『プロダクトマネジメントのすべて』小城久美子の
エンジニアのためのプロダクト開発本連載では、プロダクト開発に携わるエンジニア読者向けに「成功につながるプロダクト開発」を実現するためのプロダクトマネジメントの基本の考え方や応用テクニックを、国内外の企業の優れたプロダクト開発の取組みを事例にとり、小城久美子さんがエンジニア向けに紹介・解説。明日からすぐに使える「いいプロダクト開発」をかなえるヒントを提供します。
『プロダクトマネジメントのすべて』小城久美子の
エンジニアのためのプロダクト開発本連載では、プロダクト開発に携わるエンジニア読者向けに「成功につながるプロダクト開発」を実現するためのプロダクトマネジメントの基本の考え方や応用テクニックを、国内外の企業の優れたプロダクト開発の取組みを事例にとり、小城久美子さんがエンジニア向けに紹介・解説。明日からすぐに使える「いいプロダクト開発」をかなえるヒントを提供します。
小城久美子(@ozyozyo)
ソフトウェアエンジニア出身のプロダクトマネジャー。ミクシィ、LINEでソフトウェアエンジニア、スクラムマスターとして従事したのち、『LINE CLOVA』や『LUUP』などにプロダクトマネージャーとして携わる。そこでの学びを活かし、Tably社にてプロダクトマネジメント研修の講師、登壇などを実施。書籍『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)共著者
「エンジニアのためのプロダクト開発」連載、前回はプロダクトについて考えるとき、仮説を連鎖させる重要性について書きました。
第三回では、ユーザー目線とプロダクト目線の両方からプロダクトを検討する思考法について書きます。
「ユーザーの声を聞きましょう」という発言は多くの現場で聞かれるようになりました。
しかし、ユーザーが欲しいと言ったものを、そのままつくるのは残念ながら間違いかもしれません。
なぜなら、あなたは『Clubhouse』のような音声SNSが欲しかったでしょうか? 『Skype』ではなく、『Zoom』のようなURLを共有することで他の参加者を会議に招待できる仕組みが欲しかったでしょうか?
きっと、使うまではそれが欲しいだなんて気付いておらず、使ってみて初めて「これは良いものだ!」と思ったのではないでしょうか。
本当に欲しい物が何なのか、ユーザーは知りません。ユーザーは今まで触ったことがある物についてしか知らないのです。
一方で、ユーザーの声を聞かずにプロダクトをつくることはできません。
ユーザーにとってより良くするためにプロダクトをつくっているのに、作り手にとって都合のいいプロダクトを世の中に出してしまうのは本末転倒です。
ユーザーに「何が欲しいですか?」とWhatを聞くのではなく「それはどんな背景があるからですか?」とWhyを聞きます。
そして、そこで引き出した課題を解決する最も良いアイデアを、ユーザーと対話しながら導き出します。
しかし、プロダクトマネジメントにおいては、ユーザーから課題を引き出して解決する繰り返しでは、まだ不足しています。
長期的な目線で考えると、今目の前にいるユーザーだけでなくもっと多くの人にユーザーになってもらわなければいけません。
そのためには、今目の前にいるユーザーを100%幸せにすることに力を注ぐだけではなく、別のセグメントにも裾野を広げる開発が必要です。
つまり、目の前のユーザーのことだけで手一杯になってしまうと将来的な成長を鈍化させる可能性があるため、誰のどの課題を解決するのかは長期的な目線になって考えなければいけません。
多くの場合、それはプロダクトの意志としての戦略に表され、どのユーザーのどの課題に優先して取り組むのかの指針となります。
戦略の話をするには、多くの場合、事業計画で定められているお金とのつなぎこみを考えなければいけません。
お金を稼ぐこととユーザーに価値を提案することは、相反する仕事である――。
時折、そんなふうに「ユーザー体験を考える部署」と「ビジネスを考える部署」を分ける企業もありますが、ユーザーはプロダクトを使ってより良い状態になることにお金を払うので、ここには関連性があります。
ユーザーの現状(Before)をどう変化させる(After)のかの目線がそろっていてはじめて、優先順位をつけることができます。
そして、どんなAfterであるべきかは、ユーザーに聞くだけではそれが売り上げが立つものなのか分かりませんし、ビジネス部署だけではそれをユーザーが本当に求めている状態であるか分かりません。
この間を埋めるために、ユーザーとの対話をしましょう。
そして、Afterの仮説が立ったら、ユーザーがそのAfterに向かってなめらかにたどり着いているかを確認しましょう。
多くの場合、プロダクトに価値を感じてくれているユーザーであっても想定もしていない道筋をたどっていたり、多くの困難に直面していたりします。
この道筋を滑らかにすることで、ユーザーをプロダクトというバスに乗せて、きちんと価値を提案することができるようになり、離脱率が下がって売り上げもあがります。
せっかくユーザーの声を聞いているのに、Afterの仮説がないままに道筋だけを整理してしまうと、プロダクトがどこに向かっているのかが不明瞭になってしまいます。
ユーザーとどんなAfterが良いかを検証するインタビューと、道筋を聞くインタビューはまったく目的も聞く内容も違います。
目の前にいるユーザーを幸せにする視座と、プロダクトを成功させる視座は異なりますので、プロダクトの意志としてどんなAfterを目指すのかがチームでそろっていない場合にはぜひ、そこの会話を始めてみてくださいね。
Afterの仮説を持てていない方に、私はいつもユーザーのレベル分けをおすすめしています。
いま目の前にいるユーザーがプロダクトを知らない課題がたくさんある状態から、プロダクトを使ってどんな状態になっているのかを成熟度別に並べてみましょう。
可視化することで、プロダクトとして注力する範囲やいまAfterと据え置くのはどのレベルであるか、どの状態を理想としているのかの議論がしやすくなります。
今回は、「ユーザーと対話する」について解像度を上げて、Afterの対話と道筋の対話に分けて実施しましょうというお話をしました。
次回はユーザーと対話、仮説検証の仕方についてもう少し深堀りしてお話ししようと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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