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いちエンジニアからPR TIMES CTOへ。金子さんのキャリアアップ転職“1カ月目”に見る、「メンバーの不安を取り除く視点」の重要性

転職

その後を決める、いいスタートダッシュ

エンジニア転職「運命の入社1カ月」

転職後1カ月は「先輩に教わる、業務に慣れる」だけの時期? その後の仕事、キャリアを充実させるカギは、実はこの時期の“受け身姿勢じゃない”過ごし方にあるかもしれない。そこで各企業のトッププレーヤーやEMたちへの取材を通して「入社1カ月の過ごし方」を徹底調査。“その後”を左右する、いいスタートダッシュの切り方とは?

良いスタートダッシュの肝となる「入社1カ月目」。しかし、経験レベルやポジションによって会社からの期待値が異なることを考えれば、期間は同じでも「過ごし方」は自ずと変えていく必要があるはずだ。

では、転職先で“ひとつ上”の活躍を目指す場合、意識や振る舞いをどう変えていけばいいのだろうか。

そこで今回話を聞いたのは、新卒でエンジニアとしてピクシブに入社し、その後メルカリを経て、2021年4月にPR TIMESにCTOとしてジョインした金子達哉さん。

2度の転職、しかも直近では「CTO」という責任ある立場で転職を経験した金子さんから、ポジションや経験値による、入社1カ月目の過ごし方や心持ちの違いを聞いた。

株式会社PR TIMES 執行役員 CTO 金子達哉さん

株式会社PR TIMES 執行役員 CTO
金子達哉さん(@catatsuy

ピクシブ、メルカリを経て2021年4月にPR TIMESのCTOに就任。LINEが運営する「お題となる Web サービスを決められたレギュレーションの中で限界まで高速化を図るチューニングバトル」『ISUCON』に4回目から毎回出場しており、「9」の予選、「6」では本選の運営として出題を担当。著書に「pixivエンジニアが教えるプログラミング入門」(星海社新書)(単著)がある

メンバーとしての入社時は、「短期でのインプット」に注力

――ポジションの違いによって「入社1カ月目の過ごし方」をどう変えていくべきかを伺いたいです。まずはいちエンジニアとしてメルカリに転職した時のことから伺えますか?

転職経緯からお話すると、新卒で入社したピクシブで働いて5年ほど経ったころに、自分の力がピクシブ以外の会社でも通用するのか試してみたくなったことがきっかけです。

転職先のメルカリには知人が何人か所属していたり、共感できる取り組みが多かったりしたこともあって、前々から働いてみたいと思っていたんですよね。それで、ピクシブで担当していた開発とインフラの経験が生かせるSREチームにメンバーとしてジョインすることに。

とはいえ新卒から5年も働いた会社を辞めた後、次の会社でうまくやれるのかは不安でしたし、経験者として一定の期待をされている状況なので、当時はかなりのプレッシャーを感じていました。

なので、メルカリに勤めている知り合いから社内の様子を聞くなどして、働くイメージをつかめるようにしていましたね。

――「転職1カ月の過ごし方」で、当時意識されていたことは?

正直なところ初めての転職だったこともあり、強く意識していたことはなかったように思います。

ただ、SREの担当領域はインフラやサーバーの構成が分からないと対応できない仕事が多く、障害が起きた際などに役に立てない歯がゆさを、入社直後から感じていました。

なので1日も早くインプットできるように、サーバー構成やソースコードを自ら見にいき、学ぶようにはしていましたね。それから、目的が明確だと理解も早く進みやすいので、チームの人に軽めの課題を渡してもらい、分からなければ聞きながら取り組んで、少しずつ全体像をつかんでいきました。

とはいえメルカリはさまざまなチャレンジを経て成長した結果、サーバーの構成がかなり複雑になっていて。しかも組織もシステムも変化が早いものだから、仕様も障害が起こる場所もどんどんと変わっていくんですよ。

だから結局退職時まで「理解した」「慣れた」という感覚は持てなかったですね。それがメルカリらしさとも言えるような気がします。

今振り返って思うのは、入社1カ月目のタイミングでもっと他部署の人たちとコミュニケーションを取ればよかったということです。

一度他のチームの方とプロジェクトで一緒になった時に、「SREの人って少し怖いイメージでした」というようなことを言われてしまったことがあって。序盤で気軽に相談しやすい関係性を築けていれば、もう少し広く貢献できた可能性もあるのかなとは感じています。

株式会社PR TIMES 執行役員 CTO 金子達哉さん

「立て直せるのは自分しかいない」CTO転職決断への思い

――それから2021年4月には現職であるPR TIMESのCTOとして転職をされています。CTOは初めて挑戦するポジションかと思いますが、まずはどういった経緯で現職に就かれたのか教えていただけますか?

最初のきっかけは、代表の山口(拓己)からオファーをもらったことです。

プレスリリース配信プラットフォーム『PR TIMES』はPHPを使って開発されているのですが、当時PHPのバージョンが古くなってしまっており、その時のメンバーではバージョンアップの対応ができなかったと。それで、山口と僕の共通の友人が、僕のことを紹介してくれたようです。

僕自身はピクシブ時代にPHPのバージョンアップを担当した経験があったし、『PR TIMES』のようにトラフィック数の大きいサービスに関わってもいました。だから「金子ならPR TIMESが持つ課題を解決できるはずだ」と推薦してくれたそうなんですよ。

ただ、当時の僕はPR TIMESに開発チームが存在していたことすら知らなかったし、メルカリの仕事にも満足していました。だから一度はオファーをお断りしたんですよね。

でも、「どうしても話を聞いてほしい」とあまりに熱心に連絡をくれるものだから、だんだんと興味が湧いてきて。他の会社の内部を見ることはエンジニアとして勉強にもなると思い、2021年1月から業務委託として関わらせてもらうことにしたんです。

そうしてPR TIMES内部の様子を見てみると、すぐに開発チームが「組織的な問題」を抱えていることが分かりました。例えば、これは以前別の記事でもお話したのですが、開発チームのSlackチャンネルに招待してもらったはいいものの、1カ月以上会話が行われていなくて。

他のチームのチャンネルでは活発に会話が行われているのに、開発チームだけ明らかにコミュニケーションの流れが悪かった。ここに大きな課題が潜んでいることが見えたんですよね。

株式会社PR TIMES 執行役員 CTO 金子達哉さん

――なるほど。技術的な問題よりもまず、組織の方に課題があったんですね。

ええ。それと同時に、どうしたらこの課題を打破できるのかも何となく分かったんですよ。

新卒で勤めていたピクシブはPR TIMESと人数規模が同じくらいだったこともあり、近しい課題を抱えていたし、組織規模の大きいメルカリでは、そうした課題を過去に解決してきていました。2社で培った経験をもってすれば、どうにかなりそうだと思えたんです。

加えて、おそらくこうした状況でこの会社のCTOを引き受けたいという変わり者はいないし、自分がここで断ってしまえば、開発チームの立て直しは厳しいだろうとも感じました。

とはいえ『PR TIMES』といえば、業界問わずさまざまな企業が活用しているサービスです。会社自体も、上場からしばらく経つにも関わらず、ずっと成長を続けている。こんなにポテンシャルのあるサービスと恵まれた環境を保有している会社は、世の中にほとんどありません。

つまり、開発チームを立て直すことができれば、必ず会社をもっと良くすることができるはずだし、それが社会へ大きな価値を与えることも明白です。であれば、「自分がここでやらなければ」と。そう思うようになりました。

――立て直せるという見込みを感じたし、社会的価値のあるサービスを絶やさないための使命感もあった。それが転職してCTOになることを決心した理由だった、と。メルカリの転職の時と比べて、入社前の心境の違いはありましたか?

やはり、いちエンジニアとして転職するよりも、遥かにプレッシャーを感じていましたね。

メンバーレイヤーが何か失敗しても大したことにはなりませんが、CTOの立場で大きな失敗をしてしまえば、開発メンバーが退職することにもなりかねません。ある日突然トップがよく分からない人に変わって、これからどんな方針で何をしていくのかが分からない状態であれば、さらに不安を感じるはずです。

なので、「トップとしてどうあるべきか、どう行動すべきか」については、かなり考えていました。

株式会社PR TIMES 執行役員 CTO 金子達哉さん

キャリアアップ転職に必要な「社内外への発信」の意識

――具体的に、CTOとして取った「入社1カ月」のアクションを教えてください。

まずはメンバーの抱える不安を解消するためにも、自分が何者であり、ここで何をしようとしているのかをいち早く伝える必要があると考えました。

そこで、「CTO通信」を開始。できるだけ早い段階から、自分自身がどういう経緯でPR TIMESのCTOを勤めることになったのかや、どういう思いで意思決定をしているのか、これからやろうとしていることなどを発信しました。

(参考)組織の情報格差をなくす!社内向け「CTO通信」の一部を紹介します

それから、PR TIMESの開発チームの存在感を社内外に示していく必要性も感じていたので、「開発者ブログ」を開設。

ただ、本来ならばどちらも入社後数日程度でリリースするのが理想でしたが、実際はツール選定や仕様・運用方法を決めるところからのスタートだったので、初回記事の配信に3週間ほどかかってしまい……そこは反省点ですね。

――ツール選定からと思うと3週間程度でも十分早いように感じますが、CTOという立場でジョインした場合はとにかく「初動の早さ」が大事ということですね。こうした取り組みの成果は実感していますか?

すごく感じています。

僕が入社する前まで、『PR TIMES』は数年ほど新機能がリリースできていなかったのですが、今年に入ってからはサムネイル画像の高画質化といった機能改修や、プレスキット機能のリリースをすることができました。現在もエディターの改修プロジェクトが進行中です。

こうした動きができるようになった背景には、開発チームのコミュニケーションが増えたことによって、技術的にいい方向に進めるようになったことが大きいと思っています。

株式会社PR TIMES 執行役員 CTO 金子達哉さん

――ご自身の経験を踏まえて、マネジメントや経営ポジションにキャリアアップ転職をするエンジニアが「入社1カ月目」に意識するといいこととは?

キャリアアップするということは、周りからの見られ方が全く変わります。メルカリに経験者として転職した際にもプレッシャーは感じていましたが、CTOとして転職した時はさらに「この人は一緒に働く価値のある人間なのか」と見定められるような感覚でした。そこにちゃんと応えていくためにも、「いい方向に期待を裏切ること」は意識すべきだと感じます。

また、入社したばかりの時はつい会社のことを知る方に意識が強く向きがちですが、キャリアアップ転職の場合は特に「自分のことや会社のことを社内外に知ってもらうためのアクション」も大事かなと。

エンジニア界隈ではよく「情報を発信した人に、人や情報が集まる」と言われています。発信することで自分の存在を知ってもらうことができ、それによって信頼を得ることができる。

加えて、社内外にまで開発チームの情報が広まれば、回りまわって良い情報や人が集まるかもしれませんよね。それが開発チームやサービス、会社をよりよくしていくことにもつながるので、ぜひインプットだけではなく、アウトプットまで意識してみてほしいですね。

取材・文/阿部裕華 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)

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