その後を決める、いいスタートダッシュ
エンジニア転職「運命の入社1カ月」転職後1カ月は「先輩に教わる、業務に慣れる」だけの時期? その後の仕事、キャリアを充実させるカギは、実はこの時期の“受け身姿勢じゃない”過ごし方にあるかもしれない。そこで各企業のトッププレーヤーやEMたちへの取材を通して「入社1カ月の過ごし方」を徹底調査。“その後”を左右する、いいスタートダッシュの切り方とは?
その後を決める、いいスタートダッシュ
エンジニア転職「運命の入社1カ月」転職後1カ月は「先輩に教わる、業務に慣れる」だけの時期? その後の仕事、キャリアを充実させるカギは、実はこの時期の“受け身姿勢じゃない”過ごし方にあるかもしれない。そこで各企業のトッププレーヤーやEMたちへの取材を通して「入社1カ月の過ごし方」を徹底調査。“その後”を左右する、いいスタートダッシュの切り方とは?
リクルート、ビズリーチ、メルカリを経て、現在はスマートニュースでテクニカルプロダクトマネージャーとして開発をリードしている森山大朗さん。
「たいろー」名義で、テック業界の転職やキャリアについての情報を発信するSNSやブログが人気を博し、今年は著書『Work in Tech! ユニコーン企業への招待』(扶桑社)を出版するなど、IT業界のインフルエンサーとしても知られている。
日本でも指折りの急成長テックベンチャーに転職してきた森山さんは、各社でどのような「入社後1カ月」を過ごしてきたのだろうか。詳しく話を聞いてみると、いち早く社内で「一目置かれるエンジニア」になるための転職後の過ごし方が見えてきた。
――森山さんが、メルカリからスマートニュースへ転職されたのが2020年1月ですね。ご自身の「入社後1カ月」は何を意識して過ごしましたか。
まずはその会社の事業構造を理解して、会社が日々何をやって収益をあげているのか、大枠をつかむことに集中しました。
同僚と仲良くなったり、キーパーソンと1on1をするといったことも大変重要なのですが、その目的はいずれも「事業構造を理解すること」でした。これはスマートニュースに限らず、どの企業に転職した時も同じです。
結局その会社のビジネスがどういう構造で成り立っているか分からないことには、成果の出しようがありませんから。
そもそも僕の場合、転職のたびにビジネスドメインもビジネスモデルもガラリと変わっています。
ビズリーチは人材領域で月額利用料+成果報酬モデル、メルカリはCtoCマーケットプレイスで手数料モデル、スマートニュースはニュースアグリゲーターで広告モデルと、すべて異なるわけです。
僕もインターネット業界の経験こそ長いものの、専門領域は検索アルゴリズムやAIを活用したEコマースのプロダクト改善で、大規模データと活用した広告プロダクトに関しては当時は素人。ですから、まずは市場を知ることから始めました。
具体的には、日本とアメリカの広告市場全体を知り、その中でのインターネット広告と直近の市場規模の変遷、競合の立ち位置などを確認し、自社の現在地点を把握する。こういったことは、社内の人に聞けばすぐに教えてもらえます。
案外盲点なのが専門用語、特に短縮語です。ビジネスモデルが違うと、日頃から仕事で使う単語も違うんですよ。
例えば、業績に関する頻出用語も、メルカリならGMV(グロス・マーチャンダイズ・ボリューム/流通取引総額)、スマニューではRPM(レベニュー・パー・ミル/広告表示1,000回当たりの収益額)、ソーシャルゲームならARPDAU(アープ・ディーエーユー/DAU<デイリーアクティブユーザー>の金銭支払いの平均額)など、全く異なる用語が出てきます。
入社直後から、これらの用語が事前説明なしにガンガン使われるので、“分かった風な顔”で流さないことも、事業構造を知る上で重要です。話を止めてでも、分からない単語は「その単語、どういう意味ですか?」と確認するようにしていました。恥ずかしがってる場合じゃないですからね。
――事業を理解する上で必要な基礎を固めていったんですね。では、実際の業務にはどのように取り組んでいったのでしょうか。
まずはいろいろなプロジェクトチームに関わって、全体の開発状況を把握した上で、自分ができないことと、できることを周りに伝えていきました。
例えば、広告に関しては素人であることは伝えていたので、業界知識がないことは多少大目にみてもらう。
一方で、僕は「大規模データを活用して収益を上げる」のが大好きで、「アイデアを出し、人を巻き込みながら、どんどん前に進めていく」のが持ち味です。どんな会社で仕事をしていても、「何だかよく分からないけど、あの人に任せておけば物事が前に進むんだよね」という状況をつくっていました。
なので、「できること」に関しては、多少強引なくらいにグイグイと進めていこうとしていましたね。
例えば、入社当時まだ実験段階だったプロダクトの成長可能性に目を付けて「これをプロダクトマネージャーとして責任をもって進めたい」と自ら手を挙げて開発を任せてもらっていました。これは早い段階から「自分の得意なこと」を周りにシェアしていたからこそ信頼して任せてもらえたのかなと思います。
――森山さんが入社後すぐに活躍されていたように、成長スピードの速いベンチャー企業では、中途社員は即戦力になってほしいと考えていることがほとんどですよね?
私も以前は、勢いのあるベンチャー企業には野武士のような人材が入ってきて、実力1本でやっていくんだろうな、なんてイメージしていました。
それは半分は事実でもあるのですが(笑)、これまで経験してきた会社の状況はそれとは違う部分もあって。
むしろ伸び盛りのベンチャー企業ほど、エンジニアに対して「すぐ成果を出してくれ」とはならないことが多い印象です。なぜなら、「成果をしっかりと定義する余裕」すらないケースが多いからです。
既存社員はみんな目の前の仕事に集中しているので、新しく入社したメンバーは放っておかれることもしばしば。転職者に対しては「いい感じに会社に馴染んで、勝手に成果を出してくれたらいいなあ」くらいの、ふんわりした期待しかないこともあります。
そもそもベンチャーは状況がどんどん変わりますし、急成長、急拡大している企業であればなおさらカオスな組織フェーズでもあるはずですから。
ただ、一般的には「最初の3カ月から半年はキャッチアップ期間」という位置付けですね。
会社は最初の仕事や役割は確保してくれていますが、その後は本人の希望や働き方、スキルセットを見ながら最適な役割を探ってしていくことが多いと思います。
今はエンジニアの採用も大変ですから、各社「なんとか会社に馴染んでもらって、長く働いていただきたい」と願っているのではないでしょうか。
入社後すぐに成果を求めて「期待に応えてくれるか見極めてやる」とプレッシャーを与えて来るような会社からはすぐに人は離れてしまうでしょうから、転職を検討しているエンジニアの方たちは、そこまで気負わなくていいと思います。
――そのような中でも、なるべく早めに会社の中で「こいつはできるやつだな」という印象付けができるとその後動きやすくなりそうですが、何かポイントはありますか?
会社、特に急成長している組織であればなおさら、「欠けているもの」が必ずあるはずなんですよ。なのでそれが何なのかを見極めながら、その欠点を自分が持っている経験資産でいかに埋められるかを考えてみてはいかがでしょうか。
例えば、私が「この人すごいな」と思った人は、業界知識がものすごく豊富でした。常に業界内での他社の状況などをリアルに把握してアドバイスをくれるので、非常に心強い存在ですし、僕とはまったく違う持ち味を持っている人材なんですよね。
このように「会社や組織に必要だけど、他の人が提供できていないもの」を、自分なりに発見して主体的に埋めてくれる人は素晴らしいですよね。
エンジニアの場合、前述したような「その会社のビジネスが一体何なのか」を理解するだけでも、だいぶ仕事のしやすさ、成果の出しやすさが変わってくると思いますよ。
開発チームのメンバーがビジネス寄りの視点で具体的な話ができると、成果にもつながりやすいですから。
具体的な提案は、入社してすぐにできる人は少ないかもしれませんが、初めからビジネス視点を高く持っているかどうかでその後のアウトプットも変わってくると思います。
――システムエンジニアやプログラマーとして転職した人も「まずはビジネスの把握から」始めることが重要なんですね。
そうですね。あと自分で手を動かす職種であれば、まずは簡単なもので良いので自分が書いたコードをレビューしてもらって、検証環境から本番環境へリリースし、プロダクションコードにする……という一連の流れをやってみることも大事ではないでしょうか。
会社によってコードを本番環境へ反映するまでのワークフローやツールが違うので、とにかく最初から最後までやってみることで見えてくるものがあると思います。
――逆に、入社後すぐに「やらない方がいい」と思うことはありますか?
会社に対して「モチベーションを上げてほしい」とか「教えてほしい」とか“クレクレ君”にならないことでしょうか。
入社直後はどうしても受け身の姿勢になってしまいがちですが、それはもったいないです。どうせなら、「転職したばかりの人材にしかできない仕事」に目をつけて、主体性を発揮するのがおすすめです。
――転職したばかりの人材にしかできない仕事?
それは「会社を客観的な視点で見る」ことです。転職者は新しい会社の従業員体験をこれからする、いわば新規ユーザーです。入社直後だからこそ感じられる素朴な違和感がいろいろあるはずですから。
僕もスマニューに転職した当初、そうした「新参者」として見た視点をメモに書き残しておきました。
プロダクトやサービスについてのちょっとした不便でも、組織についての違和感でも、そういった「何気ない疑問」をメモしてメンバーにシェアすると、案外「改めて言われると、たしかにそうかも」とありがたがられることも多いですよ。
なにも仰々しく提案書にまとめる必要はなく、例えば「この資料を見つけるのにものすごく時間がかかった」とか「ログインアカウントとパスワードの申請方法が分かりにくかった」とか、ちょっとした不便なら何でもいいのです。
初めてだからこそ「やりにくい」「分かりにくい」と思ったところをちゃんと記録して、もっと言うと、それをその場で整備しながら業務理解を進めると、次に入社してくる人が同じポイントでつまずかずに済みますしね。
戦力になるとは、言い換えれば、「何らかの価値を外部から会社にもたらす」ことです。なのでまずは、新卒であれ中途であれ、新参者=新規ユーザーの目線で会社に価値をもたらすことから始めるのでもいいのではないでしょうか。
ただし、自分の提案が正しいわけではないので、頭から今のやり方を否定するのではなく、敬意を持って提案するように心掛けられるといいですね。
取材・文/古屋江美子 撮影/赤松洋太 編集/大室倫子
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