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Yahoo!ニュースの開発マネジャーはソフトスキルとどう向き合っているのか?エンジニアに必要な「コードを書く」以外のこと
エンジニアとして職を得て、「何かを作る」ことだけに没頭しながら仕事人生を送れる期間は案外少ない。人によってその期間の長短は変わるものの、どんな雇用形態であれ、組織に属して(またはプロジェクトチームと共に)プロダクト開発を続けていくには「コードを書く」こと以外の仕事がたくさんあるからだ。
マネジャーに昇進した時はもちろんのこと、スペシャリストとしてキャリア形成していく場合や、フリーランスとして身を立てていく場合だって、コードを書くだけでは生きていけない。
『SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル』は、ソフトウエアエンジニアがより良い人生を送るために必要な「コードを書く」以外のあらゆることについて書かれた書籍である。
本著に記されている「ソフトスキル」には、キャリア形成の能力、PR力、交渉力、学習力、生産力、心身の健康、資産を上手に作るための金融知識など、幅広い内容が含まれる。
ソフトウエアエンジニアがより良い人生を送る上で、なぜこれらの能力が重要なのかという詳しい話は、弊誌が行った著者ジョン・ソンメズ氏へのインタビュー(以下リンク)を参照していただくとして、今回は、昨年12月、このソフトスキルをテーマに行われたYahoo!ニュースの社内勉強会の模様をレポートする。
>> 33歳でアーリーリタイヤしたエンジニアが「技術力以外」の大切さを説く理由~『SOFT SKILLS』著者に聞く
2016年8月には月間150億PVを記録した、日本を代表する巨大サービスを支えるエンジニアは、どのような場面でソフトスキルの必要性を実感し、それを身に付けているのか?
Yahoo!ニュースチームで開発部長として仕事をしている2人と、現場リーダー1人の話から、SOFT SKILLSとの理想的な向き合い方を探った。
どんな場面で、どんなソフトスキルの必要性を感じている?
現在、約70名のエンジニア&デザイナーが在籍しているYahoo!ニュースチームで働く中で、リーダー以上の役割を担う彼らはどんなソフトスキルの必要性を感じてきたのか。
この日のセッションで話題に上ったソフトスキルは主に、
【1】自分の思いやビジョンを周囲に伝えるPR力
【2】開発を進める上で必要になる交渉力
の2つだった。これらを強く意識するようになったきっかけとして、3人が共通して話していたキーワードは「裁量の拡大」だ。
「開発はチームプレー。生産性を高めるためには、自分の思いややりたいことをいかに仲間に伝えるかが重要になります。自分自身がプレーヤーだった当時はそれほど意識していなかったのですが、ポジションが上がり、メンバーが増えていくにつれ、周囲を巻き込む力の必要性を感じる場面が増えました」(高橋氏)
高橋氏の前職は社員10人程度のソフトハウス。当時は自分でバリバリ開発する職人タイプだったという。そこから国内有数の巨大Web企業へと転職し、さらには部下を持つ立場へと変わったことで、ソフトスキルの必要性に目覚めていった。
高橋氏とは違い「若い時からもともと調整型だった」と自称する今坂氏も、前職はSIerで、与えられる裁量は限定的だった。自社サービスを運営する事業会社、それも多くのサービスを持つヤフーというコングロマリット企業に転職したことで、ソフトスキルの必要性を強く感じるようになったという。
「Yahoo!ニュースにはエンジニアの他にも企画、制作、編集などたくさんのステークホルダーがいます。サービスを開発する上では、それらをまとめ、妥協点を見出し、いい塩梅の落とし所に導く交渉力が必要です。エンジニアが普段使う難しい言葉では通じないことも多く、平易な言葉で語ったり比喩表現を使ったりして、職種を超えてイメージを共有できるよう心掛けています」(今坂氏)
どうやってソフトスキルを身に付けてきた?
次に知りたいのは、そうしたソフトスキルをどうやって身に付けてきたのかだ。ここでも3人の話に共通していたのは、立場が人を作るということ。すなわち「経験の重要性」だ。
最初に、3人の中で最も若いリーダーである小松氏は、自身の経験をこう語る。
「2年前に開発リーダーをやらせてもらうようになってから、自分の考えを周りにちゃんと伝えることの重要性に気付き、意識してそう努めるようになりました。ただ、どういう方法で伝えるのがいいかは、相手によるもの。当社では1on1をすることが多いのですが、100人目までは対応できても、101人目にはまた違う方法が必要になることもある。その意味では、どこまでも場数をこなすしかないとも感じています」(小松氏)
続いて今坂氏は、複数の事業ドメインを持つヤフーならではの「ソフトスキルを身に付ける方法」があると語る。
「コングロマリット企業としての側面を見れば、手を挙げさえすれば、それまで経験してこなかったことに挑戦できる環境にあります。失敗を恐れずに挑戦することが人を成長させるもの。その意味では、ヤフーはソフトスキルを身に付けやすい環境と言えるでしょう」(今坂氏)
一方で、高橋氏は経験の重要性を認めた上で、「経験だけに依存するのは不十分」と続ける。それを補う方法として高橋氏が実践してきたのは、本やブログ、そして自分とは異なる職種の人とコミュニケーションを取ることにより、インプットの量を増やすことだ。
「私は転職経験があるので、前職の同僚であったりこれまでの仕事で知り合った方々とのネットワークを活かして話を聞きに行ったりしています。が、新卒で入社したような若手エンジニアも、ミートアップに足を運んだりしながら社外の人と接点を持つことで、ソフトスキルを高めるきっかけづくりをしていった方がよいでしょう。単純に、インプットを増やさねばならないという刺激になるはずですから」(高橋氏)
当然、インプットには量とともに質も求められる。「各社でCTOをやっているような人たちも同じような悩みにぶつかってきたはずだから、悩みを打ち明けることで大きな示唆を与えてもらえる。その上で、試行錯誤を重ねてそれを自分なりの方法にしていくことが大事」と今坂氏は言う。
で、ソフトスキルはキャリアの可能性を開くことにつながるの?
最後のテーマは、正直な話、ソフトスキルを磨く作業はキャリアを切り開くことにつながるのかどうか。若手エンジニアが知りたいのは、まさにこの点だろう。
これについての3人の答えは明確だ。エンジニアである以上、ソフトスキルがありさえすれば大丈夫というわけではない。ソフトスキル「も」持っていることに意味があるという。
「キャリアを考える上では、実績づくりとアピールは車の両輪の関係にあります。日本人はアピールが苦手ですが、もっと積極的にアピールすべきでしょう。マネジャーとしては、それを多角的な視点で拾ってあげるようなソフトスキルも必要だと感じています」(今坂氏)
「この本を読んで、個人的に一番刺さったのは、『セルフプロデュースしよう』というフレーズです。当社のCTOがよく言っている、『得意分野を持とう』というメッセージと本質的には同じ意味だと解釈しています。そうすることで自信を持ってさまざまなことに関われるようになり、自然と仲間も寄ってきて、結果としてやれることが増えるという、良いスキームが回り出すんです」(高橋氏)
部下との1on1ではキャリアビジョンを持つことの重要性を説く3人も、こと自分自身に関しては、ソフトスキルとキャリアについてそこまで考えてこなかったと振り返る。ポジションが上がり、裁量が増えたことで、ソフトスキルの必要性に自然と自覚的になっていったというのが実際のようだ。
しかし、3人の話からは「逆もまた真」だと感じていることが分かる。「ド直球に言えば、(ハードスキルと共にソフトスキルを併せ持つとは)裁量を持てる範囲が広がるということ」(小松氏)。思うようなキャリアを築きたければ、ソフトスキルも不可欠ということだ。
取材・文・撮影/鈴木陸夫
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