堀江 貴文
1972年、福岡県生まれ。実業家。SNS media&consultingファウンダー。ライブドア元代表取締役CEO。ロケットエンジンの開発やスマホアプリのプロデュースのほか、予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど幅広い分野で活動中。会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、約1000名の会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』(ダイヤモンド社)『本音で生きる』(SBクリエイティブ)『多動力』(幻冬舎)など著書多数
「みんなニセの安心を得てるだけ」堀江貴文が“迷わず生きる”を実践できる明白な理由
ロケットエンジンの開発やスマホアプリのプロデュースのほか、予防医療を啓蒙するなど幅広い分野で活動する実業家の堀江貴文さんと、サイバーエージェント創業者で同社代表執行役員社長を務める藤田晋さん。
日本のIT業界の成長を黎明期より牽引してきた盟友二人が、初の共著『心を鍛える』(KADOKAWA)を2022年2月に上梓した。
この記事では、物理的・精神的に不要なものを捨てて身軽になることが仕事に与える影響やポジティブな気持ちを育てる方法について、本書の堀江さん執筆パートから一部抜粋して紹介しよう。
※下記、『心を鍛える』270~275頁を転載して掲載しています
捨てて身軽になることで心は強くなる
藤田さんがABEMAを立ち上げる直前、2014年頃の僕の話におつきあいいただきたい。
僕はライブドア事件で、文字通りすべてを失った。信じられないかもしれないが、「逮捕・収監」を理由に、六本木ヒルズの賃貸マンションを追い出されたのである。
だから、友人宅やホテルを泊まり歩くノマド生活を始めた。
だが、そんな境遇に追いやられて、凹むような僕じゃない。“自宅”、もっと言えば“定住”という概念から解き放たれ、より多くの自由を手に入れたと思っている。
これは負け惜しみではない。定住をやめたことで、まず余計な荷物を処分できた。この頃から、僕が所有する荷物は服とスマホくらいだ。
仕事や原稿書きはiPhone で完結するため、パソコンも不要。冷蔵庫はホテルにあるし、洗濯はホテルのクリーニングサービスに頼んでいる。
マンション住まいだった頃は大量の漫画をコレクションしていたが、漫画はKindle に一本化して紙の本は処分した。だから本棚も不要。
服はファッションレンタルを使ったり、ワンシーズンで処分したりする。手元に置いておく必要がない荷物は、トランクルームに放り込む。
このように生活を根本的に変えたおかげで、体も心も身軽になった。
特に「家事をしない」というのは快適である。「ラグジュアリーホテルに連泊するなんて、出費がすごいでしょう?」と当時はよく心配された。
でも、六本木ヒルズで家を借りるコストと比較すれば、実はさして変わらない。おかげで僕のライフスタイルは、「成果を出すため」に最適化された。
何の成果かと言えば決まっている。「仕事の成果」である。
出所後の僕は、YouTubeの「ホリエモンチャンネル」やメルマガを軸として、プロデュース業や投資、執筆、メディア出演など、仕事に一層集中した。まるで失われた30代を取り戻そうとするかのように。
それぞれの事業については、次項からご紹介していきたいと思う。
「心を強くする」というテーマに沿って言えば……。家や家財道具などの“物理的な不要物”、人間関係やしがらみなどの“目に見えない不要物”を「捨てる」ことには大きな効用がある。
うんと身軽になり、邪魔されることが減り、ストレスも減り、やるべきことに集中でき、パフォーマンスが上がる。充実感も得やすくなり、よりポジティブになれる。
そもそもモノにこだわったり、捨てられなかったりする人は、「欲しいもの(こと)」がはっきりとわかっていないのだろう。
だから、大して欲しくもないもの(こと、人)に囲まれていることで、ニセの安心を得ているのではないか。
欲しいものがはっきりしていれば、何だって捨てられる。
僕にとっての欲しいものとは「自分の人生の目標を達成すること」だ。その軸を貫くためなら、ほかのものは失ってもいい(実際、僕は「自分の人生の目標達成」のために家族まで放棄した)。
チャック・パラニュークというアメリカの小説家をご存じだろうか。彼の小説『ファイト・クラブ』(早川書房)には、このような一節がある。
「欲しいものがわからないと、本当には欲しくないものに包囲されて暮らすことになる」「すべてを失ったとき初めて、自由が手に入る」
僕は、ライブドア事件で、文字通り「すべて」を失った。だから、この言葉が痛いほどわかる。すべてを失った瞬間は、もちろんつらい。
でも、「もの」では満たせなかった自由を、力いっぱい抱き締めることができた。所有欲という“呪縛”を解かざるを得なかったのだ。だって、それらを収容する家がないのだから(笑)。
そして、安定を求めず、刺激あふれる生き方を貫くことにした。
物理的な「もの」はさることながら、古い常識や価値観、しがらみなどにもとらわれたくない。結局、そういうものにこだわると、立ち止まらされてしまうのだ。そして、心はどんどん弱くなる。
この教訓は、(たぶん)収監されたことがないあなたにだって、当てはまると思う。
迷わず「捨てる」生き方は、難しくない。「何が欲しいか」を明確にできれば、「自分」という概念を遠くへ飛ばせるのだ。そう、限りなく。
それでも捨てられないという人は、「ゲノム」と「ミーム」の関係で考えてみてほしい。
「ゲノム」とは遺伝情報の総体、「ミーム」とは人から人へと広がるアイデアや行動、スタイルや慣習などを指す。
人生においては、もちろん「ゲノム」より「ミーム」のほうが重要である。「遺伝情報そのもの」を記録した物体を保つより、「意志」「精神」「心に描いている実現したい自分自身」が広がり、継承されていくほうが、自分が生きたという証になるだろう。
僕は、僕と意志を同じくして、同じ方向を向いている仲間(楽しい未来を築いていこうとする仲間)が増えるとうれしく思う(僕個人の快感や興奮は、あまり重要ではない)。
堀江貴文的な概念が、多くの若者たちへ拡散・継承されていくことを願い、多くのビジネスを進めている。本書のような企画を喜んで引き受けるのも、少しでも明るい未来を願っているからだ。
僕や藤田さんの話になんらかの刺激を受けて(反感を持ってくれてもいい)、若者たちが僕らの予想をさらに凌駕する未来を創造してくれれば本望である。
「ゲノム」はランダムの要素が多いから、継承には適さない。概念を記録したデータ「ミーム」を残していくことに、僕は力を注いでいたい。
実在していることよりも、概念のほうが大事なのである(たった数行のこんな記述から、遺伝学などアカデミックな方面に興味を持ち、学びを広げる人が出てくれたら、僕は本当にうれしい)。
そういえば2002年、僕は創業した会社の名前を捨てて「ライブドア」に社名変更した。旧称よりもブランド価値が高かったからだ。
「創業社名に愛着はないんですか?」とよく聞かれたが、その感覚が僕にはわからなかった。本当にやりたいことを進めていくには、「ライブドア」のほうが断然、都合がいいわけだ。つまり、僕は愛着さえも捨てた。
そして代わりに未来を手に入れた。わかりやすく言えば、「No pain, no gain.」(痛みなくして得るものなし)だろう。
あっ、この格言は藤田さんの十八番だ。僕も好きなので許してほしい(笑)。
書籍情報
『心を鍛える』(共著 藤田 晋、堀江貴文/KADOKAWA)
大事なのは「頭の良さ」より「ハートの強さ」ーー。IT業界を牽引してきた“盟友”が初めて語り合う「生い立ち」「起業」「キャリア」「未来のこと」。藤田晋、堀江貴文が大事にする「メンタルの流儀」とは。
>>書籍情報を詳しく見る
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