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社長自らプロトタイプを作り口説く~オンライン英会話『ベストティーチャー』のiOSエンジニア獲得法が面白い
「UISegmentedControlを使ってView Controllerを出し分ける方法がわかりません」
12月8日にiOSアプリ『英語4技能対策アプリ ベストティーチャー』をリリースした株式会社ベストティーチャーが、同社初となるスマホアプリのリリースに漕ぎ着けたのは、こんな投稿がきっかけだった。
今年の5月、冒頭の質問をプログラミング専用Q&Aサイト『teratail(テラテイル)』に投稿したのは、同社の代表取締役社長である宮地俊充氏。同氏は最近増え始めた「エンジニア出身社長」ではない。2011年に起業するまで、放送作家、脚本家、会計事務所やM&Aファーム勤務、ITベンチャーCFOと多彩なキャリアを積んできたが、プログラミングの経験はまったくなかった。
そんな宮地氏が、なぜ『teratail』でXcodeの使い方について質問をしたのか? それは、今回のiOSアプリ開発に際して、決して多いとはいえない自社のエンジニアに頼らず「プロトタイプまでは自分で作る」と決めたからだ。
そしてこの判断が、優秀なiOSエンジニアとの出会いにつながっていく。
Q&Aサイトでのやりとりが、同社初アプリの開発参加につながる
宮地氏の投稿に回答したのは、iOSエンジニアの菅野健太朗氏(42歳)。後に、ベストティーチャーのiOSアプリ開発で主にフロントエンドの開発を担当することになった人物だ。
菅野氏は、35歳までアパレル企業でパタンナーをしていたという遅咲きのエンジニアだが、iOS開発については非常に豊富な知識を持っている。
理由はこうだ。2000年代の後半ごろ、Webサービスの普及やiPhoneの登場に関心を持つようになった菅野氏は、独学でObjective-Cの勉強を始めた。その後エンジニアへの転身を決め、派遣社員として開発案件に従事するようになってからは、学習ペースを保つ一環として『teratail』で質問に答えるように。人の質問に答えるには、キチンと調べ、時に自らも試しながら正しい回答を記さなければならないからだ。
業務と並行して最新動向を学び続けるには、この「習慣」が自分に合っている――。この日々の努力は、同サイト内での回答数で約600、優秀な回答者に贈られる称号として「Swift総合1位」にも選ばれている(菅野氏のユーザーページはこちら / 2016年12月12日時点)。
宮地氏はその菅野氏とQ&Aのやりとりを通じて知り合い、その後、『teratail』が行っているリアルイベント「集まっtail」で直接会った。
最初は回答をくれたことへの御礼を伝えた程度だったが、せっかくできたつながりを活かそうと、自身が作ったプロトタイプを見せながら改善ポイントを聞きに行くようになったという。
「その時は、アプリの読み込み速度を上げるにはもっとこうした方がいい、みたいな会話で終わったのですが、すぐに宮地さんが『SDWebImage』を使って直して来まして。社長だしプログラマーでもないのに、すごいなと思ったのを覚えています」(菅野氏)
こうして生まれた共感が、菅野氏がベストティーチャーのiOSアプリ開発に参加する決め手となった。普段は別の企業で働いている菅野氏が参加することになったのは、宮地氏からのラブコールがあったからだが、一連のやりとりで本気度が伝わり、信頼関係が出来上がったからこその参加とも言えるだろう。
優秀なエンジニアの助けを借りてUX重視のアプリ開発ができた
こうして優秀なiOSエンジニアが見つかり、正式なアプリ開発プロジェクトに発展したのは今年9月ごろ。そこからリリースまでの約3カ月間は、週1回の対面ミーティング以外にもSlackとGoogleドキュメントを使ってコミュニケーションを取りながら開発を進めていった。
宮地氏をプロダクトオーナーに、フロントエンド開発を菅野氏が、サーバサイドをベストティーチャーのエンジニアである甲斐宏味氏が担当。そこにデザイナー1名が加わった4名で議論を重ねた結果、Web版の『ベストティーチャー』とは異なる特徴のアプリが完成した。
Web版では、いわゆる「英語4技能(聴く・話す・読む・書く)」のすべてが学べるように
■自分だけのトークスクリプト(英会話の台本)を作る「Writing」レッスン
■読み書きの学びを実践的な「listening(聴く)」、「Speaking(話す)」に活かすためのSkypeレッスン
■現在の学習進捗やレッスンの予約状況などがグラフで分かるダッシュボード画面
などの機能を搭載しているが、iOS版はスマホの小さな画面でも行いやすい「Writing」部分に特化。Web版でユーザー自身が作成したトークスクリプトや他ユーザーのスクリプトを基に、アプリで日本語訳を記入しながら「読む力」の強化を進めることができる。
また、学習意欲を維持してもらうために、他のユーザーが書いた日本語訳と自分の書いた日本語訳を比較しながら、優れた日本語訳には「いいね」を付ける機能も搭載。さらに自分で作成したトークスクリプトをシェアする機能もあり、ユーザー同士で英文の日本語訳に挑戦し合い、その出来を評価し合うような仕掛けもある。
「若い人たちの間で流行している『Instagram』を参考にして、英語学習にも自己顕示欲や承認欲求を満たすような場があってもいいのでは? と考えた」(宮地氏)ためだ。
これらの機能をユーザーエクスペリエンス重視で提供するには、「とにかくUIの見やすさと操作性が大事になるはず」と菅野氏は言う。
一方のサーバサイドでは、「Web版で作成したトークスクリプトをアプリ版でも取り込む際のAPIを、管理しやすく、かつアプリ開発者が使いやすくなるような設計にするのが重要だった」と甲斐氏。リリース間際のタイミングでは、これらの細かなチューニングを行うため、開発チーム全員が膝詰めで議論しながら開発をしていたと話す。
「途中、デザイン変更やそれに伴う仕様変更などもあったので最後の1カ月半くらいはドタバタしましたが、Swift3.0での開発やFacebookログインの実装などは私自身初めての経験でしたので、モチベーション高く取り組むことができました」(菅野氏)
ちなみに、ベストティーチャーは2012年のWeb版リリースから約5年が経ってからのスマホアプリ開発に、「わざわざアプリを作る必要があるのか?」、「アプリ市場が飽和している中で、開発してもダウンロードされないのでは?」という議論も行われたという。
宮地氏自身も当初はそう考え、他社のアプリディレクターやプロモーション担当者に話を聞きにいったそうだ。そのヒアリングを経て出した結論が、「良いアプリを作ればまだまだダウンロードしてもらえる」というものだ。
そのための企画はもちろん重要だが、アイデアを形にし、さらにブラッシュアップしてくれるようなエンジニアを獲得することも成功するための大切な要素になる。ベストティーチャーの場合、結果的に社長自ら時間を捻出して開発したプロトタイプが「出会いのハブ」になり、菅野氏のようなエンジニアの助けを得ることができた。
「今後はiOSアプリリリース後の反響も見ながら改善をしていき、それをAndroidアプリの開発にも活かしていきたい」と宮地氏は語る。そして、甲斐氏はそれを見越してすでにバックエンドの構築を進めているという。
採用も開発チームの運営も、最もインパクトのある打ち手は社長のコミットである。そう感じさせる話だ。
取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)
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