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【SansanCTO×VPoE対談】入社半年でVPoEにスピード抜擢。 西場正浩の転職に学ぶ、新天地で「信頼貯金」を即ためる方法

転職

その後を決める、いいスタートダッシュ

エンジニア転職「運命の入社1カ月」

転職後1カ月は「先輩に教わる、業務に慣れる」だけの時期? その後の仕事、キャリアを充実させるカギは、実はこの時期の“受け身姿勢じゃない”過ごし方にあるかもしれない。そこで各企業のトッププレーヤーやEMたちへの取材を通して「入社1か月目の過ごし方」を徹底調査。“その後”を左右する、いいスタートダッシュの切り方とは?

2021年7月、医療ポータルサイト『m3.com』の運営などを担うエムスリーの開発チームで事業責任者を務めていた西場正浩さんが、Sansanに転職。研究開発部の副部長に就任した。

当時『エンジニアtype』では、西場さんがSansanに転職するにいたった経緯などについて取材。

西場さんはその後、たった2カ月のうちに副部長から部長に昇進。さらにその4カ月後、今年2月には、VPoEに就任した。

ここまで短期間のうちにポジションアップする例は、Sansanの中でもかなりめずらしい」と、同社CTOの藤倉成太さんは言う。

では、なぜ西場さんは異例の早さで評価を得ることができたのか。彼の「入社後1カ月」とその後の仕事ぶりについて、ご本人と藤倉さんに聞いた。

プロフィール画像

Sansan株式会社 VPoE 兼 技術本部 研究開発部 部長
西場正浩さん(@m_nishiba

2017年、エムスリーに入社。AI・機械学習チームのリーダーを務めながら、プロダクトマネジャーとして複数のプロダクト開発に従事。『AskDoctors』といったコンシューマー向けのサービスを開発するエンジニアチームの事業責任者も務める。21年7月、Sansanに入社。技術本部研究開発部 副部長に就任し、9月には部長へ昇格。22年2月にVPoEに就任し、現在は研究開発部の部長と兼任している

プロフィール画像

執行役員/CTO
藤倉成太さん(@sigemoto

株式会社オージス総研でシリコンバレーに赴任し、現地ベンチャー企業との共同開発事業に携わる。帰国後は開発ツールなどの技術開発に従事する傍ら、金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻を修了。2009にSansan株式会社へ入社。18年、CTOに就任し、21年よりCTO兼VPoEとして技術戦略の指揮とエンジニア組織の強化を担ってきた。22年2月より現職

「会社の方針を理解する」のが、信頼を得る第一歩

――はじめに、西場さんが入社してから現在まで、どのようなポジションを経験してきたのか教えてください。

西場:2021年の7月に入社して、はじめの1週間は全社の研修を受けました。翌週からは、研究開発部の副部長としての業務を開始。その2カ月後の9月に部長に昇格し、今年2月からは研究開発部の部長と兼任でVPoEを任せていただいています。

――短期間のうちにポジションが変化していますね。

藤倉:入社前から「西場さんにはいずれ部長ポジションを任せたい」という話は出ていたんですよ。ただ、西場さんが想定よりもかなり早く立ち上がってくれたこともあり、結果的にたった2カ月で部長になってもらうことになりました。

さらにその4カ月後にはVPoEに就任しているわけですが、これまでのSansanの歴史を振り返ってみても、西場さんほどの早さでポジションや裁量が変わっている人はいなかったと思います。

直近、社内の体制や経営方針などが変わったことで、従来より事業や人事に関する意思決定がスピーディーにできるようにはなったのですが、それを踏まえても異例かなと。

――西場さんのどんなところを見て、「すぐに部長ポジションを任せられる」と感じたのでしょうか。

藤倉:当然能力の高さといった要素もありつつ、特に良かった点を一つ挙げるとするならば、早い段階からSansanのカルチャーや事業、組織戦略をしっかり理解した発言をされていたところですね。

もともと西場さんは発言量が多いタイプだとは思いますが、入社直後は技術本部の方針会議の場であまり発言をしていなかったんですよ。

それで「おや?」と思っていたのも束の間、少し経つと「これってこういう理解であってますか?」「僕はこう感じましたが、方向性は正しいですか?」など、質問をたくさんしてくれるようになって。

それからまた少しすると、今度は細かいすり合わせをしなくとも、筋の通った発言をされるようになったんです。ここまでが大体1カ月くらい。

今思えば、入社後の数週間はSansanという会社や技術本部の状態を把握する期間として、徹してくれていたんでしょうね。その一連の動きを見て、西場さんなら信頼できるし、もっと責任のある仕事を任せられるなと思いました。

ちなみに、西場さんが部長になってからは「こうしておきましたけど、いいですよね?」「今までとやり方を変えましたけど、許容範囲ですよね?」と、西場さん自身で意思決定した後に共有をしてくれるようになりました。それもすごく助かっています。

Sansan藤倉さん、西場さん

写真は2021年に『エンジニアtype』撮影

西場:組織に勤めている立場で大きな成果を出したいときって、経営層や組織の方向性と違う考え方で物事を進めても評価されないじゃないですか。

だから、まずは会社の考えや目指している方向性、これまでの背景をしっかり把握する。そのために皆さんの考え方をしっかり聞いて、細かい部分は質問しながらすり合わせていく。

それによって、だんだんと会社の方針をつかんでいきました。

入社後約半年でVPoEは「ごく自然な流れ」だった

――部長に昇格してから4カ月後にVPoEになられています。こちらも、入社前から想定していたのでしょうか?

藤倉:いえ、VPoEをお任せすることは、当初は考えていなかったですね。

ただ、それまでは僕がCTOとVPoEを兼任してうまく両立できていない課題感をずっと持っていたんです。だから、ずっと誰かにVPoEを任せたいと思っていました。

そこに組織マネジメントに強い西場さんが来てくれて、短期間で僕を含め周囲からの厚い信頼を得て、期待以上の成果を出してくれていた。であれば、「この人ならできる」と思って声を掛けたところ、本人もやりたいと言ってくれたので、「じゃあお願いします」と。

――入社半年の人にVPoEを任せる選択に迷いはなかったですか?

藤倉:ええ。VPoEがちゃんと機能していないことの方が、組織にとっては大きな問題ですからね。

なので、今のボトルネックを解消する最適解を選択しただけです。仮にうまくいかなかったとしても、元の形に戻すなり、そのときに判断すればいいと考えたので。

――西場さんは、なぜこのタイミングでVPoEにチャレンジしようと?

西場:「チャレンジ」といっても、やること自体は研究開発部の部長の仕事と大きく変わらないんですよ。要は組織のマネジメント、マネジャーのマネジメントをするということなので。

だからVPoEというポジションにチャレンジすることは僕にとっては自然な流れでしたし、「大きな成果を出したい」という欲求がある以上、持てる裁量が大きくなることはうれしいことでした。

それから、Googleの元CEOが書いた書籍『How Google Works 私たちの働き方とマネジメント』 (日本経済新聞出版)でも言及されていることですが、マネジャーは手が空くとついマイクロマネジメントをしてしまいがちなんです。

幸いにも研究開発部のマネジャー陣は優秀な人ばかりで最初からあまり手が掛からない状況だったため、僕がVPoEと仕事を兼任して忙しくすることによって、研究開発部とも適切な距離感を保ちたいとも考えていましたね。

Sansan藤倉さん、西場さん

藤倉:今は評価制度や人事、育成、マネジャー陣との1on1など、組織に関する仕事のほとんどは西場さんに担っていただいていて、僕はようやく技術に関する仕事に専念できるようになりました。

一部、グローバル組織に関してはまだ僕が組織のマネジメントを担当していますが、いずれ西場さんが英語も対応できるようになれば、お願いしたいと考えています。

「エンジニアリング分野での当たり前」を拡大解釈

――改めて、今回西場さんが入社からたった数カ月で重要ポジションを次々と任されたことを踏まえ、組織の中で「信頼」を得る秘訣を知りたいです。西場さんが特に「入社後1カ月」の期間に意識されていたことを伺えますか?

西場:入社時のポジションが副部長だったこともあり、経営陣に対する「部下としての振る舞い」と、メンバーに対する「上司としての振る舞い」の両方を意識していました。

「部下としての振る舞い」については、先ほどお話した「経営陣の考えを理解してから動くこと」が一つ。

加えて、自分の考えや行動をブラックボックス化させないことも心掛けていましたね。上司の立場からすると、仕事の進め方や意思決定がオープンな人の方が、安心して裁量を持たせやすいじゃないですか。

なので、やることリストを公開するとか、全体アナウンスをする前に必ず藤倉さんと技術本部長の塩見(賢治)さんにメンションを飛ばすなどして、逐一報告していました。

Sansan藤倉さん、西場さん

藤倉:たしかに、西場さん自体がとても優秀でスキルが高くパワーもあることは理解していましたが、このものすごい能力を持ってして会社が想定していない方向へ突っ走られてしまうと、影響範囲が大きい分「困りごと」にもなりかねません。

そういう意味では、常にやろうとしていることや、その背景、プロセスを把握できるようにしてもらえたのはありがたかったです。

――「上司としての振る舞い」については?

西場:会社と組織のこれまでの出来事やその経緯を正しく理解するためにも、過去の資料やインタビューを読み漁りました。

それから、メンバーのみんながどんな人なのかを知るために、入社してすぐに研究開発部のメンバーはもちろん、他部署のリーダー陣や大きなロールを担っている人、他にも僕と話したいと言ってくれた人と毎週十数人くらいのペースで1on1を実施。

特に研究開発部のメンバーとは、これからチームワークをする上でお互いに知っておいた方がいいこと、例えば小さな子どもがいるとか、働き方の指向性、得意なこと、苦手なこと……などをお互いに話す機会を設けましたね。

――部下の立場・上司の立場どちらであっても、入社後すぐに信頼を得るためには、まずは「今あるもの」や「今いる人」のことを知るのが大事ということでしょうか。

西場:そうですね。でもこれって、エンジニアリングに当てはめて考えてみると、至極当然なことなんですよ。

例えばコードの書き方一つでも、会社ごとにルールが異なるじゃないですか。

それは組織やプロダクトが今のかたちに至るまでにいろいろな経緯があったからで、そこに対していきなり「このアーキテクチャはいまいち」とか、「コードの書き方がイケてない」なんて、大半のエンジニアは言わないですよね。

つまり、多くのエンジニアはものづくりの側面ではごく自然にやっていること。僕はただ、それを少しだけ拡大解釈して実践している、というイメージです。

藤倉:そうは言っても、なかなか西場さんのようにできるエンジニアは多くないと思いますよ。西場さんは、これまで会社をつくってきた人たちを傷つけないように、否定しないように配慮する姿勢もすばらしかった。

以前の記事でも話したことですが、今ある事象は全て、誰かが最大限努力してできた結果なわけです。そこに思いを馳せることができるかどうかは、新しい環境で信頼を得る上ですごく大事なことだと思います。

Sansan藤倉さん、西場さん

西場:とはいえ僕自身、もともとストレートな表現を好むがゆえに、コミュニケーションがうまくいかないこともありましたよ。たくさんの失敗や経験を経て、人を傷付けないための配慮ができるようになったんだと思います。

あと、転職したばかりの人におすすめしておきたいのは、「分からないことはとにかく聞くこと」ですね。

会社には、主に直属の上司など「新しく入社した人が成果を出すこと」に対する責任を持っている人がいるものです。そういう人を早いうちから味方に付けるといいですよ。

直接質問するのもいいですし、エンジニアであればプルリクを出せばレビューしてもらうことができるので、とにかくなるべく早い段階でプルリクを出して、フィードバックを受けながら会社のやり方を知っていくのも一つの方法です。

自分が成果を出すことが彼らのミッションなわけなので、気負わずにずうずうしいくらい頼ってしまっていいと思いますよ。

藤倉:それでいうと、西場さんは比較的ずうずうしい方なのに、不思議と不快な感じは一切しないんですよ。それは、さっきの話に上がっていた「配慮」があるからだと思うんです。

僕も新しく入ってきた人は会社のことをよく知らないのだから、聞くのは当然の権利だと思っていますが、そこに加えて配慮があると、聞かれる側も気持ちよく接することができますよね。

加えてこれは僕の持論ですが、信頼されたいのならば、「まずは自分から相手のことを信頼する」のが一番の近道だと思います。

自分が相手のことを信頼していないのに、自分のことは信頼してほしいというのは虫のいい話。相手を完全に信頼しきって、背中を預けられるかどうか。何かズレを感じた時でも、上司のことを心から信頼していれば、質問も提案も嫌味なくできるはずだと思います。

取材・文/石川香苗子 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)

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