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メタバースの「理想の未来」って何だ? さわえみか×キンドリルがVR上で本音トーク!【ECDW2022レポ】

働き方

昨今「メタバース」がバズワードとして盛り上がっている。しかし具体的に「メタバース技術でどんな未来が描けるのか」までは、見通せていない人も多いだろう。

では、メタバースで叶えられる「理想の未来」はどんな形をしているのだろうか?

2022年6月21日(火)~25日(土)の5日間にわたり、エンジニアtypeが主催したオンラインカンテックファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク2022』(ECDW2022)内のセッションでは、社会基盤のITインフラを支えるキンドリルジャパンの河野 正治さんと大津 浩司さん、世界最大のメタバースイベント「バーチャルマーケット」を運営するHIKKYのCOO兼CQO・さわえみかさんが登壇。

キンドリル

3人が現れたのはメタバースの会場。バーチャルアバターの姿で「メタバースの未来」をテーマにトークセッションを展開した。

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キンドリルジャパン株式会社 キンドリルガレージ事業部長 Senior Managing Consultant
河野正治さん

日本アイ・ビー・エム株式会社に入社し、大手金融業界における基幹システムの保守運用などに従事。DX営業部長、クラウドネイティブ営業部長などを歴任し、キンドリルガレージ事業部長に最年少事業部長として就任

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キンドリルジャパン株式会社 テクノロジー本部 技術戦略部長 Master Certified Solution Architect
大津浩司さん

日本IBMにてシステム開発・運用プロジェクトなどを経験。2017年から、インフラストラクチャー・サービス部門で技術革新の展開をリード。21年9月より現職

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株式会社HIKKY COO 兼 CQO
さわえ みかさん

大阪モード学園ヘアメイク学科卒業。プロヘアメイクとして活躍した後、イラストレーターに転向。ファッションイラストなどを手掛け、2017年末からメタバース空間での活動を開始。18年より株式会社HIKKYの立ち上げに携わる

メタバースは「百聞は一見にしかず」の代表格

――まずは、皆さんが現在メタバースをどのように活用しているのかを教えてください。

さわえ:HIKKYでは7割ほどの社員が自身のアバターを持っており、本名を明かさずに会議をしたり、遊んだりする文化があります。リモートワークでも、まるで実際に会っているかのようにコミュニケーションを取れているところが強みです。

VR上で遊びながらチームの仲を深めることに関しては、他の会社さんに負けない、オリジナルの文化が醸成されていると思います。

例えばクリスマスには私がこういう姿になることも。可愛くないですか?

キンドリル

クリスマス仕様なさわえさん

こんなふうに着せ替えをしたり、自撮りしてSNSにアップしたりと、リアルと変わらないように遊んでいるんですよ。

私たちは普段『バーチャルマーケット』というイベントを主催しているんですけど、そこではアバターの服や家などが販売されています。マーケットを通してクリエイターさん達がお金を稼いだり、コミュニティーを盛り上げたりすることで、メタバース上で経済が回っているんですよ。

こういうマーケットを作れるのは、私たちがメタバース空間上に住んでいて、「住人」としての感覚も持ち合わせているからなのかな、と思いますね。

――さわえさんは、クライアントとの会議もアバターで行っているんですか?

さわえ:行いますよ。それも、今画面に写っている姿でお話しすることが多いです。資料のパワポを画面共有して見てもらうより、実際にバーチャル空間の中に入っていただく方が、話が早いですから。

河野:「バーチャルの方が早い」というのは、資料共有に限った話ではありませんよね。

例えば私たちがエンタープライズのお客さまからよくいただくのは、「リアルを改善するためにメタバースを活用できないか」というご相談。

何かを改善したい時に、リアルの世界でシミュレーションをすると、人手もお金も時間もかかってしまう。それなら、メタバースでシミュレーションできないかというご相談が多いですね。

その時に「むしろクライアントにこそ、積極的にメタバースを体験してもらった方がいい」というのは私も同感です。

大津:普段、リアルの世界で生きている方にとっては、バーチャル世界にどうやって入るか、中はどんな感じなのか、といったことがそもそもイメージしづらいですしね。

――キンドリルではどのようにメタバースを活用しているのでしょうか?

大津:お客さまの要望もありますし、他には今年の入社式をメタバースで行いましたね。入社式の様子は一部配信し、ご覧になったお客さまからは、「メタバースって、面白そうだね」という感想をいただきました。

河野:この入社式は、KDDIさんとクラスターさんが提供されているメタバース会場、「バーチャル渋谷」で実施しました。

渋谷の街中を歩き回り、10個のアイテムを集めながらキンドリルについて学べる仕掛けとなっています。全部集めると次のステージ「バーチャルニューヨーク」への切符を手にします。ニューヨークでは会長からの激励をもらうという流れで開催しました。

空間も時間も飛び越えて会社のルーツを訪ねられるのは、メタバースならではの経験だと思います。

キンドリル

「バーチャル渋谷」で行われたメタバース入社式

そして今やリモートワークは当たり前になりつつありますが、HIKKYさんのように、メタバース上で仕事をされるスタイルはさらに一歩先を行っていてすばらしいですね。

私は以前、HIKKY代表の船越さんのインタビュー記事を読んだことがあるのですが、ハンディキャップや居住地に関係なくフラットに働けるメタバースの世界について語られていて、とてもワクワクしました。

さわえ:「フラットに働く」は何よりも大事だと思っています。リモートワークではテキストがコミュニケーションの中心になりますが、皆が皆、そうしたやりとりに慣れているわけではありません。

雑談したりとか、問題が発生した時にすぐに相談したりとか、対面と変わらない感覚で柔らかいコミュニケーションができるのは、メタバースの強みです。

またアバターを着ることでリアルのコンプレックスをなくし、各々が好きな姿になると、口調や考え方まで変わってきて、面白いんですよ。

大津:大胆な行動もしやすくなり、仕事のクオリティーが上がりそうですよね。

さわえ:こうした行動変容を実感してもらうには、まず実際に遊んで、楽しい体験をしてもらうことが必要です。まだメタバースを体験したことがない人には、まずはエンタメコンテンツなどでその楽しさを知ってほしいですね。

河野:他の人になりきる体験ができると、プロダクト開発の精度も上がります

例えばデザインシンキングを行う際には、「まずペルソナ(具体的なユーザー像)を作りなさい」と言われることが多い。誰に対して、どのような改善をするのかは「その人(ペルソナ)になりきる」ことで、改善の精度を上げていくわけです。

といっても、これまでは空想上でのシミュレーションしか出来ませんでした。でも、メタバースなら、身長の高低や性別など、その人の特徴を踏まえてなりきることができます。

なんなら、モノにもなれてしまう。「もしも自動販売機になったら、通行人はどんな風に見えるんだろう?」なんて、今までは見えてこなかった景色を体験できますから。これらがより一層クリエーティブな発想につながりますね。

属性・立場から解き放たれ、クリエーティブが花開く

――皆さんは今後、メタバースを活用してどんな未来をつくっていきたいと考えていますか?

さわえ:バーチャルマーケットで「バーチャルの経済圏」を作ることが私たちの狙いなので、それを実現することが現時点での理想ですね。

たとえ80歳になって、体が思い通りに動かなくなっても、「このアバター買ったんだ!」ってはしゃいでいたいじゃないですか(笑)

肉体が弱っても、メタバース上でアバターの友達とワイワイできるような世界が実現できたらすごく楽しいだろうなって。

キンドリル

バーチャルマーケット内のショッピングモール

大津:同意見です。われわれは長らくリアルの世界で仕事をしてきましたが、数十年後にも変わらずリアルが市場経済の中心かというと、そうではないと思っています。

もちろんバーチャル上のビジネスにもいろいろな課題はあるでしょうが、技術や法整備が追い付いてくれば、場所の制約を始めとしたさまざまな問題が解消されるのではないでしょうか。

そうして、いろいろな人がもっと楽しめる社会が訪れることに期待しています。

さわえ:メタバースが生活の中心になれば、相手のリアルな国籍も性別も年齢も知らない、なんてこともありえますよね。

私自身、30代後半で会社役員をやっていると実感するのですが、若い子とクリエーティブな話をしたくても、なかなかできない。意見を求めても、遠慮されてしまうんです。こういう遠慮がアバターを使うことによって緩和されるとうれしいなと思いますね。

実際に、かつてメタバース上で私に食ってかかった子がいて(笑)、この間初めてリアルで会ったら、19歳だって言うんですよ。こんなふうに、遠慮抜きで感性のままに意見をぶつけ合える世界は、クリエイターの理想だなと思います。

河野:まさにそうですね。私たちの会社でも「VRChat会議」を4月から開始したのですが、メタバースだと、誰が誰だか全く分からないんですよ。その中ですごく貴重な意見を言ってくれる人がいて、後で聞いてみたら、22歳の新入社員でした。

オープンでフラットな組織を目指しているので、こういう面でメタバースの魅力を再認識しています。

キンドリル

メタバース上では、性別や年齢、立場に関係なく「アバター」になりきることができる。このアバターの中身がビジネスマンだとは誰も思うまい……!

大津:リアルな立場や属性に関係なく意見を出し合った方が、新しいアイディアや面白い話が出てきやすいはずですよね。

さわえ:ただ、こういう良さを分かってもらうには、やはりクライアントにもメタバース空間に入ってもらうことが重要なんですよね。

外からメタバースを見てイメージで話すのと、実際に中にいて体験するのとでは、圧倒的にズレがある。メタバースの次元に合った行動を知ってもらうためにも、やっぱりまずは体験してほしいです。

「未来がやってきた」と勝手に宣言してしまおう

――すっかりバズワードになったメタバースですが、まだまだ浸透しきってはいませんよね。今まさに乗り越えるべき壁は何だと思われますか?

さわえ:直近の課題は、プラットホームを越えて交流することが難しい点だと思います。3Dアバター自体にはVRMという標準規格があるけれど、自分でUnityを触る必要があって、一般の方には参入が難しい。

ただ、Web3分野ではブロックチェーンの仕組みを使って壁を乗り越えていく層が現れたので、今後の発展に期待しています。

大津:ユーザーがデバイスを手軽に入手できるかどうかも重要です。スマートグラスやコンタクトレンズ型のデバイスがもっと普及すれば、起きた瞬間からバーチャル空間に入れるようになり、より生活に密着してくると思います。

河野:私がメタバース普及に向けて課題だと感じているのは、未来について考える大人が少ないことです。「理想の未来」をいつ実現するのかは、われわれの世代が勝手に決めて良いんです。これまでの形にこだわることなく、さあ、未来がやってきましたよ、と勝手に宣言しても良いのではないかと、それから実際の未来を創り出すのが私たちの活躍の場です。

私には6歳の息子がいるのですが、家で楽しく仕事してると「パパ、仕事しなさい!」って言われるんですよ(笑)。「遊んでるじゃん!」って。

大津:うちも同じです(笑)

河野:ここから分かるのは、6歳の息子にすら「仕事は楽しくないもの」という認識があるのかなと。こうした先入観をなくして、子ども達に対して「大人になったら、こんなに楽しい仕事の世界が待ってるんだよ」と伝えられたら、とても良いですよね。

当社には全世界で9万人くらいの社員がいますが、もしもメタバースで9万人を一堂に集められたら、きっと面白いはず。

だけど、今の技術だと1ワールド30人から50人くらいが限界なんです。30人を9万人にするために、どういう技術的要素を紐解くか。それがわれわれの仕事です。

「何かやりたい」というピュアな気持ちを日本で、世界でシェアして、そこにメタバースを活用する時代をつくっていきたいですね。

さわえ:「やりたいこと」がないと、手段を工夫するフェーズに移行しないですからね。

幸いなことに、メタバース上にはすでに「子どもの遊び場」みたいな空間が出来上がっているので、もっとクリエイティブな、いわゆる「中二心」をくすぐるようなプロダクトを開発していきたいです。

大津:あとは、行政からの働きかけもカギになるかなと思います。例えばデジタル庁と文部科学省がメタバースを推進するとか。

現状は経済産業省が見解を出していますけれど、文部科学省が動かなければ子どもにはアプローチしづらいし、デジタル庁が動かないと社会が変わらないですから。

河野:教育現場こそ、まさにメタバースの強みが発揮されやすいですよね。

さわえ:そうそう。アバターを介して話をすると、リアルの大人が教えるより素直に聞いてくれます。英会話なども良いですよね。私の海外の友人がときどき、犬のアバターを着て子どもと話してくれるんです。

河野:絶対に楽しいじゃないですか、それ。

大津:子どもに戻って、そういう世界を楽しみたいですね。

河野:いやいや、アバターなら戻れるじゃないですか!(笑)

一同:(笑)

キンドリル

小さい姿にもなれるさわえさん

――皆さん、メタバースを心から楽しんでいることが伝わってきます。この分野は「流行っている」とか「儲かりそう」といった観点で見てしまう人も少なくないですが、まずは自分で何ができるか、何が面白そうかを探していくのが理想なのかもしれませんね。

さわえ:もちろん、ビジネスチャンスもそこら中に転がっているはずですけれどね。まずは自分が楽しんでやってみるのが、全てのスタートになると思います。

河野:楽しむって重要ですよね。Web3やメタバースはつい、お金ファーストで語られることが多いですが、それだけではないんだと。まずは楽しんだり、個人としての活躍の場を広げたり、そういうチャンスだと捉えてほしいです。

大津:なんて話していたら、イベント視聴者の方からコメントで、「とりあえず、国会のおじさんたちにアバターを被らせたいですね」とのご意見が届いています(笑)

そんな時代が来たら、きっと面白いでしょうね! VR空間で国会の議論が行われる。2050年くらいには、そんな景色が当たり前になっていてほしいです。

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文/伊藤祥太

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