこそ「自信を持って出す」ことができたのだと思っています。
――「ヒットする作品」を狙って作ることは難しいけれど、「自信作」を作るセオリーはあるわけですね。最後に、「信頼できる仲間」とありましたが、小高さんが信頼できるエンジニアとは?
ゴールの実現に向けてアイデアを出せること、体験の本質を見極めてゴールを突き詰めることができる人ですかね。
コーディングが速かったり仕様書通りのプログラムを組めたりすること以上に、ゲーム体験のゴールを理解して提案できる人は頼もしいし優秀だと思います。
仕様書に書かれたやり方で進められなかった時でも、「できません」と言うのではなく「最終的にこの体験をさせたいなら、こういうやり方もありますよ」と言えるような人とならもっと面白いゲームが作れると思うので。
いずれトゥーキョーゲームスでもエンジニアを募集するタイミングがくると思うので、その時にはそういう人たちと一緒に仕事がしたいですね。
取材・文/阿部裕華 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)
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