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エンジニアの適材適所、どう実現する?3年半で社員数50倍、アジアクエストのFFS理論に基づくチーム編成に学ぶ

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    あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team

    エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りしていく。

    企業はエンジニアを採用する上で、その人の何を見ればいいのだろう。保有技術や実績はもちろんその一つだろうが、それだけではないはずだ。

    ある会社では不遇を囲っていた人が、転職したらものすごく活躍する。その逆もある。能力を持っていたとしても、それが発動しなければ意味がない。

    「カルチャーフィットが大切」とよく言われるが、何らかの方法で適材適所を本当に実現できれば、それは企業と働く本人の双方にとって幸せな状態となる。

    Webシステム・アプリ開発を軸に、SES事業・社内での受託開発事業・そして自社アプリ開発事業を行っているアジアクエストは、この課題と正面から向き合った。

    適材適所を具現化するための指標として、人間関係を最適化する「FFS理論」に基づくチーム編成を導入。その結果、生産性が向上しただけでなく、2013年時点で2人だった社員エンジニアの数は、この3年で100人弱まで急増したという。

    思考・行動の特性を把握することが、「配属」を最適化する

    アジアクエストのWebサイト

    アジアクエストのWebサイト

    アジアクエストにおける具体的な実践例を見ていく前に、FFS理論とは何かを説明する必要があるだろう。

    FFS理論に基づくチームビルディング支援などを行うヒューマンロジック研究所のWebサイトによれば、FFS理論とは、人が日常生活において何気なく考えたり行動したりする「思考行動の特性」を客観的・科学的に分析することで、人間関係の最適化を目指した理論という。

    >> 参考:FFS理論とは(ヒューマンロジック研究所)

    思考行動の特性は、【凝縮性】、【受容性】、【弁別性】、【拡散性】、【保全性】の5つの因子とストレスの状態で表される。

    例えば凝縮性とは「こだわりの強さ、頑固さ」のこと。凝縮性の強い人は、自分がすべきと思うことこそ正しいことと信じているので、価値観の合う人にとっては推進力のあるリーダー的な存在だが、合わない人から見ると融通の利かないタイプになる。

    人によって異なる2、3の因子の影響を強く受けており、それがその人らしさを形成しているとされる。

    持っている因子によってそれぞれストレスを感じる理由が違い、ストレスがたまれば、その人の良い部分は裏返って悪い部分として出てしまう。FFS理論により自分を知り、相手を知ることがこうした問題を未然に防ぎ、円滑なコミュニケーションを助けるというわけだ。

    さらに複数の人のデータから関係性を分析すれば、チーム編成や組織開発にも応用できる。異質な人同士が補完し合うよう作ったチームと、無作為に集めたチームとでは、アウトプットに2倍の差があるという研究結果も出ているという。

    診断を基にチームを編成。多面的な状況把握で配置転換も柔軟に

    アジアクエストの面々。写真右から2番目が、同社代表の桃井純氏

    アジアクエストの面々。写真右から2番目が、同社代表の桃井純氏

    アジアクエスト代表取締役の桃井純氏は、2012年に同社を立ち上げる以前にも別の会社を経営していた。そこで多くのエンジニアを見る中で、「スペックが高くても環境次第ではその能力は発動しない。人事やチーム構成に関して、もっとやるべきことがあるのではないか」との思いを強くしたという。

    そこでアジアクエストでは、さまざまな試験的な取り組みを経て、採用時にFFS理論に基づく診断を行うことを始めた。思考行動の特性に合った業務、合ったチームに配置することが、その人が高いパフォーマンスを発揮し、なおかつ仕事に満足することにつながると考えたからだ。

    FFS理論を運用できる認定資格を持つのは人事担当者だけだが、社内勉強会などを通じて知識の浸透を図っており、「5つの因子」はもはや社内の共通言語になっているという。

    もちろん、ベンチャーとしてまだまだ組織として発展途上の段階ゆえ、必ずしもFFS理論が示す適性通りの配置を実現できないケースもある。そのため、直属の上長が頻繁に面談を行って本人の希望を聞くようにしたり、若手にはメンターを付け、また全社員を対象に年2回の社長面談を行ったりもして、多面的な視点で各人の状況把握に努めている。

    本人が言わない、あるいは気付かない不満を察知するための、現場レベルの工夫もある。仕事のパフォーマンス自体はもちろんだが、チャットでの発信量もモチベーションの指標として参照。複数の仕事を提示し、自ら選択させることでやる気を引き出すということもあるという。

    こうした面談での発言や上長から見た状態次第で、かなりの頻度で配置転換が行われているようだ。

    「その際には、合わない環境でも頑張れる人なのかそうでないのか、頑張ることで成長できる人なのかそうでないのかということも重要になる。それを見極める上でも、FFS理論による特性の把握が役に立つんです」(桃井氏)

    適所を得ることでフルスタックな活躍を見せる―牧野真一氏の場合

    現在は社内受託チームで、コーディングからディレクション、SE業務など幅広く活動する牧野氏

    現在は社内受託チームで、コーディングからディレクション、SE業務など幅広く活動する牧野氏

    ここからは、同社のシステムソリューション部システム開発グループのリーダーでありながら、特性がそれぞれ違う3人の具体的な事例を見ていくことで、FFS理論に基づく診断がもたらすメリットを探っていきたい。

    最初の事例である牧野真一氏は、【受容性】と【弁別性】が高く、逆に【保全性】が低いタイプだ。

    「前職は中小のSIer。金融系の大きなプロジェクトに携わっていましたが、二次請け、孫請けが多かった。そうすると、任されるのはモジュールとして細分化された一部分のみ。例えるなら、3つ星のレストランで玉ねぎだけ切り続けているようなものでした」(牧野氏)

    それよりも、小さいレストランでフルコースを出している料理人の方が価値がある。そして自分にはそれができるはず――。そう考えたことが、牧野氏をアジアクエストへの転職に駆り立てた。

    現在の部署では、数ある受託業務の中で自らコーディングすることもあれば、リーダーとしてクライアントと直接折衝することもある。上流から下流までさまざまなことを担う現在の職場が、自分には合っていると感じている。

    「それに、技術知識の幅広さには自信があるので、持ち込まれた悩みをささっと解決してあげるのは得意なんです」(牧野氏)

    頼られると力を発揮するのが受容性。それを判断してさばくのが弁別性。診断結果には自分でも納得感があるという。

    「彼は前の会社では不遇だったのだけれど、保全性が致命的にないという診断に照らしてみれば当然なんです(笑)。それが今では、本業はもちろん、次々と社内勉強会を立ち上げるなど、生き生きと活躍してくれている。環境要因によって人はこれほどまでに大きく変わるという、格好の例だと思います」(桃井氏)

    ちなみに、桃井氏が言うように現在の牧野氏はUI/UXをはじめさまざまなテーマの社内勉強会を企画・実施することが多いそう。ただ、牧野氏が立ち上げた勉強会は、いずれ保全性の高い人に運営を委ねられ、自分は新しい分野に目を向けることが多いという。

    こんなところでも、特性に基づく役割分担が機能しているようだ。

    診断結果がプロマネへの転身を後押し―西尾健斗氏の場合

    アジアクエストへ転職後、プロジェクトマネジャーとなった西尾氏が「適材」だった理由とは?

    アジアクエストへ転職後、プロジェクトマネジャーとなった西尾氏が「適所」を見つけたきっかけとは?

    続いて西尾健斗氏のケース。牧野氏と同じ部署でありながら、西尾氏は牧野氏とは異なり、【保全性】と【凝縮性】、【受容性】が高く、【弁別性】が低い。

    「僕も入社前は中小SIerで客先に常駐し、三次請けの仕事をしていました。転職したのは、常駐先のお客さまからの評価は高いのに、社内で評価されないことに不満を覚えたからでした」(西尾氏)

    入社後も最初はSESで金融系システムの現場へ出たが、その後、当初から希望していた現在の部署へと配置換えとなった。

    現在はプロジェクトマネジャーを担っており、その仕事ぶりを指して桃井氏は「彼こそ天性のプロジェクトマネジャー」と絶賛する。

    「凝縮性が高いということは、あいまいな事を決めるのが得意ということ。そしてそれを保全するのも得意。つまり、もともとプロジェクトマネジャーとしてすごく適性があったんです。ところが、以前の職場ではそうした役割をもらえなかった。だからギャップに苦しむことになったんです。仕事量としては今の方がずっと大変でしょう。にもかかわらず、そっちの方が彼はうまくやれるんです」(桃井氏)

    仮に眠った才能があったとしても、通常であれば、プロジェクトマネジャーの経験が一切ない人にいきなり任せるのには、任せる側にも任される側にも躊躇が生まれる。

    そんな時にFFS理論の客観的な診断結果は、両者の背中を押してくれる。そういう決断があったからこそ、西尾氏は今、天職と呼べるポジションに就けているのだ。

    特性を知ることはキャリアデザインにも有用だ―曽川貴裕氏の場合

    インフラエンジニアとして入社後、2度の職制転換を経験している曽川氏

    インフラエンジニアとして入社後、2度の職制転換を経験している曽川氏

    最後は曽川貴裕氏。【保全性】、【受容性】の高い曽川氏は当初、そうした特性が持つイメージ通りにインフラエンジニアとして入社したが、この1年半ですでに2度の職制転換を経験している。

    「もともと学生時代にインフラの研究をしていたのでインフラエンジニアとして入社しましたが、複数の分野で勝負できるエンジニアになりたいという思いが強かったので、開発側へ回ることを志願しました。さらに、そこで開発しているものがお客さま先でどう使われているのかを知り、それを開発にフィードバックできる環境が魅力で、今はSE職をやらせてもらっています」(曽川氏)

    そうやって活躍のフィールドを増やしてきた曽川氏だが、今後は勝負できる分野をさらに増やす方向に進むことを考える一方で、原点であるインフラエンジニアに戻ることも視野に入れているという。「開発、SEとさまざまな立場を経験し積み上げた今だからこそ、インフラエンジニアとして新たに見えるものもあるのではないか」と感じているからだ。

    保全性、受容性が高いという特性からすると、さまざまな経験を積んだ後に当初の志向に戻り、知見を深めていくというのは、必然性を伴ったストーリーのようにも見える。

    FFS理論に基づいた診断結果には本人も納得しているというから、自分の強みを活かしたり、逆に足りない部分をスキルで補ったりして自覚的にキャリアをデザインすることにも、役立てることができると言えるだろう。

    適材適所はやってみてこそ分かる「宝探し」のようなもの

    桃井氏が業務内のかなりの時間を社員との1on1に割いている理由は、それが結果的にチームの総力を上げるから

    桃井氏が業務内のかなりの時間を社員との1on1に割いている理由は、それが結果的にチームの総力を上げるから

    FFS理論による行動特性診断にはこのようにさまざまなメリットがあることが分かったが、一方で桃井氏は「それが全てではない」と強調する。

    「本人も周りも全てあらかじめ分かっていたというわけではなく、やってみたら適性があった、ということです。実際にやってみる、腹を割って直接話してみる。そうやってあの手この手を尽くして、ようやくその人の眠っていた才能が開花する。だから、接点は多面的、かつ継続的である必要があるんです。そうやって苦労しているからこそ、才能が開花した時というのはこちらとしても、『宝を見つけた』と思える大きな喜びの瞬間になります」(桃井氏)

    今後はさらに採用を拡大して、エンジニアを増やしていく方針という。一般的に、人数が増えるとマネジメントの目が行き届かなくなり、現場に不満が溜まっていくという見方がある。しかし、アジアクエストの考え方は逆だ。

    「現状はまだ十分な規模にないので、最適ではないと分かっていても、そのチーム、その案件にアサインせざるを得ないという状況も起こっています。ですが、人数が増えれば組み合わせは指数関数的に増えますし、人員増を追い風に案件数も増やせれば、その人に合ったあらゆる仕事の組み合わせを用意できることになると思っています」(桃井氏)

    そうやって知見を溜めることができれば、いずれは入社前であってもかなりの精度で会社・チームとの相性が分かるようになるだろう。

    「そうすれば、仮に一時的には本人の希望と違う部署に配属することになっても、納得感のある形で説明できるかもしれないし、究極的には、合わないことが分かっている人には別の最適な会社を紹介してあげることだって可能になるかもしれない。今の組織形態、今のキャリアパスがベストだとは思っていない。ベターに取り組み続けるのがベンチャーでしょう。それがうまくワークした時に、会社としても勝機が見えると思っています」(桃井氏)

    「どんな花にも咲くべき場所がある」というアジアクエストの考え方は、単なる採用の最適化に止まらない、エンジニアの幸せを追求する道だ。

    取材・文/鈴木陸夫 撮影/桑原美樹

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