「社員全員パラレルワーク」で作られた『formrun』の開発話に学ぶ、スタートアップの新しい組織運営術
2016年12月19日に正式リリースされたコンタクト管理サービス『formrun(フォームラン)』は、大規模な組織から中堅・中小企業、個人事業主まで、“顧客”を持つすべてのユーザーにとって導入・活用しやすいクラウド型の「お問い合わせ管理サービス」だ。
開発を手掛けたのは、じげんをはじめ数々のベンチャーで開発に携わってきた多田雅斗氏。同氏と事業統括責任者である堀辺憲氏が中心となって2016年1月に創業したmixtape合同会社は、“合同会社”という事業形態が示すとおり、それぞれ別の仕事を持つ人たちが集まって運営している。
つまり、全員が副業として他社の仕事を行いつつ、『formrun』の立案から開発、オープンβ版の提供、ユーザーからのフィードバックを取り入れた機能改善に取り組んできたのだ。
『formrun』の正式ローンチにも、堀辺氏が事業としてのフレームワークづくりや普及に努める一方で、多田氏ともう1人のデザイナー兼エンジニアが開発と機能面の拡充を進めるスタイルを取りつつ、そこに別のベンチャーに勤めるエンジニアや法務担当者数名が副業しながら携わっていた。
スタートアップのコアメンバーがそれぞれ別の仕事を持ちながら、パラレルワークのような感覚で新しいサービスを開発していくというmixtapeのジプシー的組織運営。そこでメンバーそれぞれが果たした役割と、正式ローンチにまで至るプロセスについて、多田氏、堀辺氏に話を聞いた。
それぞれ仕事を持ちながら、「本業:副業」の割合を「7:3」から「4:6」へ
このたび正式リリースを迎えた『formrun』は、コーポレートサイトやECサイトなど、ほぼすべてのWebサイトに設けられている「問い合わせ」や「申し込み」、「資料請求」、「会員登録」といった“フォーム”が全20種類のテンプレートとしてプリセットされているのが大きな特徴だ。
ユーザーは、この中から自身の事業やサービスに必要なフォームを選んでカスタマイズすることで、フォームの設置はもちろん、顧客の「獲得・管理・育成」を効率的かつスピーディーに実現できる。
今年2月に出したクローズドβ版ではフォームを「作成」する部分に特化していたものの、ユーザーヒアリングを重ねるうちに「問い合わせがあった後」の顧客管理やコミュニケーションを一元管理するところにこそニーズがあると気付き、ほとんど全面刷新をする形で開発し直している。
この全面刷新のプロセスで、現在のmixtapeの開発スタイルが確立されていった。多田氏はとあるプログラミングスクールで技術アドバイザーを務め、堀辺氏は複数のベンチャー企業で広報・PR業務を行っており、それぞれの仕事で得た収入をmixtapeとしてプール。そこから、『formrun』の開発に協力してくれる人たちに対する業務委託報酬を支払う形で「全員がパラレルワーク」をするチームができ上がった。
「『formrun』のフロントエンドは、Vue.jsというJavaScriptのフレームワークをベースに開発しているんですが、採用を決めた理由の一つは開発面で非常に“イジりやすい”フレームワークだったから。主担当は自分1人で、後は他社で働くエンジニアやデザイナーに業務委託として参加してもらうスタイルだったので、この辺の技術選定も非常に大切だったのです」(多田氏)
少人数で開発スピードを担保する意味合いでも、副業で協力してくれる知人・友人の存在は大きかったと多田氏は言う。
実際に開発および事業構築をサポートしてくれたのは、成長ベンチャーで働くエンジニア1名と、もともとmixtapeと兼業しながらベンチャーで働くデザイナー(彼は共同創業者でもある)1名、そしてプライバシーポリシーや利用規定の策定に詳しい法務担当者(ベンチャー勤務)が1名と、経理業務をサポートしてくれたベンチャー勤務者1名の計4名だ。
すべて堀辺氏、多田氏双方の人脈とネットワークを活用して協力を仰いでおり、中には堀辺氏が広報・PR業務をサポートしているベンチャー企業の人もいるという。つまり、報酬のみならず、物理的な業務を共に「提供し合う」ことで協力関係を築いているのだ。
「全員が本業を持つメンバーだけで、“副業”的に開発からサービス提供までを進めてきたのはリスクヘッジの側面もあります。『formrun』は提供したいサービスの1つで、mixtapeでは他にも分野や領域が異なるビジネスをどんどん手掛けていきたいという考えがあるからです」(堀辺氏)
スタートアップとして一つのサービスを磨き上げていくプロセスはなかなか骨の折れる作業となるが、「開発のピーク時とそうでない時で、本業と副業の業務ボリュームを調整しながら仕事をすれば問題なく進めることができると分かった」と多田氏。
同氏の場合は、「本業:副業」の割合をリリース前は「7:3」くらいにし、それ以外の時期は「4:6」くらいの割合で行うことでバランスを取ってきたそうだ。
全員が副業していても機能するチームを作るために「お金より大事なもの」
2016年1月の創業から1年たたずに正式ローンチを実現したmixtapeの『formrun』。今年2月のオープンβ版提供以降、FacebookやTwitterでの情報発信以外、特に広告や宣伝、PRをしていないにもかかわらず、すでに500アカウント超のユーザーを獲得しているという。
「大規模な組織から中堅・中小企業向けを想定していたのですが、実際には個人事業主のユーザーが多いですね。コーポレートサイトやWebサイトがなくても、アドレスだけで必要なフォームへの誘導ができる点が評価されているようです」(堀辺氏)
大手企業や大規模なECサイト運営会社の場合、“フォーム”を通してアプローチしてきたユーザーの管理やフォローアップはエンジニアでなければ難しかった。しかし『formrun』は、Webサービスに関する特別な知識や開発スキルがなくても効率的な顧客管理が可能だ。
こうしたユーザーにとって“欲しい機能”は、どう実現してきたのか?
「開発面は基本的に僕自身がすべて手掛けることを基本に、サポートしてもらう時はやってもらいたいことを分かりやすく切り分けて依頼するようにしました。エンジニアリングの分野でよく言われる『手離れの良い依頼方法』を心掛けましたね」(多田氏)
この点においては、多田氏が開発のみならずプロジェクト管理まで全責任を担う立場になることで、シンプルで分かりやすい役割分担を貫くことができたと言える。
一方、堀辺氏は「副業OK」で柔軟な働き方ができる人たちと地道に信頼関係を築いてきたからこそ、必要な時だけ必要なサポートが得られたと強調する。
「世の中全体として多様な働き方が認められる時代になり、合わせて個々の能力をピンポイントでオファーできるからこそ、私たちのようなブートストラップな立ち上がりができる環境になってきたと思います。ただ、泥臭く言えば、こういったチームづくりは『お金の関係』だけでは成立しません。スタートアップゆえ、業務委託料としてお支払いできる額も限られるからです。そんな中で信頼関係を築くには、個々の人間がその人の生き方や考え方に共感し、共に価値を創り出すことに喜びを覚える仲に至る、リレーション構築があってこそかなと思います」(堀辺氏)
「志共感型」と書くと大仰に聞こえるかもしれないが、「なぜ働くのか?」というWhyの部分から個々人が選択できる時代になってきたからこそ、モノを創る上での目的や生き様そのものに共感し合えるような他者と緊密な関係を築くことが求められるということだろう。
この視点は、一般的な開発チームでも、今後よりいっそう求められる部分になっていくはずだ。
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取材・文/浦野孝嗣 撮影/伊藤健吾(編集部)
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