株式会社クリエイターズネクスト 代表取締役
大正大学 招聘教授
デジタルハリウッド大学大学院 客員准教授
窪⽥ 望さん(@cnxt_nozomu)
米国NY州生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。15歳の時に初めてプログラミング開発を行い、ユーザージェネレーテッドメディアを構築。大学在学中の19歳の時に起業し、経営者として現在18年目。2019年、20年には4万5000名の中から日本一のウェブ解析士(Best of the Best)として2年連続で選出し、21年には初の殿堂入りを果たす
結局、メタバースって何だ? 元スクエニCTO×AIアーティストがディープに語らうテクノロジーとアートの未来【橋本善久×窪⽥ 望】
「ゴージャスなVR映像がメタバースの本質じゃない」
「アフターメタバースが訪れたあとの世界って?」
「NFTの今後の可能性って……」
2022年4月24日の夜、東京・羽田イノベーションシティの『題名のないAI絵画展』をのぞくと、そんな会話が聞こえてきた。
その声の主は、元スクエアエニックスCTOの橋本善久さんとAIアーティストの窪田望さんだ。
その日開催されていた『イノベーションEXPO2022春』に登壇した二人は、「メタバース・NFTについて語り合うDEEPな夜なべ」と題し、昨今バズワード化しているメタバースの現状や、NFTの今後について語った。
二人の目に映る、テクノロジーとアートの未来とは?
株式会社時空テクノロジーズ 代表取締役CEO
ライフイズテック株式会社 取締役
橋本善久さん
愛知県出身。東京大学工学部卒業。セガでゲームプログラマやゲームディレクター、スクウェア・エニックスでCTOなどを務めながら、長年ゲーム開発に従事。2014年以降は独立し、B2B SaaS・メタバース・Web3・AI・ライブエンターテイメント・教育などの活動を行っている。代表作は『ソニック・ワールドアドベンチャー』(セガ/ゲームディレクター)、『Agni’s Philosophy – FINAL FANTASY Realtime Tech Demo』(スクウェア・エニックス/プロデューサー兼技術ディレクター)、『FINAL FANTASY XIV 新生エオルゼア』(スクウェア・エニックス/技術ディレクター)、『ディズニー プログラミング学習サービス テクノロジア魔法学校』(ライフイズテック/サービス設計・教材開発)他
メタバース=VRゴーグル、じゃない。本質は「実在性」にあり?
窪田:メタバースという言葉がかなり取り上げられるようになっていますが、僕がずっと考えているのはアフターデジタルならぬ、アフターメタバースの時代が訪れたとき、世の中はどうなっているんだろう、ということです。
だって、メタバースの世界って、物理的な制約がないわけじゃないですか。例えば、必ずしも人間として陸地で暮らす必要はなくて、空を飛んだって、水中で暮らしたっていい。
そういうふうに、身体性から解き放たれた世界が当たり前になった未来は、どんな形をしているんだろうということにとても興味があります。
橋本:面白いですね。ちなみに、メタバースといってもいろいろな定義が乱立していて、何をもってメタバースと言うのか曖昧なところがありますよね。
VRゴーグルを付けて、仮想空間に没入するのがメタバースだと考える人もいれば、いやそうじゃない、暗号資産をはじめとしたWeb3.0の思想を汲んでいることがメタバースなんだ、と考える人もいる。
でも、個人的には、こうしたVRやWeb3.0などはメタバースにとっての必須要素ではないと捉えています。僕がメタバースの芯だと捉えているのは、「実在性」です。
目の前にいない人やモノを、空間はもちろん、時間さえも超えてリアルに感じられるかどうかがメタバースの本質なのではないかと。
その視点でみると、『Zoom』なども広義で考えればメタバースの一部と言っていいように思うんですね。
『Zoom』で会議をする場合、会話の相手は、物理的には離れた位置にいます。けれども心理的には、同じチームの人と“同じ空間”にいるような感覚を覚える。これってもう、メタバース的な存在と捉えていいのではないかと。
窪田:なるほど、実在性をメタバースの本質と考えると、他にもいろいろなサービスが該当しそうですね。
橋本:僕がここ最近、最も「メタバースだ」と感じたのは、『clubhouse』ですね。
僕はムーブメント初期に『clubhouse』をインストールして、スピーカーとオーディエンス、どちらの立場でも利用してみたんですね。
そこで感じたのが、「その場に居る」という強い臨場感や、他の参加者の実在感でした。
アイコン表示だけで音声でしかコミュニケーションしていないはずなのに、まるで本当に人が集まっておしゃべりしているような感覚を覚えたんです。
窪田:まさに、今日の対面トークセッションみたいな。
橋本:そうなんです。
ちなみに、『clubhouse』に関しては象徴的なエピソードが一つありまして。
その頃の僕はよく、クライアントである作家さんのclubhouseのルームを何回も拝聴していました。その後、その作家さんとお仕事の打ち合わせでお会いした際に、「(対面で話すのは)1カ月ぶりですね」とご挨拶をしたんです。そうしたらその作家さんが、「いやいや、数日前に話してませんでしたっけ」とおっしゃる。
窪田:つまり、『clubhouse』で会ったじゃないか! ってことですね。
橋本:そう、そう。実際は、僕がオーディエンスとして聞いていただけなんですけれど、頻繁にclubhouseの画面上にアイコンとして表示されていたので、その作家さんにとってみると僕と「会って話した」感覚になっていらっしゃった。これって立派なメタバースじゃないかと思うわけです。
窪田:めちゃくちゃ面白いです。
橋本:『clubhouse』は設計もよく出来ていて、遅延が少ない音声配信APIを導入してるらしいんですね。音声の遅延が少ないおかげで会話が自然になり、実在感の劣化を最小限に防いでいる。UIにしても、オーディエンスのアイコンがまるでイベント会場の座席みたいに並んでいるのもいい。
他のオーディエンスが「隣で聞いている」ような感覚を得られるのが、『clubhouse』のすごいところだと思いました。
窪田:『clubhouse』は音声とアイコンだけ。それなのに、しっかりメタバースを実現できているんですね。
橋本:よく考えてみたら、ファミコン時代のゲームなんかも同じじゃないですか。初期の『ドラクエ』はシンプルなドット絵だけれども、充分に楽しい冒険ファンタジーとして人気を博しました。想像力さえあれば、グラフィックは二の次でいいのかもと。
窪田:ゴージャスなVR映像がメタバースの本質ではない、と。
橋本:もちろん、そういうリアルな映像の方が没入感を得られる人もいると思いますし、僕もむしろそちら側(リアルな映像体験を設計したり開発したりする側)の人間なので、3D空間の表現様式の価値や重要性は高いと思っています。その上で、さまざまな意見はあると思いますけれど、僕が思うメタバースの本質は、実はVRやWeb3.0どころか、3DGCすらも必須とは限らないのではないかと考えています。
窪田:橋本さんのお話を伺って思ったのは、これまでのメタバースは、映像とか、ブロックチェーン技術を使っているとか、表面上の表現形式をもとに定義されていたように思うんですね。
でも、もしかしたら、人間の感性に基づいてメタバースを再定義していくべきなのかもしれない。「実在性」を軸に捉え直すことで、新たな可能性が開けていくのかもしれないということですね。
橋本:そう思いますね。ここまでに出した例は「空間を超える」事例でしたが、場合によっては、「時間を超える」体験すらできるはず。
窪田:その好例が、昔のニコニコ動画ですよね。つまり、実際にはみんなバラバラの時間に動画を閲覧している。けれども、コメントを流すことによって、あたかも同時に閲覧しているような感覚を得られる。
こうした体験を最新の技術でより磨き上げていくことが、メタバースが今後ますます発展するためのカギとなるのかもしれません。
NFTアート、VRでスポーツ観戦……
窪田:ここからは、雑談も交えて注目のテクノロジー、システムについて語り合いたいと思います。まず、橋本さんはどのようなテクノロジーに注目されていますか?
橋本:僕はNFTまわりのムーブメントを以前から注視しています。海外で仕掛けられたプロジェクトでは最近ではBAYCやAzukiなどに相当高額な価値がついて取引されていて有名ですし、日本からもさまざまな成功事例も出てきていますね。
NFTはコピー可能なデジタルデータに対して、所有権に近い概念や金銭価値を発生させる事に成功していますが、画像のみならず動画や3Dモデルやデジタル空間の土地など、いろいろな様式のNFTが登場していますよね。デジタルなので表現も色々と拡張できる。
例えば、「曜日によってアートの色が変わる」プログラムを組み込んでもいいし、確率でランダムに絵柄が変わるようにしてもいい。もしくは、AIに自動生成させてもいいですよね。
そういうコンピューターが絵柄を変更したり自動生成を行ったりする「ジェネラティブアート」系のNFTは現在増えてきていますが、今後更なる発展の余地も大きいと思います。
新たな技術を取り入れることで、誰も見たことのない世界が広がる。そんなワクワク感を目の当たりにしている感じがします。
窪田:「世界が広がる」という視点でいくと、僕はSONYの『Hawk-Eye(ホークアイ)』に期待を寄せています。
これはスポーツの試合をリアルタイムで仮想空間に再現するシステムで、現在は審判の判定補助や試合データの可視化に使われているのですが、いずれはスポーツ観戦にも取り入れられるんじゃないかと言われているんですね。
つまり、観客がグラウンドに入り込んで、選手が走っている姿や、スライディングしてくる様子を追体験できるかもしれない。同じ技術を音楽ライブに使えば、観客全員が最前列でお気に入りのバンドを見られる。
橋本:VR空間なら可能ですもんね。
窪田:そうなれば、エンターテインメントのあり方もかなり変わってくるはずです。今後の展開が非常に楽しみなサービスです。
「線香花火のようなアート」AIは『ロボットの未来』をどう捉えたか
窪田:最後に、私が日頃取り組んでいる「AI×NFTアート」を、実演してみたいと思います。
このAIは、何らかの言葉を入れると、それを表現するアートを即興で作り上げるようにプログラムされています。橋本さん、何かキーワードをいただけませんか?
橋本:そうですね……では、「ロボットの未来」などはどうでしょう?
窪田:ありがとうございます。では「ロボットの未来」でアートの制作を開始します。さあ、さっそくAIが試行錯誤を始めました。
橋本:ホワイトノイズのような画面から始まるんですね。
窪田:そうです。ここから240回、試行錯誤を繰り返して、計算が約70%完了したころになると人間の目で認識できるような何らかの形が見えてきます。
宇宙の粉塵が集まって星になるみたいな、そういうイメージですね。
橋本:なるほど。そう捉えると、すでに感じるものがありますね。
窪田:さあ、出来てきました。ちょっと紫がかっているかな? どんな形になるんだろう。
橋本:「ロボットの未来」をAIはどう捉えるのか。
窪田:このライブペインティングは、計算が100%に達すると消える仕組みになっています。まるで線香花火みたいなアートなんですよ。
ぱあっと火花が咲いて、一瞬のうちに終わってしまう。輝いていた瞬間は保存されず、一瞬のきらめきを観客が見ることによって初めて、鑑賞行為が成立するんです。
おっと、何やらロボットらしきものが見えてきましたね。隣にいるのは、女性かな?
橋本:すごいですね。このAIが考える「ロボットの未来」では、人間とロボットが仲良く過ごしているようにも見えるし、ちょっと荒廃しているようにも見える。面白いですね。
というのも、人間とロボットの関係を扱った作品ってたくさんあるじゃないですか。その中でも、『ドラえもん』は両者が仲良く暮らしているけれども、『ターミネーター』だと敵対してしまう。
どちらの世界になるのかは、誰にも予測が難しいところがあると思うんですね。なのでこのAIがどういうアートを描いてくるのか見守るのは面白いですね。
窪田:AIやロボット技術が高度に発達してくると、必ず人権問題も出てくるでしょうしね。
橋本:そうそう。彼らを作業者として、あたかも奴隷のように扱っていいのか? とか。ロボットと仲良くなって、特別な思い入れを持つ人も出てくるでしょうし。
窪田:あ、そうこう話しているうちにアートが完成しました。そして……もう消えてしまいました(AIアートは完成した瞬間に自動的に消える設定となっている)。
橋本:一瞬でしたね。なんだか切ないですが、良いアートでした。
窪田:今日は橋本さんをお招きしていろいろなトピックについて語り合いました。
テクノロジーと親和的な社会になるのか、それとも敵対してしまうのかは、この絵と同じく、想像がつかない面があります。
でも、だからこそ未来は面白い。この個展を通してそうした可能性を感じ取っていただけたのであれば、プロデューサーとして大変うれしく思います。
文/夏野かおる 編集/玉城智子(編集部)
RELATED関連記事
RANKING人気記事ランキング
NEW!
「SESだけ」でどうにかなる時代はもう終わり? 生き残りをかけたIT企業が、自社サービス開発にこだわるべき理由とは
NEW!
採用されない中高年の現実とは? 40代50代プログラマーが「年齢の壁」を突破する秘策
落合陽一「2026年にはほとんどの知的作業がAIに置き換わる」人間に残される仕事は“とげ作り”
NEW!
中島聡「未知の開発言語の勉強を、楽しめるかどうか」Windows 95の父が考える、エンジニア向きの資質とは
「まずは運用保守から経験積もう」は大間違い? インフラ専業のプロ集団だからできるエンジニア育成の実態
JOB BOARD編集部オススメ求人特集
タグ