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「転職先からの高い期待は成長のチャンス」機械学習エンジニア・ばんくしさんの転職に見る“入社ゼロ日”から全力疾走する方法

転職

その後を決める、いいスタートダッシュ

エンジニア転職「運命の入社1カ月」

転職後1カ月は「先輩に教わる、業務に慣れる」だけの時期? その後の仕事、キャリアを充実させるカギは、実はこの時期の“受け身姿勢じゃない”過ごし方にあるかもしれない。そこで各企業のトッププレーヤーやEMたちへの取材を通して「入社1カ月目の過ごし方」を徹底調査。“その後”を左右する、いいスタートダッシュの切り方とは?

2016年にSansanに新卒入社、2年間ヤフーに所属し、その後医療情報専門サイト『m3.com』などを運営するエムスリーに転職した、機械学習エンジニアの「ばんくし」さんこと河合俊典さん。

過去、エンジニアtypeでは、彼がエムスリーに転職した際の背景や、エムスリーでの育休時の過ごし方について話を伺ってきた。

そんな彼だが、Twitterで製造業の受発注プラットフォーム『CADDi』などを提供するキャディのメンバーから熱烈アタックを受けたことをきっかけに、2021年12月にエムスリーからキャディへ転職。現在はキャディに新設された機械学習やデータサイエンスを担うチーム「AI Lab」を、テックリードとして率いている。

そこでエンジニアtypeでは河合さんと、彼の上司にあたるキャディCTOの小橋さんに取材を実施。

ダイレクトリクルーティングによるオファーでは、企業がポートフォリオや過去の経験を見て過度な期待をしているケースも少なくない。河合さんのように、SNSやイベント登壇などを積極的にしている人ならなおさらだ。そうした中で、「高い期待に対するプレッシャーはなかったのか」と聞くと、「むしろそのプレッシャーに興奮した」との答えが。

河合さんの考え方には、エンジニアが転職後に良いスタートダッシュを切るための大事なポイントが潜んでいた。

キャディ株式会社 河合俊典さん、小橋昭文さん

写真左/キャディ株式会社 AI Lab テックリード
河合俊典さん(@vaaaaanquish

2016年4月、株式会社SansanのR&D部門に新卒入社。機械学習エンジニアとして、自然言語処理APIや画像認識エンジンの開発に携わる。17年10月、ヤフー株式会社に転職し、機械学習モデリングチームのリーダーとして開発やマネジメントに従事。業務の傍ら、勉強会の主催や登壇を行うなど、機械学習技術の研鑽、発信に努める。19年2月、エムスリー株式会社に転職し、機械学習を用いた医師データベースのプロファイリングなどに従事。21年12月にキャディに転職

写真右/最高技術責任者
小橋昭文さん

スタンフォード大学・大学院で電子工学を専攻。在学中から航空機や軍事機器の開発製造会社ロッキード・マーティン・米国本社で勤務。ソフトウェアエンジニアとして大量の衛星データの解析に従事。米クアルコムにて半導体セキュリティ強化に従事した後、Apple米国本社で電池の持続性改善や、『AirPods』のセンサー部分の開発をリード。2017年11月にキャディを共同創業し、現職に至る

膨大なツイートに垣間見える「強い自我」

――転職のきっかけは、キャディからの熱烈アプローチだったとか。

河合:転職経緯はnoteにもまとめているのですが、自分の中でRustへの熱が高まっていた時期にRustに関するツイートをしたところ、キャディのテクニカルプロダクトマネジャーの今井からリプライをもらったのがはじまりです。

キャディ株式会社 河合俊典さん、小橋昭文さん

河合:当時はキャディのことをよく知らなかったし、もともと所属していたエムスリーは本当に良い会社で、自分にとってもすごく働きやすい環境だったので、転職することは全く考えていなかったんです。

でもこの時期、趣味でRustを用いた開発をする中で成果も出始めて、仕事でRustを使うことにも興味が湧いてきて。キャディは技術スタックの一つとしてRustを活用していたので、そこから少しずつ話を聞くようになりました。

最初こそ技術への興味でしたが、話を聞くうちに、データやAIを重視していて、これからまさにそちらの方向にアクセルを踏んでいくこと、そこをリードしていく人材が欲しいと聞いて。ゼロから挑戦できることにも面白さを感じ、転職に至りました。

小橋:キャディではそれまでわりと伝統的な画像解析はやっていたのですが、もっと広い領域にAIを活用していこうという話が出てきており、ちょうどAIの新組織をつくろうと、人材を探していたんです。

ただ、私自身はSNSを一切やっていない人間なので、河合さんのことは知らなかったんですよね。今井さんから「今、こんな人に声を掛けています」と言われ、どれどれとTwitterをのぞいてみたら、「なんてイケている人材なのか」と驚きました。

まず、ツイート数の多さ。そして、膨大なネタツイートの中に、「AIやMLをいかに事業で活用するか」という視点や、技術者として専門領域を極める姿勢、「自分で何かを実現したい」という強い野心が見えてきて。

これは面白そうだ、馬が合いそうだと直感的に思いましたね。

キャディ株式会社 河合俊典さん、小橋昭文さん

写真は2022年1月に撮影

――それで、AI Labの立ち上げを任せることになったと。

小橋:ええ。とはいえ当時、今のAI Labは担当者もいなければ組織名も付いておらず、完全に箱だけの状態だったんですよ。いや、箱すらもなくて、もはや更地の状態。「AI Lab」という名前も、河合さんが名付け親です。

河合:メンバーも誰一人いないので、一人で土地を耕すところから始めましたね(笑)

意識的に「頭のネジ」を外して動き続けた入社後1カ月

――具体的には、入社直後はどんなふうに過ごされていたのでしょう?

河合:入社して2週間くらいは社内研修などもあったのですが、それと並行して、初日……いや、むしろ入社前から、社内にAI labの存在を啓蒙し始めました。

AI Labはこれからキャディの中にあるさまざまな課題を解決していく部署になるので、そもそも「課題を持った人」とのつながりが不可欠です。

社内での存在感を高めなければアイデアも集まらないし、必要なデータにもアクセスしにくくなってしまうので、まずは社内の人とつながるためのアクションを意識していました。

例えば、社内Slackが一番動いている時間帯を分析してそのタイミングで自己紹介をしたり、入社挨拶でも「AI Labをお願いします」と伝えたり。

あとは、入社後研修の時にCEOの加藤(勇志郎)さんにキャディの中のキーマンを聞き、翌週にはその全員と1on1をしてみるとか。

テックサイドの人、ビジネスサイドの人、合わせて5~6人とお話しして、ドメイン知識や社内インフラ、データの仕組みなどの解像度を上げていきました。

また、それらと並行して採用活動も走り始めていましたね。

キャディ株式会社 河合俊典さん、小橋昭文さん

写真は2019年11月に撮影

――採用されたばかりなのに、もう河合さんが採用する側に?

河合:ええ。入社初日から、候補者さんとのカジュアル面談を行っていました。

まあ、その時のAI Labにはプロジェクトどころか何もない状態だったので、何かを始めるための準備からするしかなくて。

最初の1カ月は、というか、今もなお土台づくりに力を注いでいます。

――初日から驚くほど前のめりに動かれていたんですね。

河合:それでいうと、研修の時に加藤さんが「この会社で活躍できるのは、頭のネジを外せる人だ」と言っていたんですよ。つまり、悪い意味で常識的になるな、と。

だから、自分は新参者だからまずは様子を見ようとか、周囲を見回して遠慮しておこうとか、そういうためらいは意識的に捨てて、ネジを外すようにしていました。

それに前職の経験からも、新組織を立ち上げるときは最初が一番肝心だと分かっていたので、そこは必死にならねばと。

小橋:河合さんはもともと頭のネジが外れている人だとは思っていましたが、その期待を超えるほどにみんなに働き掛けてくれています。

自ら情報を探していく自己オンボーディング能力が非常に高く、おそらく私から仕事の指示をしたことはないんじゃないかというくらい。

河合:入社前からアキさん(小橋さん)にも「何でもやっていい」と言われていたので、「よし、何でもやってやるぞ~」という気持ちでしたからね(笑)

高い期待はポジティブに、期待の「ズレ」は軌道修正

――今回、転職のきっかけは「キャディからの熱烈オファーだった」とのことでしたが、ご自身の実力以上に過度な期待をされたり、プレッシャーを感じたりすることはなかったのでしょうか?

河合:たしかに高い期待は感じましたが、僕はそういうプレッシャーに興奮するタイプなんです。期待されることがうれしいし、そこに成長のチャンスがあると思っているので。

それに、学生時代から技術領域で経験を積んでいましたし、エムスリーでいろいろなことに挑戦させてもらって、一定の自信が付いていたというのも大きいですね。

でも思い返してみると、期待の方向性にズレを感じた時期はありました。当初今井からは「マネジメントに注力してほしい」と言われていたんです。

けれど、以前の記事でも話した通り、僕は人をまとめるのが苦手で、自分で動きたいタイプなんですよ。だからそういう「できないこと」は入社前から度々お話しして、徐々に期待の方向性をチューニングしていきました。

小橋:採用側としては「候補者に対する期待感」と、組織としてやってほしいことがある中で、その人が本当にできることとできないことを見極めることは重要です。

そして、それと同じくらい「できるけどやりたくないこと」を理解して、やらせないように配慮するのも大切。

河合さんでいえば、前者はうまくマッチしていて、後者は一部すり合わせていったということですね。

キャディ株式会社 河合俊典さん、小橋昭文さん

河合:キャディの場合は入社前にコミュニケーションを密に取れたのも良かったと思います。

最初に面談を受けてから入社するまでに半年ほど検討の時間をもらいましたし、社員とチームを組んで機械学習コンペティションに参加するなど、メンバーの実力や雰囲気を事前に知ることもできました。

入社前から、疑問や不安にとことん付き合ってくれる会社だったからこそ、すり合わせがうまくできた面もあるのかなと。

――高い期待についてはむしろそれを成長の糧と受け止めて、「期待値のズレ」についてはすり合わせる。それにより、入社1日目から1カ月間、アクセル全開で挑めたわけですね。

河合:そうですね。入社して3カ月ほどが経ちましたが、今は社内の認知度アップや仲間づくりには一定成功したと思っています。といっても、仲間はもっと増やしたいので採用は続けていきますが。

今はゼロから組織を立ち上げているので、あらゆることをやらなければなりません。これまでのように何か一つものづくりにフォーカスしていればいい環境ではないので大変ですが、その分自分自身の成長スピードの速さを実感しています。

キャディ株式会社 河合俊典さん、小橋昭文さん

――今後の河合さんに期待することは?

小橋:キャディは今ものすごい勢いで成長していて、やるべきことも可能性も無限です。だからこそ、どこにフォーカスして、どの順番で取り組んでいくかが大事。

今期は新しい解析技術の開発に注力してもらっていましたが、次はそれをどう事業展開していくかを考える段階です。河合さんに期待するのは、そんな段階であることを踏まえて、私の想像を超えて動いてほしいということですね。リソースはいくらでもあるので早く成果を出してください。

河合:あおられてる(笑)。でも、アキさんが言うように、ビジネスの実績をどんどんつくって武器にするのが目下の課題だとは思っていますね。

アキさんは素晴らしいエンジニアなのでまだまだ追いつけていないのですが、いずれはアキさんの先を走り、旗を立てておくくらいのことができるように、一つ一つやっていきます。

取材・文/古屋江美子 撮影/野村雄治・桑原美樹 編集/河西ことみ(編集部)

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